月兎、弁天寮に行く byTai(魚ではない)





「たまには、ネタ収集がてらあそこに行って遊んでみるかぴょん」

時刻は黄昏時で、真っ当な部活動に励んでいる生徒諸君が寮や自宅へと帰路についている中、本来は男であるはずの月兎キンウは蓬莱学園の女子寮弁天寮へと足を運んでいた。

 弁天寮、蓬莱学園の女生徒の多くが家としておりその中は男にとってのサンクチュアリである。しかしながらコンピュータで徹底的に管理されたシステム、女子寮の自警団等の存在も相まってサンクチュアリに挑んで公安送りになった生徒には枚挙に暇がない。

 男が正規の方法で入るのならば、コネやそれこそ男でなければどうしようもない事件でも起きていなければ入ることは叶わない。

 今は女の姿だから女生徒に怪しまれる可能性は低いが、寮の顔認証システムが厄介だ。
おそらく月兎キンウは下水族や二級生徒のように厄介ごとをすぐ持ち込むものとして記録がされている可能性が高い。だから下手に足を踏み入れようものならばすぐ自警団のお縄につく羽目になるだろう。

「さてと、どうしたものかぴょん……」

弁天寮のコンピュータシステムはかなり堅牢でこの間みたく基地局にクラッキングを仕掛けるのとは難易度が桁違いすぎる。それと、下手に手を出してばれたらそれこそ女生徒全員を敵に回しかねない。

「確か、あのシスコンのリヒャルト君は確かスパイ研だったぴょんね……」

キンウは悪い笑みをすると、リヒャルトに電話をかける。かなり個人的な恨みは買っているがあいつの義姉のエステルの秘密を知っている以上向こうもそうそうやりにくいだろう。

 電話をかけると、ワンコールで出てきやがった。向こうはこの間の件でかなりご立腹らしく怒声が聞こえてくるが気にしない。

「リヒャルト君、ちょっとお願いがあるんだぴょん。君の部活で使っている変装セットをちょっと貸して欲しいんだぴょん。もし断ったりしたらわかっているよね……」

 そう告げるとリヒャルトは悔しそうに唸り声をあげながら了承してくれた。
いやはや私は良き友人をもって幸せだ。学園のあまり使われていないロッカーに変装セットを入れておくよう指示をして電話を切る。

 変装セットを取りに来てみるとロッカーに物を入れてあるだけでリヒャルトは不在のようだった。きちんとスパイらしいというか、生真面目というか。

 一応襲われた時用に保険をかけていたがそれは必要なかったみたいだ。
変装セットは流石スパイ研であり、クオリティが高く、10分ほどで別人のようにメイクが完了した。

「さてと、準備も完了したし始めるぴょん」

 鼻歌でミッションインポッシブルのテーマソングを口ずさみながら弁天寮に入る。
入口のセンサーに差し掛かる。さて、どうなるか。

 ビーっとセンサーが鳴る。自警団がわらわらとやってきて取り囲まれる。
自警団の奴が警棒片手に口を開く。

「貴様は女子寮のコンピュータには未登録となっているみたいだが、どこの所属だ?」

思わず口がにやけそうになるのを我慢しながら返事をする。

「私は葉車家に仕える使用人でして、旦那様に少々頼まれごとでお嬢様に大事なものをお渡しするように島外の方から仰せつかった使用人でございます」

「私は見ての通り女ですし、何より葉車の名を穢すような真似は致しません。どうかお通しください」

自警団の連中は幾らか訝しんでるようだったが副会長にもフレイヤなどのメイドがついてるように島では珍しいものでもないし、ということで通れることになった。
ようやく寮の中に入れた。流石女子寮女の子のいい匂いがそこら中からしてきてにやけそうになるが顔を元に戻す。

「さてと、怪しいのはどこぴょん?」

そう言いつつ足元周辺を重点的に見渡し、見つけた。

「やっぱりあるぴょんね」

そう、隠しカメラだ。一部の連中がそう言ったアングラな商売に手を染めているのは知っていたが本当にあるとは思ってもいなかった。

「多分この調子だと結構ありそうだぴょん」

そう言いながら、弁天寮をウロチョロしながら隠しカメラや盗聴器などを次々と見つけてはデータの送り先の情報を記録しながら取り外していく。
そして、二時間ほど作業を行ったらカメラなどが合わせて20台以上、手を染めている奴の情報が4、5人分程手に入った。その中には女生徒もいたのには少し驚いたが、まあ成果としては上々だろう。

「これでまた、いざという時の手札が増えるぴょん」

悪戯はリスクが伴うものであるし、月兎一人では限界もある。
だからこそ、この手の怪しいことにひっそりと手を染めたやつというのは都合がいい。
頭もそれなりに回るやつが多いし、手駒がいればやれることやいざという時の対策も打ちやすい。

 それにこういうアングラな悪戯は個人的にあまり好きではない。
悪戯というのは目立ってなんぼ、ちょっと辱めて愉悦するくらいがちょうどいいのだ。

 それにしても今回は大収穫だ。そこそこ使えそうなやつの弱みも採れたし、女子寮を歩き回ってセキュリティの隙間がありそうなところも2、3目星がついた。

 「さてと、お家に帰るぴょん」

そう言い月兎は弁天寮を出て帰路へと着くのであった。

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最終更新:2022年10月19日 00:22