Freyja's Note II By旭ゆうひ





今日は土曜日
エスティと私 ともに非番なのです
銃士隊は有志で作られた学園の治安組織の一つ
24時間体制で365日稼働している
正月も春休みも夏休みもない
けれど全員が出動してるわけじゃない。
私たちのように、休みの日はあるのです。

さて、今日は待ちに待ったエスティとのデートの日です。
シフトとの調整をするのに大変な苦労をしました、それはもう大変でした
そして、今日ようやくそのデートなのです!

エスティというのは
エステル・宮里=アーレンベルク
学園銃士隊所属でTVキャスターで
私のフィアンセです……恥ずかしいですね
フィアンセ……ふふふ……フィアンセ うふふふ

おっと 失礼しました

今日は私たちデートです! デート! 逢引とも言いますよね!
今日は9時に新町の映画館前で待ち合わせです
本土から1800kmも離れているのに本土よりも早くに公開されるなんて
さすが有名シリーズ!なんでも、葉車さんのご兄妹達が好きで……
いえ 無粋なことは言わないでおきましょう

そろそろエスティ……フィアンセ…ふふふ が来るころですね

見えてきました。
白いワンピースに薄水色のジャケット 腰にはいつものレイピアを下げている
栗色の髪を揺らして手を振ってくれるその姿は、控えめに言って天使

「やぁフレイヤ メイド服じゃないフレイヤもステキだね!」

今日の為に用意したのは現代創作和装というジャンルの洋服と和服を組み合わせたような服装。
じつはこれ、葉車家の九重様から頂いた物なのです。
先日デートに着てくる服がないと悩んでいたところ、
葉車家のメイドの大東名さんから九重様へ話がいったらしく
昨日これをプレゼントに頂きまして……
頂く理由がないと一度はお断りしたのですが
「では今度、わが家で戦闘訓練の教導をしていただくということで」と1週間の戦闘訓練を請け負うことで受け取らせていただけました。
九重様は、全くの善意からプレゼントしてくださったのですが私の気が収まらなくて……正直1週間では足りないくらいですのに。

「フレイヤ きょうは何を見るんだっけ?」
「はい 「原子力怪獣vs暗黒面に落ちた親父」ですよ」
「へぇ!面白そうだね!」
「ではチケット買ってきますね!」

「高校生3枚ください」
「1枚1800円、3枚で5400円、本日はレディースデーです。女性お二人でよろしいですか?」

私はうなずく

「3枚で3800円です」

チケットをもらってエスティのもとへもどりチケットを渡す

「では! いざ!」
「フレイヤ テンション高いね! ボクもうれしいよ!」

映画館に入りエントランスで定番のポップコーンを3つとカタログを買う
さすがに3つは持ちにくいですね。

席に着きエスティの手を握って上映を待つ。

頭がカメラになった人がおまわりさんに連れていかれる映像が流れてようやく本編がスタートする。

これから2時間強、ずっと手を繋いでいられると思うと嬉しくてしょうがない

「……映画……どうでした?」
「……」
「……」
「……」

沈黙がその答えだった。

「面白いって聞いてたんです……」
「まぁ……好きな人は好きなんだろうね!」

えすてぃ そのフォローはフォローになってないですよ……

遅めの昼食をとるために『Fairy Square』というカフェに入りました
木製家具や植物も多く落ち着いた可愛らしい明るい雰囲気の
いかにも女の子が集まる感じのカフェ

「何にしますか?」
「うーん……じゃぁこのシロノワールとコーヒーを」
「分かりました。では其れで行きましょう」

ちりん

店員さんを呼ぶ鈴を鳴らす。
すぐに元気のいい返事がして おねぇさんがやってきました。
ウエストを絞って胸部を強調するデザインのその制服は一部マニアに好評だとか……

「シロノワールとコーヒーを3つ、あとエッグバーガーを1つ」
「かしこまりました―♪ シロノワール3つとエッグバーガー1つですね~♪」

歌うように去っていく

「ここ、いいお店だね、店員さんがかわいいしお店もかわいい」
「……そうですね、お店かわいいし、”店員さんもかわいい”ですね」
「あーフレイヤ?」
「なんですか エステル・宮里=アレンベルク」
「フレイヤはボクにとって誰よりも大切な女性だよ、嫉妬する君もかわいいけれど、やっぱり笑顔のフレイヤが好きだな!」
「……嫉妬なんて……してませんよ!」

だめ、どうしてもにやけてしまうわ

「フレイヤ、クリームが…」

そういってエスティは私の唇についたクリームをその指で取って自分の口へ運ぶ

私が残念そうにしていると「お家に帰ってからね」と囁いた。
まるで私が考えていることをお見通しのように

ちりん

再び店員さんを呼び『ドミグラスバーガー』と注文する

「ふふっよく食べるねぇ……そんなところも、ボクは好きだよ」
「……」

食べ終わり、ゆっくりとコーヒーを頂いてからお店を後にする

この後の予定は特に決めていないけど
なんとなく夕日を見に行こうということになりました

私たちが来たのは海の見える公園
見渡せば他にも数多くのカップルがいるデートスポットとしては定番の公園です
水平線に沈む夕日が見ものだとか

「ねぇフレイヤ」
「はい、なんでしょう」

彼女の手を握る幸せに浸っていた私に
エスティが真面目な口調で話しかけてくる

「フレイヤのご家族ってイギリスにいるんだよね?」
「養父はいまレバノンですね、祖父母はセントヘレナにいると聞いたことがあります」
「レバノンは中東の辺だよね?セントヘレナってのもその近くなのかい?」
「んー……アフリカから西へいった島ですね」
「……」
「どうかしましたか?」
「いや……その、挨拶を と思って」
「……エスティ! ああ! えすてぃ!」
「ちょっ!みてるっみられてるから!」

「落ち着いた?」
「すいません、嬉しくて つい」
「ははは 責任を持つっていったろ?」

 愛しいエスティ 
夕日に照らされて赤く染まる彼女の顔は
初めて会った時よりも美しい
あの頃の私はまるで氷のようだった
テロで両親を失い、復讐のために対テロ戦争へ身を投じるも捕虜となり
そこで虐待を受けた
私の身体にはあの頃の傷跡が残る
心を閉ざした私を
その優しさで溶かしてくれた人
好きになってしまうのはしょうがないですよ

「………」

見つめあい、どちらともなく求めあう
夕日の中、ふたりは唇を……『ちょっとまてぇええ!』爆発音!
見渡せば公園のいたるところで
火消姿の不審者がカップルを襲っている

「な!?」
「なにごと!?」

『我々は恋愛消防団!リア充は爆破あるのみ!』

「ははは……ふ……ふっざけやがって……」
「フ…フレイヤ?」
「エスティ ここは任せてもらいますよ」
「ボクもたたかうよ!」
「だめです、お召し物がそれでは汚れたら大変です」

そういって左右の袖口から愛銃を取り出し構えると

「左門! いきますよ!」

相棒の抜き放った白刃は夕日に照らされ
まるで血に染まったかのようだ

「おう!」

エスティが王なら
私たちは円卓の騎士でいよう

エスティが太陽なら
私たちは彩る星でいい

エスティが天使なら
私たちは彼女の両翼でいよう

これが私たちの
私の覚悟です

私は相棒とともに不埒者を成敗するため飛ぶ様に駆けだした。

「フレイヤ! 左門! んぅもうっ!」

後ろから愛しい人の怒った声が聞こえる

夕日に銃声と剣戟の音が響く

すぐに学園銃士隊と巡回班、そして公安委員会が駆けつけるでしょう
待ちに待ったデートはこうして幕を閉じることになりました

一緒に住んでるとしても、こういうデートは大切なんですよ?
次のデートはいつできるかな?

いまから楽しみでしょうがないですね!

追記:
お家に帰ってから、沢山かわいがっていただきました。

追記2:
九重様から頂いた現代創作和装ですが
後日クリーニングに出したところ高級品だということがわかり想定していた費用が桁違いでした

追記3:
左門はずっと一緒に居ましたよ
バーガー食べてたの左門ですからね?
あいつは無口なのと、私が楽しみにしていたデートに
エスティが引っ張ってきたってのもあっておとなしくしていたのでしょう
控えめなのはいいですが其れなら最初から……やめておきましょう
エスティが悲しみますからね

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最終更新:2022年10月19日 18:12