クンダリニー覚醒

概説

サンスクリット語のプラーナという言葉の複数形には生命という意味があり、ヨガではプラーナは宇宙に満ちている根源的エネルギーだとされている。そして、宇宙において、原子や分子、生き物を含めあらゆるものはプラーナで構成されているとも言われる。ヨガ経典において、プラーナが人体内(脊柱の尾骨の先端)で休眠しているという概念がクンダリニーであり、人体内で超常的能力として活性化する事をクンダリニー覚醒という。クンダリニー(kuṇḍalinī)とはサンスクリット語で、コイル、螺旋、環、巻き毛などを意味し、クンダラ(kuṇḍala)という名詞から出たクンダリヌ(kuṇḍalin)、螺旋を有するものの女性形主格である*1。クンダリニーについては、3回半とぐろを巻いた姿で眠っているという状態がイメージされ、その中に潜んでいる宇宙根源力をシャクティと言う。クンダリニー覚醒は個人的変容の道という観点から悟りへの道と言い得るかもしれないが、ヨガ指導者である成瀬雅春によれば、出生時のショックや交通事故などで肉体が受けた衝撃により、クンダリニーが覚醒してしまう事もあると言い、その後一般的な社会生活をしづらくなるという点でも、非常に危険であるという*2スタニスラフ・グロフの妻であったクリスティーナ・グロフも初めての息子を出産した時。そのような体験をしたと言い、それがトランスパーソナルな領域を探求するきっかけとなったという。*3
伝統的な象徴主義における7つのチャクラ(『クンダリニー』p.29より)
また、人間の身体の中にあるプラーナの組織の中心として7つのチャクラであり、クンダリニーを霊的な修行によって段階的に目覚めさせ、体内から頭の天辺まで上げていき頭頂部のチャクラから外に抜け出る事で、肉体から解放された生命エネルギーは宇宙の根源的なエネルギーそのものと合一すると言われる。しかし、見よう見まねで行うと修行には危険も伴うとも言われ、社会生活に支障を来すと指摘されているように、クンダリニー覚醒によるとされる現象は精神疾患に類似する場合がある。ヨガ行者のゴーピ・クリシュナもクンダリニーが突然覚醒すると、おそらく好ましい遺伝的素質に恵まれ、生活態度もきちんとしていて、行き届いた精神的訓練も受け十分成熟した頭脳神経組織をもつ人間の場合でも、なかなか厄介な精神的病状がちょくちょく現れるだろうと述べている*4。それによる精神的、肉体的障害については現代医学では原因の究明がなされていないようである。

クンダリニー覚醒の報告

クンダリニーの個人的体験の報告を見ていくと各人の体験がそれぞれ独自のものであるということが分かる。

ゴーピ・クリシュナのクンダリニー覚醒

インドやエジプト、中国の超人の間では、クンダリニーは現代の知識人よりはるかに良く知られていたと言われるが、この分野でなされた発見はごく限られた人々の間でかたく秘密にされ、ごく一部の行者のあいだでしか知られていなかった。そのようなクンダリニーの教説が、世に広く知られるようになったのは、ゴーピ・クリシュナの『クンダリニー』なる著作が1967年に英語で出版されて以来であると言われる。クリシュナは34歳のある朝、ひと時を瞑想に費やしていた時、突然、クンダリニー覚醒が起こった時の様子を以下のように記している。

 心臓の動悸は激しくなった。精神を集中するのがますます難しくなってきた。しかし、心を落ちつけて、また深く定に入る。同じ感覚がよみがえってきた。今度こそ注意を散らすまいとしていると、その感覚はだんだん上昇してくるようであった。自分がゆれているような感じがしてきた。しかし、あくまで蓮華の像から心を離すまいと努めた。すると突然、滝が落ちてくるような轟音とともに、一条の光の流れが脊髄を伝わって脳天にまで達するのを感じた。
 こうした事態の進展に驚きながらも、すぐさま自己をとりもどして、あくまで精神集中の対象に心をおいたまま同じポーズをとり続けていた。光はますます輝きをまし、音もだんだん大きくなった。身体がぐらっとゆれたとたん、自分が光の輪に包まれて、肉体の外にぬけでた感じがした。
 このありさまをはっきり伝えるのは難しい。私は一点の意識となり、広々とした光の海の中にひたっていた。視界がますます拡がっていく一方、通常、意識の知覚対象である肉体が遠くどんどんひきさがっていって、ついに全くそれが消え去ってしまった。私は今や意識だけの存在になった。身体の輪郭もなければ内臓もない。感官からくる感触もなくした。物的障害がまるでなくて、四方八方にどこまでも拡がる空間が同時に意識できるような光の海につかっていた。*5

本山博のクンダリニー覚醒

超心理学者で玉光神社名誉宮司であった本山博はクンダリニーの覚醒者であると同時にその研究者でもある。本山は、ヨガを始めて3~6箇月経った時、尾骶骨の辺りがムズムズ動くような感じ、額や頭部がピリピリするような感じ、下腹部が尾骶骨辺りから熱くなる感じが時々して、このような状態が2~3箇月続いたという。ある夜、行をしている時、尾骶骨から下腹部が熱くなり、丸く赤い少し黒が入っている光がおどろおどろしく、熱い白い水蒸気が漲っている真只中に、爆発寸前の火球のように見え、脊椎を物凄い力が頭頂まで突き抜けて、ほんの1~2秒の出来事であるが、肉体が3~5センチメートルほど上昇したようである。本山はクンダリニーの覚醒が起き、本格的な霊能力に目覚めて以降、超能力的なものは何でも可能になったという。
覚醒したクンダリニーは脊椎に沿って体内を上昇するが、まずアストラル次元で神の気と合一し身体を抜け、さらに神気が強くなり、下腹部で水蒸気、炎がゆらゆらと動き身体は非常に暑くなるという。本山は、スピリチュアルな世界(魂の次元)にも幾つかの階層がある事を指摘しており、アストラル次元、カラーナ次元、プルシャ次元などの次元がそれであるが、神気と合一したクンダリニーのエネルギーだけでなく、霊体の身体が外に出て、アストラル・プロジェクション、カラーナ・プロジェクションが生じ、プルシャ(悟り)の世界に入る前にクンダリニーと神力によって焼き尽くされる。これが完成するとプルシャの境地に達し、全き自由の世界に入る事ができるようである。

成瀬雅春のクンダリニー覚醒

成瀬雅春は、1996年にブータンのタクツァン僧院を訪れた際にクンダリニー覚醒している。成瀬は、タクツァン僧院の結界と思われる滝を越えてから肉体が微妙に変化し出したと言い、クンダリニー覚醒の準備段階のような状態になってきたという。タクツァン僧院は、8世紀にチベット仏教ニンマ派の開祖であるパドマ・サンバヴァが虎の背に乗ってやってきたという由緒があり、成瀬がそこで倍音声明という瞑想法を実践した時のことについて次のように記している。

 このあたりからわたしの肉体内では、クンダリニーエネルギーの上昇が自然に開始された。このタクツァン僧院にくるまでに体内では、クンダリニーエネルギーが生じて、活動を始めていたので当然の結果といえる。
 このエネルギーは、わたしが空中浮揚を実践するときに意識的に起こすエネルギーと同質のエネルギーであり、それがごく自然に体内で活性化したのだ。そういうときの肉体の変化は、何度となく経験していることなのではっきりと分かるし、精神的には安定している。*6

また、成瀬はその後も倍音声明を実践していると、徐々に肉体内のエネルギーが飽和状態に近づき、空中浮揚が起こったと言い、はっきりと分かるように「場」が変化したとも述べている。それに気づいた人も多かったようで、一時的に集団クンダリニー覚醒状態を引き起こしたという。成瀬によれば、宇宙の根源的エネルギーであるクンダリニーは体外に抜いても宇宙の根源に帰するものであり、その場をエネルギーが満たすということはないが、ブータンの聖地であるタクツァン僧院が非常に特殊な場所であったため集団クンダリニー覚醒状態が生じたのだという。

松井雄のクンダリニー覚醒

変性意識活用トレーナーの松井雄も体験的心理療法や心身一元論的な技法によって、深い次元の解放を推し進めた結果、深層にある未知のプログラムの活性化を起こし、クンダリニー体験に分類される体験をしたという*7。松井によると、尾骶骨あたりにつながるどこかの亜空間からか、物質と精神を透過する、凄まじく眩いエネルギー(謎めいた、稲妻のような白色のエネルギー)が噴出して来たといい、それが肉体と意識を透き通し、未知の宇宙的状態をもたらす、ある種の極限意識的・変性意識的な様相を呈したという。そして、体験直後のしばらくは、放射能に焼かれたかのように、奇妙な熱感が心身にこびりつき、とれない状態だったようである。さらに、この体験がより怖ろしい影響を持ちだしたのは、体験後の、長い歳月を通してであったと言い、ゴーピ・クリシュナの著作にあるような、苦痛きわまる、困難な体験だったらしく、松井はこれらの格闘に長い歳月を費やしたとも述べている。

クンダリニー覚醒の解釈

ゴーピ・クリシュナは、クンダリニー覚醒を人間にとっての進化の過程として捉えていたらしく、異常とも言える特異な心霊現象を伴うものの、完全に自然法則にかなった生物学的現象であると言い、一定の進化の段階に到達すれば、健康な人間の身体の上にいつでも起こりうる事なのだと考えている*8。そして、超人的とも思える驚くべき能力を具えた意識的人格の現出もまた、生物学的自然法則が働いた結果として見ている。
ただし、クンダリニーやチャクラとは何かという事について、様々な角度から科学的に探究されているものの、今日でもまだ定説はなさそうである。クンダリニーが覚醒している間に脊椎や内臓で感じられる感覚について、実際、そこで起こっているのではなく意識されない脳の活動が末梢神経を通って身体の内部へ向かってはね返る際の二次反応ではないかといった脳内現象説的な見方もある。ただし、クンダリニー覚醒において最初の活動がどこで起こるかは電子機器を使って追求し得ると言え、単なる脳内の現象として片付ける事は難しそうでもある。
本山博はインドのナディ(ヨガの教義において生命エネルギーが流れていくと言われる多数の経絡)と中国の経絡の類似点に着目した研究を重ねた結果、両者は本質的に同じであるという結論に達した。そして、経絡系の正体は皮膚の表皮の下の真皮層の中にある間質液の流れだという。身体から発している生体エネルギーの物理データと生理データをマルチチャンネルで同時に測定するチャクラマシーンでヨガ行者や超能力者などを測定してみると普通の人より強い光が出ていたという。
また、ライター、コラムニストをしていたブライアン・ヴァン・デル・ホルストはクンダリニー覚醒が起き、恍惚感がやってきた後、等身大の鏡がかかっている壁の方へ歩いて行ったが、鏡の中に自分の姿がなく、見えたのはぼんやりと輝く自分の影に過ぎなかったという。そして、夢に違いないと思って見続けたら、30分以上経っているのに気付いたという。このように、クンダリニー覚醒については、単なるエネルギーの流れといった生物学的現象だけではなく、不可思議な現象な現象や神秘体験を伴うこともあると言え、それらについても解明は進んでいないように思える。

臨死体験とクンダリニー覚醒

クンダリニー覚醒によって宇宙の叡智にアクセスできるようになったという人もいるが、クンダリニー覚醒による肉体的、精神的転換と、臨死体験によって生体エネルギーが増大する、神経や脳の働きがこれまでと変わったように感じるといった事後効果と類似したものであるという指摘があることが知られている。橘隆志も眩い光を見る、超能力が出てくる、ヒーリングパワーの獲得、神の声を聞く、エクスタシーを感じる、超自然的な認識を獲得する、体外離脱体験をするといったことがクンダリニー覚醒と臨死体験のどちらにも現れていることを指摘しており、ケネス・リングも臨死体験者の間に、クンダリニー覚醒と同じような内的エネルギーの発現があったという例がかなりあったことを知ったという。*9

日本においても臨死体験中にクンダリニー覚醒が起こったと考えられる事例として、ヒーリング・アーティストの松尾みどりの臨死体験がある*10。松尾みどりは、子どもの頃から、太陽の中に文字が見えたり、空気中にプラーナ(目に見えないエネルギー)が飛んでいるのが見えたり、木々が様々な色に見えたりしたという。そして、16歳の時に、学校帰りの坂道、フルスピードのバイクが突っ込んできて交通事故に遭い、意識が肉体を離れ、事故の現場を映画のフィルムの駒落としのようにゆっくり見ていた感じや、360度全景が見えるような感じを伴う臨死体験体外離脱体験)をしているという。その後、27歳の時、洗濯物を干していたら巨大な葉巻型UFOが現れ、それから宇宙人からメッセージを受け取ることもあったという。そして、46歳の時に心臓の調子が悪く福岡の病院に行くと看護師に点滴を間違えられて心停止した際に再び臨死体験をしている。その時は、あらゆるエネルギーが胸腺に集まり、松果体を通って頭から出る時に音がしたと言い、レインボーの螺旋の中を回転して吸い込まれ、真っ青な世界へ行ったと述べている。この46歳の時の臨死体験は、その報告内容からして、クンダリニー覚醒と共通の生理学的、生物学的基盤があると言えそうである。

  • 参考文献

  • 参考サイト
最終更新:2025年02月03日 11:57

*1 成瀬 1997 p.34

*2 成瀬 1997 p.35-36

*3 グロフ・ベネット 1992(邦訳 1994)p.158

*4 クリシュナ 1967(邦訳 1980)p.41

*5 クリシュナ 1967(邦訳 1980)p.7

*6 成瀬 1997 p.22

*7 https://freegestalt.net/other/bookcontents/booksand1/

*8 クリシュナ 1967(邦訳 1980)p.172

*9 立花 1994 p.342-343

*10 辛酸・寺井 2017 p.50-64