『ジェーン・ドゥとドラクルおじさん おじさん【壁】になる編』


■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。女難の相あり。

発生時の名前は「ウル・アスタルテ」
今生名:瑠璃堂院月子

イラストは、( 「ケモ魔女メーカー」 )にて作成


■セブンさん:ジェーンが【運命の方翼】と呼ぶ女。輪廻の中でジェーンと親子だったり恋人だったりと切っても切れない中。
セブンにはその記憶は無い。
モテる相方を持つと気苦労が絶えない...そんな人。


イラストは、( 「女メーカー」 )にて作成






【ドラクルの遺骨】が元の持ち主であるジェーンのところへ戻ってから暫くしての事。

留守中に部屋が荒らされたり、夜道を何者かに襲われたりと物騒なことが続いていた。
ジェーンには心当たりが……あり過ぎて特定できず、ならばドラクル関連かと成仏(ロスト)をちらつかせ、問いただしてみるも同じく心当たりがあるすぎるという。

幸い周囲の人間への被害は出ていないので、冷静でいられるが……もし、誰か親しい人へ被害が及んだ場合は冷静でいられる自信がなかった。

そんなわけで被害が及ばぬ様に半同棲中のセブンにはジェーンの部屋に来ることを禁止したし、職場である診療所(ほけんしつ)も臨時休業にした。

とは言え、授業に出ないわけにもいかないし休業中の診療所(ほけんしつ)の代わりの仕事を押し付けてくる保険委員会が無くなるわけでもない。

押し付けられた仕事は書類の整理と、薬品等物資の分配と配送の手配。
慣れない仕事に苛立ちを何度も爆発させながら、ようやく目処がついたのが午前2時前。
まるでブラック企業である。


ドラクルと再開してからというもの、良くないことが続いている気がするジェーンは、やはり【ドラクルの遺骨】関連なのだろうと当たりをつけていた。
【ドラクルの遺骨】は昔からその筋では大人気のアイテムだ。
奪ってでも手に入れたいという連中は掃いて捨てるほどいる。
前回、ジェーンの手元から失われたのも盗難によってだったのだし、今回はそうはさせぬと意気込んでいた。

とは言え、ジェーン自身がこのアイテムに執着があるわけではない。
強力すぎるが故に、自身に向けられるのを避けるための確保だ。
破壊できるならそれでもいいのだけれど【ドラクルの遺骨】は追い込まれると恥も外聞もなく命乞いをしてくる。
そうなるとジェーンの悪い癖と言うべきか、非情に成りきれず破壊に至らないまま今に至るのだった。

ジェーンからしてみればこのアイテムを狙う連中を「片っ端から返り討ちにすれば良い」位に思っていた。
何せ相手は非合法な手段で手に入れようとする無法者(アウトロー)なのだから。
ちなみにその筆頭と言えるのが学園内で言えば【DEMONIC DANCE DELFTERS】通称DDDと呼ばれる団体である。
彼らは悪魔崇拝者であり学園生徒である。
そう、DDDとは蓬莱学園のクラブの一つなのだ。
今回のアイテム争奪戦ともいうべき一連の騒動以前から、ジェーンとの間には確執があった。
一方は古代の神に使える巫女で司祭長まで務め、女神(イシュタル)の愛娘とまで称された人物であるのに対して、もう一方はその女神を悪魔大公爵(アスタロト)だとして崇拝しているのだ。

両者の間になにがあったのかは別の機会に語るとして……。
今ジェーンの目の前には【鬼】がいた。
それはどうみても鬼だった。
2mを超え、筋骨隆々で、角を生やしたそれはどうやら元学園生徒の様だった。
ビリビリに破けた制服のボロをその身に纏っていることからそれとわかる。

どうせ寮に帰っても誰もいないのだから、久しぶりに夜の散歩でもと月を目指して散策している最中の遭遇だった。

(さて……最近の出来事を思えば、儂を狙っての事じゃろうが……鬼……神道にも仏道にも心当たりがないの……はて?)
止めていた足を再び進めながら
「こんばんはぁ!今宵は月が綺麗ですねぇ!」
と、まるで小学生が不審者に遭遇した時の様な『こちらから挨拶をする』を実行したジェーンであった。
鬼は呆気に取られた様に少しの間を開けると仰け反って咆哮を発した。
それは雷鳴の如く周囲を震わせた。

ジェーンは慌てて過ぎ去ろうとするも、
鬼はその巨体からは思いもよらない速さで行手を阻んだ。

「……儂になんぞようかの?」
答えなど期待せずに発した言葉に返ってきたのは先ほどと同様の咆哮。

「儂に用がないなら通してくれんかのう?」
返ってきた答えはジェーンの腰回りほどもある腕の一振り。

難なく躱し距離をとる。
「お主との関係は?」
《さてなぁ……どうやら俺は人気者の様だし?お前は方々から狙われてる様だし、偶然て事はねえだろな》
「偶然ではない……か……まぁ鬼なんぞそうそう出くわさぬしの(偶然だとすれば運が悪すぎるじゃろ、あるいはドラクルの因果か)」

鬼の腕をひらりヒラリと躱しながら、側から見ればまるで独り言の様な会話を繰り返す。
躱した腕がアスファルトを削り、立木がその爪で輪切りになってなおジェーンはその姿勢を変えない。

「本物の鬼と鬼ごっこなど洒落とるではないか」
《まじ……マジ聖女なら鬼を救ってやったらどうだ?》
「……別に人の救済を掲げとるわけじゃないんじゃが?」
ドラクルのセリフの頭が気になったもののあえてスルーして語る。
「それにこの者にとって鬼になる事が救いじゃったかもしれぬじゃろ」
《なるほど……そういう考えもあるのか……》
「とは言えこれ以上色々壊されては、土木研辺りから苦情が来そうじゃし……」

改めて距離をとったジェーンは風に白いゴスロリのスカートをはためかせながら腰に手を当て啖呵を切った。
「儂こそは!愛と美と豊穣・王権と戦の女神!イシュタルの巫女にしてその愛娘!ジェーン・ドゥである!これ以上の狼藉を働くならば儂が成敗してくれるぞ!」
《……ダサくない?》
「……」

しかし鬼は跪き両手を合わせて祈る様に面を伏している。

「……」
《意外だな……ますます救ってやらねばならんのでは?》
「儂の手に負えるのかのぉ……」
そう言いながら得意の【魔法の目】で鬼を見る。
これでわかるのは魔法的要素だけだ。
ラノベの【鑑定眼】の様な便利なものではなかった。

「お主……人に戻りたいか?」
《サクッと戻してしまえば良いじゃないか》
鬼は跪いたまま動こうとしない。
「……その身に宿った恨みつらみが鬼へと変貌させたんじゃろうな……根本を解決するのは無理じゃが、その力こちらで処理させて貰おう」
《なんだよ、根本的解決してやんねぇのかよ》

周囲に光学迷彩の結界を張って、鬼も伏せている事を確認して【ドラクルの遺骨】――首飾り――を右目から取り出して、こう言った。

「この者の呪力を吸い尽くせ」


翌朝
ジェーンの部屋は少し広いワンルームだ。
普段はジェーンと半同棲中のセブンが入り浸っている。
白い部屋だ。
調度品もほとんど無い殺風景な部屋。
テーブルの花瓶に生けられた「銀梅花」が存在感を放っている。

朝のお勤めを含む日課を終わらせたジェーンは、椅子に座って窓の外を眺めながら故郷の歌を口ずらんでいた。

すると隣の部屋のベランダにセブンが姿を現した。
「よう!元気か!」
「うむ、まあまあの」
「なんだよ……元気ねぇのか?」
「いや……心配するほどでも無い」

そう昨夜その身に宿した呪力をドラクルに吸わせ鬼を人へと戻した後の事。
元鬼は気を失い介抱のために部屋まで運んだのだが、道中で鬼の呪力を吸収し力をつけたドラクルが調子に乗って反乱し始めたのだ。
さらには運悪く【ドラクルの遺骨】を狙う連中も現れて、それはもう大変だったのだ。
元鬼を庇いながら、ドラクルの反乱と――襲撃者達を片付けた後こっぴどくお仕置きしておいた――押し寄せる無法者(アウトロー)
結局、自室に戻ったのは日の出前だった。
ジェーンは疲れていたし寝不足だったのだ。
しかし、今日は平日で朝から登校の予定だ。
寝るわけにもいかず、頑張って起きていたところだったのだ。
「なんだよ……じゃぁおれが朝飯作ってやるよ!」そう言ってベランダを乗り越えて、ジェーン側のベランダへジャンプした。
「ここから落ちたら怪我ではすまぬじゃ、儂が見てない時にはするで無いぞ」
「分かってるって!数日ぶりだな……」
「うむ」
夏の朝日を浴びながらベランダで抱き合う二人。
たったの数日とはいえ寂しさを抑え切れるものではなかった様だ。
「よし!朝飯作るか!」
ジェーン成分をたっぷり吸収したセブンは、勢いをつけて部屋へ入っていく……が数歩でその歩みを止めた。
「どうしんじゃ?」
「……ジェーン……これは誰なんだ?」
セブンが指差す先には、元鬼の女生徒が全裸で横たわっていた。
彼女が鬼から戻った時には元々着ていた服はビリビリに破けていたし、身を清めてやる必要もあった。
それに、小学生程度の身長のジェーンは彼女に合う服など持っているはずもなく、一先ず全裸のまま寝かせておいたのだった。
「……お前…………恋人と少し会わないうちに、浮気とはなぁ!」
「あ……違うんじゃ!これには深いワケがあるんじゃ!」
「浮気した奴の常套句じゃねぇか!」
「違うんじゃ!間違いじゃ!」
「なんだよ!間違いを起こしたってことかよ!」
「違うんじゃ!違うんじゃ!」

ベットの横で騒いでるものだから元鬼の女生徒は目を覚まし、開口一番「記憶は曖昧ですが貴女の愛の告白だけはしっかりと覚えています、不束者ですがよろしくお願いします」なんて言い出したものだから修羅場は激しさを増していく。
「バカな!愛の告白などしとらんわ!」
「月は綺麗ですねって言ってくれました。お忘れですか?」
「……言っ……たの」
「告白してんじゃねぇか!」
「違うんじゃ!違うんじゃ!」


ジェーンの誤解が解けるのにかかった時間は3日間だったという。

《……俺、なんでこんな奴に勝てないんだろう……もっと、大事にしてくれるとこに貰われてぇなぁ》
冷凍庫の中で霜をその身に纏ったドラクルは、主人のてぇてぇに砂糖を吐く思いだったという。

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最終更新:2022年10月19日 18:22