『蓬莱学園の入学』
『純子は行きたい!』
私の名前は「伊中純子」(いなかすみこ)
今はまだ中学生。
中学3年の秋
山々は燃えるような紅葉に染まり
食卓には裏山で取れた山の幸が並ぶ季節。
冬にはまだ少し時間がかかる。
そんな時期。
進路を決めなきゃいけない季節。
私が住んでいるのは兵庫県の中部。
兵庫県の南部には神戸を代表とする都会があって、北部は温泉やカニが有名ね。
そして中部...私が生まれ育った兵庫県中部地方は自然が豊かで、同じ兵庫県民からも魔境扱いされるほどに自然が豊か...。
さらに私の家は山奥で人里に行くには山を3つ越えなければいけない...
私はこんな地元が嫌いだ。
例え家が狭くても、テレビで見るような都会で暮らしたい。
出来れば東京がイイ。
無理なら神戸がいい。
おしゃれでかわいい服を着て放課後はクラスメイトとマクド...マックというとこにも行ってみたい。
でも、同じ中学のクラスメイトではだめ。
なぜって、自転車通学の彼女たちは学校指定のダサいヘルメットをかぶらないといけない。
これをかぶって何も思わない彼女たちではだめ。
ちなみに私は馬に乗っての通学だった...恥ずかしいったらありゃしない...。
だから私は進路指導の先生にこう言ったのよ。
「都会の高校以外は行く気はありません!もう馬通学はいやです!」って。
そしたらこう返されたわ。
「ばかやろう」
ひどくない?でもまぁ...実際にはもっといろいろ言ってたわ。
一応あれでも教師だし、もっともらしいことを並べてたけど、要約すると「ばかやろう」ってことよね。
だから考えたの。
地元の高校を全て落ちたら、私の本気が伝わるんじゃないかって。
高校浪人?
正直私だっていやだわ。
だって、世間の目ってあるじゃない?
でも、私は本気なの。
それにね、ネットで見たとっておきがあるの!
なんと、東京には9月入学ができる高校があるのよ!
だから、私はここを受験するわ。
全寮制だから親を説得しやすいのもプラスよね!
そう、落ちるはずのない地元の高校を落ちて世間の目を気にした両親や大人たちを巻き込んで「何処でもいいから高校へ入れてしまおう」って思わせるの。
そしてそこからの9月入学の高校ね!
どう?完璧でしょう?
笑われるかもしれないけれど、結果を出せばイイのよ!結果を出せば!
名付けて「押してだめならもっと押せ作戦」
だから私は来年9月には東京のJK!
スカートを短くして、放課後にはマックやスタバで彼氏とデート!
彼氏は...現地調達ですけどね!
でも、地元の話になったらどうしよう...田舎過ぎて笑われないかしら...心配だわ。
それから時が流れて...雪で一面銀世界な季節を迎え、年も新たになり、そして残雪が残りながらも、春と呼ばれる季節がやってきた。
私達は卒業式を迎えた。
数少ないクラスメイトたちは人里の高校へ通うことが決まっている。
仲の良い友人は私を心配し、そうでない者は離れてヒソヒソと笑う。
雪が溶け、彼女達が進学先に馴染んだ頃、私は大人達の説得と受験勉強と家事手伝い、合間に馬を走らせた。
庭先に紫陽花が咲く頃には大人達の説得はほぼ完了していた。
どのみち他に道などないのだ。
定時制?通信制?
ここまでした私が、首を縦に振るわけがないでしょ?
蝉時雨
裏山をどれだか分け入っても蝉の声からは逃げられない。
そんな季節になった頃、願書を提出した。
お父さんとお母さんは、どうしても心配だったみたい。
けれど、お婆ちゃんの
「子が転ばないよう閉じ込めとく親があるものか【歩かねば走り方を知らず、走らねば跳び方を知らず、跳ばねば舞い方を知らず】この子は今歩き始めたばかりやろ、親ならしっかり見届けたりぃや」って言う言葉で決心がついたよう。
お婆ちゃん...カッコいい!
そして...合格通知が届いた。
『純子は行く!』
肌を焼く日差し。
足元はそれを照り返すアスファルト。
遠くに浮かぶ雲は入道雲かしら?
吹き渡る風がキモチイイ。
私は今朝、家族に送ってもらって神戸空港へ。
今はその滑走路に立っています。
滑走路の向こうに見えるのは蜃気楼かしら?
なんでこんなところにいるかですって?
それはもちろん飛行機に乗るためよ。
つまり、東京の高校に見事合格した私は、学園へ向かうべく飛行機にのるの!
お母さんもお父さんもなぜかずっと飛行【船】って言ってたけど、可愛い娘が離れて暮らすのがよっぽどショックだったのね。
ごめんなさいお父さんお母さん、私はそれでも東京へ行きます!
学園行のチケット兼入学証明証をカバンの中で何度目かになる確認をして、照りつける太陽の下、係の人の誘導に従って待機中。
やたら外人さんが多い列に並びながら空を見上げてると、いよいよ列は進みだした。
ああ..ここまで色々あったなぁ...
ターミナルビルにお父さんとお母さんの姿が見える。
お婆ちゃんは玄関先で見送ってくれた。
一人暮らしへの不安や、家族と会えない寂しさはある。
けれど、未来への期待のほうが大きい。
夏の太陽のように私の未来はきっと輝かしいものになるはずよ!
ああ...私のバカ...もうずっと馬鹿。
東京へ行きたいがためにあんな騒動を起こしたのに、兵庫の魔境から絶海の孤島へ進学だなんて...絶海の孤島て...
...まぁ色々と、説明するとね?
私は計画通り、すべての入試試験を白紙で出したわ。
受験先の高校から苦情の電話が中学へ入って先生たちは大慌て&大激怒だったわ。
正直、予想の範囲内だったのでただただ可笑しくて笑いをこらえるのが大変だったのよ。
そこから、親の説得や先生の説得。
万が一にも落ちたら困るので受験勉強。
行きたい場所ー渋谷とか原宿とかーファッションのチェックも欠かさなかったわ。
受験日当日は大阪で試験を受けた。
全国から入学希望者がいるらしく、皆が東京へ集まるのは大変だからってのが理由らしわ。
大阪以外にも各都市で会場が設けられたみたい。
コロナ対策もバッチリね!
そして試験は見事合格。当然ね。
報告した際の家族のほっとした声が何とも言えなかったわ。
あと、友人達の腫れ物に触るかのような態度。
私は私でありたいだけなのに、皆んなには理解...しても受け入れられないみたいね。
だからこんな田舎は嫌なのよ。
そう...私の希望は「都会の高校へ通う事」なの。
東京ならどこでもいいってわけじゃないの。
それなのに...その高校の所在地が...東京都台東区...ここまではいいのよ。
台東区って言えば東京23区の一つでしょ?
だからね、宇津帆島って聞いたときに川の中洲みたいな感じかな?あるいは昔は島だった的な感じかなって思ったのよ。
だって、港区や江東区のように海沿いじゃなくていわば内陸なのよ?
だれが、東京から南へ1800kmも離れた絶海の孤島だとおもうのよ!
あああ...なんてこと...なんてこと...。
今更どうにもならないわ...だって、神戸空港発-宇津帆島行きの特別便の飛行【船】に乗ってしまったんですもの。
飛行船よ?!飛行船!
飛行船なんてこんな機会がなければ間近で見ることないし、乗ることなんて一生ないでしょ!?
そりゃぁテンション上がってやばいわよ!
うっかり乗り込んじゃっても仕方ないわ!
ああ、お父さんお母さんあなた達が言ってた飛行船ってこれの事だったのですね...ちゃんと聞いてればよかった...
えーと...ごほん。
この飛行船はね、東京都台東区宇津帆島にある蓬莱学園へ直通で新入生を運ぶ便なのよ...途中下船なんてできないわ。
ああもう...馬鹿...私のバカ...
飛行船を間近でみてはしゃいでた30分前の私を殴りたい。
はぁ...まぁでも...東京であるからには...きっと兵庫の魔境よりは都会よね?ね?
学校帰りに、マックやスタバとか...彼氏出来るのかなぁ...
もう本当、色々と不安になってきたわ。
『純子は飛ぶ』
そういえば、この飛行船は飛行委員会の生徒が操縦してるって乗船後のアナウンスで聞いて不安しかなかったけど、もう降りれないのだし?到着まで24時間以上かかるわけですし?もうしょうがないかなって、今は比較的落ち着いてる。
大勢を乗せて飛ぶ飛行船を素人が操縦するわけ無いものね!
きっと大丈夫!うん!そういうことにしよう!ははは!
そもそも飛行委員会って何なのかと渡されたカタログに目を通すと、学園が運営する飛行船や飛行機飛ばすクラブを管理統括する委員会ですって...ドローン飛ばすクラブかな?
飛行船を飛ばすところを見ると航空会社へ、インターンみたいに学んでるって事よね?就職に強い学校ってネットで見たけど、なるほどこういうことね。
飛行船って初めて乗ったのだけど、思いの外揺れないのね。
気球よりはマシってイメージだったから意外だわ。
この船の名前は「ヒンデンブルグ」とか言ってた気がする。
近くに座る外国籍らしい新入生が「オマイガ」って言って青くなってるのを見て、本当に言うんだって面白かった。
このヒンデンブルグ号に乗り込んでいるのは私たち新入生と、お世話してくれる先輩たち。
そういえば空港では、幾つかの委員会の先輩が挨拶してくれてた。
モスグリーンのジャケットにダークグリーンのタータンチェックのズボンやスカート。
肩についた飾がカッコいい制服。
入学したら、私もあれに袖を通すのね!
離島の学校っていうからどんだけダサいのかと思ってたけど、実物を見たらけっこうイイかも!
ネクタイもリボンタイっていうのがポイント高いわ!
高校の制服としては珍しいタイプよね?
「珍しい」はポイント高いと思うわぁ!
そんな感じで先輩たちの制服をじっと見てたら、声かけられちゃった!
イケメンだし、鼻の上に大きな傷跡があるのはちょっと怖いけどそれもまたイケメンにはプラスよね!
入学式前に在校生からナンパされるなんて罪な女ね!私って!
って思ってたのに...
「君、どうしたのかな?酔ったのかい?...ん?...保健委員!」
イケメンに見惚れて言葉が出ないうちに余計な心配をかけてしまった。
『純子はおやすみ』
呼ばれてきた人が保健委員なのだろうと思うけど、どう見ても小学生。
白いゴスロリ、ホワイトロリータってやつね...え?どういうこと?
白衣ならまだわかるわ?
保健委員って呼ばれてきたのが小学生でホワイトロリータの外人さんでキリリとした顔の銀髪で金眼...右目に眼帯...の女の子。
もう、これ訳が分かんないわ。
「なんじゃセブンとこのお兄ぃはないか、他に手の空いてる者もおらんでな、儂が来たぞぃ?」
しかも、一人称が「儂」...
「ははは、これは申し訳ない。いつも愚妹がお世話になっております。じつは此方の女性徒が体調を崩したようでして、診ていただきたいのです」
「あれの事を「愚妹」等と申すな、わしはあ奴を気に入っておる」
イケメン先輩と、そちらを見上げて会話をする先生?
なんだかおもしろい図だなって思ってみてたら。
そのロリ先生が私を見上げてくる。
私の顎位の背丈だから130センチちょっとくらいかな...小さい人だなぁ、先生というくらいだから大人のはずなのに。
イケメン先輩とロリ先生を交互に見る私の困惑を見透かしてか、イケメン先輩は「彼女は見た目に反して立派な医者だよ。安心してみてもらいなさい」そう言ってこの場を後にした。
この場に残ったロリ先生は座席のリクラインングを倒すと私には楽にするように指示をした。
今夜のベット代わりと聞いてたこの椅子は、かつてライブに行くために乗った夜行バスのそれよりも何倍も快適だった。
「さて、お主の名はなんというのじゃ?」
ホワイトロリータの外人女子小学生から発せられたセリフに私の脳は一瞬理解が追い付かなかった。
それはそうよね、だってなんだか時代ががった喋りをするんですもの、ホワイトロリータ小学生が。
「どうした、名も言えぬほど体調を崩したわけでもあるまい?」
「あ...伊中です。伊中純子(いなかすみこ)です。えっと...先生は...?」
「かかか、儂の名などどうでもよい...どれ、目をつむってリラックスせよ...うむ...うむ...」
私が目をつむってると、触れられていないはずなのに先生の手の熱が伝わってくる。
よっぽど体温が高いのね。いとこの3歳児がこんな感じだったなぁ...。
「3歳児と一緒にするでないわ!最近の若い者は失礼極まりないの!」
「え?あ!ごめんなさい!」口に出てしまったのかしら...それにしても...なんだか、不思議...身体がポカポカしてきて軽くなっていく感じがする。
一人暮らしや、見知らぬ土地での生活、やっぱり緊張して疲れてたんだと思うな...それが、スーッと抜けていくのがわかる。
ああ...なんだ...眠く....。
「かか...よい、よい...寝れるうちに寝ておけ...」
隣の席の外人がなにやら煩いけど、先生の言葉に甘えて寝てしまおう.........。
『純子は食べる』
お父さんとお母さんに抱っこしてもらう夢を見ていた。
大きな愛に包まれて幸せな夢だった...。
けれど、揺さぶられてその夢は儚く消えた。
「スミコ、スミコ、起きて!晩ご飯だよ!」
誰だこれ?私を起こした張本人を見ながら、よくよく見ると隣の席の外人さんだった。
「スミコだいじょうぶ?ずっとねてたよ?」
「えーっと...?」
「マルセル・アヴリル。貴女の隣の席よ。学校につくまでよろしくね?」マルセルはそう言って私の手を取り握手してきた。外人さんは距離の詰め方が違う、なんだかスマートに思うわ。
「で、貴女スミコでしょう?体調は大丈夫?」
「え、ええ...でも私の名前...?」
「ネームプレートに書いてあるわ」と自身のそれと私のそれを交互に指さして、私の名前を知ってる理由を説明してくれた。
正式な名札ではないけれど取り合えず、おのおのでつくった仮の名札。
今日のために作っておくようにって入学の手引に書いてあったやつ...私の作ったものは長方形の紙に漢字とローマ字で名前が書いてあるだけ。
マルセルと名乗った彼女の名札は色とりどりの花にあふれ、アニメのニンジャが書かれて、とても賑やかだ。
素直にこういうのもありなのかって感心したけれど、怒られないか心配でもあった。
「よろしくマルセルさん」
「incroyable! Ça s'appelle vraiment "san" !」
「え?え?」突然の英語に驚いてると
「ああ!ごめんなさい!マルセル【さん】って呼ばれたのが嬉しくて!」
「ああ!そうなのね!私こそごめんなさい!突然の英語に驚いてしまって!」
「Non! C'est français. Je suis Français!」
なんだか否定されたのはわかるけど、何をど否定されたのかわからないわ...。
「フランス語です。私はフランス人なので!」
「ああ、そうなのねごめんなさい。初めて聞いたから分からなくて」
「Anglaisとは親戚みたいな言葉です。でもfrançaisは発音が違うからそのうち慣れるわよ」
この人は私にフランス語に慣れろって言うのかしら...
「そう!ご飯よ!スミコ!」
座席に備え付けのテーブルの上にはお弁当とペットボトルのお茶が置いてあった。
お茶には「は~い!お茶!」豆縞茶園 と書いてあった。
豆縞茶園というのはメーカーだと思うけど、聞いたことないわ...
「スミコさっそく食べましょう!私、本場のお弁当ってまだ食べたことないのよ!」
「へー」テンションが高くてチョットついていけないわ...嫌いとかじゃなくって、寝起きッテのもあると思うのだけどタイミングを逃したというか...分かるでしょう?
「私、JapanExpoで何度か食べたのだけど、やっぱり日本で食べてみたかったのよ!みて!スミコ!これってだし巻き玉子ってやつでしょう!?délicieux!」
へーそんなにおいしいのね、ジャーわたしもだし巻き玉子から...
あ、これ玉子焼きだわ。
「マルセルさん、これだし巻き玉子じゃないわ」
「え?わたし、アニメで見て...え?」
「これ玉子焼きよ?」
「vraiment! ??」
ホークに刺さった食べかけの玉子焼きを、まるで宝石でも見るかのようにうっとりと眺めるマルセル。
思わず吹き出して、止まらなくなってしまう。
「どうしました?スミコ」
「だって!玉子焼きよ!?玉子なんてフランスにもあるでしょう?」
「Non!たしかに玉子焼きはフランスでも再現できます。しかし、自宅で食べるデンデン虫とリヨンの三ツ星レストランで食べるエスカルゴが一緒ですか?答えはNon!」
気迫のこもった顔で私にそう力説するマルセルはさらに続ける。
「Japonで作られてJaponで食べる、しかもお弁当で!こんな最高の事が他にあるでしょうか!?Non!」
マルセルは止まらない。
「私はJaponに憧れて頑張って日本語覚えた!そして来た!すべてアニメ・マンガのため!そして今、拙者は夢にまで見たお弁当と玉子焼きを食してるでござる!拙者の人生のピークでござる!」
「そ...そうで、ござったか...」【拙者】とか【ござる】とか言い出したよ...なんだこの外人...見た目はかわいいのに...もしかしてオタク?
肩を上下に息を切らして「どうしましたスミコ殿?」
ぶーーー!
思わずお茶を吹き出してしまった...
それを見たマルセルが「おー!これが!例のあれでござるな!」
なんだこのフランス人!「私の腹筋が壊れる前にその喋り方やめろぉ」って言いたいのに笑いすぎて言葉にならない!
こうして、私とマルセルは学園最初の友人となったのでした。
『純子は?』
「ところでマルセル、なんでそんなしゃべりなの?最初は普通だったよね?」
「拙者、サムライにあこがれてござる!日本語はアニメで覚えたのでござれば、素ではこのようなしゃべりになるでござる」
「...まじかぁ」
「ある程度覚えたころ、restaurant japonaisのひとに話しかけてみたでござる。そしたら、日本人じゃなくって、次はSNSで知り合った日本人に日本語教えてもらったでござる。そしたら、ござるってもう言わないって...でも、スミコをみて私も好きなものをやりつくす!蓬莱学園に来たからには私もそうしようと思って候!」
「私を見て?」
「Oui 日本の入学saisonって春でしょう?この季節に入学するのは【好きなことを貫き通すために来る連中】だって、ほら、鼻のところに傷のあるsexyなセンパイがいたでしょう?彼がそう言ってたわ」
「好きなことを...貫き通す...」
「Oui! La Franceではね蓬莱学園は有名なのよ?Japonの奇人変人天才鬼才が集うところだって!だから社交界でもチョッとしたstatutよ!?」
「ははは」これがフレンチジョークかぁってこの時は思ってましたけど、とある出会いをきっかけにジョークじゃなかったことに気が付くのですが、それはまた別の機会にでも。
晩御飯も終わるころ。
船内放送で学園の説明を日本語、英語、アラビア語などいろんな言語で行われていたわ。
途中、あのロリ先生が様子を見に来てくれて少し会話をしたのだけど、その時マルセルが...十字架をかざして「去れ!悪魔よ!」って。
「いくらなんでも失礼過ぎるでしょ!」って注意したんだけど、
ロリ先生はどこ吹く風とばかりに「かかか、伊中よお主はよいのぉ、これだから儂は日本人が好きなんじゃ!」と笑ってマルセルをあしらっていた。
ロリ先生が行った後、私はマルセルに何故あんなことを行ったのかと尋ねた。
すると「覚えてないの!?貴女なんだかおかしな力で眠らされていたのよ?」
「ん~?そういえば、なんだか気持ちよく寝れたけど?」
「きっとそれが、悪魔の力です!」
「でも、悪い人じゃないように思うけどなぁ」
「悪魔は親切な顔で近づいてくるのです!」
「アニメの見過ぎよ」と吹き出してしまった。
「Non!あれは絶対、神への反逆者です!スミコは気を付けなければいけません!あの悪魔に目をつけられたのですから!」
マルセルの力説に適当に相槌を打ちながら窓の外を眺める。
日はすっかり落ちていて遠くにお月様が見える。
世界は夜の色に染まっているけれど、空と雲と海ではそれぞれ違いがあってとても綺麗だった。
『純子は気になる』
食事の後、基本自由時間となった。
けれど飛行船だ。走り回れるほど広くはない。
せいぜい、展望デッキで景色を眺めるか船内で用意された映画を見るか位だ。
友人とお喋り?
周りは外人さんだらけで...。
私は映画を見ることにした。
船内の少し大きめのモニターには、自主製作映画だとは思えない、ちゃんとしたものが流れていた。
活動写真部というクラブの制作らしい。
内容は、一見普通のJKが実は凄腕クノイチで褌をちらつかせながら化け物を退治するっていう内容のアクション映画だった。
となりのマルセルが「タイマニン!タイマニン!」っていってるけどそれが何かは説明してくれなかった。
映画は60分ほどでおわり、次の映画が30分後だという。
マルセルは思いのほか先程の映画を気に入ったようで「ニンジャ!ニンジャ!」ってうるさい。
私はといえば、なんで、褌をちらちらと見せるのか納得がいかなかった。
だいいち戦うなら、プロテクターとかちゃんとつければいいのに。見た感じそういったこともなく、全く納得がいかなかった。
無料で配られたポップコーンと飲み物。
私たちは空になったそれらを補充するべく、器をもって列に並ぶ。
しかも、お替り自由だというのだから、凄い話ね。
なんでも、「ゲッコウドウ産」という事らしい。
でも、それがどこなのかは分からなかったけど、一ついえるのは『お料理研』というクラブの活動をアピールする目的だということだ。
受け取ったお皿やカップの底に「おいでませお料理研!」と書かれているから間違いないと思う。
食べ終わったらそれが見えるという寸法だけど、なかなか手が込んでる。
食堂のカウンターに並んで先輩かな?係の人に自分用カップに補充してもらうのだけど、次は私の順番だとワクワクしていたら...「入学前勧誘禁止法違反により5点減点!対象物は差し押さえします!」
突然数名の生徒が割り込んできてカウンターの中へ!
七三メガネが指示を出して、体格のいい人が指示に従って証拠品を差し押さえていく。
気が付けばあという間に「証拠品 差し押さえ 公安委員会」と書かれた赤い札だらけになった。
「えーっと...ポップコーンとコーラ...」
「ははは...ごめんね...機材全部差し押さえられて作れなくなっちゃった」
「えぇ...いったい何がどうなって...?」
「ああ...君たちはまだ入学してないからね、いわばまだ部外者なのさ。それに対してクラブ勧誘は違法って事になってるんだよ」
「違法...?」
「そ。違法。うちみたいに先に勧誘できるチャンスがあるところとないところでは不公平だってことになってね」
「へ、へぇ...」
「しかし、このタイミングで仕掛けてくるなんて公安の連中も意地が悪いぜ!」
「公安?」
「そ。公安委員会って言ってね、いわばお巡りさんみたいな連中さ。本物よりもよっぽど熱心に働くけどね!」
「おまわりさんが熱心なのはいいことでは?」
「熱心過ぎて、冤罪の山が出来なきゃね?」
「冤罪の山...」
「そ。連中は仕事熱心だ、迷惑過ぎるくらいにね!君も出来るだけ連中には関わらないようにしな?でないと、折角の3年間が灰色になっちまうぜ?」そういってお料理研の先輩はカウンターの中へ消えていった。
結局、ポップコーンもコーラもないまま、映画を見ることになった。
かわりはスルメと梅昆布茶...私物よ?文句ある?
次の映画は...
「放射性巨大生物vs暗黒面に落ちた親父」
「放射性巨大生物vs暗黒面に落ちた親父II 銀河の果て」
「放射性巨大生物vs暗黒面に落ちた親父III 冥王星で愛をさけぶ」の三部作をノンストップで見ることになった...
ふざけたタイトルだけど、なかなか良かった...
ところどころ入るアクションはカッコいいし、カメラワークも凝っていて魅せられた。
シリアスの中にもユーモアがあって、特に【暗黒面に落ちた親父が縁側であやとりをしてる姿】は爆笑ものだった。
映画を見終わった後、感動している私に
マルセルがセクシーだと言っていた先輩が声をかけてきた。
「今の映画、面白かったかい?」
「はい!とっても面白かったです!」
「ふむふむ...ちなみにどんなところが?」
「はい!巨大生物と親父の駆け引きの中でお互いを騙してやろうと思いながらも、お互いに騙されてやろうって思ってるところですね!」
「!!きみ!ちょっと詳しく話さないか!?」
イケメン先輩が私の両手を取って熱く見つめてくる...ああ!やっぱり私は罪な女なのかしら!?
「三月?」なんだか、冷たい風が吹いたような気がした。
三月と呼ばれた先輩の後ろには数時間前に見た映画のクノイチが立っていた。
「かわいい子ね?」
「そうだね。確かにかわいい子だ」そういうイケメン先輩は、どうやら彼女らしいクノイチ女優さんと手を繋いでいる。なんという早技。
そして、見逃さなかった!「かわいい子」と言ったときイケメン先輩は彼女の手をにぎにぎしてた!
それはまるで「お前の事だよ」とでも言わんばかりに!
「...映画の話で盛り上がってたの?」あ、チョッと頬を赤らめてかわいい。
「ああ、そうなんだ!彼女の着眼点は素晴らしいものがあるよ!
もしかしたら君に迫るかもしれないね!」
そういいながらイケメン先輩はクノイチ女優先輩の腰に手を回していた!ほんといつのまに...。
映画の感想を話してたら、いつの間にか二人のイチャラブを見せつけられてしまっていた...リア充爆発しろ...。
『純子と不思議』
結局、イケメン先輩と彼女のクノイチ先輩から解放されたのが次の映画が始まるタイミングだった。
なんでも、明日の朝まで後5本上映するそうだ。
多くの新入生はすでに眠りに落ちているけど、熱心に見ている生徒も中にはいるようだった。
夜中お手洗いへ起きた時に見たのは、あのイケメン先輩がその生徒たちへ声をかけているところだった。
たぶん、あれもクラブ勧誘の一環なんだと思う。
御手洗いからの帰りに展望デッキへ行ってみる。
時計を見ると23時すぎ。
まだ起きてる生徒もいるんだなぁと、何気なく窓辺へ向かってみる。
相変わらず海と空とその間に雲。
それぞれがお月さまに照らされて綺麗。
それと、あれは蝙蝠かしら?
飛行船の周りをひらひらと4匹?5匹?が飛んでいるのが見える。
まるでこの世のものとは思えないほどの幻想的な風景...見たことないはずなのに知ってるような気持になってくるのは何故かしら...。
とても不思議...。
甘くて頭の奥が痺れるような匂いがする...嗅いだことのない...お香か何かかしら...
いつまでも見ていたいけど、戻って寝なきゃいけない。
明日は、島へ着いたらそのまま入学式らしい。
そしてそのあと、入寮式。
不安と期待で一杯だわ...でも、とりあえず今、目の前にある不安をなんとかしたい。
だって、目の前の妖しい占い師みたいな人が私の事をじっと見て来るんだもの!
なに?なんなの!?わたしがなにしたっていうの!?
「...........」
「え?なに?」何かを言ったような気がしたので思わず聞き返してしまった。
「オマエ、ミエテイルナ」
目の前の占い師は突然顔が裂け牙の生えた巨大な口へ変わり、占い師っぽい服の中から腕が生えてきた!え?なにどういうこと!?腕って2本よね?なんでいっぱいみえるの!?
化け物占い師の腕が私の腕や首を掴み、そのまま押し倒された!
私はパニックになって叫んでいるはずなのに声が出ないし、誰からも見られていない!?
「オマエナニモノダ」
声が出ない、逃げようとしても身体がうまく動かない。
巨大な口が私を呑み込もうとするかのように迫って来る。
嫌だ!こんなところで死にたくない!おしゃれなカフェで彼氏とデートして青春したい!それまでは死ねない!
けれど、手足は押さえつけられて動けず、首を絞められて声も出ない、お父さんお母さんを呼んでも助けは来なかっ。
もうだめかと本気で思った。
その瞬間だった、化け物占い師は私の視界から消えるように真横へ吹っ飛んだ。
「錬金術研の出来損ない人形か、それとも魔導書研の下級式神かの?」
「テキタイコウイヲカクニン、シンニュウセイホゴぷろぐらむニヨリハイジョシマス」
「かかか!貴様が襲っておったのがその新入生であろうが」
助かった!?声の主を見るとあのロリ先生だった。
化け物占い師はまるで蜘蛛の様に複数の腕を使って、壁や天井に張り付いてうろうろしながらこちらを窺っている。
「かかか、誰かと思えば伊中ではないか」
先生が化け物占い師に背中を向けて、私に手を差し出してくれた。化け物占い師は、その隙に誘われるように攻撃を始めた。
火の玉を吐いたり糸を吹き出してロリ先生を攻撃してるけど、ロリ先生は振り返ることもなく、これをバリア?結界?みたいなので防いでた。
ああ、これ映画を見過ぎて夢見てるんだ!でないとこんなことあるはずがないもの!
ロリ先生は、化け物占い師改め蜘蛛女の攻撃を防ぎつつポケットから黄色とピンクの可愛らしい...防犯ブザー?を取り出すと、ついてたひもを引っ張った。
するとけたたましいブザー音が鳴り響いた。
あまりの音量にびっくりした私は、あわせてこれが夢じゃないことも理解させられた。
こんなにも大音量が鳴っているというのに、周りの生徒たちはまるで何事もないかのように此方に気が付かない。
私は耳をふさぐ位に煩いのに彼らには聞こえていない?
ロリ先生はずっと攻撃を防いでいる。
反撃しないんだろうか...いくらなんでもこのままだと...。
そう思い始めたころ聞いたことのない言葉が大声で響き渡った。
蜘蛛女が攻撃をやめて、がちょぎちょと音を立てながら、元の妖しい占い師の姿へ戻っていく。
駆けつけた女性徒ーさっきの大声の主。金髪で黒人ーはロリ先生と言い争っている。
たぶん、どっちが悪い的なことを話しているようにおもうけど、何語かさっぱりわからない。
私がオロオロしてるとそれに気が付いたロリ先生が、手招きして私を呼んだ。
「伊中よ、改めて聞くがけがなどはないな?」
「あ..はい先生」
「うむ、お主に一つ証言してもらいたいことがあってな」
「証言...さっきの蜘蛛女の事ですか?」
「そうじゃそうじゃ!ばっちり【見えて】おるの!」
「はい、なんなんですかあれ!私死ぬかと思いました!」
「ほらの?」私の言葉を受けて、ロリ先生は駆けつけた女性徒を見上げる。
金髪黒人の先輩が去った後。
展望デッキの椅子に腰掛けて話し込む。
「あやつは錬金術研のアースィマといっての、この船を守っている警備の一人じゃ」
「警備...ですか?」
「うむ、学園にはいろんな生徒がおる。聖人、悪人、剣豪、ガンマン、魔法使いなど...そして、それらの被害者もおる」
「被害者...」
「うむ、本土で色々あって流れてくるものも多い...お主も、その一人ではないのか?」
「え!?...わたしは、東京の学校に通いたくて...」
「え?」
「え?」
「まぁ...東京ではあるのぉ...」
「はい...わたし、宇津帆島っていうのが地名だけの話だと思ってたんです。それなのに...」
「かかか!愉快じゃの!」
「笑い事じゃないんです!」
「かかかか!よいよい!わしはそういうやつのほうが好きじゃ!」
ロリ先生はそう言い私の背中をバンバンとたたいた。
慰めてくれているのかしら?
「さて、話を戻すとじゃ、あ奴は本土からやって来る【よからぬもの】に対しての備えでの」
「よからぬもの?」
「うむ、【悪霊】【怨霊】【呪い】【悪魔】他のもいっぱいあるがの。そんなものからお主らを守り、宇津帆島へ上陸させないために儂らがおるんじゃ」
「先生もその警備の人なんですか?」
「人手不足でのぉ」そういって先生は肩をぐりぐりと回して大きなため息をついた。
正直、訳が分からなかった。
オカルトなんて興味なかったし。
いや、友達の間で相性占いとかくらいはやってたけど...。
でも、あれもこれも本気のクラブ活動だという。
「そういえば先生、さっきのアースマさんですっけ?」
「アースィマじゃな」
「はい、その人と何を言い争ってたんですか、あと何語ですか?」
「ふむ、あの人形がお主を襲っておったことを信じられるとほざきおってのぉ...あとは売り言葉に買い言葉じゃ」
「なんか..すいません」
「なに、お主が頭を下げる必要などない...あとあれは古アラビア語じゃ」
「こあらびあご?」
「アラビアの古い言葉じゃ」
「そんな言葉を知ってるなんて、先生はすごいんですね!」
「かかか!そうじゃろう!そうじゃろう!儂、凄いんじゃ!かかか!」
「あの、先生...私も先生みたいな魔法「ストップ!」」
びっくりした!先生がいきなりそういうものだから。
「えーっと?」
「入学前勧誘禁止法っていうのがあってじゃな...」
「あーそういえば聞いたことあります」
「うむ、入学後も興味があれば訪ねてくるがよい」
「ふふふ...せめて名前を教えてくださいよ」
「かかか!内緒じゃ!内緒! 探してみよ。ヒントは、先生と呼ばれておるが教師ではないぞ?医者の方の先生じゃ。」
それからしばらくの間、学園の事やロリ先生の事、なんでみんな私が襲われてるのに気が付かなかったのかを聞いた。
先生はロリな見た目に反して高校3年生で、世界各地を廻ったことがあり現地の文化や風俗に詳しいらしい。
他の生徒が、私に気が付かなかったのは「次元を少しだけずらしてある」とか「位相改変」とか...全然わかんなかった。
「あーアニメとかで戦闘になると異空間とかになるじゃろ?あれじゃ」とロリ先生が説明してくれたことでなんとなくそういうものかと理解した。
学園については私が持っていたパンフレットの内容と実際の内容が違うようで、先生によれば『黄昏のペンギン』という名前のテロリスト集団の仕業ではないかとのことだった。
『黄昏のペンギン』は印刷物に誤字脱字を紛れさせたり食い逃げしたり、キーボードのボタンを外したりする、せこい集団だとのことだった。
最初は冗談かと思ったけど、どうやら本当に存在する団体らしい。
「なんだこの学校」すこし、ワクワクする。
「まぁ、そこがこの学校の魅力でもあるんじゃがのぉ」
「う~ん...そうはいってもなぁ」と私の中の常識が胸の高鳴りを否定する。
「かかか!そこが楽しめるようになればお主も立派な学園生徒じゃ!さて、そろそろ寝るがよい。明日は忙しいからの、今のうちに休んでおけ」
先生に言われて座席兼ベッドに戻った私は、今日一日の出来事を振り返りながらもあっという間に眠りの落ちた。
『純子は上陸する』
翌朝。
朝食はサンドイッチと牛乳。
昨日の晩御飯に比べるとずいぶんと見劣りする。
どうやら、公安にキッチンを押さえられて料理ができないとかなんとか。
残念だけど、それでも十分美味しい。
となりではマルセルが「ご飯と焼き魚、納豆...拙者楽しみでござったのに...」としょんぼりしてる。
着陸まであと1時間とアナウンスが流れ、自由に過ごしていた生徒の多くが荷物をまとめるために席に戻り始める。
朝食から今までの間にマルセルを訪ねてきた人は10人以上いてその都度、私も挨拶を求められた。
その多くは外人さんだったけど皆、日本語で挨拶をしてくれた。
中にはわざわざ英語で話しかけてくる子もいたけれど、マルセルが
「À Rome fais comme font les Romains!」って物凄い剣幕で怒り出してそいつを追い払ってた。
「どうしたの?!」と驚いて聞くと「貴女侮辱されてたでござる」と。
「へぇ?」
「へぇ?じゃないでござる!どうして怒らないでござるか!?」
「だって何言われてるかわかんないし?で、なんて言ってたの?」
「あ奴は...ん~...」
「どうしたの?」
「とても汚い言葉でござる...あんな言葉を分からないからと言って面と向かって言うなんて信じられない!もう本当に!もう!本当に!」
めっちゃおこるやん...いやぁ、私の事で怒ってくれるのは嬉しいんだけどね?
事態を把握できてないから何とも言えないよね。
学園到着まで後30分
全生徒に席に戻るようにアナウンスが流れる。
そしてわずかな雑音が入った後、放送は続く。
「新入生諸君!入学おめでとう!これからの3年間はきっと諸君にとって輝かしい3年間になることだろう!」
スケジュールを読み上げていた優しい雰囲気の女性ではなく、力強い感じの男性の声に代わって放送が続く。
「勉学に励み、クラブ活動に汗を流し、友情と愛情に涙と喜びを見出すだろう!外の世界の日常は非日常となり、非日常こそが日常となるだろう!」
音声の後ろがなんだか騒がしいように聞こえる。
「諸君が望めばそれにこたえるだけの物が学園にはある!」
まるで熱血ヒーローのような喋り方だ。
「諸君!励むがよい!足掻くがよい!その分だけ学園は諸君に答えるだろう!諸君!入学おめでとう!我々、応援団は諸君をいつまでも応援うお!ghjp@入学前勧誘禁止法違反!10点減点!」
くっくっく...あははははは!
なんなのこの学校は!
「ただ今、音声が乱れたことをお詫び申し上げます...」
どうやら、応援団の勧誘放送に公安が突入したみたいね!
これが、学園での日常になっていくのかしら!?
「...かれらは応援団です、私が落ち込んでいた時ずっと励ましてくれたのが彼らでした! うるせぇ!公安なんかくそくらえだ! 応援団はいいやつらだ!困ったことがあった痛って!ちくしょう!応援団!応援だぁあ!」
最後には「ガガッ!」という音とともに放送が途絶えた。
必死の叫びだった。
事情は想像するしかないけれど、なんだか男の友情的なものを感じて目頭が熱く成る思いだわ...
「ねぇ!みて!スミコ!」
「え!?なにあれ!?」
窓の外を見ると戦闘機?みたいなのが色とりどりの煙を出しながら綺麗に並んで飛んでいる。
翼が2枚あるプロペラ飛行機はその後ろに『おいでませ複葉機研!航空部!飛行委員会!』という横断幕を引っ張って飛んでいた。
船内へ目を戻せば映画を映したりしていた大型モニターが、一斉に乱れて一人の美少女が映る
彼女は言う「こんにちは!私は月兎キンウ。みんなぁ!入学おめでとう!そしてぇおいでませ☆コンピューター研へ♡」そういって可愛らしくウインクしてすぐに消えた。
時間にして数秒だったはずだけど、何人かの男子生徒は彼女に参ってしまったようだ。
どうやら、先輩たちは入学式が待てないらしい。
先程から船内のスピーカーからは、聞いたことあったりなかったりの曲が流れている。
ところどころ「ハードロック研!尾乃道日向とは 俺の事だ!」って入ってる...BGMかと思ったらこれも勧誘だった...
花火が見える。
窓一面に大輪の花火...いや...近くない?
つぎの瞬間、飛行船が大きく揺れる。
火災警報器がけたたましくその役目を果たそうとしている。
船は徐々に傾き始めた。
「式典実行委員会め!だからあれほど花火は着陸してからにしろって言ったのに!」イケメン先輩が窓の外を見ながら叫んでる。
「三月!最悪三月だけでも助けて見せるから!」これはクノイチ先輩。
「もう駄目だ!おしまいだ!」七三メガネの公安先輩は頭を抱えて悲鳴を上げている。
船の傾きは今や45度を超えている。
みんな何かにつかまって口々に悲鳴を上げたり、祈ったりしている。
隣でマルセルが「スミコ!なんでそんなに冷静なの!?これは地震じゃないのよ!?」だって。
...だって、私は知っているもの。
この船にはヒーローが乗っているってことを。
「かかか!皆の者あんずるでない!儂に任せておけ!」ロリ先生のそんな声が聞こえたきがした。
窓の外を見ると白い何かがちらりと見えたきがする。
落下速度が緩やかになり、船体も水平に戻っていく。
それから数分後...体感ではもっと何十倍も長かったように思うけれど...飛行船は無事、地面へと帰還した。
私たちは船を降りて、先輩たちから無事を確認される。
振り返ると風船部分が焼けて骨組みと船体だけになった飛行船が横たわっていた。
消防車や救急車が何台も駆けつけている中で、大した怪我人が出ることもなく大事に至らなかった。
「風船部分がアレでどうやってここまで飛んできたんだ...?」
「あれはどう考えても墜落してて当たり前だよな...?」
「狂的科学部あたりの何かだろどうせ。そんなことよりさっさとかたずけろ!次の船が来るぞ!」
近くの先輩方が話してるのが聞こえた。
一歩間違えれば大惨事だったんだと、今更になって怖くなる。
おもわず、その場にへたり込んでしまったけれど、そんな私を誰が責めらるだろうか?
「なぁにをへたり込んで居る!しゃきっとせんか!」
振り向くと煤けた格好のロリ先生が立っていた。
もう、笑うしかない。
「純子のデビュー」
入場。
国歌斉唱。
入学許可宣言。
校長の挨拶と続き来賓の挨拶や祝電の読み上げ。
これらすべてを、軍服っぽい制服を着た赤毛の先輩が仕切っていた。
先輩が合図とともに手を振ると会場の端に立っていた、同じような制服の生徒たちが腰のサーベルを抜いて高々と掲げる。
まるで軍隊のようだ...大丈夫だろうかこの学校。
次は生徒会長の挨拶。
生徒会長と紹介されて出てきたのは着物を着た...サムライ。
隣のマルセルが大興奮。
マルセルがはしゃぎすぎてうるさい。
でも、しょうがない。
彼女はサムライに憧れて日本に来たのだから。
こうして、会長の挨拶が始まる...かに思えたけれど背後で建物を揺らす爆発が起こりそれを遮った。
「どれでもいい!健康そうな木偶じゃなかった新入生を捕まえろ!」
アニメに出てくるような、パワードスーツ?みたいなロボットに乗って白衣の集団が雪崩れ込んでくる。
それだけじゃない、裸のマッチョ達や顔を隠した生徒たちも一緒だった!
司会の赤毛先輩がマイクに向かって叫ぶと、壇上の奥から戦車が飛び出してきた!
もう式場はめちゃくちゃ!
新撰組みたいなのが突入してくるし、騎馬隊も突入して来た!
講堂内なのに嵐のような雨と風!雷も!
私のおしゃれで可愛い青春が...音を立てて崩れたように思えた。
けれど、そんなものが気にならないくらいに目の前のはちゃめちゃドタバタが、私の心を鷲掴みにした。
目の前に一頭の馬が現れた。
さっきの騎馬隊の騎手は落馬したんだろう...私はいてもらっても居られずその馬に飛び乗ると混乱の真っ只中へ飛び込んで行ったのだった。
了
エピローグ1
「純子の手紙」
兵庫県中部 スミコの実家
「お父さんお父さん!純子から手紙が届いてますよ!」
「ああ...置いといてくれ」
「何言ってるんです!皆宛に決まってるんですから読んじゃいますよ!」
拝啓
親愛なるお父さん、お母さん、おばあちゃん。
そちらはそろそろ山が色づく頃ですね。
お体は大丈夫でしょうか?
特におばあちゃん。
心配しています。
私は、この学校に来れてよかったと思います。
わがままを聞いてくれてありがとう。
おばあちゃん、後押ししてくれてありがとう。
お母さん、いままで料理教えてくれてありがとう。
フランス人の友達に美味しいって言われました。
お父さん、心配してくれてありがとう。
私は元気にやっています。
どうかお体に気を付けて。
また手紙書きます。
令和3年9月27日
エピローグ2
「マルセルはプロデューサー」
マルセルが友人を連れてくる。
私に挨拶を促す。
もう何人目だろうか?
入学式の騒動から1週間が経つというのに、私の周りでは未だその話で持ちきりだ。
「貴女が講堂の自由の女神ね!」
女生徒が私の手を取って嬉しそうにしている。
【講堂の自由の女神】
あの日、馬に乗って混乱の最中へ飛び込んだ私は先輩たちに文句を言い、聞かない先輩は馬に蹴らせて廻った。
いつの間にか混乱は収まっていたけど、どうやら私の功績になったらしい。
私はただ、楽しむ口実に適当なことを言ってただけなのに...
でもきっと、これで私はこの学園を楽しむスタートラインについたのだわ!
因みに【講堂の自由の女神】って言うネーミングは、マルセルのセンス。
ドラクロアの【民衆を導く自由の女神】から取ったそう。
こんな事が後3年も?
いいえ!後3年しか無い!
私は私を全力で楽しむことにした!
エピローグ3
「純子と縁」
あれからずっとロリ先生を探している。
先生は医者だといってたわ。
だから、病院を尋ねたの。
病院で働く先輩たちのうち何人かはロリ先生の事を知ってるようだった。
けれど、どうにもロリ先生は評判が悪いらしい。
ロリ先生の事を聞くと、皆一様に嫌な顔をして追い返されてしまった。
次に、保健室を尋ねてみたわ。
蓬莱学園は巨大でその分いろんなところに保健室があるらしい。
噂によると、島の南部に広がるジャングルの中にも保健室があるらしい...なんで?
ただでさえ広い敷地でをカバーするために設けられているのに、担当者が勝手に開設するものだから、全体数を把握している者はいないっていうくらいに多いらしいの。
そこで管轄委員会である保健委員会を尋ねることにしたわ。
「ねぇマルセル...私一人で大丈夫だからさ?無理してついてこなくても大丈夫よ?」
となりで、疲れた表情のマルセルが肩を上下させながら「non...スミコが悪魔を探しているなら私はその悪魔からスミコを守ります!」
「いや...悪魔じゃないんだけどね?」
実は朝からずっと移動してる。
いろんな所にある保健室を訪ねて回ってるのだ。
マルセルはずっとそれに付き合ってくれている。
委員会センタービルに続く階段に腰かけて小休止。
「ねぇマルセル?」
「はい?」
「お腹すかない?」
「空きました!」
「じゃそこの装甲屋台でなにか食べましょう?」
「いいでござるな!」
マルセルは感情が高ぶったりするとサムライ言葉がでる癖がある。
サムライにあこがれてアニメで日本語を勉強したからだという。
最初は変な奴だと思っていたけど、今では私の親友だ。
階段下の装甲屋台。
パンに好みの具材を選んで挟んでくれる。
なんか映画で見た気がする。
店員さんも場所がらもあってかすっきりとしたデザインの制服を着ておしゃれに見える。
繁盛しているようで周りには人だかりが出来ている。
店員さんもそうだけど、場所がらもあって客層もインテリが多い。
ただ、たまに場違いな人もいたりする。
少し離れたところに背の高い赤毛のライオンみたいな髪をした女性徒がいる。
しかも、一人でしゃべってるように見える。
危ない人だわ...あんまり見ない様にしよう。
マルセルはスパイシーチキンサンドとゲッコウコーヒーを注文。
スパイシーな鶏肉と野菜たっぷりなサンドイッチと月光洞産コーヒーを注文。
さらに備え付けのマスタードをたっぷりかけるつもりだという。
私は何にしようかまだ決まってなかった。
良い匂いとおいしそうな写真、空腹が加速していく。
何処からか聞こえてくる「なぁ!?何をするそんなに入れたら辛いどころじゃなかろうが!この悪魔め!」
「それが美味いんだろうが!美味さを理解できないお前こそ悪魔だ!」
なるほど、激辛ってのもありかもしれないなと...
「すいません!この超超激辛ブラックチキンサンドお願いします!」
周囲のざわめきが気にはなったけど【やりたいことをやる】それこそが蓬莱学園だと思うから!
あ、ロリ先生にはすぐ会えました。
超超激辛ブラックチキンサンドを食べた後、最寄りの保健室に運び込まれたそのときに。
了
最終更新:2022年10月19日 18:26