紅い、眼鏡





新入生たちを乗せて宇津帆島へ向かう飛行船。
その中で新入生露子・グーテラオネはふと隣の席に座る少女に目を引かれる。
赤い縁の眼鏡をかけたその少女は、近寄りがたい雰囲気を放ちながら窓の外を見つめていた。
その足元には使い込まれた様子のトランク。

露子がその少女百目紅美と会話を交わすうちに、飛行船は着陸態勢に入る。

飛行船が係留されたとたん、乱暴な靴音とともに数人の男子生徒が客室に姿を現した。
先頭に立つ男は「公安委員会非常連絡局長、寒戸文明」と名乗り、「ひとりの女子生徒を探している」と宣言する。
彼がかざすスマホに表示された顔写真は、明らかに紅美のものだった。

立ち上がった紅美がトランクを手にすると、客室に破裂音のようなものが響く。
露子が顔を上げると、飛行船の客室壁面に、大きな穴が空いていた。

公安委員会の集団が止める間も無く、紅美は壁に空いた大きな穴から身を躍らせ、闇の中へと消えて行った。



飛行船に取り残された生徒たちが開放されてから、数日後。

椿敦也が寮の自室で研究に勤しんでいると、室内だというのに突然強風が吹き荒れた。

風がやんだとき、めちゃくちゃに荒れた室内に立っていたのは紅美。
彼女は敦也に「一晩匿ってほしい」と頼むと、そのまま意識を失った。

突然のことに呆然とする敦也の耳に、何処からともなく、妙な声が聞こえてくる。

『力……我を……』

声は紅美が手にしていたトランクから聞こえてくる。

そう理解し、軽くパニックに陥った敦也は、紅美を揺り起こそうとするが、衰弱した様子の紅美は目を覚まさない。

敦也のその声を聞きつけたのが、隣室の相馬左門だった。
巡回班士である左門は敦也を問いただそうとするが、敦也申し訳無さそうにが差し出した1000円札を見てニヤリと嗤い、「あまり騒ぐなよ」と言い残して自室へと踵を返す。




翌朝。
左門は「これもアフターサービス」と、敦也と、彼に連れ込まれたと思しき女子生徒に朝食を差し入れるべく、お料理研の屋台に向かった。
その屋台で腕を振るっていた露子に出前を頼み、彼女と二人で敦也の部屋に到着したちょうどその時、衝撃とともに、敦也の部屋の窓ガラスが割れた。

窓に立てかけられた梯子の上には、文明の姿。

敦也、左門達一行は、応石の力も使って、文明他、非常連絡局員をどうにか退けることに成功する。
しかし、トランク強奪の阻止は叶わなかった。

トランクの即時奪回を主張する紅美。
その中には蓬莱学園をひっくり返す事ができる程のものが入っており、自分はそれを破壊、もしくは無力化するために入学したのだと。

トランク奪還のため、一行は二手に分かれることにする。
紅美は委員会センターの前で陽動、露子・左門・敦也の3人はその隙にセンター地下の非常連絡局へと向かう。

紅美が応石の力で三つ首の巨大な狛犬と強烈な旋風を召喚し、委員会センター正面玄関は、阿鼻叫喚の渦に巻き込まれる。
騒ぎが起こっている間に、三人は、お料理研の出前を装って連絡局内への潜入に成功する。

左門の剣技と、敦也の狂科製装備でトランクの奪還を果たしたものの、その際、敦也はその中身を見てしまう。

トランクの中には、ミイラ化した左手と、その人差し指にはめられた黄金の指輪が収められていた。
敦也はその指輪から目が離せなくなってしまう。

再びトランクを手にした紅美は、再会を告げ、彼らのもとを去る。
その姿を見送る三人。

しかし敦也の目には、紅美の後ろ姿ではなく、指輪の姿ばかりが映っていた。

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最終更新:2022年10月19日 00:13