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鏡面世界

うつせみの世を、
うつつに住めば、
住みうからまし、
むかしも今も。
うつくしき恋、
うつす鏡に、
色やうつろう、
朝な夕なに。
 ――――夏目漱石『薤露行』より シャロットの女の歌


鏡面宇宙とも。
鏡合わせのように存在している、よく似通った二つの時空連続体を指す。

広大な宇宙の中で、全く同じ空間座標上に、全く同じ形状をした地球が、
全く同じ動きをしているというだけではなく、
発生した生物種や人類の辿った歴史など、仔細に至るまで極めて精緻に類似している。

これは決して二つのパラレルワールドが偶然同じような運命を辿ったのではなく、
片方の世界はもう片方の世界の『一つ前の時間軸』と呼ぶのが近い。
即ち、クロノブレイクによって崩壊する前に辿った歴史――より正確に言うならば、その残滓である。

元々はアスガルド内乱を戦って上位存在と化した『旧地球』人、ウォーグ・ディメルテンド
『新地球』を織り直す時に設定した歴史修正システムの、仕様の穴を突いた不正利用のようなもの。
 大時空震クロノブレイクの真の目的は、歴史の改変などではなく
『一つの時間軸を不可侵のものとし、神々による干渉を停止させる』ことにあったのだが、
これによって『改変前の時間軸』と『改変後の時間軸』が次の歴史に進まないまま重合してしまった。

なお、改変前の時間軸は既に致命的なダメージを受けているため崩壊しており、
小さなセクションごとに分けられている。
たとえば国際亜存在危機に大きく関わる桜花聖の生きていた『世界』は、
実は西暦1955年~2062年までしか存在しない。
いわゆる『過去の記憶が植え付けられたものならば、
 この世界は3日前に生まれたものかもしれない』という理屈と同じである。
ここで以前の歴史からかけ離れたことを行っても、2062年まで進んだところで世界は終わり、
次のセクション(2062年以降)は前の歴史通りの状態から始まっていく。
聖やなどは、既に終わった歴史の追憶の中の人物に過ぎず、
彼女らの行った鏡面世界間転移とは、過去の亡霊が新しい歴史時間軸に跳躍してきたようなもの。
とは言え、そこに量子状態的な差異は存在しない。

より感覚的に理解しやすい例えで言うなら、
時間に干渉されたことで一つの歴史が終わり、次の修正後の歴史が形作られようとしたところで
『一時停止』をした結果、まだ前の歴史が残っているのに次の歴史が存在している状態で止まってしまい、
その二つの時間軸が重なり合っているため行き来ができるようになってしまった、という感じ。

上位存在が干渉できる状態なら、その不自然な状態はすぐさま解除されたであろうものを、
クロノブレイクによる一時停止は、いわば我々がフリーズしたパソコンに対してどうしようもないのと
同じくらい干渉不可能な状態だった。
そしてこの『二つの時間軸が重なり合っている状態』こそが、
各銀河系中心核に存在する大質量ブラックホールの重力特異点に対して超空間のゲートを開くことにより、
プランク・スケールの空間領域への開扉が発生し、この次元から上位次元への――
より正確に言うならば『上位次元の存在により設定された空間』に侵入するための条件となる。

なお、『表側』に存在していたものが『裏側』にも同じような経緯で発生する現象については、
詳細の原理解明前の推論どおり、『虚数領域を介して集合的無意識に影響を与えてしまうため』である。
ただしその理由は、ウォーグ達が設定した『歴史修正システム』の仕様による。
本来はただ他の上位存在による不正な歴史介入を防ぐための監視システムなのだが、
時間軸の重合という事象は想定外の事態であり、その状況下において『正しい歴史通りに物事を導く』現象は
必要以上に機能し、半ば運命を制御しているかのような挙動を取ってしまった。
クロノブレイクによる時間軸の隔絶が解決して以降は、この件を重く見て即座に仕様変更が行われている。
最終更新:2017年06月15日 06:44