チャールズ・T・タート

概説

チャールズ・T・タート(Charles T. Tart、1937年4月29日-)は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州出身の心理学者、超心理学者であり、通常意識に対する変性意識(Altered States of Consciousness)の研究で知られ、トランスパーソナル心理学の創設者の1人とも言われる。マサチューセッツ工科大学から、ノースカロライナ大学に転校後、心理学を専攻、1963年に心理学の博士号を取得。デューク大学病院精神科、ノースカロライナ大学大学精神科、ヴァージニア大学精神科等を経て、1967年カリフォルニア大学ディヴィス校の心理学教授となった。

1969年に『Altered States of Consciousness』、1975年に『Transpersonal Psychologies』、『States of Consciousness』、1977年に『Psi: Scientific Studies of the Psychic Realm』(邦題:『サイ・パワー 意識科学の最前線』)を発表している。

タートはESPPK等のサイ現象の実験的研究や理論的研究、そして夢、サイケデリック(幻覚薬物)体験などの研究に関心を示し、1972年に意識状態に特異的な諸科学が形成可能であると指摘した。科学の合理性は我々の認識によって正当化されるのであるから、我々の認識形態に多様性がある場合、それら各々に対応した科学がそれぞれ存在すると言い、変性意識状態を探究する学問としてトランスパーソナル心理学を推進した*1。タートは超心理学とトランスパーソナル心理学の密接なる関係を指摘している事でも知られる。

意識状態

変性意識状態下に於いて、人間はふつうには意識されない心領域を直接に意識する事があるといい、催眠や幻覚薬物によって誘出された意識状態は通常意識とは全く異質なのかもしれないとも述べている。そして、これらの変性された意識状態は通常の状態に戻った後記憶に残る場合もあれば、残らない場合もあるという。*2

1986年の著書 『Waking Up』(邦題:『覚醒のメカニズム グルジェフの教えの心理学的解明』)で、ジョージ・イワノビッチ・グルジェフ(1866~1949)らの作品を参照して、自己観察に基づいて目覚めへの道を概説している。タートによれば、悟った人間は難なく利用できる多数の意識状態をもっているといい、現下の状況が1つあるいはそれ以上の変性状態の見地からは違った風に見えるかもしれないという記憶が含まれ、それが現下の状況のにおける評価や行動を聡明に調節してくれるという*3。なお、悟りについてはその最も重要な側面の多くは本質的に言葉で言い表す事はできないといい、ある種の状況的な知識(state-specific knowledge)に関わっているので、日常的意識状態では充分に理解する事が出来ないとも述べている。

意識と基本的アウェアネス

タートによれば、意識とは人間経験の大部分を占める複雑で具体的な内容を伴ったものであるが、基本的アウェアネスは意識の背景をなす存在であり、知るという行為のみの純粋知である。正当科学は、脳神経系内部にはほかの大部分から部分的に隔離された構造体(組織)の小集合があり、純粋アウェアネスは脳組織の活動の結果、生起するものだと考えられている。このような唯物論に根ざしている正統的意識観は、意識は大脳のはたらき以外の何物でもないという事になり、死後に生存するものはない事となる。このような意識観に対し、タートは『States of Consciousness』の中で、急進的意識観と呼んだモデルがある。この急進的意識観についてタートは『サイ・パワー』の中で以下のように述べている。

意識に対する急進的な見方を表示したとはいえ、そこには正統的意識観と多くの共通項がみられる。複雑な構造体である脳神経系がやはり中心的位置をしめる。心のソフトウェアにあたる部分(――文化、言語、歴史、外界との交流などをとおしてプログラムされた意識の領域)は依然として重要であるが、われわれの経験する意識というものを活動の総体からみれば、それはやはり小断片にすぎないのだ。共通点がある一方、大きく異る点がふたつ盛り込まれている。まず第一に、基本的アウェアネスは大脳活動から生起するのではなく、大脳組織に外部から付加されたと考える。言い換えれば、基本的アウェアネスは大脳活動とは質的に異ったものであると考えるのだ。第二に、本流科学からみた大脳の構造は、固定した物理法則によって完全に決定される。これに対して急進的観点では、半可変的物質界を想定し、PK行使などの心的作用によってある程度まで外界を形成しうるとするのである。物質界を律する法則は(急進的に世界をみた場合)、基本的規律をさだめるうえでは依然として重要なものであるが、けして絶対的な存在ではないのである。*4

急進的な意識観(『サイ・パワー』p.353より)

タートは、心と意識のある側面が、脳や神経系の機能に部分的ないし全面的に依存していることは疑いもないが、サイ現象は、そのような機能の物理的限界とは無縁のように思われるとしている。そして、個人の死後存続の問題も、急進的観点からみれば荒唐無稽だと断罪できなくなるといい、基本的アウェアネスは生きた脳との連絡がなければ存続できないとしても、それ自体としては大脳機能から独立した別の存在であるかもしれず、大脳とは関係なく存在できるかもしれないという。*5

体外離脱実験

タートは、Z嬢という女性の脳波を測定しながら実験を行った。Z嬢の眠っているベッドの上、160センチメートルほどのところにある棚には、1回ごとにタートがでたらめに作った5桁の数字が書かれた紙が置かれる(Z嬢はその数字を見ることはできない)。Z嬢は、初めの3晩は、数字が見える高さまで浮上できず思うような体脱体験が起こせなかったが、4晩目の朝方6時過ぎに目を覚ました時、「25132」と、初めて5桁の数字を言い、ターゲットの数列と一致していた。一方、この実験結果については、Z嬢が通常の感覚的知覚によりターゲットの数列を当てたとする可能性は否定できないとする意見もある。

  • 参考文献
笠原敏雄『超心理学ハンドブック』ブレーン出版 1989年
石川幹人「超心理学トランスパーソナル心理学-協働に向けて-」『トランスパーソナル心理学/精神医学』11巻1号 日本トランスパーソナル/精神医学会 2011年

  • 参考サイト
最終更新:2024年02月26日 02:16
添付ファイル

*1 https://www.isc.meiji.ac.jp/~metapsi/psi/8-5.htm

*2 タート 1977(邦訳 1982)p.122

*3 タート 1986(邦訳 2001)p.26

*4 タート 1977(邦訳 1982)p.353-354

*5 タート 1977(邦訳 1982)p.361-362