胎内記憶 > 誕生にまつわるシンクロニシティ

親族の死と関係づけられる受胎・誕生

誕生に関する偶然の一致としては、誕生日が一致したり、子どもの出生体重が一致したりしたという例などが挙げられる。そして、助産師の市川きみえは、受胎の時期や誕生の日が親族の死と関係づけて語られている例として、母親が受胎した時期を親族の死と関係づけて語る症例、誕生が親族の一周忌の頃であった症例、妊娠中に親族 が他界した症例、誕生後まもなく親族が他界した症例を挙げている*1。このような例の中には、親族の生まれ変わりを思わせる例も少なくない。
市川が紹介している例として、父の一周忌の月に第二子(長男)を受胎したという人の症例がある。その人は父の一周忌の日はすごく気分が悪くて、第一子(長女)が「赤ちゃん」「男の子」と言ったといい、何を言っているのかと不思議に思っていたら、後で妊娠していることが分かり、生まれてきたら本当 に男の子であったという。
他にも、他界する前の親族から神秘的な発言を聞いた例や、他界した親族から夢によるメッセージを受 け取った例などもある。第二子(二男)妊娠4箇月時に実母が他界したという人の話では、実母が亡くなる二週間位前から、「ここ(病室)にお父さんがいる」と言っており、亡くなる5日前に、「お腹の子は男の子だから名前は〇〇がいい」「その子は私の生まれ変わりよ」などと言ってから容体が急変し亡くなったという。そして、その人は実母が亡くなった時にものすごく気分が悪くなり、もしかしてその時に母の霊魂が二男に入ったのではないかと思うといい、親戚もみな「母に似ている」と言ったようである。

流産・中絶・死産にまつわるシンクロニシティ

妊娠初期の流産・中絶あるいは中期以降 の死産など、生児として出産することのできなかった妊娠を体験した女性やその家族の中には、流産・中絶、死産をその後の妊娠出産と関係づけて語る人もいる。市川きみえは、助産師の立場で誕生にまつわる共時性体験(シンクロニシティ)について聴き取り、様々な共時現象から、人の誕生に関与する(霊)魂の働きを検証している。市川が体験内容を詳細に確認している事例として、母親の死産からちょうど2年後の同日に妹が誕生したA氏、中絶をした子どもの夢を見て、同時に妊娠が発覚したというB氏、中絶後流産を繰り返し、次子の出産を諦めたと同時に妊娠し無事に出産したC氏、2度の中絶で、生きる意味を考えるようになったというD氏の事例を挙げている。*2
B氏の事例では、産んであげられなかった子どもを、数年間、心の中で弔ってきたといい、ある時、夢に7歳くらいの男の子が出てきて、「お母さん今まで僕のことをみてくれてありがとう。でも、もう大丈夫」と言われたという。そして、丁度その日に妊娠に気付いたらしく、そこから、二男を一人と考えるのではなく、中絶した児の霊魂はそのまま存在し、二男のなかに二人の霊魂が宿っていると考えているようである。
10代で中絶を経験したD氏は、中絶には手術の同意書に本人と胎児の父親のサインが必要であったが、同意を求めるまでの関係を築いていなかったため、父親の欄に架空の名前を書き、手術を受けたという。そして、それから10年後妊娠したが、再度中絶することになり、今度は相手の男性が同意書に署名した。その相手の名前が最初に中絶した時に書いた架空の名前と偶然一致していたらしく、その2枚の同意書を看護師が見て同じ名前の署名であることを確認している。そして、「同じ人と10年付き合っているのに、まだ産むことは出来ないの?」と看護師から聞かれ、事実を告げたようであるが、D氏は「神様に“まだ分からないのか”と言われた気がしました。」と述べている。
ちなみに、流産については、中部大学教授の大門正幸が、母親の流産について聞かされていない子どもが母親の流産を胎内記憶の一部として記憶している子どもがいたことも紹介している。

(以下、管理者の見解)
受胎や誕生の時期が親族の死と重なることや、子どもの誕生時刻や体重が一致したということについて、確率論の観点から偶然の一致に過ぎないとみなす人も少なくないかもしれない。しかし、これは臨終期暗合においても言えることであるが、生命体の深層における因果性に還元できない意味やストーリーといった背景を無視して確率計算をしている場合があるとも言えるだろう。そして、それが単なる日付の一致だけではなく、先に挙げたような中絶する時に書いた架空の名前が将来の相手の名前と一致していたというケースや、夢において具体的な内容を伴ったメッセージを受け取ったというケースになると、偶然に偶然が重なっただけとみなすのも無理がある。
これらのことからも、生命体の深層には因果性に還元できない領域が隠れていることが窺え、お迎え体験臨終期暗合といった人の死に関わるような場合だけではなく、誕生に関わる場面でもシンクロニシティが体験される可能性が高いと言え、そこには生きた人や亡くなった人、医療関係者や自然なども関係してくる。市川きみえも、死と同様に、「いのちの誕生に関わる場合も共時性を体験しやすい状態である」ことを強調したいと述べており、妊娠出産時の女性は、心理面では無意識領域に開かれ、見えない次元から生じてくる働きを受け入れる容器となりやすいという*3
実際、市川の紹介している事例としても、亡くなる二週間位前から、「ここ(病室)にお父さんがいる」と言っていた実母が妊娠中の胎児に生まれ変わることを仄めかしていたというものがあり、お迎え体験との関わりも窺える。また、見えない次元とのつながりという点に関して、出産の際に、「私の知らない私かそれとも神か、誰かわからないけれど、いきむ時を〝今だ〟と教えてくれた。いきんでいる時、真っ暗な宇宙の中を登っていくような感じで、からだ全体がフワフワと浮いている感じだった。異次元の世界で、その場に居ないような感じだった」と語った人や、「平常心を保ちつつ、次元の違うところに放り込まれたような感じだった」と語った人、「自分だけが頑張っているのではないという一体感があった」と語っている人もおり、宇宙と繋がる出産は、アブラハム・マズローの言う至高経験にも繫がる*4。なお、疫学者の三砂ちづるは、自分は出産時に、自分は一人ではなく、誰かと繋がっている、また、自然や宇宙とも繋がっていて、力が出てくるというような経験を原身体経験と呼んでいるらしく、そのような経験をし、人生の変革に繋がるような出産体験を定義するための心理尺度(TBE-Scale)も作成しているようである*5
このように、出産は時に、お迎え体験胎内記憶の想起、至高経験などといった体験との結びつきも考えられる。そして、出産にまつわるシンクロニシティについても多くの場合で宗教感覚が開花し、肯定的に生きることや、豊かな育児に繫がる機会となっていると言えることからも、それらを単なる偶然の一致とみなすのではなく人生観に変容をもたらす霊的変容体験との繋がりの中で見ていくことで、より広い視野が開けてくるかもしれない。

  • 参考文献
市川きみえ「神秘的な出産体験からみた生命誕生における霊魂のむすび-平田篤胤の産霊神思想に基づいて-」『人体科学』19巻1号 2010年
市川きみえ「流産、死産にまつわる共時性体験の語り」『人体科学』25 巻1号 2016 年
市川きみえ『いのちのむすび 愛を育む豊かな出産』晃洋書房 2014年
大門正幸「誕生前・誕生時記憶を語る子供たち〜日本における三つの事例」『中部大学全学共通教育部紀要』第3号 中部大学 2017年
最終更新:2025年02月10日 01:06

*1 市川 2010

*2 市川 2016

*3 市川 2016

*4 市川 2014 p.44-46

*5 市川 2014 p.50