イアン・スティーヴンソン

概説

イアン・スティーヴンソン(Ian Stevenson、1918年10月31日-2007年2月3日)は、カナダのモントリオール出身の精神医学者で、ヴァージニア大学知覚研究所の創立者、「生まれ変わり」の研究者としても知られる。1937年にスコットランドのセント・アンドリュース大学に進学し歴史学を学び始めるが、医学に転向し1937年にカナダのマギル大学医学部に移る。1943年にマギル大学医学部を首席で卒業すると生化学の道に進むが心と身体の関係を扱う心身医学に軸足を移す。

スティーヴンソンは、コーネル医科大学、ルイジアナ州立大学医学部を経て1957年にヴァージニア大学医学部精神科の主任教授の任に就いた。1950年代後半から人間を全体として理解したいとの想いから科学知識では説明のつかない超常現象にも関心を寄せ、医学文献に加え、(母親が興味をもって書籍を集めていた)神智学や心霊現象研究の本を読み始めた。神智学については科学的でないと判断せざるを得なかったというが、心霊現象研究は厳密な研究を積み重ねていると考えた。そして、子どもが語った前世の記憶の重要性に着目し、その内容を丹念に追跡調査する中で、幾つかの事例において事実とかなり高い確率で照合する事を突き止め、信頼性に足るとして、世界的にも権威のある医学雑誌(Journal of Nervous and Mental Disease)に発表した。なお、勝五郎の事例は、スティーヴンソンに強い印象を与えたとされる。

インドの数例を調査する際に雇った通訳が信用できない人物であると判明すると、アメリカ心霊協会によりスティーヴンソンの本の出版差し止めの措置が取られる。そのような状況で、コピー機の発明という偉業を成し遂げたチェスター・カールソンは、スティーヴンソンの研究に資金提供を申し出、本を再出版することが出来た。また、カールソンは1968年に死亡した後、彼の遺書にスティーヴンソンの研究に100万ドルを寄贈すると書かれていた。

そして、スティーヴンソンは世界中から生まれ変わり事例を集め、2007年に亡くなるまでに著書15冊と論文259本、膨大なファイルを残したとされる*1*2。また、生まれ変わり以外でも、超心理学、心霊研究の方面から臨死体験、霊媒や霊姿などの研究にも着手した。そして、超能力研究会の会長だったロバート・ソーレスに倣い自分の死後にあの世から送る暗号でしか開かない箱を生前に用意していたが、箱は開いていないという*3

生まれ変わり事例の研究

イアン・スティーヴンソンの研究方法は面接調査であり、主として2歳から5歳までの間に「前世の記憶をよみがえらせた」子どもとその関係者が研究対象として、面接調査により、記憶の歪み、証言者たちの相互の証言の食い違いがないかを調査し、前世の家族の調査も行った。スティーヴンソンの論文からは徹底した調査ぶりを垣間見ることができ、インドの10の事例を報告した1975年の著書では、情報提供者が一番少ない事例で6人、一番多い事例では20人、平均すると(1つの事例につき)13.3人の情報提供者を面接している。*4

スティーヴンソンは、収集した生まれ変わり事例について、作話説、自己欺瞞説、偶然説、潜在意識説、記憶錯誤説、遺伝記憶説、ESP仮説 (超感覚的知覚説)、憑依説といった他の仮説を検討した結果、最終的に最も妥当な解釈として残るのが「生まれ変わり説」であるとしている。そして、スティーヴンソンは、心的世界は生前の身体的特徴の記憶、認知的・行動的記憶を媒介する心搬体(psychophore)をもっており、人間の生物学的、心理学的発達は、遺伝要因と環境要因に加え、それらに比べて小さいものの生まれ変わりという第3の要因の影響も受けるという。そして、このような第3の要因を受け入れる事の意味について以下のように述べている。

その最も重要な結果は、心と体の二元性を認めることであろう。私たちがこの世にいる間、心は、体と結びついてはいるが、体から完全に離れることができる程度には独立しており、それまで結びついていた体が死んだ後にも存続すると考えない限り、生まれ変わりを思い描くことはできない。(そのしばらく後に、新しい肉体と結びつくのである。)ここで私は、自分が相互作用二元論の支持者であることを宣言しているわけである。この概念は古い歴史を持っているが、近年では、多くはウィリアム・ジェイムズとアンリ・ベルクソンの見解にその起源を持っている。ふたりは、脳がそこに到達する刺激と意識の間のフィルターの役割を果たすという考え方を提唱した。意識は、限られた量の情報しか必要としないのである。二元論の支持者は、私たちの日常生活に脳が役立っている事実は否定しないが、心が脳の活動の主観的体験以上のものではないという考え方は否定する。心と脳が、この世に生を受けている間にどのように相互作用しているのかは将来の研究に委ねられるが、心は脳の活動に還元できるとする、多くの神経科学者たちが自信を持って行っている主張についても、それと同じことが言える。しかしながら、私たちは、主張を、完成された理論と取り違えることのないようにしなければならない。*5

イアン・スティーヴンソンの研究を継ぐ研究者

  • サトワント・パスリチャ(インド国立衛生神経科学研究所)
  • エルレンドゥール・ハラルドソン(アイスランド大学)
  • ユルゲン・カイル(タスマニア大学)
  • アントニア・ミルズ(北ブリティッシュ・コロンビア大学)
  • ジェームズ・マトロック(超心理学財団)
  • ジム・B・タッカー(ヴァージニア大学、知覚研究所所長)
彼らの一部はスティーヴンソンが調査した事例を再調査し、中心人物や情報提供者の証言に大きな食い違いがない事を確かめる事で、スティーヴンソンの調査を補強する役割を果たしている。*6

  • 参考文献

  • 参考サイト
最終更新:2024年02月26日 02:19

*1 大門 2015 p.123

*2 大門 2021 p.80

*3 ロウ2016 p.226

*4 大門 2021 p.89

*5 スティーヴンソン 1997(邦訳 1998)p.312-313

*6 大門 2021 p.81