生まれ変わり > 問題のある特徴

子どもが語る前世の記憶を「単純な」生まれ変わりとみなす上で問題となる事例として、研究者が同じ前世を思い出す二人以上の子どもを調査したという話がある。調査において、ある子どもが特定の前世人格の生まれ変わりである可能性があると聞き、調査すると後に別の子どもが真の現世の人格であることが判明することは珍しくない*1。このような事例の存在は、「単純な」生まれ変わり仮説を否定し得る材料ともなる。
ユルゲン・カイルは2006年、トルコで、二人が同一の前世人格についてかなり詳細な情報を提供し、ある時点で前世人格の親族は明らかに二人を受け入れたという事例を知ったという話がある*2。2007年、カイルはこの事例を再調査した時は、前世人格の親族はもう片方よりも自宅に近い場所に住み、早くに訪問した方を生まれ変わりとして受け入れているようであるが、二人は同じ前世人格と関連していると思われる情報を提供していたことがわかったという。
カナダのギックサン族の印象深い事例として、孫娘の子どもとして生まれ変わりたいと言い、脳卒中で、70代後半で死んだスーザン・アルバートの事例がある。そして、孫娘が産んだ子どもは、身体も行動も成熟しており、生後15箇月の時点で、アルバートのお気に入りだった椅子を自分の椅子だと主張したり、アルバートの宝石などを判別したりできたという。また、右腕にアルバートのタトゥーの形に似た奇妙な傷があったという。しかし、同時期に親族の中にアルバートの生まれ変わりと思われる人がほかに二人いたという。アントニア・ミルズは太平洋岸北西部の部族における同一人物の生まれ変わりとされる複数の事例を調査し、イアン・スティーヴンソンはアラスカのイヌイットとナイジェリアのイボのそのような事例を調査した。

前世人格が二人以上の人と関連していることが一般的に確認されれば、「単純な」生まれ変わり仮説を否定し、前世人格に関する情報が持続し、複数の人びとに吸収される可能性や、複数の同時または重複した生まれ変わりを認めることに繋がると言える。飯田史彦臨死体験をした際に、生と死の境界を覗いたと言い、次々に生まれていく無数の魂たちの半分以上(7割か8割くらい)が2つに分かれていくのが見えたと言い、元々、1つの魂が、生まれるときに2つに分かれて、別個の肉体に繋がった場合に、それら2つの魂どうしを「ツインソウル」と呼んでいるが、重複した生まれ変わりと少なからず重なる点があるかもしれない。

他の問題となる事例では、子どもが同時期に生きていた 二人の異なる人物の過去生を覚えているように見える場合がある。ヴァージニア大学のファイルの中には、そのようなケースと思われるものが少数あるものの、転生したとされる死者の身元が十分に確認されていないため、公表されていない。*3
また、子どもが記憶している人生を送った人物が、子どもが生まれた後に亡くなっているという事例もある。カイルによれば、2007年にトルコで起きた事例では、子どもがある人が前世人格の死の15~18日前に生まれていたことを示す確固たる証拠があり、カイルはこれまでにこの種の事例が30~50件ほどあったといい*4、ヴァージニア大学のファイルの中にはそのような事例が37件あったという*5。しかし数日程度の差異しかない場合は通常、前世人格の死亡日がそもそも誤って記録されたと推定されている。特にトルコの農村部では、出生登録は適切な役所に行くのに都合の良いときに行われることが多く、実際の生年月日は特に重要視されず、誕生日は伝統的に祝われないことが多く、そのためさらに食い違いが生じる可能性があるという。ただ、一定数は対応する前世人格が死亡する前に実際に生まれていた可能性が高いものも含まれると思われるという。
このような事例は、前世人格が死亡した際に何らかの魂または本質が胎児に入るという単純な死後生存仮説とは一致しないが、ある個人が生まれてから数週間、前世人格の死後もしばらくの間持続する「思考プール」やアカシックレコードのようなところに蓄えられた全ての記憶から何かを吸収する可能性があるというクラウド仮説や、生まれ変わりではなく、出生後に子どもに憑依したという説明を支持しているように思える。このような問題となる事例の存在からもスティーヴンソンも生まれ変わりの証拠とは主張せず、「生まれ変わりを示唆する事例」、「再生型事例」と呼んだわけであるが、いずれにしても、記憶が唯物論的な憶測に反し、個としての脳よりも拡がりをもったものであることを示唆している事は確かだと言え、そのような拡がりの中には様々な可能性が見出されるのかもしれない。

  • 参考文献
Antonia Mills “A preliminary investigation of cases of reincarnation among the Beaver and Gitksan Indians” Anthropologica(30), 1988
Jürgen Keil “Questions of the Reincarnation Type” Journal of Scientific Exploration, 24(1), 2010
Bruce Greyson “Near-Death Experiences and Claims of Past-Life Memories”Journal of Near-Death Studies, 39(3), Fall 2021

最終更新:2025年08月21日 23:57

*1 Keil 2010

*2 Keil 2010

*3 Greyson 2021

*4 Keil 2010

*5 Greyson 2021