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ジェーン・ドゥの誕生日(前編)





カラフルな三角帽子。
動く眉毛にでかっ鼻のついたメガネ。
肩から【今日の主役】と書かれた襷。
目の前には手作りのチョコレートケーキが置いてあり、ロウソクに火がついていた。

四方からクラッカーが鳴らされて、紙テープが舞う。

【今日の主役】...紙テープにまみれたジェーンの姿がそこにはあった。

(どうしてこうなったのか...)

...それは先日の事だった。

いつもの如くジェーンの部屋に入り浸るセブン。
彼女が突然こんなことを口にしたのだ。
「そういえばお前の誕生日っていつよ?」
それは、日頃の感謝を示そうという思いからだったのか、それともただの気まぐれか。

この時ジェーンの脳裏に浮かんだのはセブンの日頃の行いであった。
毎夜毎夜飯をたかり、風呂まで入っていく。
時にはジェーンのベットを占領しそのまま朝を迎える。
部屋に来なくても隣の部屋に住むセブンの鳴らす楽器で安眠を妨害される。

これらを踏まえた結果『まともに答えるととんでもないことが待っている』
と結論づけた。
そして適当に答えることにしたのだった。
「明後日じゃ」


そして、今日である。

「お誕生日おめでとうございます!」
「誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
「「お誕生日おめでとうですわ」」
「おめでとう...いつもありがとな」

ここは葉車九重の屋敷。
つまり、セブンの妹の家。
そこに面識のある兄妹達が集まってサプライズ誕生日会。

セリフの順で紹介すると上から
「屋敷の主人、九重」
「傷のあるイケメン、三月」
「三月の婚約者、忍」
「双子の五葉と六花」
「厄介な友人、セブン」
そして多数のメイド達。

「ありがとう!ありがとうございます!」
満面の笑みと心から(に聞こえる)感謝のセリフ。

しかし内心は
(ああああ!嘘じゃろ!?セブンおまえ!あああああ!どどどないせぇ言うんじゃ!?ああああ!?た、助けてぇ!お母様ぁ!)

「ほ...ほら!ロウソク 消せよ」
「う うむ」


セブンは珍しくジェーンに優しくする事でぎこちなく、ジェーンはこの状況に居た堪れなくてぎこちない。
そんな二人を、お互いに照れてぎこちないんだろうと見守る兄妹達。

ケーキは一旦下げられて代わりに豪華な料理が並ぶ。
葉車屋敷では、主人一族と使用人達が一緒に食事を取るために食堂が設けれていて、使用されるテーブルはそれに合わせて大きなものが用意されている。
このテーブルを埋め尽くすように料理が並べられた。
メイド達も一緒に食事を取るためであるが、ジェーンからしてみれば
(わしがあんなことを言ったばっかりにぃこんな!一体いくらかかっとるんじゃぁ!?)と言ったところであった。

そして、よくよく見ると懐かしい料理が、ちらほらとあるではないか。
メソポタミア料理、エジプト料理、地中海、北欧、中央アジア、インド、東南アジア、広東、そして日本。
まるでジェーンの歴史を辿るかのように選ばれた料理達。
立食とする事で色んな料理を手に取りやすくなっていた。

(これではまるで、わしの過去のことを...転生を繰り返しながら歩んで来た事を、丸っと知っておるかのようではないか...まさかの)
「驚きまして?」
ふと、思索に耽ってしまったジェーンをいつの間にか、両サイドから挟むように立っていた五葉と六花。
(気配を感じんかった!?)
「お客人を驚かすなんていけないお姉様がいたものですね」
「まぁ!?そんな姉の顔が見てみたいものですわ!」
「どうぞ」
そう言ってジェーンの頭上で手を取り合って見つめ合う二人。
そう、ジェーンは135cmしか無く、双子の身長は177センチ。
双子からすればジェーンは胸の高さほどしか無く、視界に入らなくても仕方がないのだが...。
「え?...え?」さすがにめんくらって言葉が出てこないジェーン。

「あらあら、ごめんなさいね」
「まぁまぁ、ごめんなさい」
「あぁ...うむ...大丈夫じゃ」
転生を繰り返してきたジェーンは膨大な量の記憶を持つ。
そんなジェーンをして「こんな奴らは初めてじゃ」と語ることになる双子の芸であった。

「して...何じゃったかの?」
あまりにも双子のインパクトが強すぎて、何と声をかけられたかわすれてしまっていた。
「美味しいお料理、揃えてみましたのよ?」
「懐かしんでいただけるかと、揃えましたの」
赤い華を染めた白い着物と、赤い華を染めた黒い着物の二人は、まるで尋問でもするかの様な雰囲気を纏っていた。
(な...なんでじゃ?わしが何したって言うんじゃ!?)
ジェーンが言葉にできないまま黙っていると、二人はそれに構わず言葉を続ける。
「セブンは良い子でしょう?私達の可愛い妹の一人なの」
「セブンは良い子よね。私達が守りたい子の一人なの」
白と黒は交互に言葉を紡いでいく。
「ジェーンさん、貴女の事調べさせてもらったわ」
「ジェーンさん、貴女の事色々知ってるのよ」

ジェーンは白と黒に挟まれて、小さい体をさらに小さくしていた。

セブンに助けを求めて視線を彷徨わすが...
「あの子は今、貴女のために出し物するんだって準備してるわ」これは白い方。
「あの子は今、貴女のことを思って準備していますわ」これは黒い方。
「うぐ...うぅ...」正直に答えるべきか?しかしそうするとセブンの日頃の行いにも言及することになる...。
そうすれば、彼女達の口から葉車父へ話がいくかもしれない。
そうすればセブンと実家の仲はさらに悪化してしまうかもしれない。
それは本意ではない。
では、嘘を口にするのか?
もう一人の当事者で有るセブンと口裏を合わせることもなく、矛盾のない嘘をつけるのか?
そもそも、どれの事か分からない状態で何を偽れると言うのか?

瞬きほどの時間であーでもない、こーでもないと悩む。
「ジェーンさん、何も取って食おうと言うのではありませんよ」
「ジェーンさん、取って食う必要が有るとは、まだ思っていませんよ」
いっそ記憶を改編してしまうか?いやいや!利己的過ぎる理由でやる事ではない!
「え..えーっと」
「「ジェーンさん...」」
ゴクリ...ジェーンの喉が大きな音を立てる。
「「貴女...」」
「...」
「「誕生日5月5日ですよね!」」
「す...すまぬぅ!!」
ジェーンは正直、ホッとしていた。
下手な事を口にする前に、向こうから水を向けてくれたのだから。




司会者がマイクに向かって息巻く。
「お次のエントリーは『Angels and Demons』!ロリッ娘ドクターと我らがセブンが遂にデュオを組んで、文化祭だけのデビューだ!」

文化祭。
期間中学園各地で行われる催しの一つとして、ここ委員会センター前の大階段でステージが設けられる。
普段お堅い委員たちが催し物を行うことで一般生徒にも親しみを持ってもらおうと言うのがこのステージの主旨であった。

「どうしてこうなった...」
「お前がくだらない嘘をつくからだろう!」
「はぁ!?あれはお主が日頃の行い悪過ぎるからじゃろ!」
「ああ!?だからって嘘をついて良いわけないだろ!」
「あれは正当防衛の一種じゃ!」
「却下だ!」
「「やめなさい!」」
よく通る声が二人を止める。

舞台の袖で出番待ちの二人を一喝したのは、この出場を計画したセブンの双子の姉、五葉と六花。
「「どうやら、お仕置きが足りない様ですね?」」
抱き合って小さくなるセブンとジェーンは、取れてしまうんじゃないかと言うくらいに首を横に振る。
よほどの目にあったのだろうけれど、何があったかは二人とも、頑なに口を噤むばかりだ。

「「では、ステージ頑張ってね♪」」

そうして二人は文化祭だけのデビューを果たしたのだった。

ステージ衣装など特別なものではなく、ジェーンはいつもの白ゴスでセブンは査問委員会徽章をつけた革ジャン姿。

ジェーンはかつて神殿で神に捧げる歌を、神殿が失われてからも日課の一部としてその歌を歌ってきた。
例え口を聞けない様な状態であっても、鼻歌や心の中で歌ってきたのだ。
アイドルの様な華やかさはない。
むしろ地味だ。
しかし、聞いたことのない言語で歌われるそれは、耳に新しく心に染みる歌声だった。

数曲を演じて出番は終わる。
上演中は静まっていた観客も、終わるや否や爆発した様に歓声を上げた。

「あらあら?予想以上に好評のようですね?」
「まぁまぁ、予想以上に好評の様ですわ」
二人の姉は自分たちの肩書きを利用して、二人の舞台を急遽セッティングしたのだが、思いの外の好評にこれで終わらせるのは勿体無いと双子特有の以心伝心。

袖にはけてくる二人は、やり切った顔でお互いを称えていた。
そこにはあの日居合わせた九重、三月、忍、そして五葉と六花。

あの日、事情を話したジェーンは全員に頭を下げたのだがセブン以外全員が知ってたと言う。
「むしろ何で奈菜お姉様が知らないんですか?」とは九重の言。
この後、セブンこと奈菜は三月に優しく怒られ、五葉と六花からはジェーン共々酷い目にあったのだった。

「奈菜お姉様!ジェーンお姉様!お疲れ様でした!とっても素敵でした!」
「驚いたよ!まさか君にこんな才能があったなんて!まるで天上の女神の歌声の様だったよ!」
「歌も良かったし奈菜さんのギターもすごく良かったわ!」
順に、九重、三月、忍である。
そして、今まで電話をかけていた五葉と六花は、汗を拭く二人に
「「さぁ!次のステージが待ってるわよ!」」
双子はこれはウケると、今後のスケジュールを先程の電話で組み立てたのだった。

「ええ!?ステージは1回だけって「「言ってない」」」
「いや「「言ってない」」」
「ジェーン、姉貴達がこうなったらもうダメだ...大人しく演ろう」
「お...お前は、ミュージシャンじゃからええんかもしれんが、わし一般人じゃぞ!?」
「「巫女様が?一般人?」」くすくすと笑みをこぼしながら首を傾げる双子。
「お姉様?巫女様って何のことですか?」
九重が五葉の袖を摘んで聞くも、内緒とはぐらかされる。

「あ...悪魔じゃぁ...セブンだけじゃなかったかぁ...」
「悪魔だなんて...ねぇ?六花?」
「五葉お姉様さまは確かに悪魔ですわね」
「まぁ妹の突然の裏切りですわ!」
「まぁ!そんな酷い妹がいますの?顔が見てみたいですわ!」
「どうぞ」手を取り合って見つめ合う二人。
「...なんじゃこれ」


こうしてロリッ娘ドクターと査問委員長の凸凹コンビによるステージは、文化祭期間中のあらゆるステージで上演されたのだった。



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最終更新:2022年10月19日 18:17