『ジェーン・ドゥとドラクルおじさん 修学旅行へ行くようです編』
■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。
女難の相あり。←多分自業自得。
今生名:瑠璃堂院月子
■セブンさん:ジェーンが【運命の方翼】と呼ぶ女。輪廻の中でジェーンと親子だったり恋人だったりと切っても切れない中。
セブンにはその記憶は無い。
■那須さん:ジェーン大好き。女装男子。
中国拳法と東洋医術を修めている。
推しの幸せは...私の幸せ...
■不老転生体:
殺さない限りは死なないが、死ねば数年から数十年の間を開けて人から生まれてくる。
同族により特殊な武器で首をはねられると消滅、転生できなくなる。
同族殺しを行ったものは力を得ていく。
ジェーンはこの戦いに否定的であるため魔法と口先で逃げ回っている。
宇津帆島は南の島だ。
台風シーズンともなればその直撃を何度も受ける。
故に夏休みは島からの脱出が目的という側面を持つ修学旅行が実施される。
この修学旅行は全学年で実施され国内はもとより世界中のどこでもその目的地となった。
過去には【タクラマカン砂漠】が目的地だったこともあると言う。
そして去年、今年と世界的な疫病の蔓延もあり国内にとどめられたのだった。
※※※※
「と、いうわけで小江戸に来ておるわけじゃが……なんじゃ小江戸って?」
普段のゴスロリ衣装から白いワンピース姿に着替えたジェーンは【迷子1号】と書かれたうちわで涼をとりながら疑問を口にした。
「小京都みたいなもんじゃ無いんですかね?あとは県民性でしょうか?」
反射的に答えたのはジェーンの診療所のスタッフの1人で中国拳法の達人にして男の娘な那須幸男。
通称は『ゆき』
2人は比較的人の少ない観光地を巡ろうと言って、ここへ来たのだが……
「うちの田舎とあんまり変わらないですね」
「人の少ないところじゃし、そんなもんじゃろ」
「でもおかげでゆっくり出来て嬉しいです!」
誰がどう見ても美少女な男の娘、幸男はそれはもう嬉しそうにジェーンの手をとって破顔した。
それもそのはず、幸男は出会いこそ血生臭い関係であったもののジェーンに助けられてからは彼女を慕っている。
もしジェーンが望むなら己の生き方を変えて男に戻ってもいいと思うくらいに。
照りつける真夏の太陽とアスファルトからの反射熱を避けるため、2人は途中で見つけた茶屋の軒先に腰掛けて、かき氷を頂きながら今後の予定を話していた。
因みにジェーンはイチゴ練乳、幸男はミルク宇治金時だ。
両方ジェーンの好みであり幸男が途中で交換できる様にと気を利かせた選択だった。
ジェーンがイチゴを頬張りながら「さて次はどこ見に行こうかの」と言い、幸男が「じゃぁ次は城跡へ行きましょう。センセェお好きでしたよね?」と提案する。
息のあったコンビと言える。
城跡に来た2人は一巡して後、特に感想もなく周囲を散策していた。
宇津帆島でなら魔法使いも妖怪も高校生戦闘機乗りや侍だっている。
妖怪や潜水艦まで高校生なのだが...
当然ながら本土では皆無である。
学園の存在は基本的に秘密となっているし、騒ぎを起こさないようにしなければならない。
故にバレれば即騒動になりそうな己の能力を、極限まで控えて行動しているのが今のジェーンである。
素の体力で言えば一般人かそれより少し低いくらいの彼女は、この猛暑の中でずっとバテ気味であった。
「センセェ?やっぱり体調悪いんじゃ無いですか?医者が熱中症だなんて笑い話にもなりませんよ?」
「うーん……学園でならなんとでもしてみせるんじゃが……どうにも視線を感じるからのぉ」
「仕方ないですよ 私達目立ちますから」
ジェーンは銀髪金眼、右目を眼帯がわりの黒い布で覆っている。
顔立ちは中央アジア系ハーフ風で可愛いよりもカッコいい印象の美少女だ。
見た目小学生の割に発育の良い身体をしている。
幸男はジェーンに合わせて髪を銀髪に染めたスレンダー(元々男なのでパットで盛ってる)な元気系美人。
1人でも目立つのに2人揃えば目立つことこの上ない。
駅前の繁華街をぶらつきながらお昼はどこにしようかと話していると声をかけられた。
それは荷物を持った友人とはぐれてしまい困ってるから助けてほしいという2人組。
「それは大変じゃのぉ、待ち合わせ場所など決めておらんのか?」
「決める前に逸れてしまって……」
2人組は制服を着た男子高校生で関西訛りがあった。
「(センセェこれってナンパじゃ無いんですか?)」
「(分からん……が困ってるのが本当なら助けてやらねばなるまい?)」
「(……わかりました)」
「そうや、名前教えてくれへんかな 名前わからんと呼びにくいし」
途端に馴れ馴れしくなるのにはジェーンも幸男も少し驚いた。
背の高い男子が「俺 やまっちでこっちがもっち」と併せて自己紹介をしてきた。
自己紹介をされたので名乗らなくてなならない気がして、つい名乗ってしまうのだった。
「儂はジェーンじゃ」
「……ゆき」
「ジェーンちゃんはどこの国の人?」
「日本じゃ」
「……え?」
「……逆にゆきちゃんが外人さんだったりする?」
「ええ、そうよ」
「マジか」「そうじゃ無いかと思ったんよ」「そうじゃったんか!全然知らんかったわぃ!」
1番驚いているのは1番身近な人だった。
「いやセンセェ……冗談ですよ」
「先生!?」
「まっまぁ!知っておったがの!」
慌てて取り繕うもバレバレであった。
「ジェーンちゃんって何年生?」
「儂は3年、幸男も3年じゃ」
「ああ!……小学生と高校生?」
(これが宴夜なら不能の呪いでもかけてやるところじゃが……)笑顔のまま無言のジェーンの横で幸男が笑いながら言う。
「違う違うもっと上」
「中学生か!」
「もっと上じゃ」
「……高校生?……うっそだぁ!」
「センセェ良かったですね!若く見られてますよ!」
「先生!?」「やっぱり先生って言ったよな……」
彼らが驚くのは無理もない。
彼らの目的は幸男でありその妹(妹だと思っていた)には用はないのだ。
なのにその妹は『先生』だという。
途端に悪いことがバレてしまったかの様にバツが悪くなり「あっそのえーっと。)」;%‘」ゴニョゴニョと口にして逃げる様に去っていった。
「なんじゃ結局困っておらんかったのか」呆れて言ったものだった。
「だから言ったじゃないですか」楽しそうに言う幸男にジェーンは「困って要らんのなら良し」と某ゆるキャラの真似をするのだった。
「しかしセンセェ……お昼どうしましょう?」
「名物を頂きたいとこじゃの……抹茶が有名らしいが……」
《おい……無視するなよ……》
「抹茶ですか?でも、さっきも抹茶のかき氷食べたとこですよ?」
《おーい……なぁ……》
「そうじゃな……じゃぁサツマイモ料理も名物らしいがそっちでどうじゃ?」
「サツマイモですか?良いですね!それにしましょう!」
《なぁ……なってば……》
ドラクルの念話がジェーンの右目の中でさみしげな声を上げている。
ジェーンの右目は魔法の収納庫になっている。
これはかつて師匠から受け継いだ血統術式だ。
古い物語に登場する【マジックバック】や【ストレージ】の様な便利なものだが、幼体である今のジェーンには扱い切れず、油断してるとアイテムがこぼれ落ちる事もあるという制御の難しい魔法だった。
そんなものだから現在は取り出せる物が限られていて、手荷物程度の物しか取り出せない。
それでも十分凄いことではあるのだが……ジェーンは師匠に申し訳ないと思っていると言う。
因みにこの魔法は「目蔵」という。
放送コードに引っかかりそうであるが読みは「まなくら」である。
元々名前の無い魔法だったものへジェーンが勝手につけたのだが、本人は良いセンスだと自負していた。
そしてこの目蔵の中で【ドラクルの遺骨】ことドラクルおじさんがずっと話しかけているのだが、ジェーンは幸男と合流してからずっと無視しているのだ。
《なぁ聞こえてるんだろう?》
「サツマイモ料理って楽しみですね!」
「うむ、学園だとタロイモの料理は多いがサツマイモはあまり頂くきかいがないの」
《なぁ...ごめんて...気に障ることしたんなら...なぁ...》
「そういえばセンセェ……センセェって世界中回ってますよね?」
「うん?そうじゃの」
青い空に浮かぶ真っ白な入道雲を眩しげに眺めながら短くそう答えた。
「いろんなとこ巡ったセンセェでもやっぱり祖国はいいものですか?」
幸男はジェーンを、日本人で瑠璃堂院月子という人物だと知っている。
だからこそ、祖国=日本という意味で気軽に聞いたのだった。
しかし実にところジェーンは瑠璃堂院月子であると同時に別の人物でもある。
ジェーンは3000年前に生まれ転生を繰り返しながら、現代までその命を繋いでいる不老転生体である。
その事を誰にも伝えてはいない。
人類の長い歴史の中で『
ジェーン・ドゥ』らしき人物が度々現れる事から不老不死、あるいは不老長寿とあたりを付けているものもいるにはいるが、真実を知る者は今はもう生きてはいない。
少なくともジェーンの知る限りでは。
幸男は知らずに『祖国』という言葉でジェーンの心を乱したのだ。
ジェーンこと瑠璃堂院月子、本名ウル・アスタルテ。
彼女が思う祖国とは遥か昔に栄えたバビロニアであった。
今はこの地上のどこを探しても存在しない。
ただ瞼を閉じれば思い出としてその景色を見ることができる。
もう戻る事ができないと言う思いが胸を締め付けるけれども。
「そうじゃな……祖国は……日本は好きじゃ……儂はこの国を愛しとる」
《なぁ!返事してくれよ!》
普段は天真爛漫な小学生然と笑う少女が不意に見せた影のある表情に不安になりながらも、気づかないふりをして
「良かった!じゃぁご飯の後は温泉にしませんか?」と幸男は明るく振る舞う。
「カカカカ!それも良いの!」
「じゃぁどっか探しますね!」
「混浴かぁ久しぶりじゃなぁ!」
「え?」
「え?」
《お前ら以外の女の裸だ!やったぁあああ――
※※※※
あぁぁあああ!!騙したなぁ!!》
ドラクルの悲鳴がまな目蔵の中でこだました。
「え?」
「「え?」じゃないが?」
2人は湯煙が立ち込め微かに硫黄の匂いがする温泉に浸かっていた。
ここは関東某県の山奥にある秘湯。
そばには清流が流れておりその流れを引き込むことで温度調節ができるという露天風呂であった。
「わっわわわわたたた!」
「カカカカ落ち着け落ち着け」
深呼吸を繰り返す幸男を背後に感じながら深緑の天井を見上げる。
(70年ぶり位かの……ここはあの時と変わっておらんのぉ)
《女じゃねぇのかよ!あんな美人な男は詐欺だろうが!俺の期待を返せよ!》
「センセェ良いんですか?」
「何がじゃ?」
「私と温泉一緒で」
《ふざけんな!男と一緒だなんてごめんだ!》
「お主がいい出したことじゃろ?」
「でも……混浴……」
「いやなのか?」
《俺はいやダァ!》
「いえ!嬉しいです!……嬉しいですけど……一応まだ男なんですよ、私」
「だからといって儂相手に何と言うこともあるまい?」
上げた髪。
頸に張り付く後毛。
白い肌は温泉に赤く染まり、漏れる息は緩みきっていた。
ごくり
背後からそんな音が聞こえる。
《お前まさか……浮気する気か?赤毛のあの女の事はどうするつもりだ?》
水音が近づいて来る
《おいおい!どうするんだよ!こいつ本気っぽいぞ!》
「それ以上近付くなら取り返しがつかぬぞ?」
振り向かぬままそう声をかける。
《ああ!お前にも良識があったんだな!浮気なんて!どうなることかと思ったぜ!》
水音はしばし止まったようではあったけれど再び近付くる。
彼が立てた波がジェーンの頸を濡らす。
《おいおいおいおい!やばいやばいぞ!》
相変わらず背中を向けたままのジェーン。
伝わってくるのは困惑と葛藤。
それでも尚、彼女は無防備を崩さない。
「センセェ……俺……」
※※※※
《聖職者ぁ?》
ドラクルが呆れた様な声を出す。
「そうとも、戦と王権・美と豊穣と愛の女神のな」
旅館の一室、広縁の椅子に腰掛けて朝の景色を眺めながら心ここに在らずといった風でドラクルの相手をしている。
《じゃぁ何か、お前の行いは教義によるものでお前の意思はそこに無いのか?》
「儂は聖職者ぞ?」
《……狂信者め》
「燕雀安知鴻鵠之志哉」
《?なんだそれは?》
「小鳥に鳳の気持ちなどわからないってことじゃよ」
《ああ!?俺が小鳥だってのか?》
「少なくとも鳳ではあるまい?」
《魔女め》
「粉々に砕いて便所に流してやろうか?」
《……お前にはもっと良識があると思っていたよ》
「儂の良識の範囲じゃがの?それに人を呪うお主が良識を語るな」
そうジェーンは3000年以上前の人物で、国も時代も違うのだ、文化も常識も今とは違う。
勿論、彼女が現代日本のそれらを知らぬわけではないが、彼女の根本は3000年前のそれであった。
部屋の入り口から音がして幸男が入ってくる。
先ほどまでとは違い少し……印象が違って見える。
幸男はどれだけ美しく着飾っても脱げば男であることに間違いなく、身長も女性だと言うには大きい方だった。
それが肩幅は狭くなり全体の輪郭も丸みを帯びて、まるで本物の女性のようであった。
声も自然な女性声だ。
「センセェ買ってきましたよ」
御守りがいっぱいに詰まった紙袋をテーブルに置いてジェーンの反対の椅子に腰掛ける。
心なしかこれまでよりも女らしい仕草だ。
「具合はどうじゃ?」
「……ブレというか……意識と身体にラグがあると言うか……」
「そうか……やはり贄がたらなんだか」
そう言って剃り上げた頭をペシリと叩いた。
絹の様に美しい銀髪はそこには無く、剃り上げたばかりの坊主頭だけがあった。
「センセェ……」
「気にするな、さて、足りなんだ分はちょいと力を借りようか」
ジェーンの視線は大量の御守りに向けられていた。
翌朝、テーブルの上には開封された御守りの山。
そしてそれに負けじと幸男の胸にも大きな山が二つ出来上がっていた。
「思いの外、力を借りることができたので造形を頑張ってみたが……不満なところはあるかの?」
「不満だなんてとんでもない!女に成れただけでなくこんなにステキな体にしていただいて!」
そう幸男はジェーンの魔法により女体化を果たしたのだ!
魔法の対価としてジェーンの髪を捧げたうえに、神社で買ってきた大量の御守りから力を借りて!
「セブンほどじゃないですけど、センセェよりずっと大きいですし夢の様です!」
「……夢かどうか捥いでみてやろう!」
「痛い!痛い!痛い!痛い!夢じゃないのは分かりましたから!痛いですってば!」
「まぁしかし、セブンよりも少しスリムかの……運動しとるだけあるんじゃろうな」
「この身体ってセンセェの好みのスタイルだったりしますか?」
「いや?」
「じぇーやっぱりセブンの方が良いんですか?」
「あー……儂は別に女が好きなわけじゃないぞ?」
「え?」
「え?」
「もしかして……その勘違いから女になる決意を?」
幸男に施した魔法は本来【刑罰】として男に施すものだった。
故に元へ戻すなどと言うケアは存在しない魔法だ。
それに、微調整を重ねた上に更に適正化も行われており、二度と解くことができない程に絡み合った結果、極大魔法に匹敵する難度の魔法となっていた。
勘違いだとすれば、いくら自己責任のもと実行したとはいえ幸男の人生は大きく狂うこととなる。
嫌な汗が吹き出していた。
「幸男……これは……その……もう元へは……」
幸男はくすりと色気漂う仕草で笑い、言葉を続けた。
「大丈夫ですよ 元々私の性自認は女なので いつかは手術したいと思ってましたし」
「本当か?気を遣っておらんか?」
「……十分思い出は作れましたし、それでもやっぱり私は【女】で生きていきたいと思えたので、それもこれも全部 センセェのおかげです」
「セブンの奴もこれくらい可愛いこと言ってくれたら良いんじゃがなぁ」
「じゃぁ私に乗り換えましょうよ!そしたらきっと幸せですよ!」
「そんな気がしないでもないがの カカカカ」
備え置きの最中を頬張りながらジェーンは思い出した。
「そうじゃ、下着を買わねばならんの」
「下着!遂に私もあの可愛い子たちを着れるんですね!早速いきましょう!」
「いや……儂行っても役には立たんしお金渡すから行ってくるが良い」
「え〜?センセぇの好みとか聞きたいんで行きましょう!ほら!早く!早く!」
「ちょちょちょちょっと待て!こら!引っ張るでない!」
※※※※
「センセェ……」
「……なんじゃ?」
「ドロワーズとスリップってなんですか?いつものゴスロリならそれも良いでしょうけど?ワンピの時までそれってどう言うことですか?」
「だって持ってないし……」
2人は駅前のデパートに来ていた。
自身の下着を選び終わったところで、前々から気になっていたジェーンの下着センスにツッコミを入れる幸男。
「だって落ち着くんじゃもん」
「ダメです!慣れてください!」
「だって恥ずかしいんじゃもん」
「慣れてください」
「恥ずかしい……」
「いつもの思いっきりの良さはどこ行ったんですか?」
「だってぇ……」
「だってじゃありません!」
こうして幸男は女の子らしいやり取りを楽しみながら、好きな女の着せ替え(下着)を楽しんだのだった。
結局、下着や服を数着ずつ買った2人は紙袋を両手に下げて駅へと向かっていた。
「うぅ……スースーするのぉ」
「ラインが綺麗になってよりステキですよ!」
「それを言うならお主は全体のラインが綺麗になって美しくなったの」
「惚れましたか?」
「カカカカ どうかのぉ」
笑ってはぐらかすジェーンであった。
※※※※
「ねぇセンセェ?」
「なんじゃ?」
残りの日数は関東の秘湯に入りまくった2人はこの修学旅行をテカテカつるつるヘトヘトになるまで楽しんで最終日。
東京行きの電車に揺られて窓の外を眺めながら幸男が口を開く。
「ねぇセンセェ……私、学園に戻って大丈夫でしょうか?」
「なにか心配事か?」
「はい……修学旅行まえは男で、帰ってきたら女になってるなんて……このまま2人でどこか遠くに行きませんか?私達のことを知らないどこか遠くに」
「カカカカ気にするな 性転換など学園ではよくあることよ それよりもその身体は完全に【女】じゃからの、対人では気をつけるんじゃぞ」
「……どこか遠くへっていうのは拾ってももらえないんですね」
「カカッお主となら楽しいじゃろうな……けどのぉ、笑顔を守りたい奴がいるんじゃ、しょうがなかろう?」
「私の笑顔は守ってくださらないのですか?」
「すまんの、優先順位があってのぉ」
「抗議します!」
「カカカカ!思考まで女ならぬ様に気をつけよ?」
「??どういうことですか?」
「なに、女とは面倒な生き物ということよ 個人差はあるがの」
「……気をつけます」
大きな荷物は目蔵に預かっているおかげで、荷物の少ない2人はブラっと出かけた地元の女の子の様だ。
とは言えジェーンは丸坊主。
さらには黒い布で右目を覆う姿は周囲の人を驚かせた。
「センセェ帽子被らないんですか?」
「うむ、この状態も儀式の一部でな 終わるまではかぶるわけにはいかんのじゃ」
「ごめんなさい ありがとうございます」
幸男はジェーンを引き寄せるとその胸に抱く。
「本当にセンセェは私の女神です!」
「大袈裟じゃ!……気にするでない気にするでない、前からやってみたかったんじゃ!これはこれで気持ちいいぞ!」
《強がってんじゃねぇよ、本心では恥ずかしがってるくせに》
いつもより弱々しいドラクルの声が聞こえる。
彼が弱っているのには理由があった。
幸男の体を作り替えるにあたって、幸男が買ってきた御守から力を借りたわけだが、まず最初にドラクルへ注いでいた分を回収。
その後、御守りの出番だったわけである。
ドラクルが弱っているおかげで念話の音量も小さく、嬉しい誤算であった。
(ふむ……もう少しじゃな)
ドラクルの主人である彼女は、その弱り方を感じて心の中でほくそ笑む。
「学園に帰ったら、何しましょうか!」
「ふむ……学園に届けを出して……」
「なんの届けです?」
「何って……そりゃぁ性別の変更と名前の変更じゃな、確か戸籍も変更してくれるんじゃ無かったかの」
「そんな事まで!?」
「言ったであろう?【よくある事】じゃと」
「蓬莱学園はなんていうか……無茶苦茶ですね?」
かなり言葉を選んだ様だった。
「言い忘れておったが、今回の魔法じゃがどうやったかは内緒じゃからの?」
「はい!…………えーっと……どこからどこまでですか?」
「混浴のところからじゃ」
(成体になってからならあの様なことをせずとも織れたが この体ではあの様な手段しかないしの……うむ、あれは必要な事じゃったんじゃ)
ジェーンが内心言い訳を考えていると
「あの……温泉での事全部ですか?」
「そりゃそうじゃ セブンに知られたらどうなるかわからんしの!カカカカ!」
「………………ぁの」
みるみる青くなっていく幸男を見て
「……できれば聞きとうないが……聞いておいた方が良いんじゃろうな?」
幸男が静かに頷くのを見て天を仰いだジェーンは、静かに問うた。
「誰にどこまで話した?」
幸男が言うには、診療所の同僚の桜木と姉弟子の諸葛明華と数人の友人に話したと言う。
「……」
「……」
先に口を開いたのはジェーン。
「……まぁ……しょうがあるまい!Que Será, Será じゃ」
※※※※
飛行船に揺られて宇津帆島についた2人を待っていたのは査問委員会所属の【武装執行隊】と公安委員会所属の【武装機動隊】、少し離れたところに魔導書研や神道研、錬金術研、超常心理学研の部員たちの姿も見える。
ジェーンと幸男いがいの乗客は何事かと遠巻きに野次馬を決め込んでいた。
武装執行隊の中から査問委員会委員長の制服を着た赤いライオンヘアの巨乳美女が進み出た。
「よう ジェーン 旅行は楽しかったか?」なにやらご立腹の様子であった。
幸男が怯えたふりをしてジェーンの後ろに隠れる。
「あーセブンさんや……」
「ジェーン……いや、瑠璃堂院月子、学園騒乱準備罪並びに学園外患誘致準備の疑いで同行願おうか!」
こうして3年前、ジェーンとセブンの2人が出会った――転生後の再会――取り調べ室で、あの時と同じく2人っきりの取り調べが始まるのだった。
鉄格子の向こうからまるでエンディング曲のような音楽が聞こえてくる。
「で?やったのか?」
ジェーンは3000年を生きている。
敵が雲霞の如く迫る戦場も、魔女裁判も、同族による襲撃も経験した。
それら全てをくぐり抜けてきた。
しかし今、過去最大の難題を前に冷や汗が止まらないジェーンであった。
「で?言い残す事は?」
《だから言ったのに》
目蔵の中でドラクルが肩をすくめるのだった。
※※※※※※※※
ジェーンさんとドラクルおじさん/修学旅行へ行くようです/ おわり
最終更新:2022年10月19日 18:23