宇宙体験を通して宇宙飛行士が意識変化を得ている事について、橘隆志は、神秘的合一感を得ている人が何人かいたことを述べている。宇宙飛行士が宇宙体験をすると、前と同じ人間ではありえないといった事が指摘されており、宇宙の美しさや調和を見出す宇宙体験のインパクトは何人かの宇宙飛行士の人生を根底から変えてしまうと言われる。
アポロ15号に搭乗したジム・アーウィンは宇宙で、月で神がすぐそこに臨在していると実感したのだといい、宇宙の聖域で、神の顔に手を触れたと表現している。アーウィンによれば、月に於いてそこに神がいるという実感は、宇宙船の窓から宇宙と地球と自分とを眺め神の恩寵を感じ取るという洞察と比べてもより直接的な実感そのものなのだと言い、神と語り合えるとも表現している。そして、アーウィンは元々、洗礼を受けたクリスチャンであったが、月から帰ると、再度洗礼を受けて残りの人生を神に捧げると誓ったという。また、
サードマン現象に関連する例として、宇宙空間で運動する事は難しいためジェリー・リネンジャーがランニングマシンを使っていた時に、いつも肩の上に男がのっているような気がしたという話がある。リネンジャーはある時、そこに〈存在〉がいるのが分かったのだと言い、それが7年前に亡くなった父のドン・リネンジャーだったと気づき、沈黙の会話を交わし勇気を与えられたという。リネンジャーはミッションの終了が近づく中、同じような体験が繰り返され、3回は鮮烈な〈存在〉との出会いで、他に7回ほど父親が側にいるのに気づいたという。なお、リネンジャーはこれを宗教的体験ではなく、心理的な防衛機制として理解しているようである。
また、アポロ14号に搭乗したアメリカ合衆国のエドガー・ミッチェルの意識変容は顕著である。「神とは
宇宙霊魂あるいは
宇宙精神(cosmic spirit)であるといってもよい。
宇宙知性(cosmic intelligence)といってもよい。それは一つの大いなる思惟である。その思惟に従って進行しているプロセスがこの世界である。人間の意識はその思惟の一つのスペクトラムにすぎない。宇宙の本質は、物質ではなく霊的知性なのだ。この本質が神だ」と述べ、世界のすべてが精神的には一体である(スピリチュアル・ワンネス)を認識している。また、ミッチェルは宗教について神は一つであり、全ては一つであるため、人間が作った個別的な宗教のドグマに固執する事には意味はないと示唆しており、この事は
臨死体験者の意識変容とも同じである。このように各教派や各宗教の違いは重要ではなく、根にあるものは同じであるという宗教に対する見解は、スカイラブ4号に乗ったジェリー・カーやエドワード・ギブソンの見解とも殆ど同じであると言われる。さらに、ミッチェルは、宇宙船と地球の間でテレパシーの実験を行い、ミッチェルが月でESPカードをめくりながら念をこらして送信して、シカゴ在住のオロフ・ジョンソンがそれを受信するという実験を6日間行ったところ、50パーセントの確率でそれが当たったといい、統計的に有意の確率であったという。ミッチェルは予め、ESP実験を用意していたように、人間の
ESP能力に大きな関心を寄せ、NASAを辞めた後にESP研究所を設立している。
アポロ9号の月面着陸船のパイロットを務めたラッセル・シュワイカートは、1時間半かけて地球を一周していると、自分という存在はその一部だと理解し、そこで変化が起きたのだと言い、世界的な平和及び環境活動家となっている。しかし、シュワイカートは、宇宙での体験の意味を過大評価することには慎重であり、宇宙体験は極めて深遠であるが宇宙に行くことで意識の変化を生み出すわけではないという。そして、心の準備が出来ていれば、地上でも誰にでもそれに似た体験の機会があることを主張している。実際、ディーク・スレイトンやポール・ワイツのように意識変化が起こっていない(起こっていても気がついていないか、認めていない)宇宙飛行士もいたと言える。また、ジェミニ12号、アポロ11号に搭乗したバズ・オルドリンは宇宙体験それ自体は彼に意識変容をもたらさなかったというが、それ以後の空虚さがそれをもたらしたことを述べている。いずれにしても、宇宙の美しさを感得する宇宙体験のインパクトは極めて大きいと言え、それが媒介となり、宇宙の全一性や宇宙との一体感、神との一体感を得るという点で
臨死体験と類似した意識変容をもたらすケースがある事は否定できないであろう。
最終更新:2024年06月07日 10:07