PK(念力)

概説

PK(psychokinesis、念力)とは、心の力だけでものを変化させる現象の事である。スプーン曲げや念写については、広く知られていると言えるが、交霊会で物理霊媒が見せていたテーブル浮揚やポルターガイスト、一部の宗教の中で行なわれている信仰治療等も念力によるものとされる。
PK現象そのものの歴史は、有史以前に遡るであろうが、ESP同様、その科学的研究の歴史は19世紀末に英米で始まったと言え、1848年のニューヨーク州の寒村で起こったポルターガイスト騒動(ハイズヴィル事件)を契機とし、心霊主義が勃興し、一部の科学者がこうした現象の科学的研究を始めた*1。1934年、ジョゼフ・バンクス・ラインはサイコロPK実験を開始し、同様の実験の多くはラインの実験室で行われたが、彼はPKはESPよりも社会的に認められにくいだろうと最初の10年間は研究発表を控えていたという*2

伝統的なPKの実験には、1960年頃までサイコロが使われた。それ以降は、様々な物体が使われ、やがて乱数発生器を使った実験が支配的となる。乱数発生器のような微視的な過程に働く小さいPKをミクロPKと呼ぶのに対し、物体移動や金属曲げのような巨視的な物体に働く大きいPKをマクロPKと呼ぶ。
斜面を転がしたり落下させたりして止まった位置を調べる実験は、サイコロだけでなく、様々な物体が使える。フォルワルドは、大きさ・重さ・形・材質の異なる物体で、多数の比較実験を行なった。PKが何らかの「力」として物体に作用するのであれば、それなりの差異が出るはずである。1969年の報告では、ある種のパターンが見られたものの、電気や磁気や放射線等との関連性は検出できなかった事から、PKは重力と関連して働くのではないかと仮説した。
この他、笠原敏雄は心理療法中に偶発的なPKと思われる現象を確認しているという*3。また、イアン・スティーヴンソンによって研究された生まれ変わり事例の中には、子どもが前世の人格にあったとされる傷痕、致命傷と一致する母斑や先天性欠損をもって生まれてくるという事例も多くあり、これについては、生まれ変わり/先天性刻印において触れているが、笠原敏雄は、これらが本当の生まれ変わり事例であるとするなら、その傷痕や痣は、生まれ変わろうとする「霊」や母親が胎児にPKを作用させた結果であるとする可能性も考えられるとしている。*4

また、合気はPKであると指摘している菅原浩は、相手に触れずして、あるいは全く力を入れずにただ触るだけで動かしてしまうという武術があるという事が知られるようになって来ている事を指摘しており、伝説の武術家佐川幸義はそれを「透明な力」と呼んでいるという*5。菅原は、西洋近代の物質主義的世界観の影響が及んでいないところでは、このような経験があることが認識され、追求されているといい、実際、非物理的エネルギーという概念は様々な文化に存在しており、インドにおける「プラーナ」、ヘブライの「ルアッハ」、ギリシアの「プネウマ」、ラテンの「スピリトゥス」、あるいはハワイの「マナ」など、世界的に存在する。そして、菅原は人間には肉体以外にいくつかの「微細エネルギー体」「微細身体性」「エネルギー的身体性」をもつという認識に立って「透明な力」の理解を試みている。

ミクロPK

ミクロPKは、肉眼で観察できるマクロPKと区別する目的で用いられる用語であり、サイコロ投げ実験*6や電子的な乱数発生装置(REG)を用いて行われる昨今の自動機実験のように、物理現象の揺らぎに僅かに働き数多くの試行を集計し統計的に分析したうえで初めて検出できるとされる。この方面の研究は、物理学者ヘルムート・シュミットが、人間や動物を被験者としたPK実験で、放射性物質の崩壊(ストロンチウム90の放射線〈β崩壊によるβ粒子の放出〉)を利用した乱数発生器を用いた時、大きな広がりを見せたという。
プリンストン大学のPEARプロジェクトでは、乱数発生器を連続的に動作させ、それにPKを働かせる実験を繰返していた。RNG実験の中には、被験者がPKの発揮を特段強く意識せずとも、一定のRNGの偏りを生む事もある。地球規模でイベントがあったらどうであろうかといった発想でディーン・ラディンらが始めたのが、地球意識プロジェクト(GCP)であり、GCPは、世界各地に乱数発生装置を設置して乱数を記録し、その偏りと地球規模の出来事との対応関係を見ようというものである。GCPが本格的にスタートしたのは1999年で、オリンピックやニューイヤーなどの世界的なイベントがあると、度々乱数が偏るという観測結果が報告されている。2001年9月11日のテロ事件の日や2011年3月11日の東日本大震災の際には、極端な変動が観測されたという。

マクロPK

1980年2月23日に行われた実験で清田益章がPKにより変形したとされる首の部分で180度ほどねじれたスプーン(『超心理学ハンドブック』p.215より)
前述のミクロPKに対して、物体移動や金属曲げのような巨視的な物体に働く大きいPKはマクロPKと呼ばれる。1970年代頃から、PK能力者とされる人物が登場し、イスラエルのユリ・ゲラー、日本の清田益章、フランスのジャン=ポール・ジラール、イギリスのマシュー・マニングは主として金属変形を行い、ソビエトのニーナ・クラギナ、アメリカのフェリシア・パライズは物体移動を行ったという。金属変形には様々な材料の物が用いられたが被験者はスプーンを好むこともあり、スプーンがターゲットとなる事が多い。スプーン曲げに関しては、笠原敏雄らが清田益章を対象に実験を行なった結果、清田が全く手を触れずにスプーンが捩れていく場面を肉眼では眼近に何度か観察しているという*7。しかし、超常現象全般において客観的証拠を残さないような傾向である目撃抑制(witness-inhibition)や恥ずかしがり現象(shyness-effect)等が指摘されているように、そのような場面をビデオで録画しようとすると、その瞬間にスプーンの変形が止まってしまったり、焦点が合わなくなってしまったり、酷い場合にはビデオのスイッチがひとりでに切れてしまったりして、第三者を納得させることができる証拠が結局得られない。清田益章についても、1984年2月3日のフジテレビ『金曜ファミリーワイド』「超能力を100倍楽しめる徹底解剖」において、スプーンは力任せに曲げて、念写のポラロイドフィルムは事前にトイレで感光させておいてすり替えるというトリックを見破られたが、清田は「プレッシャー(テレビ局の圧力)などからたまたま不正をしてしまっただけで、普段は超能力で曲げており、自分が超能力者であることは間違いない」と主張している。
この他、電気通信大学の佐々木茂美のグループや笠原敏雄らのグループが、外国では、念写の研究で有名なアイゼンバッドや、ヴァージニア大学精神科のイアン・スティーヴンソンのグループ等が行なっているが、どこで行なわれた実験でも、その場に立ち会っていない第三者を十分納得させることのできるデータは得られておらずこの種の現象は疑問視されやすいであろう。批判者からすると、このような事は「逃げ口上」に過ぎないと考えられるが、笠原敏雄は必ずしもそう言い切る事は出来ないとしており、4桁の乱数を刻印した硬いスプーンを開いた掌に載せ、首の部分をそこに手を触れずに90度ほど捩じった場面を40センチメートル程の至近距離から観測したのだと言い、自身で観察した事実からPK現象が稀ながら実在する事を確信しているという。*8

念写

超心理学においては、能力者が意図的に写真フィルムに感光を起こす念写(thoughtography)を研究の対象としている。1910年に福来友吉によって、御船千鶴子、長尾郁子の透視実験中に見出された現象と言われ、福来は1913年に『透視と念写』を刊行、その後1931年に英文の"Clairvoyance and Thoughtgraphy"をロンドンにて刊行している。福来の時代の念写実験では写真乾板を用いて行われたため、暗室での現像処理に不正の入り込む余地があったが、今日ではポラロイドカメラによりその難点は解消されている。
清田益章が主に用いる方法は、レンズキャップを被せたままシャッターも切らず念写を行うというものである。笠原敏雄らは1979年11月17日と1980年1月26日に清田益章を対象とした実験に立ち会っており、管理を厳重にした条件の下でPKによる感光現象を起こせるかどうかの確認を試みた*9。一回目の実験では、ブレて不鮮明な画像しか得られなかったというが、二回目の実験では三回の試行を行い、二回目と三回目の試行において、フィルムの短辺に沿った青白色の感光と炎のようなオレンジ色の感光がそれぞれ得られたという。その後、清田はもう一度、念写を試みたいと言い、笠原が補填したフィルムを感光させている。笠原は、念写の事実性について、フィルム製造工程上のミスや不正行為の可能性も検討しているが、実験車の監視等を考慮して少なくとも一部の念写についてはこのような仮説は成立しないように思われるとしている。

ポルターガイスト

ポルターガイストは、ドイツ語で「騒がしい霊」という意味であるが、超心理学者のウィリアム・ロールに因ってRSPK反復性偶発PK)とも命名されている現象であり、幽霊屋敷に特徴的な物体移動などの現象が特定の場所で殆ど2箇月以内の短期間に集中的に繰り返される事を指す。反復的偶発的である事から、RS(Recurrent Spontaneous)PKとも呼ばれる*10。ロールの調査によれば、ポルターガイスト現象には決まって中心人物(通常は屋敷に住んでいる子ども)が居り、その人物の心理的な問題が解消されるとポルターガイスト現象は終熄に向かう。また、中心人物が眠ったり、外出したりすると、現象が止まったり、現象が外出先にまでついて行く例もあるといい、ロールによると中心人物が外出するとついて回った事例も319例あったという*11。超心理学的にはポルターガイストは中心人物に因る無意識のPKであるとみなされ、心理分析の視点が重要であると言える。物体の移動や運動としては、浮上したり、ジグザグに動いたり、空中を舞ったり、急停止したり軌道を直角に変えたりなど、普通では考えられない動きを示す事も少なくなく、現象の持続期間は1日~6年に及び、平均は5.1箇月であった*12。また、ポルターガイストの問題点として、中心人物が実際に不正を行った事例が発見されている事、小動物や水道管に由来する音や地殻変動や生物死骸に由来する発光など物理的な原因究明が進んでいるものもあり、その現象を疑問視する研究者も多いが、超常現象全般において、「とらえにくさ(elusiveness)」とでも言うべき特徴がある事は古くから知られており、研究においてはっきりとした結果を残すことが困難なのは事実であろう。実際、ポルターガイストの観察記録は幾つかあるものの、再現や実験をすることも困難なので科学的に探究する事も難しい*13。そのような事もあってか、米国のFRNM超心理学研究所のL・E・ラインが一般市民から集めた10000例以上のサイ体験の中でも、偶発的な念力現象と思われるものは178例にすぎなかったという。
また、単発的なPKは、それらしき原因もないのに時計が止まったとか、壁にかけてあった絵が落ちたとか、肉親や友人の危機的状況や死と時間的に近接して起こる事が多いという。

心霊治療

PKについては、機械的、電子的ターゲット系を用いた実験から得られるが、PKが生命あるターゲットに作用し影響を及ぼし得るとしたら、大きな意味を持つ事になると言え、そのことと関連が深いのが治癒の過程である。
心霊治療とは、既知の身体的治療作因なくして病気を治療する事であり、患者の体に手をかざす、指導霊や祖先の霊の力を借りる、神や聖者に祈る、魔法の薬を使う、病気を去らせるよう念を込める等、様々な方法がある。このような方法は、いくつかの新宗教の中でも行なわれている。しかし、癌のような難病でも医学的には説明のできないような形で好転する例があるし、心身症のように心理的原因で病気が起こっている場合には、暗示の力などによって症状が軽快する事が知られているため、心霊治療が、本当に効果があったかどうか確かめるのはかなり難しい。

カナダのマギル大学の研究者であるバーナード・グラッドは、背中の皮膚を一定の大きさだけ切り取ったネズミを20匹ずつ計60匹使った実験を行なった。エステバニーという心霊治療師がカゴの上から一定の時間ずつ手をかざすグループ、手の温かさと同じ温度を与えるグループ、何もしないで放置するグループに分けて実験したところ、エステバニーが手をかざしたグループのネズミが、放置しておいたグループのネズミよりも、治療効果が決定的なものではないにしても有意に大きい(傷の治りが良かった)事が分かったという。この他にも、心霊治療という現象がある事を裏付ける証拠はかなり得られているという。しかし、フィリピンの心霊手術などインチキがかなり見つかっているものもあるといい、実際に傷口が開いている事の確認がはっきり行われたという報告は殆どないというが、笠原敏雄が実際に観察したブラジルや韓国の心霊手術は、傷口が実際に開いており、痛みや出血が殆どなかったという点で信憑性があると思われるという*14。また、令和6年4月に管理者が山川俊宏と会った際も、山川は人生において最も不思議な体験の一つとして、フィリピンで、心霊手術師の手が肉体に「スーッ」と入っていく場面を目撃したと話している。
因みに、ブラジルの心霊手術師としては、ホセ・アリゴーが有名である。ジョン・グラント・フラーは、アリゴーについて、消毒もしない包丁やナイフを使って肉や内臓を切り裂いたにも関わらず、痛みも出血もなく傷口を縫い合わせる必要もなかった事や、化膿止めを使わなくても感染症が起こらなかったという事は事実であるとしている*15。アリゴーによれば、あの世にいるドイツ人の医師アドルフォ・フリッツの人助けをしたいという願望を実行に移す働きをしているに過ぎないのだという。この点については、霊に指導されているとも解釈され得るかもしれない。

  • 参考文献
笠原敏雄『超心理学ハンドブック』ブレーン出版 1989年
笠原敏雄『超心理学読本』講談社 2000年
石川幹人『「超常現象」を本気で科学する』新潮社 2014年
菅原浩『微細エネルギー論』虹の光出版 2013年
菅原浩「透明な力で人を動かす ―無分節/分節の世界モデルより理 解された身体とエネルギーの関係について―」『長岡造形大学研究紀要』第17号 長岡造形大学 2020年
菅原浩「透明な力で人を動かす(その2)-「自然体」の意味と「エネルギー的融合」の地平-」『長岡造形大学研究紀要』第18号 長岡造形大学 2021年

  • 参考サイト
最終更新:2024年06月11日 12:16

*1 笠原 1989 p.167

*2 https://www.isc.meiji.ac.jp/~metapsi/psi/2-3.htm

*3 笠原 1989 p.221

*4 笠原 1989 p.172

*5 菅原 2020

*6 サイコロ投げについては、サイコロという大きい物体にPKが働くと考えればマクロPKであるが、回転中のサイコロに微小なPKが加わったと考えればミクロPKであり、分類上どちらに含まれるか判然としないとする意見もある。https://www.isc.meiji.ac.jp/~metapsi/psi/2-3.htm

*7 笠原 1989 p.184

*8 笠原 1989 p.280

*9 笠原 1989 p.207-210

*10 笠原 1989 p.168

*11 笠原 1989 p.169

*12 笠原 1989 p.169

*13 石川 2014 p.123

*14 笠原 1989 p.199

*15 フラー 1974(邦訳 1985)p.4