ロベルト・アサジオリ


概説

ロベルト・アサジオリ(Roberto Assagioli、1888年2月27日-1974年8月23日)はイタリアのヴェニス生まれの精神科医・心理学者であり、しばしば先駆的なトランスパーソナル心理学者と言われる。フィレンツェ大学で医学の学位を取得、チューリッヒで精神分析を学んだが、精神分析だけでは不十分と考え、1910年代に独自の理論であるサイコシンセシスを体系化した。アサジオリは、心には、ジークムント・フロイトが精神分析で精神の地下室と表現したレベルの低い無意識だけでなく、高次の秘められた領域がある事を明らかにし、理論化している。

アサジオリの母は、1875年にオルコット大佐とヘレナ・ブラヴァツキーが創始した神智学協会の会員であったこともあり、科学を重視したながらもスピリチュアルなものも受容し、西洋古典や神智学に親しみ、また古今東西の宗教や哲学を学んだ。文化や宗教の差異を超えた人間の本質や人生の目的とは何か、他者や世界との関係は本来どうあるべきかなどといった哲学的な問いを若い頃から抱いていたと言われ、10代の時に至高体験や悟りといったスピリチュアルな体験をしたと言われている。

意志のはたらき

意識の中心のセルフは、変化する心理の諸機能全体を見渡したり、そのどれかに注意を向けたり逸らしたりすることも、方向づけたりすることもでき、それは意識の中心のセルフの「意志」の働きによるものであるという。アサジオリは、私と意志、存在する事と意志を持つ事の関係に気付く事の大切さを説いており、完全に発達した人間の意志には、強い意志たくみな意志善い意志トランスパーソナルな意志などの側面があると指摘している。

まず、強い意志について、意志が存在する事を認識する必要性を説き、その後、あらゆる場面で適切に意志を活用できるように発達させ強くすることを指摘している。たくみな意志については、意志をたくみに活用するためには内面の色々な機能との相互関係を知る必要性を強調している。そして、意志が強くたくみなばかりでなく、善い意志であることが、私達自身のみならず全体のために必要であると説いている。

さらに、アサジオリは、上述の3つの意志の側面だけでなく、人間にはさらに別の次元がある事を指摘している。トランスパーソナルな意志についてアサジオリは、多くの人は気づかない、もしくはその存在を否定するが、その領域に属するものとして、メタ欲求、究極の価値、結合力のある意識、至高体験、エクスタシー、神秘的体験、B価値(存在する事の価値)、本質、至福、畏敬、驚異、自己実現、究極の意味、自己の超越、トランスパーソナルなもの、日常生活の聖化、一つであること、宇宙的気づき、宇宙的はたらき、個体および種全体に及ぶシナジー(相乗効果)、人間間の最大のエンカウンター、超越的現象、最大限のセンサリー・アウェアネス、応答性と表現、そしてそれらに関連する概念、体験、活動といった事を挙げている*1。トランスパーソナルな意志の領域は、パーソナル・セルフとトランスパーソナル・セルフの関係の分野でもあり、上位無意識のレベルからはたらく。相互の影響をだんだん増していけば両方のセルフは融合し、さらに、究極の真実、宇宙の超越の意志と一体化し、その意志を投影する宇宙的セルフに融合するという。そして、ここにおいて、時空を超えた最高の神秘を見出すことになるという

宇宙的意志について、アサジオリは東洋においてアートマンとブラフマンの合一と表現されてきた事などを援用し、意識の拡大により、認識をより高い方向へ向ける努力を続けることで、徐々に不可思議な神秘の幾分かを体験できると指摘している。そして、人間の特質と機能は、超越的実在のある特性や側面を部分的に反映したものであり、今ここに存在する実感、セルフとしての存在感は、宇宙的なセルフ、宇宙的な存在の1つの側面なのだという。サイコシンセシスの卵形図形において、トランスパーソナル・セルフを示す星からの放射線は、この関係を段階的に体験的実現度合いに応じて図解し、星からの放射線が殆ど卵形図形の外側に向いている場合が超越の最高段階を示す。このような状態は、サマディ(Samadhi)、プラジナ(Prajina)、悟り、エクスタシー、宇宙的意識など様々な名前で呼ばれる。

  • 参考文献

最終更新:2023年04月24日 11:34

*1 アサジョーリ 1973(邦訳 1989)p.19