光と影 第四編
おはようございます。
今朝もいい天気になりました。
私の名前は「百地忍」15歳。
2年目の新人幽霊です。
まぁ幽霊といっても、どうも私が知ってる感じとは少し違ってて
私って何だろうと、少し気になる今日この頃です。
さて、今日も今日とて「あの子」を見守る日々なわけですが
最近は落ち着いています。
三月さんと「あの子」が付き合い始めたころは
登校すると、ほぼ毎日のように、黒いドロリとしたナニカが集ってましたからね。
たぶんですけど、あれが「呪い」ってやつだと思うんです。
JC幽霊の私には詳しくはわかりませんが、なんとなくそう感じるんですよね。
「あの子」達を守るために人知れず戦う私...カッコよくないですか?
しかし、不思議ですね、「呪い」の事もそうですが、以前は孤独の中に居る感じでした。
でも最近はなんだか大きなものに、包まれているように感じることもあって…
あの子が毎日祈ってくれているからでしょうか…
「あの子」の彼氏の妹の九重ちゃん。
九重ちゃんの住むお屋敷の片隅には、小さな祠が建立されています。
お稲荷さんなんですが、使用人の人も葉車の人も朝起きたら必ず手を合わせてるんですよね。
立派な方々だなぁと感心しています。
その光景をみていると、なんだか私自身の胸の奥が暖かくなるんですよね。
ただ、三月さんはご自身のマンションには神棚置いてなかったので、
このお屋敷に居る間だけだとは思いますが。
ついでといっては何ですが、私も手を合わせています。
あ、私は、お天道様にもね。
そんな毎日を送って、気が付けばもう夏です。
青い空、白い雲、海だ、プールだ、青春です!
なんだか嫌な予感がしますが、フラグでしょうか?気のせいだといいのですが...
本日は「あの子」と三月さん達は海水浴に来ています。
最初は三月さんが二人で海外がいいねって話してたんですけど
「あの子」のパスポート申請が色々問題があって、時間がかかるということで
とりあえず、今回は宇津帆島で海水浴です。
「あの子」水着持ってます!って言ってたけど、持ってるはずないんだけどなぁ…
ああやっぱり…三月さんもびっくりですよね。
サラシと褌ですよ…いやぁ、流石に大声で注意したんですけどねえ…そこに気づいてはくれませんでした。
まぁまぁ、蓬莱学園にはいろんな人がいるからね。
サラシと褌位じゃ目立たないのがすごいよね。
でもしかし、なんかずっと嫌な予感がするんですよね…
幽霊の私がする嫌な予感ってなんでしょうね…?
成仏しちゃうのかしら?
でもそんな感じじゃないんですよね…
「あの子」の身に何か良からぬことが起きそうな…
そんな心配してる間にも、スイカ割ですか。
今日のメンバーを紹介しておきましょうか。
「あの子」の友人の不建さんと藤矢さん、
そして北大路さん。
不建さんはトロピカルな柄のオフショルダービキニ。
フリフリが可愛いですね。
ロリっぽい外見にマッチしてとても可愛らしいです。
藤矢さんは白のハイネックビキニ。
陸上部らしい割れた腹筋が綺麗です。
黙ってればモテること間違いなしです。
北大路さんは黒のブラジリアンビキニ。
布面積が少なくて紐やレースなども多用されてる...これはエロスですね...!
ビーチの男どもの視線を独り占めです!
三月さんの友人としては、飛行船のベテラン船長、活動写真部の俳優、後は背の高い外人さん。
...なにこれ、合コン?
しかし、船長も俳優も外人さんも北大路さんに釘付けですね。
あのスタイルの良さはなんなんでしょうか?
「あの子」も大概ですが、さすがアルメニア人と言うべきでしょうか...
船長は30代後半で、髭を蓄えててパイプを咥えてますね。
鍛えた身体にその風貌からまるで海賊のようです。
俳優さんはTVや映画で見たことあります。
学園では有名人ですね。
こちらは20代後半。
最後に外人さんは、20前ってとこでしょうか。
外人さんの年はわかりにくい。
三月さんと何やらお仕事の話をしてましたが、よくわかりませんでした。
ベアトリクス女王とか殿下とか?
女王ってエリザベスじゃなかったですっけ?
私にはわかりません。
まぁそんな3人から好意を寄せられている当の北大路さんは、照れなのかなんなのか、時々海へ向かってビームを放ってました。
可愛いですね。
そろそろお昼と言うところで、北大路さんの本領発揮。
お料理研の彼女は持ってきた食材を使って料理し始めました。
「あの子」や不建さん藤矢さんも手伝ってますが手際の良さが違いますね。
「あの子」は皮を剥くのだけは見事でしたが、それ以外は並以下。
藤矢さんは大雑把ではありますが、見事な包丁さばき。
不建さんは、藤矢さんから「家を作る前に飯を作れ」と言われてました。
まぁ、不建さんは土木研ですし...しょうがない...しょうがないかなぁ?
作るものは海水浴らしく、たこ焼き、焼きそば、焼きとうもろこし、クラーケン焼き...クラーケン焼き?
そういえば、午前中にビーム打ち込んでたのはまさかこれを取るため?...はは...まさかね。
焼けるソースの香りと音が食欲を刺激しますねぇ!
まずは胃袋を掴みに行く、流石鉄華さんです!
しかし、北大路さんは不思議な人ですね。
幽霊になってから人のオーラと言うか魂の色というか、ぼんやりと見えるようになったんですけど、そうやって鉄華さんを視ると、強い炎の様なオーラ。
ただ、それだけなら他にも視ることがあります。
でも鉄華さんはその色が、淡い紫や濃い紫なんです。
紫色の炎...「吹き上がる紫のフレア」とでも言いましょうか...そうやってみてると鉄華さんと目が合いました!
...多分気のせいなんですが...
私の事は見えていないようなのに、勘が鋭いのか時々私の声にも反応してるようなんですよ。
最初は食べられちゃうって思ってしまいましたが、なんでそう感じたのか...これもまた不思議ですね。
ちなみに「あの子」は「淡い金色の小さな火花」
三月さんは「淡く輝く水の塊」ですね。
こうして楽しい海水浴は夜になり、そのまま花火へ。
ここでもやはり北大路さんが大活躍。
花火の導火線ってなかなか火がつかないことってあるじゃ無いですか?
そんな時、北大路さんのビーム(極弱)で1発です。
男子達のテンション上がりまくりです。
気を良くした北大路さんは、空に海にビームを放って彼女自身が花火のようでした。
あのビーム、色も形状(?)も変えれるんですね。
色は七色、形状は直線からドラゴン花火のようなものまで。
男子達の人気を独り占め状態の北大路さん。
鉄華さん的には「殿下」と呼ばれていた外人さんをお気に入りの様子。
殿下の魂は「濃く輝く新緑の葉」
北欧系のまさに王子という見た目、立居振る舞い。
それもそのはず彼は北欧の国の王子様。
三月さんと「あの子」が話してるのを聞きました。
ただ、やっぱり王子だけあって許嫁的なのがいるぽいですが、本人はそれには乗り気でない様子。
これは鉄華さんにもチャンス到来かも!
そんな鉄華さん一人勝ち状態の中、ほか二人の機嫌が悪く...とはならず、
これはさすが人生経験豊富な船長と、女性の扱いには慣れてる外人さんです。
適宜二人を構う事で機嫌を良くしてますね。
俳優さんはその点ダメで、あからさまに北大路へアタック。
空気を読むことも周りへの気遣いも何も無い。
嫌ですね、見た目しか取り柄のないクズなんて。
三月さんが「彼は今役作りの最中でね、許してやってくれ」なんてフォローしてましたけど、まぁそうですよね、三月さんが連れてくる男性がただのクズ野郎って事はないですよね。
女性二人もイケメンでかつ、親友の彼氏から言われて納得していました。
しかし...「あの子」は終始、三月さんとべったり。
途中二人でグループから離れてましたが、理由は言うまでもないですね。
全く、夏だからしょうがないですね!
花火も終わり連絡先を交換する北大路さんと男性諸君。
町へ帰り解散して家路についてその最中です。
「あの子」がぐったりしていました。
最初ははしゃぎ過ぎて疲れてるのかと思いましたが、どうにも「あの子」の様子がおかしい。
三月さんも車を止めて、背中をさすって心配しています。
なんでしょうか?朝からずっとしてた嫌な予感の正体はこれでしょうか?
ずっと楽しかったので忘れてましたが...「あの子」もさっきまで笑顔だったのに!
「あの子」を「視た」結果、黒くどろりとしたナニカが「あの子」の魂にまとわりついているじゃないですか!
人の顔がいくつも浮かぶそれは、人の負の感情から発生した物ではなく、明らかに作り上げられた、意思を込められた...「呪い」いいえ、これはもう「呪術」!
いつものように払おうと光ってみましたが、多少勢いは鈍るものの光がやめばまた彼女を苦しめ始める。
光るのって意外と疲れるんですね!
いつもは一瞬だけだったので気になりませんでしたが、光続けて初めて知りました。
九重ちゃんの家までもう少し。
家に帰ればお稲荷様が在る
きっと力を貸してくださるはず!
それなのに!
三月さんは病院へ向けて車を走らせ始めました!
私がどれだけ懸命に叫んでも三月さんには聞こえません。
違う!病院じゃないのに!
こうして「あの子」は病院へ運び込まれたけど、どれだけ検査をしても異常は見つからない。
ただ、脈が弱って来ているという点を除いては。
「あの子」を苦しめてるのは、病気でも怪我でもなく、誰かの【悪意】。
しかも、ただの【悪意】ではない。
より効率よく相手を苦しめ、死をもたらすことができる【呪術】なのだから。
私がどれだけ追い払らおうとしても消えない。
たかだかJCの幽霊に過ぎない私では、専門的な事にかなわない。
そうやっている間にも「あの子」は苦しみ続けている。
「あの子」の魂が徐々に輝きを弱らせていく。
保健委員の子達も、異常が有るのは理解しているけど、その正体がわからないでいる。
九重ちゃんが慌てて駆けつけた。
よっぽど慌てたのでしょう、ピンクの猫のプリントの入ったパジャマのまま。
大名東さん他数名の使用人が付き添っていました。
間を開けて、五葉&六花の双子が。
こちらはおそろいのパジャマのまま。
やはり、使用人を数名連れていました。
理由が分からないまま「あの子」は弱っていく。
三月さんは「あの子」の手を取って呼びかけ続けている。
九重ちゃんも、五葉さんも六花さんも、それぞれに「あの子」へ呼びかけている。
三月さんは将来の夢を語る。
「君と共に叶えていきたい」と。
姉妹達も口々にその夢を応援するという。
病室に心肺補助装置が運び込まれた。
私も、もう体力が尽きそう。
自分の存在が薄くなってきてるのがわかる。
私が諦めれば、あの黒くてどろりとした呪いは「あの子」の魂を冒し尽くし、死をもたらすだろう。
それが分かるからこそ、退く事はできない。
例えこの身が消えたとしても!
何時間たったでのしょうか...日付も変わってだいぶん経ちました...
勢いを弱める事なく続く、呪いの進行。
私も手足が見えなくなった。
それでも、諦めない。
きっと何かが...なにか有るはず!
「あの子」の穴という穴から血が溢れてくる。
ガーゼもベッドも血で染まり、保健委員たちの白衣でさえも染めていく。
「あの子」の悲鳴の回数が多くなる。
脈は弱くなる反面、魂消る悲鳴は強くなる。
魂を侵食される激痛に
身体は弓なりに仰け反り痙攣する。
ベッドから落ちないようにと抑える三月。
彼もまた「あの子」の血によって染まっていく。
医者は考えられる措置をしてくれているにもかかわらず...
しかし、どれも効果が無い。
輸血の為の管が通されて...昼間あんなに幸せそうだったのに...誰がこんな事を!
私の中に、火傷しそうなくらい熱い黒い感情が湧き起こってくる。
「あの子」の悲鳴が場を支配する。
九重ちゃんの泣く声が聞こえる。
誰が、私の大切なものを!!
消えた手足が、黒い炎で形作られ復活する。
「あの子」に万が一があれば、殺す!
私の大事なモノを壊した奴を、必ず殺す!!
『...しの...』
「あの子」の悲鳴が消えて、私を呼ぶ声が聞こえる。
三月さんも、姉妹達も「あの子」の悲鳴がやんだ事に喜び、笑顔になっている。
けれど、これはそういうのじゃ無い。
幽霊の私と話をできるのは霊能力者か、同じく幽霊...
そして、「あの子」はそんな能力を持ってない.....
慌てて「あの子」の体を見る。
大丈夫!弱いけど、まだ息はしてる!
ただもう、意識はこちら側を見てる...
『しのぶ...ごめんね...』「あの子」が私に謝る。
なぜ?悪いのは悪意を向けた奴らなのに!
『しのぶがくれた人生...ちゃんと...最後まで...いきれなくて...』
諦めないで!絶対に助けてみせる!
『しのぶ...私の為に...そんなになってまで...もういい...もういいよ....』
気が付けば、私の姿は【鬼】の様だった。
鋭い爪の手足、額から生えた小さな角。
でも!でも!諦めない!絶対に助けてあげる!
「月陽」!私が全てをかけて!
「月陽」の魂が消えかけている。
私もう、光る力が尽きた...
鬼の腕で殴っても対して効果がないどころか
その腕にも黒いドロリとしたものがこびりつく始末。
その時、一つの映像が私の頭に浮かぶ。
こびりついた黒いドロリとしたものから流れ込んでくる映像。
どこかの山奥、お堂の中、大勢の死体、呪文のようにナニカを唱える男。
それを見守る数名の男たち。
此奴らが!こいつらがぁ!月陽を呪っているのか!
どうして!どうして!「月陽」ばかり不幸な目に合わないといけない!
たとえ鬼なりきってもいい!
「月陽」を助けられるなら!
その瞬間、荒々しい風が私の中で暴れまわる。
この力があれば!
角が伸び、身体が赤黒く染まっていく。
力の限りに、黒いドロリとしたものを殴りつける!しかし...
なんで!何で効かないの!
全く効いたようには見えなかった。
なんで!なんでなの!
だれか!だれか!月陽を助けて!
それは、全身全霊をかけた叫びだった。
忍の声を聴くことができない葉車の兄妹たちも
月陽を治療する医療関係者も、その叫び声を魂で聞いた。
医療機器が火花を散らして破壊され
窓ガラスはカーテンとともに外側へ吹き飛ばされる。
まるで目に見えない何かが爆発したかのように。
刹那、解放された窓から朝陽が差し込む。
全てを照らす黄金の光が「月陽」をはじめ忍をも照らす。
その光が、月陽を覆いつくしていた黒くドロリとしたものを焼いて行く。
鬼と化した忍は陽の光を浴びて、鬼の力が灰となって剥がれ落ちていく。
「―――」忍は声を聴く
「......」忍は答える
忍は自身の中に新しく、清々しい風が吹くのを感じた。
その風が、さっきまでの荒々しい風を抑え込んでるよう。
忍の姿かたちは人のそれに戻った...けれど、JC幽霊忍が着ていたのは、彼女が中学生の時に来ていたセーラー服だったはず。
しかしいま、彼女が着ているのは神御衣(かんみそ)
そして手には鏡を持つ。
忍は静かに鏡を掲げる。
すると光があふれ出し黒くドロリとしたものはたちまち炎を上げて燃えつくす。
「月陽!月陽!大丈夫かい!」
「いったい何が...」
「機器の故障かしら?」「機器の故障のようね」
医療関係者たちは壊れた機器を取り替えるべく部屋をあわただしく出入りしている
「叫び声が聞こえましたわ」「ええ、誰の叫び声かは分かりませんけど」
「そこから、爆発しましたね」
「ええ、そうですわね」「ええ、そうでしたわね」
「...三月...」
「月陽!意識が戻ったんだね!よかった!よかった!」
最愛の人を取り戻した三月の眼には涙があふれていた。
「お義姉様!」九重が月陽へと駆け寄る
「よくぞお戻りくださいました」「お帰りなさいお義姉様」五葉と六花も
つられて抱きつく。
「大丈夫かい?痛いところは?辛いところはない?」
「うん...」月陽は腕を回したり、あちこち触って確かめる。
「よかった!心配したんだ!」
「うん、ごめんね」月陽は三月の頭を抱いて義妹たちに笑顔を振りまく。
「.........」
「うん、大丈夫」
「お義姉様?」
月陽は窓の方へ向かって話す。
「.......」
「ええ、そうね」
「お義姉さま?どなたとお話を?」
「月陽?」
「...........」
「うん、大丈夫...幸せになるから!絶対になるから!!ありがとう!ありがとう!忍!」
朝日に照らされた世界は、黄金色に染まる。
「きれいですね...」
「忍?...ねぇ...忍?」
世界は「あの子」を見守もって黄金色に染まる。
了
最終更新:2022年10月19日 18:14