葉車九重に関する報告書「忍」或いは「う号」の日記 by旭ゆうひ
飯のタネを探して
「葉車九重」の周辺を調査していた私は
途中、なんだか懐かしいような心落ち着くような男性と出会う。
酔った勢いで異常な過去を喋ってしまった「う号」
その過去を知ってもなお「う号」に求婚してくれる男性
「う号」は己の過去に彼らを巻き込んではいけないと
あふれる涙とともに彼らのもとを去ったのだった
あれから何日たっただろうか
隠れ家にこもってもう数週間はたつような気もする
食料の買い出し以外は引きこもっている
出かける時には必ず変装している
私は何をやっているんだろう?
あの人は私を探したりしないだろう
私なんかよりも、ステキな人は多いのだから
なんせ「葉車九重」がお兄様と呼ぶのだ。
何番目の兄なのかはわからないけど
兄というからには彼も「葉車」一族なんだろう。
なら、社交界でどこかの令嬢と……
私なんかと比べれば月と鼈だ
隠れ家にこもり、今まで撮りためた映像を編集して夜間写真部の部長へ送る
内容は様々だ、少しでもお金にならないと明日のご飯も困る状態だから
中には露子の屋台で倒れるエステル先輩の写真だったり
左門先輩が袖の下を受け取ってる写真だったり
月光洞での写真だったり……
「百地忍」の友人である彼らを売るような真似は、出来ればしたくなかった
「百地忍」の友人としてだけでなく「う号」としてもそう思わなくもない
世の中がバレンタインで染まるころ
例年よりも冷たい風が吹く中
町にはカップルが増え
あちこちで爆発が起こっている
そんな周囲を見渡して
彼を知らず知らずのうちに探してしまう……
ある時、彼の情報が思わぬところから手に入った
取引のある情報屋が私の様子を心配して届けてくれたんだ
「ねぇさんが元気じゃねぇとこっちの仕事も減ってしょうがねんだよ……早く元気になっておくれな」
ぶっきらぼうに言ってのける彼女は茶封筒を投げてよこす
これも、彼女のなりのやさしさかな
【「葉車三月」
葉車一族の三男
航空部大佐 航空支援本部長
飛行委員会
活動写真部副部長
蓬莱神社にほど近い高層マンションに住む
映画好きが高じて新町に映画館を所有 毎週金曜20:00から営業
現在 消えた恋人を探している】
【ねぇさんの事だよ!】
最後の1行だけ走り書きされていた
あの人が私を探している……
あの人の許へ行けたらどんなに幸せか……
あの人の言葉を思い出す
【どんな名作映画よりも貴女とともに歩む人生を見ていきたい】
もし、もしも……あの人のもとに行けたなら
ずっとそばに居いたい
あの人の子供を産んで
共に老い、共に逝こう
それができたなら…………どんなに幸せだろうか
どうにも、涙もろくなった……
……葉車って兄妹いっぱいいるけど……つまり、そういうことなのかしら
いくらなんでも、身体持つかしら……
なんて……どうかしてる
ありえない話を妄想するなんて……
外から爆発音が聞こえる 天井から埃が降ってくる
せっかく作ったカップ麺が台無しだ……
「…………いただきます……」
最後のカップラーメン
埃が入ったとて無駄にはできない
久しぶりに、露ちゃんのところへ行こう
屋台を手伝って何か残り物でももらえないか聞いてみよう
正直辛い……肉体的にも精神的にも
何時まで続ければいいのか……
簡単だ あの人が、私を忘れるまで……
大丈夫、大丈夫……私は「う号」 これくらいの事は耐えられる
結果として、露ちゃんの屋台を訪ねたのは正解だった
バニラを売った蓄えがなくなってきたころにGWがやってきた
運がいいことに怪盗騒ぎ
※リプライ35話
事前に出現場所を掴んでいたのでこの怪盗をばっちり撮影できた
翌朝の朝刊にも乗ったし、おかげでかなりのボーナスも入った
このころには私の心も落ち着きを取り戻す
彼の映画館のある新町にはいかないし、
葉車の話題は意識して避けるようにした
友人の不建や藤矢と過ごす時間を多くした
あの人の事を思い出さないようにするために
でも、今日の仕事は委員会センターや研究所や生徒会のネタ探しだ
もしかしたら近くにいるかもしれない
彼は飛行委員会所属だから
それを思い出すとつい 偶然を期待してしまう……
そこで偶然にも見つけてしまう
SS残党を……
ため息しかでてこないわ……
まぁ 飯のタネになるのだし、取り合えず後をつけてみようか
「……………………応援呼ぶか」
取り合えず、公安かなって
そこで偶然にも知り合いを見つけた
露ちゃんと左門先輩、エステル先輩のところの赤毛のメイド……とヤクザ?
でも、ちょうどいいエステル先輩や椿君の事だ
あの人たちに手伝ってもらおう
ここまでは はっきりと覚えている……
でもここからは うろ覚えだけど思い出しながら書いていくことにする
そこから……あの指輪をみて…………
あの指輪を……
あの指輪があれば、上手くいくんじゃ?
≪…………!≫
あの指輪があれば、彼と上手くやっていけるんじゃ?
≪……!≫
あの指輪を使えば、里を滅ぼして
彼を巻きまずに済むのでは……
そうすれば……彼と……
忍の夢だってかなえられる
≪……!≫
声が聞こえた気がする、指輪の近くにいるときにだけ
この声はそうだ、私に人生をくれた彼女 百地忍の声
何を言ってるのかまでは分からない
けれど、きっと応援してくれているはずだ
ああ……あの指輪があれば、忍は病に負けることはなかったのに
私が里にとらわれることもなかったのに
ああ、指輪さえあれば上手くいってたはずなのに!
装甲屋台の中で指輪を指ごと切り落とす手術が行われている
私は、屋根の上から見ていた
あの指輪さえあれば!
忍は死なずに済む!
彼の許へ行ける!
あ の ゆ び わ さ え あ れ ば !
瞬間 全身に力が沸き起こる
かつてないほどの高揚感
やった!
手に入れた!
これさえあれば!
すべて 上手くいくはずだ!
遠ざかる装甲屋台
全力を超えた全力で駆ける私は鳥よりも速く屋根から屋根へ
≪…………!!!≫
忍の声が聞こえる
「大丈夫だよ忍 すべてうまくいく 大丈夫だよ」
そして、私は指輪をはめた
そして視界が変わる
色のない白と黒の世界
荒涼とした学園 漂うのは幽鬼だろうか
≪ばか! 月陽のばか!大馬鹿!≫
一つだけ光り輝く 姿が見える
「会いたかったよ ずっと会いたかった」
≪馬鹿! なんで?なんでそんなものを!≫
「これさえあれば、上手くいくんだよ」
≪ちがう! そんなものがあってもだめ!≫
「何を言うのよ これさえあれば里を滅ぼして忍も死なずに済むんだよ?」
≪私 私はもう 死んでるのよ?知ってるでしょう?≫
「……」
≪お願い 私の事を思うならその指輪を処分して!≫
「なんでそんなことを言うの?私は 貴女の夢をかなえてあげたい
私自身の夢だってかなえたい 幸せにしてあげたい 幸せになりたいの」
≪ええ その気持ちは嬉しいわ でも、この指輪はだめよ!≫
「うるさい……うるさいうるさいうるさい!」
≪月陽!≫
「上手くいくんだ 上手くいったら分かってくれるよ!」
そこで指輪を外した 視界が元の世界へ戻る
いつの間にか隠れ家まで度って来たらしい
たしかに この指輪がヤバいものなのは知ってる
それでもこの指輪は 願いを聞いてくれる
この指輪さえあれば
≪!……!……!≫
忍が何かを言ってる気がする
でも目的をたっせいすれば きっとわかってくれるはずだ
霞がかかったような 思考の中で
高揚感だけが確かにあって
不安や焦りは消えていく
彼のもとへ行きたい けど すべてを解決してから
私の人生を奪ったあの朱点の里をこの世から消す
この想いだけが先鋭化して
私は それに 身を 委ね た
了
最終更新:2022年10月19日 18:13