固有文

固有文については、ミサの目的によってテキストが異なるため、その概要について記述するのに留める。
ミサ曲の特殊な形としてレクイエムがある。レクイエムは、「死者のためのミサ曲」あるいは「鎮魂ミサ曲」などと訳され、死者ミサの入祭唱の冒頭句から取られた名称である。通常のミサ曲と典礼文に若干の違いがある。まず通常は教会暦にしたがって通常文(たとえばミサ開始の典礼文である入祭唱)が割り振られる箇所でも、レクイエムでは、入祭唱をはじめとして固有文や儀式に関連する聖歌などが含まれる。また通常のミサで用いる『グローリア』や『クレド』が用いられず、他の通常文も語句が変更される場合などがある。

イントロイトゥス(Introitus)

ミサの開始で歌われ、そのミサの目的が紹介される。和訳では「入祭唱」。現行典礼の「第一朗読」および「答唱詩篇」にあたり、アンティフォナと詩篇唱とドクソロジア(小栄光唱)、すなわちアンティフォナ-詩篇唱-ドクソロジア-アンティフォナ形式で歌われる。降誕節(主の降誕)の日中のミサの例では、アンティフォナでは『旧約聖書』「イザヤ書」9:6から採られた歌詞(Puer natus est......)が「おさな子われらに生まれ、み子われらに与えられぬ。その肩に権威おび、その名大いなる御計画の使いと呼ばれん」と歌われ、詩篇唱では『旧約聖書』「詩篇」97:1からとられた歌詞(Cantate Domino......)が「主に向かいて新しき歌うたえ、主、不思議なるわざなさりしゆえ」と歌われる。グレゴリオ聖歌の場合、旋律は第七旋法で書かれ、喜びにわき上がるような動きが印象的である。

グラドゥアーレ(Graduale)

ミサの前半「言葉の儀」において、「使徒の書簡」朗読の後に歌われる。名前の由来は幾つかあるが、いずれの説も祭壇の階段(グラドゥス)に関係する。和訳では「昇階唱」。レスポンソリウム形式で歌われる。降誕節の日中のミサの例では、詩篇97:3、4からとられた歌詞が「地上のすべての国々はわれらが神の救いを見たり。すべての地よ、神をたたえよ。主はその救いを知らせ、民の目の前にその正義を示したまえり」と歌われる。グレゴリオ聖歌の場合、旋律は第五旋法で書かれ、歌詞の母音をのばすメリスマが目立つ。

アレルヤ (Alleluia)

もしくはアレルイア。ヘブライ語が語源で非常に古い起源をもつ。レスポンソリウム形式で歌われる。賛嘆の歌なので、待降節、レクイエム、四旬節には歌われず、代わりに次のトラクトゥスが歌われる。和訳では「アレルヤ唱」。

トラクトゥス(Tractus)

待降節、レクイエム、四旬節のミサにおいて、アレルヤ唱の代わりに歌われる。和訳では「詠唱」。

セクエンツィア(Sequentia)

中世後期からルネッサンスにかけて、アレルヤ唱の説明文的な役割として派生し、アレルヤ唱に続いて歌われるようになった。和訳では「続唱」。セクエンツィアはその後ミサのあちこちに挿入されるようにもなった。トリエント公会議に於いて4曲を残して全て禁止された(後に1曲が追加公認)。レクイエムのセクエンツィアであるディエス・イーレはその残されたものの一つ。

オッフェルトリウム(Offertorium)

ミサの後半「聖餐式」の始めに最後の晩餐を再現するため葡萄酒と種なしパンを祭壇に捧げるが、この間に歌われる。アンティフォナ形式。和訳では「奉献唱」。

コムニオ(Communio)

「聖餐式」の最後の「聖体拝領(キリストの血と肉の象徴である葡萄酒と種なしパンを信者に配る儀式)」の直前に歌われる。和訳では「聖体拝領唱」。

死者のためのミサ(レクイエム)

最終更新:2017年07月08日 09:03