Vajza ka dhënë shpresë By旭ゆうひ
九重が死んだ……
私が殺してしまった……
いや、私が殺したのだ。
あんなに憎かった九重を……
ここまでやつるつもりじゃなかった……
こんなことになるなんて思ってもなかった、でも……
いい気味だと思った。
私を愛してくれないお姉さまなんていらない。
ずっと、そう 思っていた。
九重の葬式の日
遺影には着物姿のお姉さまの姿があった。
友人の結婚式の際の写真だという。
チョッとした悪戯のつもりが、不運が重なり乗っていた飛行船が爆発。
洋上で消息不明。
2週間後、現場から1200km離れた洋上で、変わり果てた姿で発見された。
あの美しかったお姉さまが……
お姉様は、最後の瞬間までメモを残していた。
【最初に見つけてくれるのは葉車だと信じて】と始まるメモを。
途中だった論文を書き上げ、新たな発明の手掛かりになる技術を記していた。
葉車の未来を信じ、家族への手紙、使用人たちへの感謝の言葉、友人たちに対する謝罪。
そして……
【妹へ、まだ直接会ったことはないけれど、愛しい十美恵へ】
そう書き出された、私個人宛の手紙。
そこには、会えないことへの謝罪、会いたいという思い、どうか幸せになってほしいという切実な願いが、震える文字でつづられていた。
どれほどの涙が流れたかわからない。
号泣とはああいうのを言うのだろう。
お姉さまの事を知りたいと
知らなければならないと
お姉さまの残したものを出来る限りあつめた。
私があれだけ嫌っていたのはなんだったのか、
私が抱いていたイメージは……
子供のころの勘違いが勘違いのまま、イメージだけが逞しくなって
身勝手に一方的に憎悪を募らせていただけだった。
私は何という過ちを犯してしまったのか……
私は私を呪わずにはいられなかった。
これが運命なら、こんなものを用意した神とやらを
殺してやりたいと……
今日もわたしはお姉さまの日記を読む
お姉さまを、私のこころへ取り戻すために。
このころ私はひどく憔悴していた。
寝る間も惜しんでお姉さまの残したものを追い続けた。
罪から眼をそむけたかったのもある……
ある日、気が付けば見たこともない神社の境内に立っていた。
うろ覚えだが、みかねた友人が気分転換にと連れ出してくれたのだろう……
それが誰だったのかまでは思い出せないけれど……
私からお姉さまを奪った、奪わせた神とやらについて
激しい怒りがわいたのを覚えている。
其れなのに私の中を風が吹き抜け、こころが少し軽くなったように感じた。
それもまた腹立たしかった……
今日もお姉さまの後を追う。
お姉さまの日記。
そこには友人たちとの雑談も詳細に記されていた。
『今日は北大路さんとお会いした。
北大路さんとは数年来の知り合いで、勝手ながら友人だと感じている。
……中略……
さすが狂化研のエースですね、発想が人類の粋を超えています。
宇宙人じゃないかという噂もあるけど、あんないい人なら宇宙人でも構わないのじゃないかしら。
……中略……
お互いの近況報告や、共通の友人である宮里さんの結婚式の事、
その場でダンスを披露しようなど、はなしは多岐にわたり
特にタイムマシンが実現可能な物であることなど、とても楽しく……』
なにかが引っかかる。
見落としてはいけない何かを見落としてる気がする。
お姉さまがダンス?
タイムマシン?
タイムマシン??
タイムマシン!
北大路さん、そしてタイムマシン!
ありえない、ありえないと思いつつも私は
日記の中の北大路さんを探す。
北大路鉄華 学園生徒。
震える手で情報端末を手に取る。
学園の
生徒名簿へアクセス、この程度のプロテクトなど
紙も同然だ……あった……
現在授業への出席はなし、島外へ出た記録も無し。
つまり学園のどこかには居るはず……
もし、運命の神がいるのなら
いつか、必ず殴りにいってやる。
でも、今はまだ勘弁しておいてあげる。
名前も知らない女神を殴りに行くよりも
「北大路鉄華」という女神に会いに行くのが先決だわ!
こうして私はタイムマシンを―――。
・
・
・
「はじめまして、かな」
彼女は柔らかく微笑む
あの日、遺影で見たお姉さまよりも若い
「私は九重、十美恵のおねぇちゃんですよ」
春の日差しに照らされて、飛行船を降りた私を
お姉様はやさしく抱きしめた。
言いことはいっぱいあったのに
私からは涙と嗚咽しか出てこない。
私の中に残る20年前の記録、それももうすぐ溶けて消えるだろう。
お姉さまは私につられてか、その瞳を潤ませていた。
「お姉様!」
この日のために化粧もばっちりだったのに、涙で台無しだ。
「お会いじだがっだでず!! お姉様!」
運命の神を殴りに行くのはまだ先になりそうだ。
了
最終更新:2022年10月19日 18:11