巡回班との和解 by輝剣





相馬左門、蓬莱学園生徒会長に当選!

この事実は左門自身が所属する各団体にも影響を与えた。

一番無邪気に喜べたのは、彼が最近所属したばかりの言語学研であった。
左門も月光洞への武力介入を公約として掲げ、自分たちの領域内でとはいえ軍事行動を起こす以上周辺各国への根回しは必須と認識しており、当選確実が流れると早々に部室に連絡を入れ、「先輩方にはご迷惑をお掛けいたしますが、周辺諸国への円滑な連絡・交渉にお力をお貸しください」とあいさつに赴いて礼を尽くした。
通訳業務を高く評価する言に部からの評価も上々であったという。
これは左門自身の志望が貿易商であり言語学研とのコネクションを重視していることも関係していた。
頭ごなしに話を進められた外務委員会はいい顔をしなかったものの、就任前の所属団体への挨拶ということで目くじらは立てなかった。

次に多少の摩擦があったとはいえ、歓迎したのは剣道部であった。
左門と校内巡回班との微妙な関係が影を落としていたが、校内巡回班も上層部はともかく平班士達は同僚の選挙ということもあって手弁当で手伝う等好意的であり、剣道部の部員たちも伴藤内徹志らが取りなしてくれたこともあってか終盤戦になると安定した友好団体となっていた。
当選後は伴藤内ら有志と無礼講の飲み会を実施し、つけ払いで飲んだ結果宮里家に回ってきた領収書をエステルが鷹揚に引き取り、その額にフレイヤさんが無表情になったが左門以外にとっては些事であった。

さて、問題は校内巡回班である。
校内巡回班における左門のポジションは御控え方。
自他ともに認める冷や飯ぐらいである。

それだけに左門の選挙活動には組織としては応援せず中立であった。
ただ、立候補会見の段階で左門の過去の行状についてマスコミに多く知られていたことから上層部の内心がどうであるかは明らかであった。
もっとも剣道部がそうであったように上層部以外は左門の出馬に好意的であり、左門の票田であった。
これは左門の人柄も関係しているだろう。左門は無口で陰性の性格であるが基本情に厚く、周囲も「困ったやつ」と苦笑交じりに評するものの嫌われてはおらず一種の名物男であった。
交友関係が銃士隊に近すぎることを揶揄されることもあったが、それ以上に公安委員会との関係からトラブルに巻き込まれることも多く、公安嫌いの多い班士たちから同情されていた。

上層部としても当選してしまった以上関係を悪化させておくわけにもいかず、修復に乗り出した。

副会長と第1書記を擁する銃士隊と軍事研にこれ以上政治的に後れを取るわけにもいかなかったのだ。
両団体はフレイヤとのパイプを使って左門ともコンタクトを取り始めており、月光洞侵攻を掲げる左門も彼らとの協力関係は必須であったので校内巡回班出身者とは思えないほど彼らへの配慮を見せつつあった。
エステルと左門が銃士隊風のペアルックでデートを行うというパフォーマンスまでやったほどである。 

なお、自分がリードする形での初デートにてんぱっていた左門にそのような意図はなく、すべてはお師匠様のたくらみであると付言しておく。

銃士隊風のペアルックデートで上層部はまたしてもキレかけたが、副会長のエステルが局長の元に直談判に来て状況を悪化させ、左門が青い顔をして剣道部の先輩方に取りなしを頼み、公務中も和装で鼬斬りを佩刀するというアピールをすることでなんとか手打ちとなった。

校内巡回班としてはアンチ公安委員会という形で両団体との連携を模索し、優位にある2団体が鷹揚にそれを認め、相馬生徒会は学園銃士隊、軍事研、校内巡回班を支持母体とするタカ派政権として発足することになる。

校内巡回班は左門の御控え方への転属自体を遡ってなかったこととし、2回の指名手配事件における隊規違反も不問となった(報告書には「全て公安が悪い」と怨嗟交じりに記された)。
そして、左遷が取り消されたことにより左門の配属先は元に戻る。

つまり、田中様の元へ。

それらが功を奏してか、校内巡回班は相馬政権に補佐官を一人と会長付きの連絡係を派遣することに成功する。

補佐官に就任したのは鬼塚という強面の男である。
田中様の上司で左門の事を毛嫌いしていることで有名だった。
だが、左門は巡回班から補佐官に鬼塚をとの打診に二つ返事でOKをした。
左門と不仲の人物であると聞かされていたエステルは左門を気遣ったが、それに対する左門の返答は「ああ、鬼塚さんはいいんだ。俺とはそりが合わなかったが、言ってることは概ね正論だし、なにより罵倒してくる時も正面からだったしな。 陰口を言うだけの連中とは違って仕事は信用できる」というものであった。
フレイヤへの態度からわかるように嫌味であれ罵倒であれ、正面から行ってくる者に対して左門は好意的だった。 部下も根回し型の人材を重用はしたが好んだのは直言型の人材であった。
左門の口調と表情から、過去に陰口でよほど嫌な思いをしたのだと察したエステルは何も言わずに左門の頭を撫でた。
いい子いい子であった。
それを見ていた猟犬さんによってその夜エステルは手をフル稼働する事態となるがそれは余談である。

ともあれ鬼塚が補佐官になったとはいえ、互いにそりが合わないことを認めている以上潤滑油が必要であり、そのために連絡役に抜擢されたのが田中様とその部下の中村さんと渡辺君である。
田中様は左門の直属上司で2回の指名手配事件では共に貧乏くじを引いた人物である。
一応左門に対して敬語を使おうとはしたが、サボっては伴道内や中村と酒盛りをする生徒会長に堪忍袋の緒が切れていつもの調子に戻っていた。
かつてエステルの邪魔をしたことがある為、フレイヤさんからは当初塩対応を受けていたが、今では「馬鹿につける首輪として有用」と認められ、相応の扱いとなっている。

馬面の中村さんは左門の昼行燈仲間兼酒友達であるが、忍やフレイヤさんとも渡り合える凄腕である。
そんな人物が何故昼行燈をやっているのかは左門も知らない。過去色々あったらしい。

イケメンの渡辺君は仕事はできるし、人当たりもいい。
まさに歌って踊れる校内巡回班のアイドルである。
そんな人物が何故田中様の下にいて自分や中村さんとつるんでいたのか左門もわからない。

他に伴藤内にも剣道部や巡回班と左門を取り持ってくれた返礼として会長室にフリーパスが与えられていた(使う時は左門や中村、渡辺と飲むときなので田中様は廃止を主張している)

相馬左門と校内巡回班の関係は再構築された。

「お前たち、いい加減にせんかっ!!」
「あーた達、酒盛りを止めて仕事に戻りなさい! 中村さん、あなたは後片付けを、渡辺君は第1書記に連絡を。そして、会長、相馬さん、書類が溜まってますよ! よく読んでから決済を!!! わかりましたねぇつ」

今日も鬼塚の怒声と田中様のキンキン声が生徒会長執務室に木霊する。

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最終更新:2022年10月19日 00:24