月光洞からの使者





星祭での一件の後、各クラブ・委員会・非公認団体との間に締結された「スターゲイト(SG)協定」、その発効から2週間がたったある日のこと。
月光洞への正式な探検隊が組織され、出発することとなった。
この第一次探検隊は、月光洞関係有力クラブ「始原の友」を中心とした生徒により構成され、学園時間で1週間ほど、現地時間では60週間の探検・現地民との交流を行うことを目的として組織された。

その出発の模様を一行は学食横丁で出店している露子の装甲屋台に置かれたポータブルTVで見ていた。

学食横丁はいつものような賑やかさが流れており、生徒たちは忙しく往来を行きかう。
日は既に落ち、夜の帳が降りようとしていた。そんな中、通りの中央に明らかに学園生徒ではない服装をした人物が立っていることにエステルは気がついた。
その人物は、フード付きの粗末な布の服を着、2mほどの大きな杖を持っており、学園の中を所在投げに彷徨っていた。

道行く生徒たちは関わり合いになりたくないといった表情でその人物を遠巻きにし、通り過ぎてゆく。

誰何するエステル。その人物がこちらを振り向く。
かの御仁の首には、一枚の板が掲げられていた。

そこに、唐突に男子生徒がその人物にぶつかり、持っていた鞄をひったくって逃亡した。

男子生徒を追いかける忍、エステル、譲。
忍が男子生徒を取り押さえ、エステルが彼から鞄を奪い返す。

エステルはその鞄を、持ち主に返し、語りかけた。

鞄を奪われたその人物は、フードを下ろし、顔を出す。


一行が水勝田薬人ゼミにアゼルを連れて行くと、そこには露子・左門の知った顔がそこにあった。
百目紅美である。
露子は、他のメンバーに、紅美を紹介した。

水勝田教諭は、しばらくアゼルと会話をし、内容を一向に告げる。

「彼女はアゼル。月光洞に住まう耳長人の一人だ。大きな争いが月光洞窟であり、一族の名と宝を残すべく、宇津帆島へと逃げ延びてきた、と言っている。長から私を頼るように言われてきたそうだ。一緒に彼女の姉に当たる人物も来ているはずなのだが、見なかったかね?」

外ハリン語など一部の言葉は理解しても、耳長人の言葉はわからなかったと答える露子。

彼らの言葉を聞くとなしにいいていたアゼルが、机の上にある透明の箱に目をやり、驚愕する。
水勝田教諭の机の上には、「人間の左手のミイラが入った」透明の箱が置かれていた。ミイラの人差し指には金色の指輪が嵌められている。

指輪を見たアゼルは、早口で何かを話し始める。その猛烈な速度は、水勝田教諭教諭の同時翻訳も間に合わない程であった。

しばし後、アゼルが話し終え、教諭はゆっくりと話し始める。

「彼女は、その手にはめられている指輪が【支配の指輪】であると言っている。月光洞時代にして4000年前に作られたモノだと」

「その昔、大南帝国が栄えし頃、時の皇帝は9つの指輪を作らせた」

「その9つの指輪は当時の9人の王に下げ与えられ、王たちは指輪の力で、各々の領地に住む臣民立ちを支配した」

「そして皇帝は、その9つの指輪を統べる指輪【支配の指輪】を作らせたのだ」

教諭は話を続ける。指輪はある日盗賊に奪われ、月光洞の影響の及ばない宇津帆島へと持ち込まれた。しかし、指輪は盗賊の手を離れ、宇津帆島での統治の為に利用されることとなった、と。
鮫島、坂橋、南郷といった者たちが、この指輪の魔力を使い、宇津帆島を支配した。ただその支配は一時のもので、彼らは指輪の力を御せず、滅び去ったのだと。

教授は言う。その指輪の力を制御さえできれば、この世界の王にもなれると。

紅美が話を続ける。

「私がこの学園に来たのも、この手と指輪を封印する--もしくは破壊するため」

話を続けている間、忍とエステルは指輪に魅入られ、その指輪を欲しいと強く願うようになる。
その姿を見た一行は、紅美の言う通り、これは危険な指輪であるという認識を強くした。

教諭の研究室に置かれたTVから流れるニュースが、一行の会話を遮る。

「タッチダウンニュースです。只今学園に謎の飛行生物が現れました! 皆さん注意を! 繰り返します……」

TVには2mほどの巨大な姿をした鯨--その体の表面を鎧のような固まりが覆っている--が映し出される。

譲に促され、ようやく正気に戻る忍。

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最終更新:2022年10月19日 00:16