『ジェーン・ドゥと彼奴の誕生日(クリスマス) 第七部』


■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。女難の相あり。

本名:瑠璃堂院月子

イラストは、( 「ケモ魔女メーカー」 )にて作成


■セブンさん:ジェーンが【運命の方翼】と呼ぶ女。輪廻の中でジェーンと親子だったり恋人だったりと切っても切れない中。
セブンにはその記憶は無い。


イラストは、( 「女メーカー」 )にて作成


■那須さん:ジェーン大好き。女装男子。
中国拳法と東洋医術を修めている。
推しの幸せは...私の幸せ...



イラストは、( 「ひよこ男子」 )にて作成


■不老転生体:
殺さない限りは死なないが、死ねば数年から数十年の間を開けて人から生まれてくる。
同族により特殊な武器で首をはねられると消滅、転生できなくなる。
同族殺しを行ったものは力を得ていく。
ジェーンはこの戦いに否定的であるため魔法と口先で逃げ回っている。



ジェーン・ドゥと彼奴の誕生日 第七部
12月24日 朝 雨
葉車本邸 地下ガレージ


「雨降ってたな」
「そうじゃの」
「……濡れるな」
「そうじゃの」
「ベスパ……いく?」
「構わんが、多分、高確率で、受け取ったドレスもびしょびしょじゃぞ?」
「車出すか……」
「運転できるのか?」
「ああ……ただ、宇津帆島じゃ乗ることないから久々で緊張する」
「……」
「それにバイクと車とでは視界が違って、よく見えないんだよ、正直怖い」
「儂、待っとるから行って来てくれ」
「バカいうな、確認作業があるだろうが」
「ベスパで行こう?荷物は濡れないようにビニール袋にでも入れれば良い」
「しかし、雨の日にサイドカーってのは……」
「もう、運転手さんに任せれば良かろう!」
「あぁ!」
ポンと手を打つセブンに「忘れておったのか?」となかば呆れ顔のジェーン。
「だってお前、八重や九重や一重(かずえ)兄さんと違って俺は自由だからな、使う事なくて忘れちまうんだよ」
「ん?どういう事じゃ?」
「?……ああ、一重兄さんや八重や九重は家が用意した車以外に乗れないんだよ。もちろん俺らにも用意されてるんだけどな、三月兄さんは旧車、五葉姉と六花姉ならハイパーカーを持ってるな」
「……贅沢じゃのぉ」
「別にすね齧ってるわけじゃねぇぞ?」
「違うのか?」
「一応、葉車の中に役職があるからな、その報酬で買ってたりするんだぞ?」
「漫画の金持ちキャラみたいじゃの?」
「……知ってるか?世界はマトリックスでできてるんだぜ?」大袈裟にニヤリと笑って、昨夜二人で見た映画に出そうな台詞を吐く。
「巫女たる儂にその手の話をするのか?良かろう、10日でも20日でも議論してやろうではないか?」
世界的高評価の映画をジェーンはあまりお気に召さなかったようだ。
セブンは苦笑いしながら肩をすくめるだけだった。

地下ガレージを歩く事数分。
「もしや、迷っとるんじゃなかろうな?」
「ぎく」
「カカカカ!冗談が出るくらいなら大丈夫じゃろうが……整備士の人が「持って来ましょうか?」ってせっかく言うてくてれおったのに、断ったりするから、こんなことになるんじゃぞ」
「うるせぇ!ドラマの小姑みたいに小言を言うな!」

何かを指で拭く真似をして「セブンさん?貴女、お掃除の仕方もご存じないんざます?」メガネくいっ のジェスチャー付きで煽っていく。
肩パンが飛んでくると身構えたジェーンであったが一向に飛んで来ないのを不思議がっていると
「やめたんだよ……お前のこと、大事にしようと思ってな」
「カカカカ!」そう笑ってセブンの背中をバシバシと叩く。
お互いに顔を見れなかったが、その顔は真っ赤だった。

兄弟達の車が並ぶ一画。
大きくて黒い優雅な、女神のエンブレムがついている車。
赤いスポーツカー、馬のエンブレムの車など、車に詳しくないジェーンでも、名前を知っている有名メーカーの車たちが並んでいる。
錚々たるラインナップに、セブンの車もきっと凄いものなのだろうと、期待に胸を膨らませているジェーン。

一台の車の前で立ち止まるセブン。
その視線の先を見て思わず「え?これ?」と口に出てしまうジェーン。

「ベスパ400だ!」
そこにはとても小さな二人乗り用のコンパクトカーがあった。
1956年に発表されたこの車は、古いながらも洗練されたデザインで、屋根は布製で開閉可能な作りであった。
初期重量は350kg。
本来なら400ccのエンジンだが、坂の多い神戸の街に合わせて換装強化されており、今や750cc、V型4気筒エンジン、スーパーチャージャー搭載……車格に見合わぬモンスターぶりである。

「……なんか、改造されまくっとるのはわかった」
「可愛くもかっこいいだろう!」
「車に理想の異性像を重ねることがあるようじゃが、なるふぉどのぉ……小さくて可愛らしくてわけわからんスペック……この車は儂じゃったか」
「……ぐうの音もでねぇ」
「え?マジで?!……冗談じゃったんじゃが」
「この!……もう!」
肩パンしそうになって思いとどまる。
そんな彼女を見てニヤニヤするジェーンだった。

二人を乗せたベスパ400改め、ベスパ750で山を降りていく。
「意外と快適じゃの」
「改造しまくったからな!」
「儂も改造されるんじゃろうか?」
「その場合はちょ……いい天気だなぁ」
外は雨である。
「おい!なに言いかけた!?『ちょ』ってなんじゃ!?『調教』か!?降ろせ!お家帰るぅ!」
「オレ オマエ クウ」
「『調理』じゃったかぁ!」

あははは カカカカ

小さな車。
狭い空間。
それでも二人にとっては十分だった。


※※※※
12月24日 朝
三宮 旧居留地

意外と早くついてしまった二人は、近くのスナバコーヒーで時間を潰す事にした。
「『抹茶ラテ』。お前はいつも通りでいいか?」
「いや、同じ物を」
「ん?前に好きじゃないって言ってなかったか?」
「お主が好きな物なら、飲めるようになった方が良かろう?」
「……しおらしいじゃねぇか」
「嫌か?」
「いいと思うぜ……ただ、無理しなくていいぜ?」
「お主が変わるなら儂も応えてやらねばの」
「かわいい奴め」
「カカカカ、それも今やお主のものじゃ」
「俺はお前のものだけどな」
「え?要らん」
「!……冗談でも、そういうこと言うなよ……傷つくだろ」
「すまん、すまん!カカカカかわいい奴め」
「あのぉ……ご注文、いかが致しましょう?」
そういえば、注文の途中なのであった。

※※※※
ジェーンの抹茶ラテが半分ほど減った頃、幸男(ゆき)から電話がかかって来た。
『センセェ!トラブルがあってセンセェに知らせないとと思って!』
「なんじゃ?また腹でも壊したか?」
『実はセンセェ、それ嘘なんです!』
「なんと?」
『実は……』
幸男(ゆき)は先日、ジェーンと同じ『銀髪金眼』を持つ魔法使いの大男に襲われた事件を伝えた。
「……それで、その後どうなった?」
『はい、さっき病院から連絡があって、そいつが消えたそうです』
「……」
『センセェ、多分ですけど……』
「うむ……分かった、面倒ごとに巻き込んでしもうたの」
『いえ、私はセンセェの役に立ちたかっただけです、でも……ごめんなさい』
「よい、気を付けて来い。着いたら連絡するんじゃぞ」

そう言って電話を切った。

※※※※
「なるほど……お前を狙う何者かがいるのは分かった。で、なんで狙われているのか話せないと?」
「……うむ」
ジェーンは青ざめていた。
相手が恐ろしいからでは無い。
今の生活を捨てる事になるのが恐ろしいのだ。
全てを話せれば、万が一にも理解は得られるかもしれない。
しかし、そうならなかったら?
理解されないだけでなく、拒絶されたら?

ジェーンは今までの転生人生で、自分から相手を好きになったことはなかった。
……何故か?

答えは簡単だった。
執着は、足枷となる。
それはジェーン自身の消滅に繋がるかもしれない。
だから、好意を寄せられても答えるだけだったはずだ。


しかし、今人生では気が緩んでいた。
宇津帆島という不老転生体が目立ちにくい場所にいる事、『運命の片翼』が自身に好意を寄せてる事、それらがジェーンのブレーキを緩め、セブンに好意を寄せている事を自覚させた。
こうなってしまっては、この人生に執着が生まれる。
いつもなら即、居場所を変え姿をくらますところだ。
けれど、離れたくなかった。
セブンのそばにいたかった。
セブンは人間だ、その人生は長くても後100年。
せめてこの間だけは一緒にいたい。
その思いが……危機にさらされている。

それが、恐ろしかった。

※※※※
『Imperial Warrant Tailor 湊』
「……えーと」
ドレスを注文しに来た時はラブラブだった二人が、今日は一言も口を聞かない。

そんな状況で仕上がりの最終チェックをしている女性定員は泣きそうになっていた。
空気が重すぎたのだ。
ジェーンが話しかけても無視するセブン。
ジェーンは女性店員に言われるままにドレスに袖を通す。
「とても素敵ですよ!」場を少しでも明るくしようと、いつにも増して明るく言って見せたが、赤毛の女は振り向きもしない。
銀髪金眼の少女はそれを見て涙を堪える。

「(泣きそうなのはこっちよ!)」


※※※※
買い物を済ませ車を停めた地下駐車場まで戻って来た二人。
セブンは前を歩き、ジェーンは数歩後ろを遅れまいと荷物を持って追いかける。

小走りになり荷物を落とす。
セブンは立ち止まるものの、振り向かない。
「……すまん……追われる身の儂が……やっぱり、ダメだったんじゃな……」
散らばった荷物を魔法で集めて足元に積み上げると

「安心してよいぞ……決して巻き込まれぬようにする……」

震える声

「この三年間……特に最近は楽しかったぞ」

セブンは振り向かない。
その拳はなにを物語るのか。

「……あ……」

続く台詞を飲み込む。

「達者での」

言葉に出来ない思いは頬を伝い、雫となって、彼女が幻でなかった証左となった。

「……こっち の台 詞だ ばか うぅう……い……生きて……うゔゔぅ」



※※※※

ジェーンドゥと彼奴の誕生日(クリスマス) 第七部  了

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最終更新:2022年10月19日 18:21