光と影 第二編
私の名前は「百地忍」
今 憧れだった蓬莱学園に来ています。
この蓬莱学園があるのが南の島 宇津帆島と言うところ
いやぁ 暑いですね
汗をかかない私でもかいたほうが良いんじゃないかって思うレベルです。
実はこの学園には私になりすました女の子が在籍しているのです。
その事自体には私的に問題ないのですけど、その子のことが心配で心配で……先日も色々ありましたし……
※或いは二人の指輪物語
なので、いつもできるだけ見守っているんです。
あの子 ほっとくと無茶するから……
「支配の指輪」に完全に取り込まれなかったのは私が必死で守ったからなんですよ!
あ 【必死】って私死んでますけどね!
言い忘れてました。
私 百地忍の幽霊です。
いやぁ 幽霊って本当にいるんですね。
びっくりしました。
空を飛んだり壁を抜けたり結構楽しいですよ!
でも、誰にも気づいてもらえないのは寂しいですけどね。
あの子が指輪を持っている時に、その力で話すことができましたが、言うなれば奇跡のようなものですしね。
普段は会話なんて出来ません
それでも、そばに居られるのは嬉しいです。
あの子は以前、私になり切ろうと一生懸命でした。
私達の約束を果たそうとして、それが彼女を必要以上に縛ってるように見えました。
見てるこっちが辛くなる位に……
けれど、今は肩の力が抜けて「百地忍を演じてる人」から「百地忍」になって来たように思います。
私だから気付ける差ですけどね!
ただ、別れの際に時間がなくて伝えることができませんでしたが、いつまでも私でいて欲しいわけじゃ無いんです。
あの子の中で「百地忍」は溶けてひとつになって、そこから先はあの子の人生なんです。
例えるなら、接木なんです。
私が土台であの子がこの先、枝葉を広げていくんです。
だから……あの子が「百地忍」でありながら変わっていくのは私にとっても嬉しいことなんです。
あの指輪事件の後、正直吐きそうです。
私、幽霊ですけど、吐きそうです! 砂糖を!
なんですか!? なんなんですか!?
たしかにあの子の人生だとは言いましたよ?
けど!だからってもう! 「百地忍」(わたし)の欠片もないくらいに
彼氏相手にデッレデレじゃないですか!
えぇ? 私も彼がいたらあんな風だったんじゃないかって?
居ませんでしたよ彼氏なんか!
高校で恋人できたら良いなとは思ってましたけどね?
そしたら、いっぱい甘えて、あんな風に……あ、あれ、私ですね。
かぁ~恥ずかしい!
私あんな風にしたかったんですか?
恥ずかし過ぎて恥ずか死ぬぅ……
死んでますけどね。
……生前は、セルフ漫才なんてしなかったのに、関西人の呪縛でしょうか、板についてきてしまいました……
この島へ来てからあの子はずいぶん変わったように思います。
柔らかくなったと言うか……笑顔が増えたのは間違いないですね。
以前はほぼ0でしたし…。
友人のおかげでしょうか……不建(さらち)さんや藤矢(ふじや)さんをはじめ、露子さん、相馬さん、宮里さん、北大路さん……ヤクザはちょっとあれですけど……
あと、葉車三月と九重の存在が大きいですね
三月さんはあの子の彼氏ですし、九重ちゃんは彼氏の妹であの子の事をお姉さまと呼んで懐いています。
正直、あの葉車財閥のあの葉車の三男とお付き合いとか、羨ましいにもほどがありますよね!
もし、私が病気でなく、この学園へ来ていたら?
私ではあの子のような活躍はなかったでしょう。
そうすれば、葉車さんや、他の友人たちとも会うこともなかった……
いまのあの子は、あの子だからこそ作られた。
ああ…いいな…私は、確かにあの子の為に生きたんだ……
一人の不幸な少女を救うことができたんだ……
たとえあのこと出会わなくても、私の命はあの時消えていた
あの子のおかげで、「百地忍」(わたし)は消えずに済んだ……
ああ……こころが温かいな……
私はあの子を応援してる
あの子と三月さんが幸せになってくれたらいいと思う。
孤独だったあの子……周りにいるのは、いつか自分に死を齎すかもしれない相手。
そんな連中に囲まれて生きてきたあの子に……今は……
いまも九重ちゃんと一緒に遊んで……遊んで……?
あの子と九重ちゃんサイズの、からくり人形が戦ってる……
まぁふたりとも笑顔だし、喧嘩ではないんだけど……この辺の感覚は私にはわからないなぁ……
ああ ほら! せっかくの庭園が荒れ放題だよ……
あーあ、やっぱりこうなるよねぇ……九重ちゃんとこのメイドさん、名前は確か大名東さん、めっちゃカンカンですね……九重ちゃんマジビビリ。
あの子の後ろに隠れて震えてる姿がかわいいなぁ。
おっと さっき人形がばらまいたミサイルの不発弾かな?
すぐ近くで暴発してしまって、あの子は落ち着いたもんでしたが、
九重ちゃん……今のは……まぁ、うん、しょうがない。
私も生身だったらそうなったよ……
泣く九重ちゃんを慰めるあの子……これがあの子、本来の優しさなんだろうなぁ。
あの子は九重ちゃんと一緒にお風呂か……相変わらずいい体してるなぁ。
里の事なんて思い出したくもないって言ってたのに、鍛錬は欠かさないんだね…
無駄のない引き締まったからだ……そのくせ出るところは出て……そのせいであの子は辛い目を見てもいる……単純い羨ましいとは言い切れないな……
あの子と九重ちゃんの背中の流しっこ。
本当の姉妹のようで微笑ましい。
九重ちゃんの住む屋敷は使用人が10人以上いてかなりの大きさ
古い日本建築に一部洋館を継ぎ足したような
節操のない屋敷になっている。
先日の「巨大生命体T祭り」によって葉車タワーが倒壊。
そこに住んでいた葉車兄弟のうちの数名がいま此処へ仮住まいしている。
つまり、葉車三月もここへ帰って来る。
……あの子と、三月さん同室なんですが……
最初は、九重ちゃんの教育にも悪いからと別室だったんですが
結局、片方がもう片方へ遊びに行くから……
最初のうちはそれでも節度を持ってたんですけどね?
九重ちゃんが宮里さんのところで、お泊り会だということで家を空けた日の夜
いやぁ……凄かった……思い出したらこっちまで変な気になっちゃうくらいに
凄かった……流石、くのいち……
ていうか、あの子何でここに住んでんのって話なんですけど、葉車さん所の双子のお姉さんが「忍様がまたどこかへ行ってしまわないように」と声をそろえて主張。
賛成多数で此処に住むことになったという……
タワーが再建されたらそっちへ引っ越すようですけどもね。
そういえばあの子の名前の「月陽」(つきひ)
「月陽」っていうのは私がつけた名前なんだけど、
『昼も夜もそこにあって道を照らし皆から愛される存在・誰にも囚われない存在』っていう、あの子の安全と幸せを願っての名前。
あの子は私の「百地忍」の戸籍を使ってるから、対外的には「百地忍」で通してるんだけど
三月さんと二人きりの時だけ「月陽」よびなんですよ。
羨ましいなぁ……私も誰かにそう呼ばれてみたかったな。
ともかく、せっかく付けた名前ですが「月陽」は、三月さんだけの呼び方となってます。
だから、私はだいたい「あの子」よびですね。ふふふ。
あの子が「百地忍」になってから、もうすぐ2回目の夏がくる。
「お祭り」はまだまだ続く。
今年は一人じゃない、夏が来る。
あの子……「月陽」が私を連れて行ってくれる。
私たちは二人で一人。
もう、入れ替わることはないけれど
『光と影』は、いま幸せです。
了
最終更新:2022年10月19日 18:14