概説
ジョン・カニンガム・リリー(John Cunningham Lilly、1915年1月6日 - 2001年9月30日)は、アメリカ合衆国ミネソタ州出身の脳科学者、内的探索者、著作家。カリフォルニア工科大学で生物学と物理学の学士号を得て卒業後、ペンシルベニア州立大学で医学を学び、大脳の基礎研究を経て意識の研究に没頭、電極を用いた脳の基礎研究により猿の快感や苦痛の中枢を突き止め、マン・マシン・インターフェイスの先駆けとなる。その後、感覚を遮断するための装置である
アイソレーション・タンク(サマディ・タンク)を用いた実験で意識の深層に興味をもち、LSDなどのドラッグを用いて意識の研究に当たり独自の意識論を展開した。イルカ研究の世界的権威としても有名である。
また、リリーは、7歳、10歳、22歳の時に、それぞれ臨死体験をしており、その度に同じ2人のガイド(先導者、守護天使)に出会うという珍しい体験をしている。そして、1958年にタンクに入った時に、
臨死体験で出会った2人の〈存在〉が自分の方に近づいてきたのだと言い、2人のガイドと再会している。
アイソレーション・タンクでの実験
リリーの探究のテーマは意識におけるリアリティの研究であると言える。リリーは、「脳の活動が心を生み出すのだろうか、それとも、ぼくの個人的意識を生み出す、脳活動より大きな何かが存在しているのだろうか。」などといった基本的疑問に答えるべく、電極を用いた脳の基礎研究を試みたが、戦争のためにそれが悪用される可能性、研究計画の政治的意義を認識すると、方向転換しアイソレーション・タンクを用いた隔離状態の効果についての研究に着手した。
リリーは、脳が意識的状態を保つために外界からの刺激を必要とするという外部起源説と脳の活動は生得的に自律的であるとする内部起源説の2つの仮説を検証するためにタンクでの実験を開始し、外部刺激がなくても脳が意識を失うことはないことに気付いたという。さらに、当初、リリーは脳が心を収容するという信念を信じて疑わなかったというが、タンク内に隔離されると霊的存在を実感したり、遠く離れたところに居るはずの人物が目の前に居るのを体験したり、全く面識のない見知らぬ人物の存在も感じたりしたという。また、リリーは自分の所有する身体から離れ、光に満たされた空っぽの果てしない空間の中の意識の点になり、近づいてくる2人の〈存在〉と思考と意味と感情の交流があったといい、後にその体験を記すに当たり自分を第3の〈存在〉になったかのようなスタイルをとらざるを得なかったという。そしてこのような交流は空間をもたない次元の中で開催され、彼らが代表するその組織を「地球暗合統制局(ECCO, Earth Coincidence Control Office)」と呼んでいる。このような体験は、心、意識を身体的な脳に限定する考えからは説明がつかず、リリーはこのような体験の真実性について、脳が心を収容するという唯物論的信念と、意識が別の現実への移動体験とする観念論的な仮説のいずれが真実であるかを思い巡らしたものと思われる。そして、リリーは意識の深層の探究にのめりこんでいった。タンクでの研究の結果、次のような原理を引き出していた。
心の領域においては、真理と信じられるものは、体験的ならびに実験的に発見されうる限りにおいて、真理である、もしくは真理となる。これらの諸限界は、超越されるべきもう一つの信念である。心の領域においては、いかなる限界も存在しないのである。
リリーが整理した意識の諸レベル
リリーはジョージ・イワノビッチ・グルジェフ(1866~1949)の後継者とされるオスカー・イチャーソが主催するチリの秘教集団アリカでの体験に基づき意識の地図を作り、自身の体験を通した独自の注釈を加え、肯定的なレベル(+)と否定的なレベル(-)がそれぞれ対応関係にあるとしている。振動番号が3の倍数になっているのは、グルジェフが人間の意識を含めた宇宙のあらゆる現象を能動的、受動的、中和的な3つの力の同時的な働きの結果とみなしている事に由来する。なお、リリーの階層的な意識の地図は、
トランスパーソナル心理学の
ケン・ウィルバーの
意識のスペクトラムと対応関係が成り立つと考えられ、96以下のレベルが仮面のレベル、48と24が自我のレベル、12がケンタウロスのレベル、6が超個の帯域、3が「心(宇宙)」のレベルという対応関係が成り立つと考えられる。
3 |
+3 |
ダルマ・メーガサマーディ |
救世主(マーディ)になる。古典的サトリ。宇宙的な心との融合、神との合一。頭上のマーの霊的センターにおいて、無からのエネルギーの創造者の一員になること。 |
6 |
+6 |
サスミタ・ニル・ビージャ |
仏陀になる。意識、エネルギー、光、愛の点-源。意識の点、アストラル旅行アストラル・トラベル、透聴の旅、透視の旅、時間の中での他の実体との融合、頭の心的センター(パス) |
12 |
+12 |
サーナンダ |
至福状態。キリストになる。グリーン・クトゥーバ。バラカの実現。神の慈悲の受容。宇宙的愛。宇宙的エネルギー。高められた身体的感覚。身体的意識と地球意識の最高の働き。恋に陥ること。肯定的なLSDのエネルギー状態に入り込むこと。胸にある感情センター(オス) |
24 |
+24 |
ビチャラ |
専門家的サトリあるいは基本的サトリのレベル。必要なプログラムの全てが生命コンピュータの無意識内にあり、円滑に機能している状態。自己はおのれが最もよく知っていて、やりたい楽しい活動に没頭している。下腹部の運動センター(カス) |
48 |
+48 |
ヴィタルカ |
中立的な生命コンピュータの状態。新しい観念の吸収と伝達の状態。新しいデータとプログラムの需要と伝達の状態。肯定的でも否定的でもない中立的な状態で、教えることや学ぶことを最大限に促進すること。地上。 |
96 |
-24 |
- |
否定的状態、苦痛、罪の意識、恐怖。しなければならないことを、苦痛、罪の意識、恐怖の状態ですること。いささかアルコールを飲み過ぎた状態。少量の阿片を服用した状態。睡眠不足の第一段階。 |
192 |
-12 |
- |
極端に否定的な身体的状態。強烈な片頭痛の発作など、人はまだ身体の内部にいるが、意識は委縮し、禁じられ、自覚は苦痛を感じるためにのみ存在する。仕事や日常的な義務をこなせないほど苦痛はひどい。自己の上に制限が課せられ、人は孤立させられる。ひどい内的状態。 |
384 |
-6 |
- |
極端に否定的であるということを除けば、+6に似ている。煉獄に似た状況で、人は意識やエネルギーの点 ‐ 源にしかすぎなくなる。極端な恐怖。苦痛、罪の意識、顕著な無意味さ。 |
768 |
-3 |
- |
宇宙に遍在する他の実体と融合するという点では+3に似ているが、それらは最悪である。自己は悪で、意味を持たない。これは悪の典型であり、想像しうる最深部の地獄である。これは永遠に続くかと思われるきわめて高いエネルギー状態でありうるが、地球の時計でほんの数分そこにとどまっているにすぎない。そこから逃げ出せる望みはない。人は永遠にそこにとどまる。 |
「意識の諸レベル」(『意識(サイクロン)の中心』p.214-215より)
なお、「人類の存続には高い意識状態の体験が不可欠である」としたうえで、「もしも、我々が各自、せめて低いレベルのサトリを体験できるならば、我々はこの惑星を破壊したり、われわれの知る生命を絶滅させたりしないという希望が持てる」と述べ、人類の存続に高い意識状態の体験が必要であることを説いている。
また、リリーの意識研究に欠かせないものとして向精神性ドラッグがある。リリーはLSDと麻酔のケタミンを摂取するようになり、ケタミンを「ビタミンK」と呼んだが、ビタミンKの実験を通して、異なった角度からの意識の階層論を展開し、投与による体験曲線を示している。
「単独投与による体験曲線」(『サイエンティスト』p.236より)
最終更新:2023年04月24日 11:17