概説
ジョエル・L.ホイットン(Joel Loyd Whitton、 1945年7月12日-2017年7月22日)は、カナダのトロント大学医学部の精神科主任教授を務めた神経生理学者。トロント大学医学部に入学後、退行催眠法や前世療法等を活用して患者の治療に当たり、その分析から 人類には過去生(過去世)を発見し、ポーラ・コンシディンという42歳の女性に退行催眠を行っている時に偶然、死んでから生まれ変わるまでの間の
中間生(中間世)が存在する事を発見した。そして、幾つもの生まれ変わりを通して経験した苦難や成功、失敗などが現世での人格形成に深く影響を及ぼしているが、人間は何度も転生し、心(魂)が永久に進化、成長する可能性を指摘している。
ジョエル・ホイットンは14歳の頃から、催眠家としての腕を発揮してきたが、催眠技法に更に磨きをかけ、トロント大学で医師の諸免許を取得した後、トランス状態に入れる人々(人口の約4~10パーセントとみられる)は、指示に従って誕生前の前世に戻れる事を発見した。そして、精神的外傷の原因となった過去生の記憶を意識にのぼらせようと指示すると患者は劇的な回復を遂げたという。ホイットンは、若い頃からハシディズムの基盤となったカバラ、キリスト教新プラトン主義、チベット仏教、そして神智学やフリーメーソン主義、薔薇十字団等に代表される神秘主義に接してきたこともあり、幅広い考え方ができるようになったといい、輪廻転生の考え方はホイットンが宗教上の教えとして受け継いだものの1つであるという。片桐すみ子は、ホイットンの研究が、『宇宙意識』を著して、人間意識の進化の仮説を展開したリチャード・バックから新フロイト派の精神分析学者エーリッヒ・フロムを経て続く系譜上に位置する事を指摘している。輪廻転生についてホイットンは以下のように述べている。なお、ホイットンによれば生まれ変わるまでの期間は、この世の時間で最短で約10箇月であり、最長で 約800年以上であるという。
輪廻転生が真実だという証拠については、そのほとんどが(物的証拠ではなく)状況証拠ではありますが、きわめて有力なものがそろっている現在、理屈のうえで輪廻を認めるのに特に問題はないと思われます。
意識のグループ分け
ジョエル・ホイットンは
中間生の段階では、俗に言う「善悪の判断能力」が拡大し、心のイメージで全てを見通す力が授けられ、人間存在の意味と目的がはっきりと理解できるようになるという。この知覚状態を
超意識と名付けており、他の知覚レベルと比較するために意識を以下のようにグループ分けしている。
解離意識(Dissociative Consciousness)
眠っているか覚めている意識が分かれて2つ若しくはそれ以上の経験の流れが存在している状態。夢、幻想、多重人格、前世の記憶、体外離脱などがこれにあたる。
情緒的意識(Affective Consciousness)
必ずしも、言葉だけでは表現できない視覚的、感情的な状態を意識しているレベル。愛や憎しみなどの感情、気分のようなもの、神秘主義者が体験するような「宇宙の一体感」のような
宇宙意識がこれにあたる。
超意識(Metaconsciousness)
記憶の知覚が極めて逆説的になった状態。自己の存在を失い自分が何であるかを意識するだけの状態になる。
中間生の直接体験を知ることは、三次元世界のリアリティを超える事であり、その結果、自分の存在の意味が理解できるようになるという。言語を介して捉えることが出来ず、シンボルさえもその本質を捉えることが出来ないレベルである。
ホイットンは 以上の3つの違うタイプの意識が共存できる事を発見し 結果として前世を語らせることにより精神的な外傷を治療することが できることを発見している。
魂の発達段階
ホイットンは、人間の魂は高次の目的に向かって段階を経て進化する事を指摘しており、進化段階を生涯に渡っての「魂の探求」という形で以下の5つの段階に分けている。
唯物論の段階
物質的な幸福を追い求め、肉体的快楽の熱望に支配された状態。他人の感情にはほとんど関心がなく哲学的目標は皆無に等しい。死後の事や、いかなる種類の究極の力も認めない。
迷信の段階
自分自身より偉大な力や実在がある事に初めて気づく。この全能の力について実質的には何も知らない。御守りや儀式などでしか制御できないものがあるらしいと認めているが、相変わらず唯物論的な生き方が支配的である。
根本主義の段階
髪や全能なるものについて、単純で迷信的で型にはまった考え方をし、それが生活の基盤となっている。儀式につきものの御祈りや、ある態度や行動を実践すれば、究極の報いが保証されると信じている。この段階では基本となる信念を活用し、解釈する人物が必要とされる。
哲学の段階
自己の責任に目覚めたばかりの段階。宗教的信念を持ち続けているが、協議に依存するだけでは不十分だという認識がある。生命を尊重し、他人の信念に対して寛容であり、既成宗教の教義を深く理解している。
迫害の段階
「マタイの福音書」五章十節に「義のために迫害される人は幸せなり」という一説があり、その段階。人生の隠された意味とは何かを理解したいという強い願いから生じる内なる緊張が頭を擡げる。答えを求め、広く本を読み、研鑽を深め、形而上学研究のグループに加わる事が多い。
ホイットンは、このような段階を卒業した人は確り進化の道を歩み出しているという。
飯田史彦「
生まれ変わりに関する科学的研究の発展が人生観に与える影響について」『商学論集』第64巻第1号 福島大学 1995年
坂井祐円「生まれ変わりをどのように考えるか」『仁愛大学研究紀要人間学部篇』第19号 仁愛大学 2020年
最終更新:2023年04月24日 12:30