『ジェーン・ドゥとドラクルおじさん 再会編』


■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。女難の相あり。

発生時の名前は「ウル・アスタルテ」
今生名:瑠璃堂院月子

イラストは、( 「ケモ魔女メーカー」 )にて作成


■セブンさん:ジェーンが【運命の方翼】と呼ぶ女。輪廻の中でジェーンと親子だったり恋人だったりと切っても切れない中。
セブンにはその記憶は無い。
モテる相方を持つと気苦労が絶えない...そんな人。


イラストは、( 「女メーカー」 )にて作成



【再会】

蓬莱学園
その女子寮である弁天寮の一室。

高校の寮であるにも関わらず部屋の主は誰が見ても女子小学生だった。
しかし、よく見かける小学生とは違いその髪の色は銀髪で、顔立ちはどこか中央アジア系を思わせた。

彼女は自室に誰もいないことを改めて確認すると、右目を覆う黒い布をしゅるりと外た。

彼女の瞳は黄金を溶かした様な金色をしている。
さらに布の下から顕になったその右目は、瞳の中に幾重にも煌めく魔法陣と無数の流星が乱舞していた。
桜色の唇がかすかな音を奏でると一つの流星が瞳の外へ飛び出して、テーブルの上に音もなく顕れた。
それは白い台座に赤い宝石を嵌め込めて金で彩られた首飾り。
現代では「ドラクルの遺骨」と呼ばれる特級の呪物だった。

「改めて、久しぶりじゃの」

少女はその首飾りへ声をかける。
まるで人に話しかけるように。

しばしの沈黙が空間を支配する。

「……久しぶりじゃのぉ?それとも儂を忘れたか?」

首飾りに話しかけるその姿は、傍目には痛い人である。
再び部屋を沈黙が支配する。

彼女はかわいらしい声で咳払いをして
「……解呪(ディスペル)してやろうか?」と首飾りに微笑みかける。
言葉にわずかながら怒気が含まれることを除けば、誰が見ても恋に落ちそうな笑顔だった。

慌てたような声が上がり、彼にとっての最大級の暴力を回避すべく言葉を続ける。

《俺はお前など知らぬ!「久しぶり」と言われても応えようがないわ!》
「亡霊のくせにボケたのか?」
《知らんものは知らん!》
「お主が貸出先から盗み出されて100年も経っとらんというのに、もう忘れたのか?」
首飾りの人格は困惑したように呻き声を上げる。
《……いや、あの魔女なはずが無い!あの魔女は数100年は生きていたはずだ!お前の様な小娘では無い!》

思い出されない事に対してか、あるいは魔女と呼ばれた事に対してか、彼女は怒りを湛えて聖句を唱え始める。

『我が母にして愛と美、豊穣と、王権と戦の女神、イシュタルに……』
白い部屋に聖句が響き、空気が変わり始めたころ、首飾りは過去に同様の脅迫を受けた事お思い出して無い肝を冷やした。
《やめろ!やめてくれ!思い出したから!それ以上は灰になってしまう!》
「本当に?本当に思い出したの?」

女子小学生は疑いの目を首飾りへ向ける。
《……『白銀の魔女』あるいは『ヴィルヘルムの魔女』だろう!》

首飾りは顔があればきっとドヤ顔していただろう。
しかし、白銀の魔女、ヴィルヘルムの魔女と呼ばれた彼女はますますその美しい眉を吊り上げていく。

首飾りはそれを察して慌てて言葉を足す。
《そう!そう呼んでいた連中もいたな!だが俺は常日頃からお前ほど立派な女司祭もいないと思っていた!たとえ異教徒であってもそれでも関心していたんだ!言わば『聖女』だな!再び会えて嬉しいぞ!》
「……私の名前は?思い出したんなら言えるよね?」
《……エヴァ・ブラウン?》

カカカカと女子小学生は笑い、釣られて首飾りも笑う。
そして部屋を満たした聖句はその純度を増していくのだった。

こうして約80年ぶりに持ち主のもとへ帰ってきた呪物との再会は、決して楽しいといえるものではなかったのでした。


【シーンその2】
《……殺されかけた……俺、もう死んでるのに殺されかけた……》
「カカカ 面白いことを言うの」

首飾りに宿る怨霊の名前を「ヴラド・ドラクレシュティ」といい15世紀前半の人物で、かの有名なドラキュラ伯爵のパパである。
ヴラド自身も非業の死を遂げており、その怨念が長い時を経て遺骨に宿り呪物と化したのだ。
そして彼を死に追いやったものの末裔を呪うぞと意気込んでいたところ、彼女に拾われたのだった。

「で、なんじゃ聞きたいことというのは」
《俺が知っている魔……聖女とは違いすぎるんだが?》
「……何が違うというんじゃ?わしは儂じゃ」
《いや……たしかにお前なんだが、なんていうかゲーム2週目でデータそのままの新キャラみたいな?》
「カカカッ なんじゃおぬし、随分とモダンな例えをするではないか」
《先日までV‐Tuberのところにいたからな、奴の配信を後ろで見ていて覚えたんだ》
そうこの呪物、以前ドイツにいたころに知人に貸し出され、その最中に盗難にあいそのまま欧州中を持ち主を変えて転々とし、最終的にドイツのVirtual YouTuber(バーチャルユーチューバー)のもとにいたのだ。
この呪物のせいかどうかは置いておくとして、ついに資金のやりくりに困ったV‐Tuberがネットオークションに出品。
それを元の持ち主の彼女が落札して現在に至るのだ。

「ふむ……面白そうじゃの、V‐Tuberの話は今度詳しく聞かせてくれ さて、どう説明するかの……そうじゃな……儂は我が母(イシュタル)の恩寵によりいつまでも若いんじゃ」
《いやいやいや……明らかに以前より若返ってるし、微妙に人種も違ってるように思うんだが?》
「カカカ!気のせいじゃろ!人でないおぬしなら感覚でわかるじゃろう?儂がおぬしの所有者であると」
《納得いかないんだが?》
「人ですらないおぬしが見た目で人を判断するとは、何かの冗談かの?」

こんなやり取りを続けているうち時は経ち、窓の外は暗くなっていた。
この部屋のもう一人の住人が帰ってきてもおかしくない時間になっていたというのに、久しぶりの再会に両者ともに夢中になっていて時間の経過など気に留めていなかった。
もとより時間など関係ない『呪物』と悠久の時を生きる『不老転生体』なのだ、数時間程度は彼女たちにとって誤差程度のものだった。


【シーンその3】
(うちへ帰ってきてみれば、俺の愛しい女が部屋で、電気もつけずに首飾り相手に独り言を言ってる……最近、忙しくてかまってやれなかったからイマジナリーフレンドでも生み出したんだろうか……)
赤いライオンヘアがトレードマークの葉車奈菜がこの部屋の隣にある自室ではなく、交際相手の彼女の部屋に帰ってきて最初に目にしたものへの感想だった。
今日は委員会ではなく所属するハードロック研の活動日だった。
そのせいもあって彼女の衣装はいつにも増してトゲトゲのアクセサリーとシルバーチェーンが目立っていた。
(とりあえず……楽しそうだしこっちに気付くのを待ってみるか)
しかし一向に気がつく様子がない。

半同棲状態にある恋人が帰ってきても全く気付かず、首飾りとの会話に夢中の女子小学生ことジェーン・ドゥ。

「儂はその頃 Uボートで日本へ来ておったんじゃ、じゃから探すに探せなかったんじゃて」

(Uボート?……あぁ先日見た映画に出てたな 確かドイツの潜水艦だったっけ?映画を見ながら詳しく解説してくれてたなぁ)

セブンの腹の虫がかわいらしい音で鳴く。
そろそろ我慢の限界だった。
時計を見れば9時を回っていて、食べ盛りの高校生が夕飯をお預けされるには辛い時間だった。
セブンはジェーンに声をかける事にしたが、独り言を聞かれてたと知れば気まずかろうと今帰ってきた風を装う。

「ただいま!腹減った〜!今日の晩飯は何かな?」

ジェーンの肩が驚きに跳ね上がり、ついで慌てた表情で振り返る。
セブンの顔と時計を見比べて「しまった!」と一言。
慌てて椅子から飛び降りると、キッチンへ小走りで向かいながら
「すまぬ!古い友人との会話に夢中になっておった!すぐ作るから待ってくれぬか?」
「腹ペコなんだ、ガッツリ食えるのがいいな!」
キッチンへ向かうジェーンの背中を見送って、彼女がいた机を見る。
そこはいつもの様に殺風景な机があるだけだった。

【シーンその4】
窓から差し込む朝日が室内を照らす。
開け放たれた窓からは朝の空気が吹き込んで、白いレースのカーテンを弄んでいた。
ジェーンとセブンはお互いに寄り添う様に寝ている。
いつもなら日の出と共に起きてくるジェーンも、夜ふかしには勝てない様だった。
二人とも幸せな寝顔かと思いきや、ジェーンの寝顔は苦悶に歪んでいた。
それはまるで、安眠を妨害され寝るに寝れないかの様だった。
それもそのはず、昨日再会を果たした【ドラクルの遺骨】が喋りかけ続けていたのだ。
通常ならしっかりと封印を施してから右目に収納するのだが、セブンの帰宅に慌てていたためその封印が甘かった。
さらには昨夜の行いがジェーンの気を逸らし、元から甘い封印がさらに緩くなるという……さらにさらに再開に際して
弱っていた呪物に対し、いわゆる「魔力」を注入してその危機を救ったという経緯がある。
つまり今、【ドラクルの遺骨】にはジェーンの力が流れており結界に対して親和性が高く、封印を解きやすくなっていた。
その分、ドラクルの人格がジェーンのそれに引っ張られている感も否めないのだが。

《おいおい!いつまで寝てるんだ!朝だぞ!日の出と共に起きるんじゃないのか!聖職者としてそんな事でいいのか!》
ドラクルの声は音声ではなく念話(テレパシー)だ、ジェーンがいくら耳を塞いでも聞こえてくる。
念話(テレパシー)を拒否する事もできるが、何せ半分寝てる状態なのだ。
そんな手間をかけたくないし、さすがの特級呪物と言うべきか……精神に働きかける力は弱っていても一級品だった。
例えジェーンでも手間をかけてしっかりと対策を取らないと聞こえてしまうのだった。

《昨日は見せつけてくれやがって!こちとら500年以上ご無沙汰だってのに!生臭坊主め!》
かつてのドラクルならジェーンの機嫌を損ねる様なことはしなかっただろう。
何せ彼の全盛期でさえジェーンには敵わないのだから。
もっとも……今のジェーンも不老転生体としては幼体であって、その力は十全ではないのだが。
その事をドラクルは知らない。
もし知っていたら、自信が全盛期でない事に歯噛みして悔しがった事だろう。

そして言いたい放題な状態に調子付いたドラクルはますます念話(テレパシー)の音量を上げていくのだった。
ジェーンの眉が吊り上がっていくのに気がつかないまま。


【シーンその5】
《……すいませんでした……あの……本当に…あの……反省してます……ですから そのハンマーを下ろしていただいて……》
「……」

「そのハンマー」とは、ジェーンが結局日の出後30分ほどで起こされてしまい、そのままシャワーを浴びて身を清め朝のお勤めをし、朝食の準備をして洗濯とセブンの部屋の掃除を行なって8時。
自室の掃除はセブンが起きてからと決めてそれまでの間セブンの寝顔でも眺めてようかと覗き込んだ時に、ドラクルが発した言葉にキレたジェーンがキッチンから持ってきたのだ。
【ドラクルの遺骨】がいくら特級呪物とは言え、聖句を唱えながら振り下ろされたハンマーで粉々にされては復活のしようもない。
「この女の髪の毛1本でも手を出してみろ……成仏どころか、あらゆる世界の地獄を巡らせてやるからの」
《……はい》
「……しかし、この女を助け守るなら安寧を祈ろう」
《はぃ》
ドラクルはジェーンの気迫に小さくなってそう答えるのが精一杯だった。

【シーンその6】
セブンがなにやら不穏な気配に目を覚まして見ると、ジェーンが机の上の首飾り相手にハンマーを振り上げているところだった。
昨日はあんなに楽しそうに話していた首飾りを相手に鬼気迫る表情で話しかけている。

「この女の髪の毛1本でも手を出してみろ……成仏どころか、あらゆる世界の地獄を巡らせてやるからの」

セブンには「この女」が自分のことだとわかったし「地獄めぐりをさせてやる」
というのもジェーンんならやりかねないとも思った。
剣呑な雰囲気ではあったものの、うれしく思うセブンだった。


そんなジェーンをみてふと(あの首飾り本当にしゃべってるんじゃないか?)と思えてきた。
それはそうだ、ジェーンが少し寂しい思いをしたからと言っていきなりイマジナリーフレンドを生み出すわけもない。
むしろジェーンなら道具の声が聞こえても不思議ではないように思えた。
(そういえば占いとかに詳しい八重が「大切にされて長い時を経た道具には心が宿る」って言ってたな……つまりそういうやつか)
当たらずとも遠からずとはこういったことを言うのだろう。

『八重』というのはセブンの妹で兄弟姉妹の中で、最近まで唯一特技と呼べるものがないと思われていた不憫な女の子のことだ。
けれども、ジェーンとの出会いがきっかけで急速に超常の才能を開花させていた。
ジェーン曰く「儂は何もしとらんのだが」とのことだ。
閑話休題

シーツから顔を出してジェーンに話しかける。
「ジェーン?よくわからないけど俺のために怒ってくれてるんだろう?」
「……」
「大丈夫だよ、俺に何かあるなんてことはないよ」
「……こいつは……やばいやつなんじゃ」
怖がらせないようにできるだけ言葉を選んだ結果、語彙力を喪失させてしまったジェーンである。
「俺のことは、お前が守ってくれるんだろう?それとも……?」
「守ってみせるとも!当然じゃ!」
「なら、大丈夫だろう?」

「むぅ……セブンのおかげで命拾いしたのぉ セブンに感謝せよ」
《はぃ》

「ところでさ、そいつ……喋ってんのか?」
「ん?……ああ、ずっと喋っとった おかげで寝不足じゃ」
「……OFF?には出来ないのか?」
「できるぞ、ただそれはそれで手間じゃし役に立つ事もあるでな」
「お前がそれで良いなら良いよ」
そう言いながらセブンは両手を広げて「おいで」とジェーンを誘う。
ジェーンは黙ったまま席を立ちセブンに寄り添うとその豊かな胸に顔を埋める。
「今日は何の予定もない、ゆっくり寝て良いぞ」ジェーンを抱きしめたままベットへ倒れ込む。
「……OFFにしとこうかの」
「ああ、二人の時間に野暮ってもんだしな」
二人は視線を絡めて微笑む。
彼女たちに物理的な距離など必要ではなかった。

《……これを見せつけられて……生殺しじゃないか……くそぉ……リア充め……呪ってやる……呪ってやるぞ》
図らずも、呪物としての力を取り戻していくドラクルさんだった。

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最終更新:2022年10月19日 18:22