陰戦





中華人民共和国大使館
情報分析戦略課 第三分室
対日本情報戦の為の課の
優先順位「丙」を扱う
その一室で男がタバコを燻らせながら何通目かの報告書メールを読んでいる

(日本政府がその存在を隠匿している島
独立国家と言っても過言ではないこの島は我が中華帝国の日本攻略において必ず障害となる)
男は2本目のタバコに火をつける
(美味い、やはり日本製は良い)
男は黙々と暗号解読された報告書メールを読み進める

【政治干预初步研究报告3】(政治介入に関する初期調査報告書)

『蓬莱学園生徒会長といえば1国の大統領にも似た権限を持つことになる

蓬莱学園には陸海空と軍事力を保持し
司法立法行政にあたる機関が存在しする

学園の経済規模は6000億円を超え、これは小規模な国の国家予算に相当する
軍事力だけでいえば世界有数と言えるだろう
日本の南、硫黄島のさらに南にある絶海の孤島

アメリカ領サイパンにも近くアメリカによる太平洋戦略において
決して無視できない存在だ
その蓬莱学園の大統領ともいうべき生徒会長を決める選挙が近く行われる

そしてその候補者の一人「相馬左門」
彼は数か月前までうだつの上がらない巡回班班士だった。
学生であるにもかかわらず、授業には真面に出席しない。
ただそれだけであれば巡回班という組織活動の為とも取れる。
なにせ、巡回班は警察機構の一翼を担っているのだから
学内における風紀の乱れ、犯罪行為などを取り締まっている
であれば、授業への出席が少ないのもうなずける・・・が、彼の場合は少々異なる

「無気力」で「消極的」「優柔不断」で授業に出ないのも所謂サボりというやつだ。
「アルコール依存」のけまである。
消極的不良生徒とでもいうべき存在である。
間違っても、生徒会選挙へ立候補するような人物ではない。

しかし公示日の掲示板には「候補者:相馬左門」と。

いったい彼に何があったのか?
どういった心境の変化なのか?
はたまた彼を傀儡とした政権を樹立しようとする陰謀か...

幾つかの資料と共に考察していこう

約1年前
「相馬左門」は学園の施設である、恵比寿寮の1室に住んでいた。
ところが最近は
旧島にある名家 宮里家に入り浸っている
調査によると此処の娘である「エステル」という女子高生と
付き合っているとかいないとか・・・付き合っていないのに泊まり込むのかと
疑問に思うことだろうが、此処が「相馬左門」の優柔不断な処だ
周りに流された結果といえる

では、やはり付き合っていないのかといえば
そうでもない
宮里家の娘の「エステル」は「相馬左門」を大切な人と公言している
宮里家当主の「宮里香織」も娘の婿として扱っているという

ここまでの状況がそろっていながら「相馬左門」は態度をはっきりさせていない

宮里家には複数の使用人がいるが
その中でも目立つのが赤毛のメイドである
「相馬左門」を調査すれば必ず出てくるのがエステル・宮里・アーレンベルクとこの人物だ

主筋の婿になる可能性のある「相馬左門」に対して
冷たく対応し時には罵る事すらある
しかし、宮里家に仇なすトラブルが起こった際には共に解決にあたるという
「相馬左門」に対して一定の評価はしているようだ

このメイドの経歴については詳細は不明だが、軍事研に顔が効くらしい

つまり、「相馬左門」には
巡回班、銃士隊、軍事研、宮里家が付いていると考えていいだろう

(巡回班とは、侍の集団であり極めて高い近接戦闘能力を有し
乗馬時には重装弓騎兵となり高い機動力を併せ持つ。
中には機関銃の弾から飛翔するミサイルすらも切り落とす猛者もいる
戦場では決して対峙してはいけない集団である)
(銃士隊とは欧州で16~19世紀初頭においてみられた軽装銃騎兵である
騎兵という機動力を生かし銃による射撃を仕掛ける兵科であるが
その装備は近代化されており、その狙撃能力はギネスすら超えるほどに極めて高い)
(軍事研とは、現代軍隊であり規模でこそ劣るものの世界有数の軍事力といえる
空軍には名称すらわからぬ複葉機からF22やSu30系統まで確認できる
陸軍には日本帝国陸軍の旧式戦車から10式やレオパルト2
海軍には原子力空母と原子力潜水艦まで確認できた。これらが正規品か密輸品、あるいはコピーなのかは不明だが・・・)
(宮里家とは島の名家というだけでなく、欧州の貴族と結びつきがあり
外交面では欧州に強力なパイプを持つ。宮里香織を敵に回すことは欧州を敵に回す可能性が高い、軍事研の装備からしてその裏付けとなるだろう)


巡回班内部での評価は決して高いものではないが、実績は十分ある
評価が低いのは「能あるタカはなんとやら」だろう

これら組織の思惑が
この不良生徒を生徒会長へ推す理由だろう
巡回班・銃士隊にとってはその権限の拡大や予算の増額などが思惑だろうし
軍事権に関して言えば「相馬左門」と直接的なつながりはないが、
前述の赤毛のメイドとはただならぬ中だと言う
ならば、その繋がりからの軍事研が一枚噛んでいるのだろう
そして宮里家であるが
この島は冒頭に記したように
超大国アメリカでさえ無視できない存在なのだ
そこの大統領とも言うべき生徒会長が娘婿ともなればその権勢はいかばかりか...

これら全てが偶然に出会ったと考えるのはナンセンスだろう

「相馬左門」という扱いやすい神輿を得た宮里家の陰謀ではないだろうか。
つまり、我々が最も警戒すべきは
候補者本人ではなく、裏で糸を引き
「宮里香織」ではないだろうか
この人物については
過去の軍事政権の残党という説もある
追加調査が必要だろう

この度この島の危険度が上がったのは
各組織のパワーバランスの境界線上を行く人物だった彼が
「宮里香織」によって『力の要点』に据えられたことに起因する




警戒体制が強化され調査に使用をきたすようになってきた...



身の危険を感じる
急ぎ室長からの指示をm』

報告書メールはここで終わっていた。

(音信不通...たかだかちっぽけな島の諜報くらいで...
最後は慌てて送信したのだろう、拠点に踏み込まれでもしたか...)

男は煙草が切れたことに気づき
引き出しを開ける
買い置きしてある煙草を取り出す為だ。
男は気づく
手紙が入っていることに

この部屋はまがりなりにも
中華人民共和国の大使館の中にある情報局の部屋だ
部外者が入れるところではない
それなのに 引き出しには見たことのない手紙が入っている

男はゴクリと喉を鳴らす

そしてその手紙には美しい毛筆でこう書かれていた
『不要碰我们』(我々に手を出すな)

そして同時刻 
この男の中国本土の家がガス爆発で吹っ飛び
同じくマカオの別荘とカナダの愛人宅も同じくガス爆発で全焼
行きつけの店は5軒が火事で全焼
3軒は半焼も営業は不可能
兄弟の経営する会社は海外企業に訴えられ倒産は確定的だという

前任者の言葉を思い出す

『别碰蓬来学园』(蓬莱学園には手を出すな)

男は火をつけたばかりの煙草を落とし、そのまま気を失うのだった。

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最終更新:2022年10月19日 18:25