ジェーン・ドゥとお仕事





■ジェーンさん:不思議な力で怪我も病気も直しちゃう。魔法使いなお医者さん。
イラストは、( 「ケモ魔女メーカー」 )にて作成

■那須さん:ジェーンさんの診療所で一緒に働いてくれる心強い味方。ジェーンさんと仲良し。
イラストは、( 「ひよこ男子」 )にて作成

■セブンさん:ジェーンの隣に住む査問委員会の委員長。ジェーンさんとなんだかんだあるけど仲良し。
イラストは、( 「女メーカー」 )にて作成



【白いヤブ医者】といえばジェーンである。
彼女が所属する保険委員会だけでなく、各種治安組織や噂が好きな学園生徒にもこの悪名は浸透している。

反面、セカンドオピニオンやサードオピニオンで回ってくる患者は多い。

結局、評判は悪くても実力はそれなりにあると言うことだ。

そんな彼女のオフィス、診療所は暇な時はずっと暇なのであった。

なので、ここに従事する看護師達もまた、他所では馴染めない者達が回されていた。

看護婦長の那須が診察台に寝転がったままお煎餅を齧っている。
もう一人は当欠で、もう一人は公休だった。

「センセェ、暇でしょ?もう閉めましょうよ。そんでどっか遊びに行こう?」
「その意見には全力で賛成するところじゃがの、営業実態がないなら閉鎖するって言う知らせを持ってきたお主のセリフとは思えんの」
先月、先々月と臨時休業をしまくったせいで、予算委員会や保険委員会から「辞めたら?診療所」って警告が来たのだ。
回避するには営業時間を稼がねばならない。
営業利益ではない。
あくまで学校の委員会活動の一環としての運営である。
営業利益は二の次であった。


「だってセンセェ、センセェがなにかと早仕舞いしたりするのが悪いんでしょ?」
「うぐ...お主だってよく早退するではないか!」
「センセェはここの主役で、私はモブだからぁ、いてもいなくてもぉ変わらないしぃ」
「何を言うか、わしはお主がいるからこそ、ここでこうしていられるのじゃぞ」
「...センセェは狡いよね。そうやって欲しい言葉をかけてくる」
「かかか わしらの仲じゃ、それくらいわかるわい、かかか!...でもの、全部本心じゃぞ」
「...もう...センセェはやっぱり狡いよ...」
「おお?どうしたナースよ、顔が真っ赤じゃぞ?見てやろう!ほれっこっちへくるが良い!」
「(もう!本当にイヤな人...)」

結局、休憩こそ軽く挟みつつも
当日(金曜)の放課後から月曜の登校時間までの約60時間耐久営業をこなすのだった。


1日目(金曜日) 18:30
「センセェ、お腹空きましたぁ」
「ふむ、もうそんな時間か...早いのぉ」
「そりゃセンセェはずっとゲームしてるんですもん、早いでしょうねぇ(あんな事言っといて!釣った魚には餌をあげないんですか!そうですか!)」

「...あー、なんか出前とるかの」
「それならセンセェ、最近流行ってるって噂の「ヤッターeats』っての頼んでみましょうよ!もちろんセンセェの奢りで!」
「(これで機嫌が買えるなら安いもんじゃて)うむ、好きなものを頼むが良いぞ」
「(これで機嫌が買えるとか思ってないわよね?まだまだ不機嫌なんですからね?)やったぁ!」

「ほぅ?これが出前で頼めるのか、便利になったものよな?」
「ですねぇ、本土でも流行ってるらしいですけど、学園ならではだと思いますよ?ロボットが運んでくるのって」

「で、これが酢豚弁当か...うむ、美味いじゃないか」
「こっちは唐揚げ弁当ですけど、レモンついてない...」
「かかか!唐揚げにはレモンよな!」

「しかし、配達少し遅かったですね」
「そうなのか?」
「なんかかなり混んでるらしいですよ?なんでも、文化祭の後片付けとかで委員会が大変らしいですよ」
「ほほぅ?上の連中は大忙しか?かかかか!」
ジェーンの言う上の連中はというのは、委員会の上層部ではない。
ジェーンの診療所は委員会センタービルの1階にある事から、2階から上の連中を指している。

1日目(金曜日) 19:00
夕食を食べ終わり、二人でまったりしていると、引き戸が壊れるんじゃないかという勢いで開けられる。
「開いてるか!?」
「うぉ!?びっくりした!なんじゃいきなり!」
「腹がいてぇ...みてくrああぁあ!」
「ありゃぁ....」
「大惨事ですね...」
「しょうがあるまい、応援とお掃除研を呼んでくれ」
「はぁい」


「すんません...」
「なぁに、気にするな。ほれ、これ飲んどけ」
「ありがとうございます」

清掃と消毒と着替えがテキパキと行われ、10分後には何事も無かったかのように元通り。

「センセェ...さっきの薬...正露丸ですよね?」
「うむ、万能薬じゃからの、かかかか!」

がららら!
「うお!?びっくりした!」
再び引き戸が荒々しく開けられる。
「お...お腹....あぁぁあああ!!」

「...ちょっと、応援を呼び戻してくれ」
「はぁい」

そして、再び10分後
「なんじゃ、上の連中では流行っとるのか?」
「センセェ...そんなはずないじゃないですか」
「じゃよな!」かかかと笑いながら、もしやまた戸が開くのでは?と二人でじっと見つめて...ほっと一息ついた途端に。がららら!「あああああ!!」


「先生?もしかして私らをからかってるんですか?」応援に呼ばれた他所の診療所やお掃除研の連中が、不満たらたらで帰っていく。

「これは、流行ってるのでは?」
「そんなバカな...」

がららら!
がらららら!
「あ“あ”ああああぁああ!!」


一体何が起こってるのか...

「センセェ.....朝日が茶色く見えますぅ...」
「もう、閉めたいのぉ...」



2日目(土曜日) 朝
「お腹空きましたね...」
「うむ...真っ白のご飯が食べたいの...」
「あ、わかる」

「センセェ?なんていうか、お風呂入りたくて泣けてきそうです」
「わかる...とはいえのぉ」
「とりあえず、体を拭いてすませますけど...」
「すまんの、今度温泉でも一緒にどうじゃ?」
「...仕方ないですね!しゃーなしですよ!」
「(うきうきじゃのぉ)」

2日目(土曜日) 昼
がらららら!
「怪我人だ!診てくれ!」
「うむ!」
「運び込め!」

「え?何人くんの?」
「そこの駅で路面電車が暴走して!あと...いっぱい来る!」

「センセェ...帰っていいですか?」
「お主が必要なんじゃ!頼むから見捨てんでくれ!」

結局運び込まれた怪我人を、その瞬間から治療して端から返していく。
それはもはや、工場のライン作業のような見事なものだった。

「センセェ...鼻血出てるよ?」
「うむ...疲れたの」


2日目(土曜日) 夕方
「お腹空いたのぉ...」
「私 もう帰りたいです...」
「すまん すまん...頑張ってくれ!」

「センセェ、私は今ものすごく怒ってます。理由はわかりますか?」
「大盛りが良かった?」
「違います」
「トッピングが気に入らなかった?」
「違います!」
「サイドメニューが気に入らなかった?」
「いい加減にしてください!わかってるんでしょう!」
「か...かか...」
「なんで、昨日の今日でカレーなんですか!馬鹿なんですか!」
「いや...その...」
「もうほんとアホですか!」

2日目(土曜日) 夜
「...なんだこれ?」
「恋愛相談所みたいな感じですかね」
「相談所っていうより...女子会みたいになっとるぞ...」

「ジェーン先生!聞いてくださいよ!うちの彼氏なんてちょっと可愛ければすぐ声かけやがるんですよ?」
「文句を言うのも良いが自分の女を磨くのも忘れずにの」

「ジェーン先生!好きな男性がいるんですが彼氏もちなんです!どうしたらいいですか!?」
「ガチなら諦めろ」

「ジェーン先生!同性を好きになった場合どうすればいいですか?」
「アタックせよ。ダメなら諦めよ」

「ジェーン先生!どうすればいい男を捕まえられますか?」
「女を磨け」

「ジェーン先生...投げやりじゃないですか?」
「わしはの...お主らなら大丈夫じゃと信じとる。己を信じて進むが良い。それでダメな時もあるじゃろうが、なぁに、磨かれた女は強いんじゃ!」
「ジェーン先生...」
「わしが男なら、お主らを放っておかぬ!良いか?お主ら一人一人がシンデレラじゃ!乙女達よ奮励努力せよ!」

「(あーライバル増えそうだなぁ)」


3日目(日曜日) 早朝
「センセェ...わたし...そろそろ...限界です...」
「仮眠を...ベットでいいぞ...それが終わったら...次はわしじゃ...」

3日目 朝
「センセェ...寝ました?」
返事はない。
「寝ましたね?」
絹糸のような髪を一房手に取って愛おしむ...。
「センセェは...彼氏いないんですよね?.........だったら、私なんてどうですか?」
ジェーンの頬に指を這わす...
ほんのり赤い頬はみずみずしく弾力に富む。
「ねぇセンセェ? 女の私がダメなら男に戻ってもいいですよ...」
那須の指は頬から唇へ...。
紅は引いていない。
けれど薔薇の花びらのようなその唇は、那須の【男】を思い出させるのに十分だった。

那須幸男
性自認は女性。
恋愛対象は男性だったはずだ。
なのに、ジェーンと知り合ってからは「ジェーンなら」と言う思いが膨らんできていた。

がらららら!
那須はビクリとベットから離れて居住まいを正す。
「ジェーン!差し入れ持ってきたぞぉ!」
「...セブンさん、静かにしてください。センセェは今、仮眠を始めたとこなんですから」
「...幸男...」
「女にその名前は呼ばれたくないですね。特に貴女には」
「ジェーンに変な事してねぇだろうな?」
「センセェを泣かすように事はしないわぁ(鳴かせたいってのはあるけれどね)」
方や男装女子、方や女装男子。
......なんじゃこれ? とジェーンが起きていたら言うだろう。
が、疲労の極地にある彼女はしばらくは簡単には起きない。
「セブンさん、貴女センセェに迷惑かけてないでしょうね?」
「俺とジェーンの仲だ、迷惑なんてねぇよ。互いに幸せにやってるさ!」
「私はセンセェから「お主が必要だからそばにいて欲しい、見捨てないで欲しい」って言われたんだから」
「は?...どうせ忙しすぎる時に帰るとか言ってジェーンを困らせたんだろ?」
「は?...なんで知って...」
「そういう事件が過去にあったんでな!」
「あ...あんただって!隣に住んでることや肩書きを利用してセンセェに無理難題押し付けて!センセェの、は...裸とか!」
「俺とジェーンの仲だからな!」
勝者のドヤ顔である。
「きーー!」
「やかましい!お主ら二人ともでてけ!」


3日目(日曜日) 夕方
「あーねっむい...」
ん〜っと伸びをしてカーテンを開けるとそこには、仕事をするセブンと同僚の医者を呼んで通常営業の診察してる那須。さらに女子会メンバーが隙間で宴会。
「えぇ...かか!かかか!かかかか!」

4日目(月曜日) 7:00
「那須よ...髭が伸びとるぞ」
「やだ!見ないで!」
「セブンよ...ニキビ出来とるぞ」
「ちょ!マジか!?」
二人は慌てて出て行く。
洗面所へ向かったのだ。

「大変な週末じゃった...」
ん〜と伸びをすると背中がバキバキとなり気持ちがいい。
コーヒーを3つ入れて二人の帰りを待つ。

「まったく...騒がしい奴らよな...」
戸の外から言い争う声が聞きえてくる。
「バカどもめ」そう言って椅子から飛び降りると、二人の相棒達を叱りに行くジェーンはどこか楽しそうだった。




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最終更新:2022年10月19日 18:17