アーヴィン・ラズロ

概説

アーヴィン・ラズロ(Ervin László、1932年6月12日-)は、ハンガリー、ブタペスト出身のピアニスト、哲学者、未来学者。ソルボンヌ大学で博士号を取得し、米国、カナダ、フィンランドおよびハンガリーから4つの名誉博士号を授与されている。世界賢人会議「ブタペストクラブ」創設者兼代表。原子の世界から宇宙までを貫く原理とその構造を探究するシステム哲学の研究発展にも努める。

意味のある世界観

科学者たちの中には意味を巡る疑問に対して、意味というものは人間の心の中にしかない、世界そのものは非人間的で目的も意志もないなく、宇宙に意味を見出すことは自分の心や個性をそこに反映するという過ちを犯す事であるとする人がいる。科学に於いて、「意味があること」は、無視されているが、一つの重要な側面であるとし、科学はただ数式が集まっただけの抽象的で無味乾燥なものではなく、世界の中で物がどのように存在するかについての洞察を提供する源でもあるといい、この世界の物とは「何」であるか、それらの物が「なぜ」そのような仕方で存在しているのかを問題にしているという*1。そして、ラズロは、宇宙は機械というより生きた生命体に似ている事を指摘し、万物の空間と時間を超えた相互結合性と相互作用を通して、一貫性と全体性へ向かって進化するという。*2

また、リアリティに関する包括的なヴィジョンを考えるにあたり、自然科学はリアリティの全ての側面を扱うわけではないといい、人間の経験は、リアリティには物理的な側面ないし次元の他にもう一つの側面、精神的次元がある事を証明しているという。そして、そのような精神的リアリティの探究は意識そのものから出発する。*3

量子真空

宇宙は完全に真空で、物質が存在しないところには何もないと考えられるようになったが、真空は空っぽの空間とは程遠いものであると明らかになり、零点場(古典的な形のエネルギーが全て消失する絶対零度においてもエネルギーが存在することに由来)であると明らかになった。ラズロは、量子真空の零点場は単にエネルギー場であるだけでなく宇宙の記憶である豊かな情報場であると考えている*4。この事は、アカシックレコード(阿迦奢年代記)の概念を髣髴とさせ、ラズロはAフィールドと呼んでいる。そして、Aフィールドは、人間の脳や心を結び付ける私たちが共有している情報のプールなのだといい、カール・グスタフ・ユングの言う集合的無意識、テイヤール・ド・シャルダンの言う精神圏、そしてエルヴィン・シュレディンガー、デヴィッド・ボームウィリアム・ジェームズ、ヘンリー・スタップなどにとっての根底的な量子場なのであるという。*5

意識の根源について

特定の思考プロセスが起こると、それに伴って脳の特定の領域に変化が起こる事が確認されており、意識は脳と関連があるという事は示されているが、脳が実際に意識を生み出すという臨床的証拠(意識の根源)であるという証拠はまったく存在しないとも述べている*6。そして、意識の起源について以下のように述べている。

テレビで見聞きする映像や音が、機械としてのテレビのなかで機械としてのテレビによって生み出され、また携帯電話の音声が、電話機のなかで電話機によって生み出されるという意味以上には、脳がもつイメージ、考え、感情などは、脳のなかで、脳によって生み出されない。脳は、いわば「送受信機」であり、そのため、孤立して機能する系がもつ、情報貯蔵と情報読み出しの限界には束縛されない。私たちはこれまで経験したことのすべてを読み出すことができる。なぜなら、この情報は私たちの脳のなかに保存されているのではなく、包括的なアカシック情報場に保存されているからである。*7

また、ラズロは脳と分断された意識的な経験として、脳波計が示す波形パターンが完全に平坦になった状態での臨死体験体外離脱体験に関する詳細な記録を挙げている*8。ラズロは、肉体の死を超えて意識が存続するという現象について、経験したことのすべてがAフィールドに保存されているだけでなく、少なくともしばらくの間、それを生み出した脳や身体が存在しない状況で自律的に発展することが出来るようだと述べている*9。そして、宇宙そのものの意識について、Aフィールドが宇宙的な広がりをもつ原・意識または根源意識の座である可能性について、変性意識状態に入る事で真空と同化し、意識の宇宙的な海のようなものを経験できる可能性を指摘している。

  • 参考文献
最終更新:2025年07月12日 10:21

*1 ラズロ 2004(邦訳 2006)p.7

*2 ラズロ 2006(邦訳 2008)p.54

*3 ラズロ 2006(邦訳 2008)p.132-133

*4 ラズロ 2004(邦訳 2006)p.71

*5 ラズロ 2004(邦訳 2006)p.142

*6 ラズロ 2004(邦訳 2006)p.200

*7 ラズロ 2004(邦訳 2006)p.210

*8 ラズロ 2006(邦訳 2008)p.79

*9 ラズロ 2006(邦訳 2008)p.118