常識に守られた世界
我々の生きる現代社会に、魔法が実在すると信じる者は少数だろう。今では、科学の発達によって、魔法は非科学的な迷信とされている。
しかし、魔法だけでなく各地の伝説や伝承にしか姿を見せることのない妖精・精霊・怪物や魔王たち……それらは、かつてこの地上に存在していたのだ。
だが、“裁定者”(プリンシバル)と呼ばれる歴史上の人物たちが、世界の法則や常識を定めた時、世界は“科学”という名の“常識”に覆われた。
この世界を覆い尽くした“常識”の壁を“世界結界”と呼ぶ。
人の想いは力である。“世界結界”の中では人々が世界にあると認めた事象は存在し、無しと思えば存在を許されない。
この効果が、“非・常識”の烙印を押されたものたちを地上に存在できなくしているのである。
では、なぜ“裁定者”たちは“世界結界”を構築したのか?
それは、この世界を護るためである。
かつての世界は他の世界とも自由に行き来が可能な、ある意味混沌とした世界だった。
しかしそれは、この世界の豊富な“資源”を狙う者も進入しやすいことも意味している。
そこで、絶え間ない外界からの侵攻を憂いだ“裁定者”は“世界結界”により他世界から隔絶することで彼らの侵攻を阻止したのである。
外よりのもの“侵魔”──エミュレイター
現世から“裏界”(ファーサイド)へと追いやられた者たち。伝承や、伝説にのみその存在を認めら
れ
た
もの。
または、“異世界”からやってくる者たち。それら、
世界の敵の総称が“侵魔”(エミュレイター)である。
“世界結界”により、現世から隔絶されたはずの彼らは、その身を“非・常識”の結界で覆うことで“世界
結界”の“常識”を遮断し、侵攻を再開した。
エミュレイターの中でも特に強大な、そして特殊な力を持つ者は、特に“魔王”と呼称されている。
彼ら
の世界である“裏界”では、多くの魔王たちが跳梁跋扈し、
みな等しく、表の世界を虎視眈々と狙っているのだ。
彼らの目的は、この世界に満ちている“プラーナ”を得て、自分たちが再び世界の表側に立つことであ
る。
“プラーナ”とは、あらゆる事象が持っているこの世界に存在するための力である。
大なり小なり、生物・無生物に関係なくこの世に存在するものは“プラーナ”を内包しており、特に人間
は“プラーナ”を多量に保有している。
エミュレイターたちは、この“プラーナ”を得んがために、人間を狩り続けるのである。
“裏界”と現世をつなぐ“月門”(ムーンゲート)が開くとき、夜空に紅い月が昇る。
それはエミュレイターが“プラーナ”の収穫を行う前触れなのだ。
現代の魔法使い──ウィザード
かつて、“魔法”はこの地上に当たり前のように存在しているものだった。
だが、世界が科学という“常識”に覆われた時、“魔法”は人々から忘れ去られた存在となってしまっ
た。
しかし、遠き過去に失ったはずの力を、今なお連綿と受け継ぐものたちがいる。
それが“ウィザード”だ。
エミュレイターと同じく“常識を遮断する結界”で自らを覆い、ゆえに常識に左右されることなく、自ら信
じる力“魔法”を現世に具現化させる。
それこそが、
“常識”や“科学”が一切通用しないエミュレイターに対抗する唯一の力なのだ。
彼らは世界そのものの要請によって生まれる。生まれつき力を持っている場合もあれば、ある日突然
力に目覚める事もある。
その経緯に関わらず、ウィザードとなった者は、世界を守るために人知れずエミュレイターと戦う運命を刻まれることになる。
月衣(カグヤ)と月匣(げっこう)
“世界結界”の中でエミュレイターが存在したり、ウィザードが魔法を駆使できるのは、彼らが“常識”を
遮断する“月衣”
という個人結界に覆われているからだ。
そのため、“月衣”を纏っているものには“常識”から遮断されているがゆえに、“常識”の物理現象は
通用しない。
例えば拳銃で撃たれようが、
超高層ビルの最上階から落下しようが、大気圏に生身で突入しようが、傷一つ負うこと
はないのだ。
また、自分の身だけではなく、周囲の空間に結界を張ることもできる。
この結界内部の空間は、
“世界
結界”から切り離された異界となっており、エミュレイター
は真の姿や真の力を発揮することが可能となる。
また、現実世界に影響を与えることはなく、一般人
(イノセント)もこの中で起こったことを正確に記憶すること
ができない。
この異界を“月匣”と呼ぶ。
“月匣”はそれを作り出したものが法則を定めることができ、その者の都合の良い世界となる場合が
多い。
“世界の守護者”アンゼロット
無限に繰り返されるエミュレイターの侵攻。
その状況を常に把握し、世界を守護する役目を任された者がいる。
それが、対エミュレイターに関する政務権をより上位の存在から任された“守護者”と呼ばれる存在
だ。
『ファー・ジ・アース』の守護者は、“アンゼロット”と呼ばれる、麗しき少女の姿をした亜神である。
彼女は元々、この『ファー・ジ・アース』とは異なる世界で、真の意味で神に近しい存在として世界を管
理していたと言われている。
それがなぜ元の世界を離れ、
この『ファー・ジ・アース』の守護者なったのかは、その一切が謎に包まれている。
彼女の持つレベル∞という力は、この日常の中に在るにはあまりに大きく、直接の事件介入は上位の
存在から禁止されている。
そこで、彼女は配下の直属部隊ロンギヌスや、ウィザードを支援することで、この世界を護っているの
である。
輝明学園
学校法人にして、ウィザードの養成校でもある日本唯一の教育機関。それが輝明学園である。
輝明学園の創設は明治初期に遡る。
当時散発した土着の呪術結社の霊的攻撃に対抗すべく、時の日本政府は日本最大の陰陽術派閥で
ある御門家に養成し私立輝明義塾を開設させた。
これが、輝明学園の母体である。
その教育内容は、神道・密教系などの日本古来の呪術に留まらず、西洋基督教の秘術、道教系の呪
術など、世界各地に残されていた伝統的呪術をも網羅し、
さながら“世界呪術博覧会”の様相を呈することとなった。
戦後、占領軍はこれらを危険視し、学園は呪術的な性格を潜めて一般学生も受け入れるようになり、
何の変哲もない学校法人と変化していった。
しかし、エミュレイターによる世界侵略が激化すると状況は一変した。
未知なる敵への対応を迫られた政府は、再び魔術師の手を借りることになるのである。
こうして、ウィザードの学舎としての輝明学園は現代に復活したのだ。
現在、輝明学園は東京池袋の本校をはじめとして、全国各地に分校が存在している。事態をカモフラ
ージュする必要もあり、
現在でもイノセントの学生も
受け入れてはいるが、世界の秘密については、ウィザードではない学生、教員には秘匿されている。
マジカル・ウォーフェア
人知れず繰り広げられる戦い。
それは、三十年ほど前の事件に端を発した。
現世に穿たれた“非日常”という名の楔が、すべての常識を揺るがせる。
二〇〇×年、四月──。
すべては、紅き星の到来と共に始まった。
西暦200×年4月。
地球に到来し、夜空を紅く彩った小惑星ディングレイは、世の人々を歓喜させた。
にわか天文ブームを巻き起こした。この出来事の影では、ウィザードと
エミュレイターの熾烈な戦いが繰り広げられていたのだ。
小惑星ディングレイとはエミュレイターそのものであり、地球に落下することで、世界の常識を書き換
えんとしていたのである。
だが、これは落下寸前の所で
ウィザードにより迎撃され世界は事なきを得た。
しかし、それは後にマジカル・ウォーフェアと呼ばれるウィザードとエミュレイターの戦いの幕開けでし
かなかったのだ。
マジカル・ウォーフェアとは、200×年4月頃から始まった、全世界のウィザードと裏界の魔王たちを巻
き込んだ、1年に及ぶ戦いを指している。
魔王戦争、宝玉戦争とも呼ばれるこの戦いは、30年前に黒海沿岸部で起こった“第三天使の喇
叭”事件に端を発する。
魔導炉と呼ばれるプラーナ実験施設の暴走によって、裏界最強の魔王の一部が現世に顕現。一瞬で
あったとはいえ、その直接介入は“世界結界”に癒えない傷を
負わせることになる。
この事件を機に、滅多に確認されていなかった魔王級エミュレイターが、数多く
現世に出現するようになり、これがマジカル・ウォーフェア
の遠因と言われている。
そして、ディングレイの事件を境とし、およそ一年にわたり世界は異常な回数の“世界の危機”と呼べ
るほどの事件に巻き込まれることになる。
魔王級エミュレイターと、ウィザードたちの戦いは、やがて、“七徳の宝玉”をめぐるものへと推移して
いく。
結果的に勝利を収めたのは、ウィザード陣営であった。
しかし、この戦いがもたらした傷跡は、世界を変革させるのに十分すぎるものだったのだ。
新たなる敵、新たなる力
マジカル・ウォーフェア終戦後、“世界結界”は大きくゆがみ、堅牢であった“常識”は、以前に比べれ
ば極端に弱体化してしまった。
裏界と現世を隔てる敷居は
低くなり、エミュレイターによる侵蝕が今まで以上に激化していくことになる。
そんな中、世界各地で新種のエミュレイターが確認される。これまでのエミュレイターとは比較できな
い強さ、名状しがたい形状、
知性をみじんも感じさせない
破壊行動、彼らが持つ空虚な魂……そして、エミュレイターにとっても敵 であること。
“世界結
界”の弱体化は、裏界ではない別の場所より敵を
呼び込んでしまったのである。
かの敵はのちに“冥魔”と呼ばれることになる。
だが、“世界結界”の弱体化は悪影響ばかりではなかった。
これまで世界を覆う“常識”は、ウィザードたちの力も抑えつけていたからである。
その枷が弱くなった今、ウィザードたちは新たなる力を得ることになる。
以下はそのうち
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第八世界 ファー・ジ・アース
そのうち。簡単に言うと ぼくらのちきう のことです。
裏界(ファーサイド)
人々の住む世界を “
表 ”
とするならば、この世には影に隠された世界が存在する。それが裏界である。世界結界により存在が否認されたその世界は、イノセントではその実在を推し量ることすらできない。しかし、裏界は確かに存在する。事実、我々の生命を脅かすエミュレイターのほとんどは、この裏界からやって来る。
以下そのうち
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