ばっくとぅざ☆ふゅーちゃー
夏も近づく狂的科学部。
今まさにひとつの発明品が完成しようとしていた。
外見は5m×5m×5mの中空になった立方体。一見したところではその正体はわからない。
開発者の古参部員・馬庭讀によると、人間が想像したものを立体プリントする「時空3Dプリンター」とのこと。
敦也も含む狂科部員たち総出での組み立てが完了し、あとは起動するだけ、というその頃。
いつものように屯所で暇をつぶしていた左門は、これまたいつものように田中さまに呼び出されていた。
狂科で何かヤバいものが作られているので見てこいとのお達し。
狂科に事故は付き物なのに、と不満に思いつつ、それでも上司には逆らえない。
やれやれと腰を上げて理科系クラブ会館に向かう左門だった。
さらに同時刻。
お料理研の露子と占い研のリンも、理科系クラブ会館でそれぞれの部活に精出していた。
そして、その瞬間が来た。
「さあ、起動するぞっ! これが成功したら、学園は大きく変わる!」
馬庭がスイッチを押すと、一瞬の間があり、
時空3Dプリンターが大爆発した。
爆風で吹き飛ばされた4人は、ややあって意識を取り戻した。
周囲を見たところ、理科系クラブ会館には焦げひとつ見当たらない。
「だからいやだったんだー」とぼやく左門。
と、敦也を見るその目が座った。
「狂科部員だな。今の爆発について話を聞こうか。屯所へ来い」
八つ当たりする気満々の左門と、爆発で怒り心頭のリン。
「事情聴取なら当事者がいたほうがいいでしょ?」
爆発など日常茶飯事の狂科部員である敦也はさらりと左門の矛先をそらし、全員で狂科部室へ向かった。
少し時間は巻き戻り、組み立て完了直前のTV委員会。
「狂科が危険なものを開発している」というタレコミがあった。
狂科の危険な開発などは日常のことという認識はTV委員会側にもあったが、このタレコミには開発しているものが【時空3Dプリンターである】という内容がきっちりと記されていた。
取材者として白羽の矢が立ったのはエステル。
いつもの妄言ではあろうが、それで迷惑する人がいるのもよくないということで、エステルは理科系クラブ会館に向かい、そして爆発に巻き込まれたのだった。
そこでエステルが見たものは、理科系クラブ会館にぞろぞろと入っていく見覚えのある3人プラスひとり。
彼らなら何か事情を知っているかもしれないと、エステルは後を追った。
そして狂的科学部の部室。
敦也がドアを開けると、部員たちがいっせいに振り向いた。
そこには敦也の知っている顔がひとりもいない。
「なんだね、君は? ここは部外者立ち入り禁止だぞ?」
「え、ボク部員ですが……」
「君のような部員は見たことないぞ。学生証を見せたまえ」
言われて敦也はスマホを起動しようとするが、その画面は暗いまま。
敦也が混乱していると、露子が口を開いた。
「先輩の学生証は、どんなのですか?」
「おう、これだ」
そう言って狂科部員が取り出したのはプラスチックのカード。入学年度には「97」と記されている。
「あ、あの、今日は何年何月……?」
「ヘンなこと聞くな? 2000年7月だ」
驚く一同に、狂科部員の目がきらりと光った。
「もしかして君たちは、時間旅行者か!」
その場にいた部員たちがわーっと一同を取り囲み、質問攻めが始まる。
そのやかましさに、敦也がキレた。
「すとーっっっぷ! ちょっと黙らんかい、ワレ!」
関西弁で喚き散らす敦也に狂科部員たちも我に返り、まずは椅子を出して事情説明ということになった。
そこへドアを開けてひょっこりとエステルが顔を出す。
こうして時間旅行者は4人となった。
ざっくりと事情を話す敦也。しかし「帰る手段があるのか?」という狂科部員の質問に、一同は肩を落とさざるを得ない。
と、そこへ一条の光明が。
「現代物理学研やエーテル研と合同でタイムマシンを作っているんだ」
タイムマシンに乗り込む一同。
目標を2020年7月にセットして出発。
みゅおーん、と妙な駆動音を発して、タイムマシンは起動した。
ややあってタイムマシンは2020年7月に到着した。
しかしどうも様子がおかしい。
確かに狂科部室には違いないのだが、ボディアーマーに銃器という物々しい姿の生徒たちがタイムマシンを取り囲んでいる。
彼らの腕には、「生活指導委員会」の腕章。
「武装SSだっ!?」
「どうもこの世界線ではSSが勝利したようだよ」
タイムマシンのメーターを見る限りでは2020年7月に違いないのだが、どうやらパラレルワールドに出てしまった、もしくはどこかで歴史改変が行われてしまったらしい。
そのうちに武装SSはタイムマシンに攻撃を仕掛けようとしてきた。
こうなってはやむを得ない。例によって椿の閃光花火による目つぶし、次いでエステルの3点バースト、ひるんだところへ左門が飛び出す。
と、もう「例によって」とすら言える連携に、武装SSはあっさりと沈黙した。
当面の危機はなくなったので、露子・リン・エステルは食料の買い出しと情報収集のため外へ、左門と敦也はタイムマシンの護衛と情報収集のためそのまま狂科部室と手分けをすることになった。
外に出た女性3人。
周囲は自分たちが知る学園とだいぶ変わってしまっている。
風景そのものはそれほど変わりがないが、あちらこちらの建物に大きな野外ビジョンが設置され、そこからは南豪君武の演説が流れ続けている。
3人はお料理研の駐車場までやってきたが、そこに露子の装甲屋台はなかった。
どうやらこの世界に露子はいない、もしくはお料理研に入っていないらしい。
SS統治下の学園では食料は配給制となっており、お料理研も自由に材料の調達を行えていないらしく、スマホから見るお料理研の掲示板にはあまり明るい内容は見られなかった。
闇市を探して宇津帆新町のほうに向かうと、古書店から3人を手招きする姿があった。その古書店の看板は「蓬莱堂」。
店内にいた知里摩耶は、3人に事情を説明する。
時空3Dプリンターの爆発によってタイムスリップした5人。
しかし実はその際に、プリンターがパーツの状態でいっしょに2000年の世界にタイムスリップしてしまった。
それを発見したSS残党がプリンターを完成させ、南豪をプリントアウトしてしまったのだという。
その後SSは現金でも武装でも好き放題にプリントアウトし、勢力を伸ばし続けたというわけである。
3人はリンが召喚した戦車に乗り込み、周囲のSSを蹴散らしてついでに委員会センターそばに置かれていた時空3Dプリンターも吹き飛ばしてタイムマシンのところに戻ってきた。
5人はタイムマシンを起動し、再び2000年の狂科部室に戻る。
と、タイムマシンの傍らにそびえていたのは5m×5m×5mの何か。
「おー、帰ってきたかぁ!」
「実験は成功だ!」
と色めき立つ狂科部員たちをスルーしてタイムマシンから飛び降りた敦也は、「これ! どうしたんですか!」とプリンターをごんごんと叩く。
「馬庭が、会館の裏手に転がっていたパーツを組み合わせて作った、何かわからんものだ」
プリンターが存在していては歴史が分岐してしまう。
敦也は狂科部員たちを説得して、プリンターを破壊する許可を得る。
リンが振り回す工具で、プリンターは一山のスクラップと化した。
かくして歴史の修正に成功した一行は、自分たちが出発してきた日の「前日」に戻る。
そして巡回班やTV委員会へのタレコミを自身の手で行い、眠りについた。
そして翌日。
「さあ、起動するぞっ!」
どかーん。
プリンターの開発者である馬庭は左門にしょっ引かれ、理科系クラブ会館は何事もなかったかのように普段の喧騒を取り戻したのだった。
最終更新:2022年10月19日 00:15