この記事は、大型アップデート『YIIK I.V』を基にして執筆されています。
参考記述として、旧バージョンの情報も残してあります。

YIIK: ポストモダンRPG

【わいつーけい ぽすともだんあーるぴーじー】

ジャンル RPG
対応機種 Windows/Mac OS(Steam)
プレイステーション4
Nintendo Switch
メディア ダウンロード専売
発売元 Ysbryd Games
開発元 Ackk Studios
配信 2019年1月17日(Steam版/北米・欧州CS版)
2019年1月31日(日本CS版)
定価 1,980円(税込)
プレイ人数 1人
レーティング CERO:D(17才以上対象)
判定 怪作
ポイント 2019年クソゲーオブザイヤー据え置き機部門次点
村上春樹リスペクトの64版『MOTHER3』ライクRPG
力を入れた商業戦略に反し粗雑な出来
テンポが悪い戦闘と面倒な育成システム
好みが大きく分かれるキャラとストーリー
KOTYが手を焼いた問題作
5年越しの大型アップデートでバトルシステムが別物に
クソゲーオブザイヤー関連作品一覧

概要

アメリカのインディーズゲームメーカー・Ysbryd Gamesから発売されたRPG。
2016年に初報が発表され、3年後の2019年に世界同時発売となった。

Ysbryd Gamesは過去にも評価の高い作品を輩出しており、それらの作品でもコラボレーションを行っていた。
開発にあたっても、音楽やローカライズに高名なスタッフを起用しており、力の入れようがうかがえる。
知る人ぞ知るファンの間では、発売前から期待の声が寄せられていたが…。


特徴

  • 『MOTHER』シリーズを彷彿とさせる不思議な世界観
    • 本作は『MOTHER』シリーズ(その中でも、発売中止に終わったN64版『MOTHER3)に影響を受けて作成されている。簡単に説明すると「実生活に悩みを抱える多感な青年たちを主人公に据えたMOTHER」といった雰囲気に近い。
    • 時は1999年、舞台はごくありふれたアメリカの片田舎。主人公は、無精ひげを生やしただらしない青年・アレックス。大学を出て、行く当てもなく実家に帰ってくると、街には見知らぬ猫がいた。ひょんな事から猫を追いかけると不思議な少女に出会い、やがて世界の存亡をかけた戦いへ身を投じることになるのであった。
      • 舞台となる町の雰囲気は完全に初期二作の『MOTHER』そのもの。行く先々にはハンバーガーショップやレコード店などが立ち並び、道路には当たり前のように車が行き交っている。
      • シナリオにはスピリチュアルな要素も大きく取り入れられている。ゲームを進めていくと、ときおりサイケデリックな精神世界に迷い込み、死や精神などを絡めた難解なストーリーも展開される。
      • ある局面ではメタな要素がシナリオの本筋に関わってくる。そういった点もMOTHERシリーズフォロワーらしい。
  • 戦闘
    • 本作の戦闘は、『マリオシリーズ』のRPG作品や『トマトアドベンチャー』のようなアクションコマンド制を採用している。
    • 攻撃の際には単純なミニゲームが挿入され、その成否に応じて威力が変動する。また、攻撃を受ける際もミニゲームが挿入され、タイミングよくボタンを押すことで攻撃を回避したり威力を減らしたりすることができる。
    • 特定のボタンを押すことで、戦闘を早回しすることも可能。また、一定時間に限り戦闘をスローにして難易度を下げることができる。
    • 戦闘の際に挿入されるミニゲームは、登場人物に応じた武器をモチーフにしている。レコード・カメラ・フラフープといったユニークな道具が武器に使用され、見た目も個性豊か。
    • 戦闘に負けても、所持金を半分に減らしてその場でコンティニューが可能。
  • 育成
    • 本作は敵を倒して経験値をもらうことができるが、それだけではキャラクターが成長しない。
    • キャラを育てるには各地の電話(セーブポイント)から「マインドダンジョン」と呼ばれる施設にアクセスし、経験値を支払ってレベルを上げてもらう必要がある。
    • レベルを上げると仲間キャラのパラメータが上昇するが、主人公のアレックスに限っては上昇するパラメータを自分で設定する。
      • 選択肢は「HP」「ちから」「ぼうぎょ」「うん」「PP」「すばやさ」の6つ。このうち3~4つを選んで上昇させることができる。
  • エンディング
    • 本作はマルチエンディングとして、二つの結末が用意されている。
      • 一つは通常通り攻略して見られるエンディング、もう一つは特殊な行動を行うことで見られる隠しエンディングとなっている。
      • クリア後は、エンディングの種類に関係なく経験値の引継ぎ(いわゆる「強くてニューゲーム」)が可能。

大型アップデート『YIIK I.V』

  • 2024年12月にイベントシーンの改修やバトルシステムの変更などが行われた大型アップデート『YIIK I.V』が配信された。
    • 発売から実に5年以上経過しているにもかかわらず、大幅なテコ入れが無料アップデートで行われるのは、スタンドアロン型のRPGとしてはかなり異例。
      • ペルソナ5R』や『ドラクエXI S』などのように数年後に完全版として別売する、『FFXV』や『NieR:Automata』などのようにDLCとセットにして廉価版として再販するというケースは時折あるが、無料アップデートで完全版をリリースするというのは非常に珍しい。後述する数々の批判を受けての対応だろう。
    • 以下に主な変更点を記述する。
  • バトルシステムの仕様変更
    • 戦闘に参加できるパーティーメンバーは4人から3人に変更。
    • PPは全キャラクターで共有するようになり、キャラがターンを迎えるごとに1づつ増える。
      • また、防御を選択することでPPが5増加する。
    • ライフが0になり、戦闘不能者が出た場合、時間経過で控えのパーティーメンバーが出るようになる。
    • 新要素「カルタ」。
      • 敵味方それぞれ最大3つまでカルタを装備することができ、カルタを装備している間は、カルタがダメージを肩代わりしてくれる。
      • カルタのライフが0になるとカルタがやぶれて、カルタが使用不可になる。
      • カルタが無い状態で攻撃を受けると「流血」状態となり、ターンが来るごとにライフが1減っていく。基本的にはカルタが無い状態で攻撃を与えることでダメージを与えることができるようになる。
      • カルタはカルタごとにそれぞれ特殊な効果があり、キャラクターのターンが来た際に消費して効果を発揮することも可能。
      • バトルで消費・やぶれたカルタはバトル終了後には全て元に戻る。
    • 旧バージョンにあったミニゲームやQTEは全て削除され、完全に別物と言ってもいいほど変更されている。
      • 一応、特定条件を満たせば旧バージョンのバトルシステムに戻すことも可能。
    • コンティニューの仕様も変更されており、全ての戦闘で敗北した場合ノーペナルティでリトライできるようになった。
      • その他、アイテムを購入してリトライ、所持金を減らして逃走(雑魚戦のみ)も選択可能となっている。
    • 旧バージョンではフィールドマップにおいてエンカウントが発生したが、『I.V』ではそれが無くなっている。
  • マインドダンジョンの仕様変更
    • マインドダンジョンのマップが一新。立体的な構造のマップへと変更された。
    • レベルアップするためにマインドダンジョンに入る点は旧バージョンと一緒だが、レベルアップの方法が、「ハンサムなカラス」に話しかけて3つの異なる上昇の仕方をする全ステータスから選ぶだけと、大幅に簡略化された。
    • カルタの強化や開放もマインドダンジョンで行えるようになっている。
  • イベントシーンの追加・改修
    • 新たなカットシーンの追加やイベントシーンの改修などが行われている。
      • 例として主人公アレックスの独白シーンは、「アレックスがマイクを持って語る」という新規カットを追加しつつ変更。独白自体もコンパクトにまとめられている。
      • 旧バージョンでは立ち絵とテキストボックスで進行したイベントシーンも、一部ムービーで進行するように変更された。
      • その他、旧バージョンには登場しなかったボスがメインイベントで登場するようになるなど、変更点は多岐にわたる。
    • とあるボスキャラクター「黄金のアルパカ」のキャラデザが変更。二足歩行で翼が生えて大剣を持っているなど、旧バージョンとは別物になった。
      • また、その黄金のアルパカ自体の登場シーンも増えている。
    • 章の切り替えごとに「名も無き少女」を操作するパートが追加。本編には直接関わらないが、後に伏線として活かされる。
  • NewGame+
    • 旧バージョンにおいても同様のシステムが存在したが、『I.V』ではNewGame+からが本番と言ってもいいほど、別物となっている。
      + 詳細(ネタバレ)
      • NewGame+で二周目を開始すると、主人公がアレックスたちではなく、新キャラクター「シリル」を主人公としたストーリーが展開される。
      • なお、経験値などを引き継いで再びゲームの最初からプレイできる本来の「強くてニューゲーム」は、「NewGame++」として、残されている。
  • その他細かい変更点
    • バトルシステムの変更に伴い、メニュー画面のUIが変更されている。
    • 終盤のとあるダンジョンのギミックが一部カットされている。

問題点

+ 旧バージョンの問題点

戦闘・UIなど、本作は全体的に粗雑な作りをしている。購入したユーザーからは海外・日本問わず批判の声が押し寄せる事となった。

  • テンポが悪くストレスの溜まる戦闘
    • 本作の戦闘は、攻撃も防御も一挙一動に対してミニゲームを要求される。攻撃時のミニゲームは若干長く、防御のミニゲームにはいちいちカットインが入り、全体的に時間がかかる。
      • たとえば主人公のアレックスは「回転するレコードに書かれた印に合わせてボタンを押す」といったゲームを行うのだが、一回当たりの攻撃に数秒かかり、その間集中力を研ぎ澄ませていなければならない。
      • 全体攻撃をくらった場合、パーティメンバーが個別に回避のミニゲームを行う。4人で戦っている場合は全部で10数秒近くかかり、かなりの時間を消費する。
    • 数ターンで決着するなら問題ないのだが、こちらの攻撃力は異様に低く、序盤以外は雑魚戦でも5~10ターン近くかかる。
      • 一回の戦闘で何分も時間を食われるため、まともに戦うとかなり面倒。
    • ミニゲームの難易度もそれなりに高い。コマンドを上手く決めないとろくなダメージを与えることができず、アクションが苦手なプレイヤーにとっては悲惨。
      • しかも、 ミニゲームの中には説明のないものやボタンの表記が間違っているものがある
    • 後にアップデートで通常攻撃時のミニゲーム、敵の全体攻撃のミニゲームは簡略化された。通常攻撃のミニゲームは基本的にボタン1回で終わるようになり、攻撃にかかる時間はだいぶ短縮された。
      • アップデート前の通常攻撃ミニゲームは、PPを消費しない特技「ボコる」として登場している。時間はかかるが、成功させれば通常攻撃より少し強い。
    • 大型アップデート『I.V』でバトルシステムは完全に別物へと変更されたため、上記の問題点は過去のものとなっている。
  • 調整を明らかに間違えたぶっ壊れスキル・LPスロー
    • 主人公・アレックスが所持するスキル(PPを消費して発生させる強力技)。レコードを敵に投げて全体攻撃する技なのだが、極めて威力が高い。どれほどかと言えば、このスキルを使うだけで先述の雑魚戦が1ターンで終了する。
      • 普通の技は10~20回くらい当てないと敵を倒せないのに対し、このスキルは一撃でほとんどの敵を葬り去る事ができる。あまりにも極端である。
      • この技を使うと、敵に弾を当てるシューティング風のゲームが挿入され、その成否に応じて威力が上昇する。しかし、何も考えずボタンを連打して数体の敵に当てるだけで、敵を倒せる威力が十分に発揮できてしまう。
      • 調整ミスの根拠として、この技を使うと負けイベントの敵ですらHPを空にできてしまう*1。普通のRPGでは、極端なレベル上げや開発者の想定しない裏技でも使わない限り負けイベントの突破は不可能なものである。しかし、このスキルは普通に育てているだけでレベルアップ報酬として手に入る(それもゲーム中盤)。本作は、普通に遊んでいるだけで負けイベントに実質勝利できてしまうのだ。
    • なお、過去のバージョンでは逆に使いどころが無いほど弱い技だったとされている。なぜこれほど極端な調整が行われたのかは明らかになっていない。真面目に遊びたい人は封印推奨である。
    • 『I.V』において「LPスロー」は、敵単体のカルタを攻撃するスキルに変更され、ダメージバランスも修正された。
  • いちいち上昇パラメータを自分で選ぶ、面倒な育成システム
    • 特徴で述べた通り、本作はレベル上げの際に「マインドダンジョン」と呼ばれる施設に行かなければならない。1レベル上げるごとに数分かけて育成パラメータを選ばなければならず、純粋に面倒。
    • 戦闘を繰り返すだけではレベルが上がらず、いちいちセーブポイントまで歩いてマインドダンジョンに向かう必要がある。もちろん低いレベルのままゲームを進めることも可能だが、効率を重視するならそうはいかない。
    • 育成の手順は「ダンジョンにある扉の前で、上昇させたいパラメータを選ぶ」→「扉の中に入り、パラメータ上昇アイテムをもらう」(このとき、いちいち確認メッセージが表示される)というのを3~4回も繰り返さなければならない*2。また、ダンジョンの出入りにもそれなりのロード時間が入る。
      • ちなみに、似たシステムを取り入れた『スーパーマリオRPG』やその後継作の場合、十分な経験値がたまった直後にレベルアップ画面となり、上昇させたいパラメータを選択してその場で上昇させられる。この間数秒である。これと同じことを本作は数分かけて行わなければならない。
      • また、パラメータを4つも選ばなければならないのも難点。自由度が高すぎて、最初のうちはどれを上げれば良いのかわかりづらい。
    • レベルアップに十分な経験値がたまっても、アラートされることは無い。いちいちポーズ画面を開いて確認する必要がある。
    • これらのレベルアップの仕組みは単純にわかりづらく、ただプレイヤーを混乱させるだけになっている。
    • ちなみに2周目で経験値を引き継いだ場合、再び一連の作業を行わなければならない。
    • 前述したように『I.V』において、レベルアップの仕様が簡略化された他、経験値が溜まりレベルアップが可能になった場合、通知が出るようになった。
  • ゲーム終盤、第5章のイベントが面倒
    • この章では来るべき最終決戦にそなえてパーティーを特訓する流れとなり、『ペルソナ3』のように日課を決めて進行していく。しかし、40日近くあるのに最初の10日くらいでやることが無くなる。
      • 行動として選べるのは「仲間との会話(経験値が1レベル分手に入る)」「マインドダンジョンに行く」「通常のプレイと同様に街を散策する」の3つのみ。このうち仲間との会話は回数制限があり、残りは何日もかける意味のないイベントばかり。結果、「育成するとみせかけてその日の行動を終える」という退屈な作業を約一か月分こなす作業になってしまい、この作業だけで15分近く消費する。
      • 初見プレイだと取り返しのつかない要素を危惧してしまい、セーブファイルを圧迫しがち。
    • ちなみに、このイベントで育成する意味は殆どない。
      • この後のストーリーではまともな戦闘が数回しか用意されておらず、隠しエンディングに向かえば戦闘すら行われない。最悪の場合は「LPスロー」を使えば詰むこともない。
      • ラスボス戦を危惧し、ストーリー内容を信じて熱心な特訓を行ってしまうと、骨折り損のくたびれ儲けに終わる。
    • 『I.V』では、「サイドクエストのクリア」「モンスターネスト(レベル上げ用のミニダンジョン)」の攻略にも日数を消費するようになった上、「マインドダンジョンでレベルを上げる」ことにも日数を消費するようになった(上げたレベル分日数を消費する)ため、日数管理が重要になった他、ラスボス戦前にまともな戦闘が追加されたため、育成する意義ができた。
      • また、トレーニングパートにおいて、イベントシーンがある日までスキップできる選択肢も追加されたため、上記の問題点はほぼ解消されている。
  • その他、改善された点
    • あるアイテムの説明文が日本語訳されておらず、そのまま英語で表示される。
    • Switch版では何故か起動の度にコントローラー選択画面が開く。
  • その他UI面が何かと雑。
    • まず、文字が異様に小さくて見づらい。小さいディスプレイ(特にSwitchの携帯・テーブルモード)で遊ぶプレイヤーや、TVとの距離が離れているプレイヤーは普通に遊ぶだけで大変。
    • ロード時間が全体的に長め。戦闘やマップ移動など、様々な機会で10秒近く待たされる。
    • 戦闘時のメッセージが異様な速さで送られる。敵撃破時の文字は一瞬で消滅し、まともに読めない。
    • 敵へのダメージ演出とともに数字が表示されるが、ウインドウに表示されるダメージ数値と一致していない。
      • ウインドウに表示される数値が正しいのだが、実際のダメージが非常に分かりづらくなっている。
    • 選択肢の決定や扉の判定がまともに動作しないことがある。
    • ロード時に入るTips「知ってた?」のバリエーションが少なく、同じものを何度も見せられる。
      • ジョークの一環なのか「若いうちに働いて金を貯めておけ」「ゲームは時間の無駄じゃない」など、何のヒントにもならない説教臭い文章が時々流れる。最初は冗談として笑い飛ばせても、何度も見せられれば苛立ちを感じるかもしれない。
      • 終盤のシリアスな展開になってもこうしたジョークが普通に表示されるので雰囲気が台無しである。
  • バグが多い
    • 発売直後から沢山のバグが発見されている。アップデートで少し改善されたが、殆ど対応しきれていない。
    • フリーズや詰みに至る状況が多岐に渡って存在し、普通に遊んでいればクリアまでに何度かバグに遭遇する。酷い時には、ゲームオーバー時にコンティニューしないだけでそのままゲームが強制終了することも。
    • 致命的なものでは、Switch版において隠しエンディングに必須なイベントでフラグ管理のミスが発生し、進行不能になるバグが確認されている。
    • 残念ながら、大型アップデート『I.V』(2025年1月時点)でも全て解消されておらず、アプリケーションエラーでゲームが落ちることもある。

賛否両論点

何から何まで粗雑なゲーム面に対し、脇を固めるストーリーなどの要素はプレイヤーによって大きく好みが分かれている。これを本作の更なるクソ要素として批判する意見から、本作の魅力的な一面として認める意見まで、文字通り賛否両論の意見がある。

  • 難解で哲学的なストーリー
    • 本作は、登場人物の精神世界を行き来し、世界を取り巻く怪奇な謎に立ち向かっていく。
    • 99年という時代設定を思わせるウェブサイトで登場人物は情報交換を行い、時にはサイケデリックな世界に迷い込んで様々な敵と戦っていく。
    • 精神世界の演出は、プレイヤーの常識を否定する不気味な世界の連続。オマージュ元の『MOTHER』で例えるなら、話の途中途中で何度も唐突に「マジカント」や「ムーンサイド」に放り込まれるようなもの。それどころか『LSD』や『ゆめにっき』に近いだろうか。
      • 例えばゲーム序盤、廃屋に入ったかと思うと中には記号的な空間が広がっていて、ピラミッドやエレベーターの散りばめられた不条理な世界を散策する羽目になる。
      • 登場人物の精神世界「マインドダンジョン」は、当人の記憶を繋ぎ合わせた不条理な空間。主人公のマインドダンジョンは何故か各地にある公衆電話からアクセスでき、その形は彼自身の首そのものとなっている。ヒロインのマインドダンジョンでは、様々な時代の本人が「どこでもドア」のような扉の向こうで鬱屈としており、最後は彼女達が集まってバンド演奏を始める。
      • その他にも、突然現れるローブ姿のアレックス、チャプター切り替わりの度に現れるサイボーグの夢など、不気味さを醸し出す不条理的な要素が多い。
    • 説明不足なストーリーに思わず置いてけぼりになりがちだが、世界設定はおおむね一貫しており、プレイヤーによっては考察のしがいがある世界となっている。
    • また、ゲーム終盤はちょっとしたどんでん返しが含まれている。メタ要素が強すぎて人を選ぶきらいがあるものの、ノリを受け入れられれば楽しめないこともない。
    • ただし投げっぱなしな部分も多く、特に最後に明かされる真相は唐突さが否めない。
    • 総括すると、良く言えば味があり、悪く言えばとっちらかったストーリーとなっている。
  • 人間臭い登場人物
    • このゲームのパーティメンバーは、カッコいいヒーローでも悪に立ち向かう勇者でもない。ビジュアルとしては全く冴えない、20代のパッとしない青年達である。王道を思い切り外れているが、これもまた本作の"怪作"ぶりを象徴している。
    • 彼らは何かしら醜い一面や未熟な一面を備えており、その様がテキストで事細かに描写される。うじうじ悩んで周りを巻き込む者もいれば、趣味を開けっぴろげにするオタクもいるなど、RPGのキャラとしては完全にイロモノ揃いである。これが人を選びやすく、感情移入できないプレイヤーも愛着を感じるプレイヤーもいる。
    • その最たる例が主人公のアレックス。彼はいい年をして親のすねをかじり、見た目もメガネに無精ひげのおっさんという、どうにも好感を抱きづらい人物。そのうえ、時には無自覚に差別的な言動をとり、妹を亡くした男に自分勝手な怒りをぶつけるなど、無神経な一面がある。このため、主人公でありながら嫌悪感を示すプレイヤーは少なくなく、本作の評価を下げる一因ともなっている。
      • 一方で、その内面描写は繊細に描かれ、理解を示すプレイヤーも少なくはない。彼自身ゲームの進行とともに成長を見せていく。
  • こうした賛否両論の側面を強めているのが、日本の小説家・村上春樹をリスペクトした独特な文体。
    • ときおり語られる登場人物の内面は、良く言えば綿密で、悪く言えば長くてまだるっこしい。非常に好みの分かれる作風となっており、これが受け入れられるかどうかで本作の見方は変わってくることだろう。
    • また、リスペクト以前に、村上春樹の小説を盗用した疑惑も上がっている。*3
    • そして、村上氏の作品の特徴として、現実世界と非現実世界を交互に行き来する独自の世界観が挙げられる。その為、前述のような精神世界の面においては、文体だけでなく、作風や雰囲気についても影響を受けていることが分かるだろう。
  • 人を選ぶリスペクト要素
    • 本作には様々なリスペクト要素が含まれているのだが、特定のゲームに対する批判や雑すぎる物まで存在しており、非常に人を選ぶ物になっている。
      • 特に話題になったのは劇中に元任天堂社長・岩田聡氏の墓を建てたこと、『人の死をネタにしているのか』と海外ではバッシングを受けた。
      • 他にも、ファイナルファンタジーVII』のエアリスと思しき人物が何の前触れも無く雑に登場する*4スタッフ曰く主人公の悔恨の象徴らしいが、あまりにも安直かつ唐突で、初見だと困惑必至。
    • もっとも、普通に楽しめるリスペクト要素もあるため、一概に悪いとは言い切れない。
    • 前述した村上春樹の小説からの盗用疑惑や、その他のリスペクト要素が恐らく無許可だったことへの対応で、アップデート後に引用などを行った作品の一覧がゲーム内で見られるようになった。
      • ただし、引用したと思われる作品でも掲載されていないものもある。
  • なお、上記賛否両論点に関しては大型アップデート『I.V』でも殆ど変わっていない。
    • 追加シナリオやイベントシーンの改修・改変などはあるが、概ね旧バージョンの作風を引き継いでいるため、ストーリー・キャラクター・作風が不快に感じた人がやり直そうと思っている場合は要注意。

評価点

  • 戦闘や育成はともかく、ダンジョンの謎解きは悪くない出来。この辺はゲームとしてまともに遊べる。
    • 各地には、『マリオストーリー』のような多彩なアクションを駆使する謎解きが数多く用意されている。これらの完成度は決して低くなく、やりごたえは十分。
    • 新しいアクションを使って今まで行けなかった所に進む、RPGの基本的な楽しさも備わっている。
    • アクションを駆使すれば、煩わしいエンカウントを回避することも可能。
  • BGMの質が高い。
    • 戦闘などの雰囲気を盛り上げるBGMの出来は素晴らしい。
    • 本作のサウンド陣はなんとUNDERTALE』のToby Fox氏や『聖剣伝説シリーズ』で知られる菊田裕樹氏といった豪華な顔ぶれが集結しており、本作を低く評価したプレイヤーからも数少ない評価点として挙げられる事が多い。
  • 良質な日本語訳
    • 違和感のある文章は一切無く、もどかしい文章も丁寧に訳している。
    • 賛否両論点で触れたように、本作のテキストは作品のムードを確立するのに大きな役目を果たしている。
    • ちなみに、翻訳を担当した架け橋ゲームズはSwitch用ソフトだけで100本以上のローカライズ実績がある。
  • 『I.V』で変更された新バトルシステム
    • 旧バージョンで問題視されたテンポの悪さは完全に改善されている。
      • 『マリオRPG』シリーズなどのような戦闘中にアクションを行う面白味は無くなってしまったが、それ以上にテンポの悪さと一々挟まるミニゲームとQTEが無くなったメリットが遥かに上回っているため、概ね好意的に受け入れられている。
    • とりわけカルタを使用するか否かの駆け引きが面白く、カルタの効果には強力なものがある一方、自身のライフを守る役割も兼ねているため、使用するタイミングを考えるのが楽しい。

総評

MOTHER風ゲームとして作られたはいいものの、ふたを開ければシステム面はお世辞にも出来が良いとは言えず、大きな顰蹙を買ってしまった一作。
世界観・ストーリー・キャラクターも万人受けする内容とは言えず、プレイヤーによっては褒められる要素が全くない。
海外では本作を巡り色々と賛否を呼び、日本では大論争の末にKOTY次点になるなど、散々なムーヴメントを起こしてしまった。

一方で、必ずしも本作を全否定するプレイヤーばかりではなく、一部では熱狂的なファンも少なからず存在する。
壮大で哲学的な世界観設定や、単調になりがちなターン制バトルの合間にミニゲームを挟むなどといった発想は良かったのだが、その活かし方が悪かったためにこのような出来になってしまった。しかし各要素の使い方を工夫すれば『UNDERTALE』に匹敵する神ゲーとなるポテンシャルを持ったゲームであったとも言える。 クセの強い作品世界を受け入れられれば哲学SFとして楽しむ事も可能である。
出来の悪さをひっくるめて今作の味とみなすこともでき、ある意味でカルトな一作と言えるだろう。

大型アップデート『I.V』によって、旧バージョンからの不評点であった戦闘システムのテンポの悪さや面倒な育成システムはかなり改善されたため、少なくともシステム面においては「クソゲー」と呼ばれるレベルからは脱したと言えよう。
一方、シナリオやキャラクター面に関しては良くも悪くも旧バージョンの作風を引き継いでいるため、万人が良作と認める作品に生まれ変わったかと問われると、微妙なところ。
いい意味でも悪い意味でも印象に残る作品なので、変わったゲームや奇妙なゲームを手に取ってみたい物好きなプレイヤーであれば、本作を遊んでみるのはアリかもしれない。


余談

  • KOTY次点となった本作は、扱いを巡ってかなり議論が揉めた。
    • この記事でも述べているように、本作は主人公やテキストに対し、蛇蝎のごとく嫌うプレイヤーも、受け入れて味わうプレイヤーも存在する。
    • その年一番のクソゲーを決めるKOTYにおいては満場一致の意見がまとまらず、そもそも次点に入れるかどうかすらまともに定まらない状況が続いた。
      • 同時に、選評提出者と反選評提出者の様々な落ち度、別件の内ゲバに本作が巻き込まれたことなど、作品評価以外の問題も議論を長引かせる要因となった。
    • 結局、KOTY2019の議論終結は翌年の半ばにまでもつれ込む事態に。本作を巡るトラブルは、翌年のスレにも禍根を残している。
  • 概要欄で述べたように、本作は発売前から販売会社の別作品とコラボしていた。そのうち、『VA-11 Hall-A』において本作は全世界で350万本売れた大ヒット作品として扱われていた。
  • 劇中、『プリキュア』シリーズをモデルにしたと思しきデザインの日本のアニメが登場するが、『プリキュア』の1作目は2004年放送開始であり、実際の1999年にはまだ放送していない。デザインも、作風が確立された2007年以降のものである。
    • ヒューマンドラマを描いている、80年代から2桁にも及ぶシーズンが続いている、など劇中の発言から、実際の99年に放送されていた『おジャ魔女どれみシリーズ』や、同じニチアサ系列番組の『パワーレンジャーシリーズ』(『スーパー戦隊シリーズ』の海外版)とイメージがごちゃまぜになっていると思われる。
    • この他にも、『Dance Dance Revolution』シリーズをモデルにしたと思しきゲームのロゴが10年代の作品の物になっていたりする。
    • ただし本作終盤の真相を考えると、必ずしも作中での整合性が取れていないわけではない。
  • 本作発売直後、第3のエンディングが存在すると噂になった。
    • 製作者が思わせぶりな発言をしたことから様々な憶測を呼んだが、都市伝説の可能性が高いとされている。
      • 大型アップデート『YIIK I.V』で、実際に今までになかった隠しエンディングが追加されているが、アップデート前に第3のエンディングと関連すると言われていたイベントとは無関係の新規イベントとなっていた。
最終更新:2025年03月04日 18:02

*1 実際は少しだけHPが残り、倒せないまま戦闘が続く。

*2 一応、ある裏技を使えば扉に入る時間だけ短縮可能。

*3 引用元の作品は、「アフターダーク」。また、開発者曰く、意図的な参照であり盗用ではないとのこと

*4 おそらくスクエニには無許可