『ジェーン・ドゥと迷子の交換留学生』
■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。
女難の相あり。←自業自得。
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■セブンさん:【運命の方翼】の1人。
赤いライオンヘアでトゲトゲアクセサリーのパンクな女。
実は世界有数の大財閥の令嬢。
独占欲が強く、ジェーンさんを独り占めしたがる。
本名:葉車奈菜
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■幸男さん:ジェーン大好き。女装男子→女。
中国拳法と東洋医術を修めている。
推しの幸せは...私の幸せ...
【運命の方翼】武力担当
通称:ユキ
本名:那須幸男改め 那須幸
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■千穂ちゃん:お嬢様言葉を使う月子様大好き少女。
【運命の方翼】記憶担当、魔法使い(弱)、何気に高い行動力。
4人の中ではお母さん的存在。
本名:朋田千穂
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■ジェニー
ジェーンさんの因子から組み上げられた、ナノマシンで構成された機械生命体。
生きたコンピューター。
設備なしでインターネットにつながることができる。
ジェーンさんが「魔術師」であるのに対して彼女は「超級ハッカー」…になるかもしれない。
通称:ジェニー・ドゥ
本名:瑠璃堂院穂子
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2023年3月ごろ。
旅路は順調だった。
多少の遅れがあったとしても。
3か月をかけて準備をし、先人達のアドバイスも山ほど受けた。
寮のみんなは壮行会まで開いてくれたし、家族全員でスコットランドの実家からロンドンまで見送りもしてくれた。
旅路は順調なはずだった。
嵐に遭遇するまでは。
「くっそ!雨が痛てぇ!」
激しい雨が礫となって打ちつけていた。
防水魔法をかけたローブでさえもその許容範囲を超えて浸水し、今や下着でさえもびしょ濡れだ。
濡れた衣服は体温を奪いつつあった。
「なにが『3月は快適な旅になるでしょう』だ!〇〇〇〇!」
その瞬間、雷が青いローブの端を焦がしながら落ちていく。
雷除けのお守り札がそろそろ限界だと言わんばかりに火花を散らしていた。
スコットランドからの無着陸飛行に挑戦中の箒もだいぶんくたびれてきている。
「おいおいおいおい!まっすぐ飛びやがれ!言うこときかねぇとバラバラにしてトロールの○○○○に突っ込むぞ!」
木の葉のように強風に煽られながらも、なんとか前へ進む箒に向かってその乗り手は拳骨と言う方法で不満を表した。
雷雨吹き荒ぶ中、箒が目指すのは世界に数校しかない魔法学校のひとつ【マホウ○コロ】。
国際魔法使い連盟に登録されたアジア唯一の魔法学校だ。
「クッソ!アジアまで来て遭難とかマジ洒落になんねぇぞ!」
稲光がすぐ側を轟音と共に落ちて行く。
「クソ雷が!マグルの糞に頭突っ込んで死にやがれ!」
箒に必死で掴まりながらも悪態は止まるところを知らない。
そして雷除けのお守り札は遂に限界を迎え……雷は荷物を――トランクと鍋――をくくり付けた箒後部へと落雷する。
「○○○○!○○○○!」
思いつく限りの罵詈雑言を口にしながら暗い海へと高度を下げて行き、遂には高波の影に隠れて姿を消した。
※※※※
蓬莱学園。
日本の私立高等学校である。
東京都に所在し世界中から留学生が集まる、大変人気の高校である。
どれくらい人気かといえば、生徒数は10万人。
一説には倍の20万人とも言われている。
しかし不思議なことに――在校生からすれば至極当然ではあるが――新入生よりも卒業生が圧倒的に少なく、かつ中途退学などもほとんどない。
在校生曰く――主に4年以上在籍している者――「俺(私)たちは学園に就職した」と嘯いているとかなんとか。
学科内容は大学以上に充実しており、生徒の中にはここでしか研究できないもののために、大学卒業後に入学するものすら存在する。
一般的な学科から世界最先端、或いは超希少なもの、世界でここだけしか受けれないものが盛りだくさん。
そして、世界からは忘れられ見捨てられた学問も、ここ蓬莱学園では未だ現役であった。
そして、この学校は東京都でありながらも、本土から南へ1800キロの絶海の孤島にあるのだった。
※※※※
「遭難者ぁ?」
委員会センタービル1階の裏口横にある診療所で、そこの担当医であるジェーン・ドゥは素っ頓狂な声をあげていた。
『そいです、今朝ぁ海洋冒険部の連中が朝練のぉ最中にぃ回収したんだそぃでぇ……生憎、連中の医者じゃらちがあかねぇってぇ』
酷く訛りのある女生徒からの連絡に、最初に出たのは看護師長を務めるジェーンの恋人で、拳法の達人でもある那須幸男であった。
そして彼女から報告を聞いたジェーンが思わず素っ頓狂な声をあげたのだった。
「まぁ、出番というなら仕方ないの」
「はい、往診の準備できてますぅ」
道すがら遭難者について引き継ぎを受けたのだが、どうにも島外の……というより海外の子供の遭難者らしいとの事だった。
しかし不思議なことに、どこに問い合わせても船も飛行機も消息不明などにはなっていないし、行方不明者もいない。
どこから来た遭難者なのか分からないという。
「なんじゃ?意識はまだ戻っておらんのか」
「いえ、意識はしっかりしてる様なんですが……どうにも会話にならないと」
「【会話にならない】?……それがなんで儂にお鉢が回ってくるんじゃ?」
※※※※
「……なるほど、こういう事か」
海洋冒険部基地にある病室へ入って出た言葉である。
そこには金髪、そばかす、ピアスをいくつも付けた歳の頃は15~17位の白人の美青年がいた。
しかしジェーンの眼にはその人物が魔法使いであることが見て取れた。
「これは嫌な予感がするのぉ」
「可愛い男子じゃありませんか」
魔法の素養のない幸男には一般人のように映っていた。
※※※※
「可愛くない!全っ然可愛くない!」
「嫌な予感はよく当たるのぉ」
・
・
・
時間は少し遡る。
病室には四人。
ベットの上には金髪碧眼の美青年。
その傍には銀髪金眼、右目を黒い布で隠した小学生の様なジェーン。
それにつきそうスレンダー巨乳美人看護師の幸男。
ドアの傍に海洋冒険部の医官、漣が見守っている。
「なんじゃ、名前すら聞けとらんのか?」
「会話が成立しないんですよ 近寄ればなんか魔法みたいのでぶん殴られるし!」
この漣という男は、2年生であり海洋冒険部以外にも保健委員を兼部しているため単なる先輩後輩を超えてジェーンに頭が上がらないのである。
彼は今でこそ地上勤務をしているが、当番が回ってくれば艦にのり船医を務める。
船医とは言え船乗りである。
日に焼けて潮風にさらされた肌は褐色で、まさに海の男と言うに相応しかった。
そんな海の男と女子小学生のやり取りは、慣れたつもりでいる幸男からしても、奇妙な感じは否めなかった。
ましてや、ベッドの人物からすれば奇妙極まりなかった。
漣が『魔法でぶん殴られる』という言葉通り、確かに彼の顔にはアザがあり、服装も乱れていた。
「何か良からぬことをしようとし「とんでもない!我々は海に生きるものとして!誇りにかけてその様な事は断じてありません!」……お おぅ」
では一体何があってこのような事態になっているのか?
『言葉は通じるのじゃろう?』とジェーンが不思議そうにベットの上の青年にドイツ語、フランス語、英語で話しかけた。
『随分と古い言い回しをするんだな』英語で答えが帰ってくる。
※ジェーンが英語圏で最後に生活していたのは数百年前である為、当時の言い回しや訛りの様なものがあるのだが、読みやすさ重視のため現代的に変換済み。
『なんじゃ、普通に話せるでは無いか』
幸男は外国語を喋るジェーンに感心して小さく感嘆の声を上げるが、漣からは剣呑な空気が漂っていた。
(何かしら……センセェに対しての嫉妬とかそういうのじゃなさそう……後で要確認っと)
幸男はそう心のメモに記した。
しかし、この後彼女自身もその理由の一端を身をもって体験することになる。
「ちょいと関係各所に連絡を入れてくるから、そうじゃな……特に何もせぬで良い」
「え?それって……わかりました」
(面倒ごとじゃから儂に全部任せておけ)
(この表情はセンセェ案件ってことですね)
と、アイコンタクトで通じる2人であった。
ジェーンが「連絡してくる」と部屋を出てしばらくするとベッドの人物が口を開いた。
もとより喋れないわけでは無いし、ジェーンとは普通に喋っていたのだ。
しかし、引き継ぎには『会話にならない』とあったはず。
それが向こうから話しかけて来たのだから、幸男は警戒しながら対応する。
『なぁお前、さっきの魔女の魔法人形だろう?あの魔女はどこの学校の出身だ?てか、本当に医者か?いくら日本人が童顔だと言っても、どう見ても子供だろ?』
確かに幸男は人形かと思うほどの美貌とスタイルの持ち主である。
それはもと男だった幸男の体を魔法によって理想的な体へ存在そのものを改編したからである。
外科手術での整形とは違い、因果レベルでの改編である。
そこには幸男の理想とジェーンの好みが若干……そう、若干盛り込まれていた。
もちろん、もともと幸男が美しかったという点も忘れてはならない。
そしてその身体は全身からジェーンの魔法の残滓を見ることができる。
なお魔法人形とは魔法によって作られた精巧な自立式の人形の事で、その主な目的は見た目の印象通りである事が多い。
つまり【ピグマリオンコンプレックス】或いは【アガルマトフィリア】の対象である。
もちろん幸男は人形ではなく人間であるし、そのような目的で存在しているわけではない。
英語で話しかけられた幸男は、それほど得意では無いため理解できず、漣が通訳を進んでしてくれた。
「えぇっと……センセェは腕は確かな医者ですよ 安心してください」
学園生徒であれば、学生が大人顔負けの腕前で社会を形成しているのを知っている。
現に漣の所属する『海洋冒険部』は世界的に見れば『海軍』であり、彼は軍医であった。
だがしかし、島外の者にそのことを話しても不安と混乱を与えるだけだし、魔法に関して素人な幸男は魔法人形が何かわからず、言葉少なく返答した。
『そう警戒すんなって あんなちんちくりんでも大人なんだろう?……まてよ……って事は小鬼の血でも混ざってるんじゃないか?ちっ……て事は【小鬼の血統】か』
【小鬼の血統】
意味は分かなかったが、そこに込められた侮蔑や嫌悪の雰囲気は感じ取ることができた。
幸男の中で怒りが瞬間的に湧き上がり、愛する女の為に何か言い返してやろう!何かしらギャフンと言わせてやろう!と思った瞬間、ジェーンの顔が脳裏に浮かび、拳を握りしめてその衝動に耐えた。
『お前アジア人タイプのくせに随分整った見た目してんな?隅々までよく見せろよ』
……漣からの通訳がされない事に、不思議に思った幸男が振り返ると、漣は口を真一文字に結び刺す様な視線をベッドの人物に向けていた。
どうやらまたしても、聞くに耐えない何かを言ったのだと察することができた。
通訳されないのを見たこの尊大な人物は「オレ オマエのカラダ ミタイ ゼンブまで ヌイテ ゼンブ みせろ」
と、拙いながらも日本語を口にした。
「な!?君!日本語が話せるのか!?」
驚きと共に漣が聞き返すとバカにした様に、言い放った。
『アジアの猿に合わせてやる気にならなかっただけだ でも今はコイツとあのちんちくりんに興味が湧いた それだけだ』
「ふざけるな!」詰め寄る漣。
「ダメ!」と間に入って止める幸男。
「落ち着いて!もうすぐセンセェが帰ってくるから!そしたらセンセェにま きゃぁ!」
『すげぇな!やっぱりよく出来ている』
「那須さん退いてください!そいつをぶん殴ってやる!」
「ダメよ!落ち着い きゃぁ!」
「どうしたんです!?なにが!?」
漣は殴ってやりたい衝動で、ベッドの男へ詰め寄ろうとする反面、ユキはそれを押しとどめたい。
そんなやり取りが目の前で繰り広げられているベッドの男は、漣の事など眼中に無く目の前の幸男の尻を確かめるように鷲掴みにしているのだった。
「な!てめぇ!那須さんどいてくれ!ぶっ〇してやる!」
「もう!いい加減にして!」
白衣の天使の仮面を脱ぎ捨てて幸男はもう1つの顔である拳法の達人として、漣の関節を決めてそのままベットからの距離を取った。
「いたたたたた!那須さん!ちょ!外れる!外れる!」
「先生が帰ってくるまで我慢してください!センセェがいいって言ったらぶっ飛ばしていいですから!」
「わかりました!わかりましたから!」
「約束ですよ」そう言って漣を解放した幸男はベッドの男に振り返り「この代償は高くつきますからね」と冷たくいい放った。
その後、ベッドの男は英語と日本語で二人に話しかけたが、二人はドアのところでそれらをすべて無視。
しばらくして疲れた様子のジェーンが帰って来た。
「先輩!あいつぶん殴って良いですか!いいですよね!」
「可愛くない!全っ然可愛くない!」
「嫌な予感はよく当たるのぉ」
『戻ったか!お前の魔法人形とそっちの非魔法族の躾がなってないぞ!ここに連れて来られる間も右を見てもマグル、左を見てもマグル、一体ここはどうなってるんだ!』
※※※※
疲れて戻ったところへ、コレである。
大きなため息を吐いて深呼吸したジェーンはベッドの人物に『待て』のハンドサインを送りながら、漣には「後で説明するから今は儂に全部任せろ」と言って退室するよう促した。
「さてユキよ、どうなっておるのか聞かせてくれるか?」
・
・
・
「なるほどのぉ……連中は21世紀になってもまだそんなことを言っとるのか……まったく」
「どういうことです?それに連中って?」
苦虫をかみつぶしたような顔で、それでも幸男をはじめ恋人たちには隠し事など……できるだけ……しないと心に決めているジェーンは、重い口を開きゆっくりと話し出した。
「儂がかつてヨーロッパに居たことは話したな?」
ジェーンはベッドの人物をチラリと見る。
幸男は「はい」とだけ答えた。
幸男はジェーンの事となればだれよりも理解している。
それ故に、ベッドの人物に聞かせたくない内容を含むのだと、その仕草から察することができた。
「その時にとある学校へ通っておった……それがこやつの在籍する学校と同じところじゃ」
「はい」
「こ奴のような者ばかり……というわけではないが、当時はそれが主流であった」
「はい」
「儂は周りとは違う」
「はい」
「それ故に対立は避けて通れぬものであった」
「はい」
「まぁ最終的にちょっと暴れて飛び出たんじゃがの カカカカ!」
「はい」
「儂が魔女と呼ばれるのを嫌うのも、あやつらと同じく思われるのが我慢ならんからじゃ」
「センセェ……私たちがいますからね」
「カカ!……楽しいこともあったんじゃがの」
どこか寂しそうにそういうと「さて、面倒ごとはさっさと済ませてしまおうではないか」と勢いをつけて椅子から降り立った。
※※※※
『さて、大体わかってはいるんじゃが、確認は金貨のごとしじゃ』
『……!……!』
「……ああ!忘れておったわ カカカ」ぱちんっと指を鳴らすと、かけていた魔法が解けて彼はさっそく悪態をつき始めた。
『クソ!なんだよ今のは!杖無しの魔法って!お前〇〇〇〇かよ!』
『便利じゃろうが』
『ああん?魔法族としての誇りはねぇのかよ!ああ!そうだったな!お前は【小鬼の血統】なんだったな!』
『囀るでない 己を貶めることになるぞ』
『はぁ?何をわけのわからねぇことを!』
『すぐに分かるじゃろ、で我が同胞に救助された者よ、まずは名乗るがよいぞ』そう言うとまるで手話のように左手を操って見せた。
『オリヴィア・グリーングラス……な!?なんで!?』
オリヴィアと名乗った彼は己の意思と反して、勝手に口が動くという現象に驚き戸惑っていた。
『つぎは年齢とどこから来たのか述べるがよいぞ』左手は先ほどと同じことを繰り返す。
『15歳、ホグ〇ーツ魔法魔術学校から来た……クソ!やめろ!』目の前のちんちくりんの魔法だと気が付いたオリヴィアは掴みかかろうとするも、それより早くその小さな巫女の魔法に捕らわれる。
『跪け、頭を垂れよ』
猛獣を思わせる金眼に見つめられたオリヴィアはその勢いを失い、まるで女王に謁見するかのように優雅な仕草で膝を折った。
「さすがセンセェ」二人の会話を、英語を解さない幸男はただ唖然と見ているしかなかった。
『旅の目的地を述べよ』
『マホウ○コロ』
『ここはどこだと思っているか述べよ』
『マホウ○コロ』
「まほう〇ころ?日本語のようだけど……魔法?センセェに関係あるんだろうなぁ」
『……グリーングラス家の家系を遡って述べよ』
『父はオリバー、その父はジェイデン、その父は……』
オリヴィアはその系譜を遡って口にしていく、そして十数人の名を口にして「アルバート」という名が出た時、これを終了の合図としてやめさせた。
『……オルラ・グリーングラスという人物について述べよ』ふと思い立ってとある人物について聞いてみた。
『杖無しのオルラ、金色の王女にして玉座の娼婦、白き闇の魔女、グリーングラス家の恥』
成り行きを見守る幸男の耳に、静かな笑い声が聞こえる。
それが誰のものなのか分からなかったが、次第に大きく、はっきりと、そしてついにその主は肩を揺らして嗤う。
それは普段耳にしたことのないモノだった。
幸男が知るそれは、見た目の幼さを補うための背伸びをした笑い方、されは彼女たちの前でだけ見せる愛らしい笑い方であった。
しかし今、目の前の愛する女が発するのは、今まで一度も見たことのないモノだった。
そこには見えるのは【憤怒】【憎悪】などの【負の感情】。
二人の会話を理解しないながらも【正義】はジェーンにあると信じて疑わない幸男。
小さな恋人を見ながら胸の高鳴りを覚えた。
今宵、今日の事をセブンと千穂にも話す。
けれど、この貌を知るのは自分だけなのだと愉悦にも似た感情が湧く。
時に【生】を、時に【死】を共にしてきた幸男だからこそ、ジェーン・ドゥことウル・アスタルテの隣に立つものとして誇らしく、歓びに打ち震えいた。
ひとしきり嗤って気が済んだのか本題に戻って質問を続ける。
『マホウ〇コロへ行く目的を述べよ』
『留学』
腕を組んで考える事しばし。
『箒をどうしたか述べよ』
『雷に打たれて燃えた』
『魔法の杖はどうしたか述べよ』
『海に落ちたとき無くした』
大きくため息をついて一言。
「これはめんどくさい事になるのぉ」
※※※※
「お疲れ様でした」
漣はそう言って熱いお茶と羊羹を出してジェーンと幸男を労った。
「それで先輩 彼をどうするんですか?」
「ふむ……まず最初に言っておこう 彼では無い。彼女じゃ」
「え?……え?」向かいの丸椅子に腰掛けながら、信じられないと言った様子の漣を横目に、言葉を続ける。
「こやつらの遭難時のマニュアルに書いてあるんじゃ、男のフリをし隙を見せるな とな」
「なんか……凄いですね」
先程まで暴れていたオリヴィアは、ジェーンの格闘術で当て身をくらい眠っている。
それを見た幸男が「眠りの魔法(物理)ですねぇ」と笑っていた。
「家族と留学先への連絡はどうします?」
「あやつら未だに電話すら持っとらんからのぉ……手紙を送るにしても……届ける手段(使い魔の梟)が無いからのぉ」
「(郵便が届かないほど)田舎なんですか?」
「(魔法的に)もはや異世界じゃ」
「(陸の孤島的な意味で)……異世界」
この認識相違をわざと作り出している小さな恋人を見ながら、終始笑顔が絶えない幸男であった。
「でも先輩、何かしら方法はあるんですよね?」
「有るにはあるが……気が進まんの」
「……ちなみにどう言った方法です?」
「…………直接持って行く……って儂は行かんぞ」
「でも、(中学?高校?先輩は転校生?)先輩の地元なんですよね?」
「地元のぉ……(千年近く前の人生じゃから、もはや地元とも言えぬが)地元のぉ……」
「地元なんですよね?里帰りついでに手紙を届けて頂くってのは?」
「……お主、面倒くさくなっとるじゃろ?」
「正直、非協力的な人間の相手をしてるほど暇じゃ無いですし、あの不思議現象を思うとどうにも先輩の専門分野だと思うんですよね」
魔法でぶん殴られたアザをさすりながら、漣は先輩へ押し付けたい一心であった。
(隠し事のあるセンセェは断る理由を口に出来なくて……困ってる……そんなセンセェもかわいい)
そうやって小さな恋人を眺めながらふと思いついた事を口にする。
「もし届けるとなったらちょっとした観光旅行が出来ますね!」
幸男の中ではイギリス旅行をしているイメージが膨らんでいた。
それはバッキンガム宮殿や大英博物館、近衛兵など観光している2人+3人であった。
「観光……かぁ」
表情を曇らせながらそう言ったジェーンの脳裏には、飛びかかってくる人喰い白菜や致死性の毒を噴射してくる毒草、身長4mはあろうかという巨大原始人、そして何より血統主義に凝り固まった排他的な魔法族により、不条理な差別を受けるジェーン一行が浮かんだのであった。
「いや……行かん!行かんったら行かんぞ!」
※※※※
女子寮42階にあるジェーンの部屋。
8畳・風呂トイレ別・キッチン・バルコニー付き。
いまここに6人もの人物が……ベッドの上には眠らされたままのオリヴィア、この部屋唯一の椅子には女王のように振舞う赤いライオンヘアのセブンが、ベッドに寄りかかって座っているのはダークブルーの髪をローポニーテールで結ったお嬢様、千穂。
その千穂に寄りかかっているのは部屋主の妹、銀色のミディアムウェービーヘアのジェニー。
床に座っているのは妹よりも髪が長い部屋主のジェーンで、それに絡まるように寝そべって姉妹と比べると少し暗い銀髪ハイポニーテールが幸男。
「儂の扱い雑すぎないか?」
「相談もなしに人が一人増えたのは誰のせいなのかなぁ?」
そういわれると返す言葉もない部屋主であった。
「で?コイツは誰だって?」
「……遭難者じゃ」
「うん、で?」
「魔法使いで……行くところがなくて」
「魔法使いなのはいい、なんでここなんだよ?」
「だって海洋冒険部では面倒見きれんって」
「病院は?」
「健康な者を入院させるわけにはいかんと……まぁそこは儂が嫌われとるんじゃろうがの」
「……どっか空き部屋無かったのかよ」
「超田舎から出て来て、まともに魔法を制御できない魔法使いを1人には出来んじゃろう?」
「……生徒会に頼むのは?……ってそんなに嫌そうな顔すんなよ……まぁ、分かったよ、しょうがない、しょうがないよな……うん、しょうがない」
セブンとジェーンのやりとりであったが、最終的にセブンが自身に言い聞かせるという形におさまった。
※※※※
「大使館に連絡すれば良いのではないですか?よろしければ私が連絡いたしますけど」
「大使館では無理じゃな」
「どうしてですか?イギリスの方なんですよね?」
「イギリスに住んでおってもこやつは【魔法使い】じゃ。表向き 存在せんのじゃ……故に大使館ではなく、魔法省へ連絡が必要じゃが、儂は縁を切っとるから連絡手段がない」
「日本には無いんですか?その……担当部署」
「儂は知らぬな。外交官である千穂ちゃんが知らぬなら……まぁそういう事じゃろ」
「まぁそうですわね……ですが、スコットランドですか昔を思い出しますねぇ」
とある事故により前世の記憶を思い出した千穂は、ジェーンとの思い出に浸りながら状況を受け入れた。
※※※※
「我に選択権はない」
「あるとも じゃからこうしてお願いしとるんじゃ」
「我は、ジェーン・ドゥの因子を元に作られた機械生命体。オリジナルであるお姉ちゃんが決めた事なら従う事に異論はない」
「お主は【人間】じゃと言っておろう。素材が違っても人を人たらしめるのは意識の力じゃ。お主にはそれがあるのじゃから、そのような言い方はよせと何度も言っておるじゃろう?」
「……お姉ちゃんをはじめみんなわがまま」ため息交じりにそんなことを口にしたジェニーの肩を抱きながらジェーンは続ける。
「おうとも、協調は必要じゃが協調の為の自分では無い、自分の為の協調なんじゃ。それ故に自分を主張せねばならぬ。よいな?」
「本当に優しいなんだから」硬い表情が一瞬ほころんで、それは幼女らしい可愛らしい笑顔を浮かべた。
「お?笑ったか?笑ったな?もっとよく見せよ お姉ちゃんに笑って見せてくれ」
「笑ってない」
「いや 見たぞ」
「しつこいと嫌いになる」
「……ごめんじゃ」
こうしてジェニーも受け入れを許可してくれたのであった。
※※※※
『だからってなんで俺がお前のところで世話になんなきゃいけねぇんだ!』
遭難時のマニュアルに従って男へ変身したままのオリヴィアは、海洋冒険部の病室から眠らされたままここまで運ばれたのだった。
『お主が儂の縁者じゃからじゃ』
『はぁ?』
『儂の古い名前は……はぁ……【オルラ・グリーングラス】というんじゃ』
『……ぶふっくくく……あはははは!そんなわけねぁだろう!馬鹿がよ!』
男姿のオリヴィアはそういって笑い飛ばした。
『本当にそうじゃなければよかったんじゃがの』
『……証拠を見せやがれ』
『逆に何なら信用するんじゃ?』少し考えて聞き返した。
『オルラが持って逃げたといわれる家宝のバングルを持ってるはずだ!』
『千年近くも前のものなど持っておるはずもないじゃろ、それにあれは父上……アルバートが賭けで巻き上げられたんじゃ 儂のせいではない』
『嘘だな!嘘に決まってる!』
ジェーンは一部嘘をついている。
彼女の1番古い所持品は紀元前1400年ごろに作られたイシュタルの司祭長用の宝飾品である。
当然の如く1000年程度前の物なら幾つも持っているのだが、家宝のバングルについては嘘はなかった。
二人の会話をセブンは椅子の上で胡坐をかいて、千穂はジェニーの髪をとかしながら聞いていた。
時折ジェニーが「今のどういう意味だ?」とリアルタイムでネット検索しながらも、古い言い回しやスラングなどについて二人に聞くさまが見られた。
この場で幸男だけが会話についていけなかったが彼女は、恋人に絡みつくので忙しいためほかのことなどどうでもよかった。
『オルラしか知らないようなことがあるはずだ!』
『儂しか知らぬことを話して、どうやってお主が判断できるんじゃ?』
『……我が家でしかわからないこととかあるだろう!」
『約千年経ってて受け継がれる秘密?もうとっくに失われとるんじゃないか?』
『……うるせぇな!いいからなんかしゃべれよ!』
『はぁ……その姿で怒鳴るな、千穂ちゃんが怖がるじゃろうが』そういって左手指でわっかを作ったかと思えば、そこを通してオリヴィアに「ふぅ」と息を吹いた。
するとまるでヴェールがはがれるように魔法がはがれて、金髪、そばかす、ピアスをいくつも付けた青い眼の少女が現れた。
『な!?また!?杖もなしで魔法を!?』
『この程度で驚くな、ウガンダにも教えておる学校があるじゃろうが』
『あいつらだって呪文は唱えるんだよ!』
『勉強不足じゃな、呪文は絶対条件ではない』やれやれと肩をすくめて見せた。
『お前が、魔法に詳しいことは分かった……しかし、それでもオルラだなんて信じられねぇ』
『まぁ信じようが信じまいがどうでもよい こちらにはお主を世話する理由があるということじゃ』
よっこいしょといって立ち上がったジェーンは伸びをして「そろそろご飯にしようではないか」と皆に呼び掛けた。
「用意はできてますよ!」と張り切って答えた幸男がキッチンから具材の詰まった鍋を持ってきた。
そのあとに続いたのはジェニーであり人数分の食器を運んでいた。
さらに続くのは千穂。彼女は徳利とお猪口を乗せたお盆を運んでいた。
折り畳みのテーブルを広げてその上に準備が広げられていく。
長方形の一番奥にジェーン。
その右にオリヴィア。
その隣にセブン。
その隣、ジェーンの対面に千穂。
その隣はジェニー。
その隣、ジェーンの左が幸男。
その席次からオリヴィアは自身がゲストとして扱われていることに一応の安堵を覚えた。
とはいえ、翌朝には早い者勝ちに変わっていたのだが。
高級牛肉がセブンの妹の九重から送られて来ていたので本日の鍋は、すき焼き鍋。
生卵でひと悶着あったものの、一口食べたら文句などどこかへ行ったオリヴィアだった。
そんななか『これ……酒じゃねぇのか?』と疑問を口にする。
食事を始めてから少ししてオリヴィアがそう切り出したのだった。
『イギリスの家庭では5歳から飲んでもいいことになってるだろ』とセブンが言う。
『そうです、それにこれは【おいしい水】です 気にせずどうぞどうぞ』とジェニーの口元を拭いながら千穂が勧めた。
オリヴィアがジェーンを見る。
その視線は(いいのか?ここは日本だろう?)と語っていた。
『おいしい水なら問題ないじゃろ』とお猪口を空けた。
『まぁ……水なら問題ないな』と考えるのをやめた。
「で、オルラ・グリーングラスって?」
セブンが座った目で小さな恋人を睨みながらそう聞いた。
セブンからすれば恋人の口から知らない女の名前が出て来たのだから、それが恋人本人の昔の名だと言っても確かめておきたかった。
『おい!お前からも教えろよ!オルラって誰だ!どんな女だ!』
昼間口にした時は魔法で喋らされたが、今こうやって本人を名乗る人物とその身内がいる場所で侮蔑を含む内容を伝えていいものか逡巡する。
セブンにせっつかれたオリヴィアは助けを求めるようにジェーンの顔を伺うが、当の彼女は満面の笑顔でお肉を口に運んでいた。
本人が――未だ信じてはいないが――その態度であるなら喋ってもいいのだろうと判断し話し出す。
『そこのちんちくりん……の姉のほうの事だ……【杖無しのオルラ】、【金色の王女にして玉座の娼婦】、【白き闇の魔女】、【グリーングラス家の恥】……俺は……オルラが生きた時代なら、確かに反逆者だったと思う……けれど今の時代なら……その考え方は、当然の事なんだ。だから……いいと思うぜ……うん』
セブンは、世界屈指の巨大財閥 葉車財閥の令嬢であり、自身も学園において査問委員会という裁判所に相当する委員会の委員長である。
当然の如く、頭脳明晰であり容姿端麗、スタイル抜群。
趣味がパンクロック、恋人がロリータでなければ引くて数多である。
そんなセブンもおさk……美味しい水の影響でまともな判断が出来ないでいた。
「おい!チビ!なんだその【娼婦】ってのは!?お前!俺たちだけじゃ飽き足らず【売り】までやってんのか!」
「ええ!?」そう詰め寄られたジェーンもびっくりである。
(【オルラ】は約一千年まえの人生の名前じゃし、そんな昔のことを今更言われてもなぁ……現代と違って儂らにとっては神聖なものなんじゃがなぁ)
そう、不老転生体であるジェーン・ドゥことウル・アスタルテの生きた時代・文化では【愛と安産と女性の守り神】の神聖な行いとされていた。
【金色の王女にして玉座の娼婦】にしても、理由があった。
当時の魔法使いは杖を使って魔法を行使するのが当たり前というのが共通認識であった。
そして杖というのは持ち主を選ぶ。選ばれないのは魔法使いとして欠陥があるとされていた。
もとより杖など使わないで魔法を織るジェーンのそれは系統が違い、杖が拒絶反応を起こしても無理からぬことであった。
さらに時代は欠陥のある者の存在を許容しない……しかも【女】である。
いくら名門の家に生まれたとしても、どれほどの力を持っていたとしても扱いは非常に低いものであった。
そんな彼女が何かをなそうとすれば反発は極めて強く、それを緩和させるための手段としたのが【金色の王女にして玉座の娼婦】の由来であった。
その行為自体は神の――ジェーンが仕える神は別であったとしても――定めた神聖な行為であるため特になんとも思っていなかった。
だからと言って、今生は現代的な考えも理解し受け入れている為、そう言った行為は行なっていない。
行っていないが、セブンは【オルラ】の事を言っていると思っているのでそれに合わせた。
「うむ そうすることが最善であったからの」
「ばかやろう!」そういって繰り出されたビンタはジェーンの頬を張ることなく空を切った。
余裕でこれを躱したジェーンは「またしても早とちりとかしとるんじゃろう?毎度まいどぐはぁ!」後ろから千穂が抱きついていた。
「月子様!なんでそんなことしたんですか!私達じゃダメだったんですか?!」
「ええいこの酔っ払いどもめ!」おいしい水のせいで力加減が狂ってはいけないと、魔法ではなく腕力で振りほどきたいところであったが、そうする前に今度はグーが顔面めがけて飛んできたのだった。
※※※※
一夜明けて、ジェーンが朝の御勤めを終えて皆が起きてきたころの話。
この部屋唯一の椅子に腰かけるのはジェーン……ではなく幸男。
ジェーンはその膝の上に座っている。いや、幸男によって座らされていた。
そしてその眼下にはセブンが正座していた。
幸男が冷たく言い放つ。
「センセェの事が信じられないなら、出ていけば?」
「……でもよ!」
「でもじゃないわ……セブン、アンタ何度目なの?」
「それは……」
「アンタとセンセェの再会からして、アンタの勘違いだったわよね?」
「あれは……謝ったし」
「食事を与えず監禁して、下手をしたら死んでたわよね?」
(逃げ出す事くらい簡単ではあったんじゃが……普通に考えたらそうじゃよな)幸男の膝の上で自身の過去についての新しい発見をした瞬間であった。
「でも、それはジェーンも許してくれたし」
「そういったことの積み重ねが昨日みたいに暴力ふるうことにつながってるんじゃないの?」
「……でも」
「アンタ……やっぱりアンタにはもったいないんじゃない?」
【アンタにはもったいない】
この言葉はセブンの心に今でも深く刺さっている。
ジェーンという女に自分がふさわしいのか、それは友人としてか、恋人としてか、思い悩みんだ過去がある。
それは常にセブンの何所かにあって、何かの拍子に彼女を苛んでいた。
「それにご家族からもそのせっかちな点、早とちりな点を治しなさいって言われてるんでしょう?」
「……」普段は強気で堂々としているセブンもこの時ばかりは俯いて、誰からも顔を見られないようにしていた。
「あの程度のことで儂は怒っとらんよ」ジェーンが幸男の手を取って優しく宥めた。
「センセェが怒ってないのは知ってます!けれど大事な人が打たれたんです!私が怒ってるんです!」
「そうだな……うん……ユキの言う通りだ ジェーン俺を殴ってくれ」
「「「「え?」」」」
ジェニー以外のその場にいた全員が同じ反応を示した。
「なんでそうなった!?」
「俺はお前を大事にすると言った。なのに俺はお前の話をろくに聞かずに手を挙げた……俺は罰を受けるべきだ!お前が許してくれるのは分かっている、けれどもそれじゃダメなんだ!俺が……俺の気が済まないんだ!」
至極真面目な顔でセブンがそう言うものだから、そこまで言うならとジェーンが意を決したとき、ジェニーが口を開いた。
「体格的に違いがありすぎるし、お姉ちゃんも優しいから力いっぱいとか無理でしょう?なら……ユキお姉ちゃんに変わってやってもらうのはどうだ?」
「……わかった、ユキやってくれ!」そういって幸男を振り返ったセブンの目に飛び込んできたのは、幸男が八卦掌の型を気合を入れて行っている姿だった。
「あ……死ぬわこれ」
※※※※
「結局、みんな優しいんだね」
ジェニーがやれやれと肩をすくめてみせた。
結局幸男は気合だけだった。
セブンはそのあまりの気迫に目を瞑り、来ない衝撃を不思議に思って目を開けたらデコピンを食らったのだ。
「殴られて赦されようなんて思わないでほしいわぁ いつまでも自責の念に苛まれてなさい、そしたら同じことを繰り返さないでしょう?」
「ユキ……お前……」
「アンタを殴ってセンセェが悲しむ顔なんて見たくないもの……でも、次は無いから」
なんとなく場が緩んできたところで幼い声が再び爆弾を投下する。
「でもなんの罰もないのってどうなんだ?」
「……まぁそれは……そう……ですわね?」千穂が消極的に賛成した。
『社会奉仕位が妥当じゃないのか?』
『社会奉仕……ですか?』
『ああ、本人も反省してるしちんちくりんも許すって言ってんならよ』
『じゃが、外でとなると色々問題が出てくるのぉ』
『なんだよ問題って』
『そうですわね……奈菜さんにはお家とか、お仕事の関係もありますし』
『なんだ?奈菜……セブンか……お前ら名前ややこしいんだよ!ユキと千穂だけじゃねぇか統一されてんの!』
『慣れ じゃな』
『慣れ ですわ』
『慣れ だな』
『慣れ』
『呼び方バラバラのくせに言う事同じとか!これがJapaneseMagicか!』
「ふんふん……なるほど」
ジェニーに通訳してもらった幸男がちょっと勘違いをしたままこう言った。
「センセェの女になれば慣れるわよ」
それをジェニーが通訳したものだから、オリヴィアの混乱は増すばかりであった。
幸男は慣れた理由を述べたつもりが、オリヴィアは誘われたのだと解釈してしまったための混乱だった。
・
・
・
『【金色の王女にして玉座の娼婦】ならあり得ると思ってビビったぜ』
『カカカッそんなわけなかろうが!カカカ!』
「「「……」」」
「……え?うそじゃろ?」
※※※※
朝食をすまし登校時間が迫っていた。
オリヴィアを送り返すにしても、届けるにしても、とりあえず今日明日の事がままならないのではどうしようもない。
そこでとりあえず学園への滞在に必要な手続きをすることにした。
オリヴィアは千穂の服を借りて付いて来ている。
「とりあえず、学生課へ届けて学園での滞在許可を取とるがよいと思いますわ」
玄関で靴を履きながら千穂がそう提案をした。
「ではそれは千穂ちゃんに任せるとして、失くした服の代わりをユキに任せてよいか?」
幸男はセブンの服装をチラリとみて「任せてください!」と笑顔で答えた。
エレベーターで下りながら指示を出していく。
「ジェニーは日本政府のコンピュータへ侵入して魔法に関する部署を探しておいてくれ。連絡手段が分かればなおよい」
「……見当たらない……本当に存在するのか?」すぐさま侵入を果たしたジェニーは疑わし気にそう聞き返した。
「それも込みで調べておいてほしいんじゃ」
「わかった」
「儂は、ちょっとつてをあたってみるとしよう」
幸男と千穂とオリヴィアが学園中央部へ向かう路面電車を利用するために乗り場へ。
ジェニーは強力なネット回線を求めて寮へ逆戻り。上層階のVIPエリアへと向かった。
「ジェーン俺は?」
「……ほれ、迎えの車が来たぞ カカカ ほれほれっさっさと行くがよい カカカ」
「俺は……力になれねぇのか?」
「カカカ!今はその時ではないだけじゃ、その時が来れば頼りにしておるぞ!」
「わかった!行ってくる!」
そういって迎えのリムジンに乗り込むセブンを見送った。
「さて……嫌な予感がするのぉ……」
桜が咲いている。
普段なら「花見だ、宴会だ」と浮かれているはずの小さな魔法使いは約千年前、あの学校に通っていた時の事を思い出しながら、そうため息をついたのだった。
※※※※※※
迷子の交換留学生 迷子は嵐と共に編
最終更新:2023年03月20日 00:37