ジェーン・ドゥの業





保健室。
正確には委員会センターの中にある保健委員会の管轄エリアの、さらにその中の一室。ジェーンに割り振られたオフィス。
ジェーンは此処を簡易診療所として、不定期に【医者】をしているのだが、今日はその営業日。

ふぬふむとカルテに書き込んでいく

「熱は?……微熱が続いてる感じと……あと咳が少じゃな?」

首にかけた聴診器を耳にはめながら

「どれ、音を聞いてみようか……胸出して……ふむ……背中向けて……(風邪じゃな……んが良からぬモノがよらぬ様にチョイとばかり【祝福】を授けといてやろうか)」

背中をポンポンと軽く数回たたきながら

「なんじゃ?暑くなってきたか?そうかそうか。それはの、身体が回復しとる証拠じゃて」

10秒ほどして

「ほれ。終わったぞぃ……なんじゃ不思議そうな顔をして」

カルテにまた書き書きペンを走らせるジェーン。
患者を振り向くことなく

「終わりじゃ。終わりじゃ。良くなっとろうが?あ?病名を知りたい?」

患者の顔をまじまじと見て不思議そうにジェーンは言う

「病名を聞いたら何か変わるのか? ……まぁよい、そうさの…風邪じゃ。」

しっしと患者を追い払ないながら

「次が待っとる。はよ会計済ませて帰れ」


ふぅとため息をつく。

(いちいち病名を気にしてどうなるというのじゃ、健康であるならよかろうが……気にしすぎると、心の病気になるぞ、まったく)

「なんじゃ?あんな調子を繰り返したらまた藪医者だとなんだと査問委員会が来ると?」

苦言を呈するナースに手をプラプラとふって見せる。

「気にするでない。お主もこころを病むことになるぞぃ?」

寮から持ってきたチョコレートをひとかけ口に放り込みながら

「かか 儂は無駄な薬出して点数稼ぐ様な悪徳医者じゃ無いぞ いわば正義の藪医者よ!かかか」

チョコレートをひとかけナースの口に放り込むと

「本当に連中が来たら、そん時はそん時じゃ! ほれ次じゃ次」




眼鏡の女子生徒

(問診票には……ふむふむ……その他……のみか)

「安心せい、誰にも言わぬし希望ならカルテも書かずにおこう。言うてみよ」

患者を前に堂々と問題発言をするジェーン。

「うむうむ。よきかな。恋はお主を美しくする妙薬じゃ。良いぞ。……して相手は誰じゃ?」

眉間にしわを寄せ天井を凝視する、しかし、そこには何もない。

「つまり、お主は横恋慕しておってそれで諦めきれずその男の心を欲しいと?」

ふとナースと目が合う。無言で微笑むナース。

「ふむ。お主の気持ちは、ようわかるぞ。ならばその相手をここへ連れてくるが良い。そうすればお主の気持ちを儂が告げてやろう」

慌てる女生徒をかかかと笑ながら

「なんじゃ? 惚れ薬でも処方してもらえるとおもっとったか?」

「まったく近頃の若いもんは勘違いも甚だしいのぉ……よいか、都合のいい惚れ薬など存在せん。そもそもお主の気が変わった後どうする?相手はストーカーになるぞ?それでも良いのか?」

「ああ?ここに来れば恋が叶うって聞いてきた?誰じゃそんな無責任なことを言うやつは! ……ほほぅ……ハードロック研のベーシストの……もしやそいつは赤い鬣(たてがみ)の女じゃなかろうな?」

かかか!と天井に向かって笑うジェーンを困惑した顔で見る女性徒。
先程よりも距離が空いたように感じる。

「なに?ラジオで言っておったと!?」

部屋の温度が急激に下がり息が白くなり始める

「ナースよ、今日は臨時で休業じゃ……どうせ、このあとの客層は目に見えておる」

ジェーンは白衣を脱いでいつもの白い三角帽子をかぶる

「ああ、そうじゃそうじゃ!お主にはこれをやろう!」

そういって書いたメモにはこう書かれていた。

【Angieへ この娘を1か月でモテモテにしてやってくれ! by Jane】

「3年の佐藤アンゼリカってのがおる。居場所がわからなんだら人形屋敷を尋ねるがよい!」
そういって出ていこうとするジェーンは振り向いて

「儂か?儂は、悪魔退治じゃ!」

そういって委員会センターを飛び出していった。
向かう先は、HBCテレビ放送局。

もはや、いつもの事であった。




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最終更新:2022年10月19日 18:16