『ジェーン・ドゥと幸せの形 第三章』


■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。女難の相あり。

発生時の名前は「ウル・アスタルテ」
今生名:瑠璃堂院月子

イラストは、( 「ケモ魔女メーカー」 )にて作成


■セブンさん:ジェーンが【運命の方翼】と呼ぶ女。輪廻の中でジェーンと親子だったり恋人だったりと切っても切れない中。
セブンにはその記憶は無い。
モテる相方を持つと気苦労が絶えない...そんな人。


イラストは、( 「女メーカー」 )にて作成


ジェーン(ウル)さん
大人のジェーンさん
まだ転生したことのない時代。
魔法の使い方もよく分かっていない。

イラストは、( 「ケモ魔女メーカー」 )にて作成


■不老転生体:
殺さない限りは死なないが、死ねば数年から数十年の間を開けて人から生まれてくる。
金眼が共通点。
同族により特殊な武器で首をはねられると消滅、転生できなくなる。
同族殺しを行ったものは力を得ていく。
ジェーンはこの戦いに否定的であるため魔法と口先で逃げ回っている。

※※※※

ジェーン・ドゥと幸せの形】



蓬莱学園

蓬莱学園は日本の私立高校だ。
そこに所属するのは大きく分けて二種類の人間。
教師と生徒。
いくら戦闘機を飛ばそうと、いくら潜水艦を航海させようと、銃を撃って日本刀でチャンバラしていようと、生徒は生徒である。
生徒は授業に出るから生徒である。

つまり、保健室で医者の代わりに働いていようとも生徒である限り、授業には出ないといけないのだ。

「月子様お久しぶりです。随分と探しましたわ!」

久しぶりに教室に来てみればいつもの如く混沌とした授業風景。
500人収容できる大教室は前数列を真面目な生徒が占め、後ろに行くほど混沌とする。
蓬莱学園のいつもの授業風景だった。

そんな中で、声をかけられた。
がしかし、声をかけられた当の本人はその相手のことが思い出せず、次の瞬間、聞こえなかったことにしてスルーした。
何より学園では『ジェーン・ドゥ』で通しているのだから。

「……ちょっと!何無視してるんですの!?」

「……(誰じゃったかな?……これだけ話しかけてくるという事は、知り合いのはずじゃが……)あ〜お元気でしたか?」
ニコリと笑って無難な挨拶をしてみた。

「……何ですの?わたくしと月子様の間はそんな他人行儀なものではないでしょう?」

「(ますます分からん……一体誰なんじゃ……)……エリザベス?」

朋田千穂(ともだちほ)ですわ!」

「……あー!千穂ちゃん!久しぶりじゃのぉ!元気しておったか!?」

「お静かに!わたくし貴女様に約束を守ってもらう為、転校して参りましたのよ!」

「え?高校三年生のこの時期にか?」

「わたくし、貴女様よりも2つ年下ですのよ!」

「あれ?そうじゃったか?」

「い“〜!もう!貴女様そうやって昔からずっと!わたくしの事を見てくださらないのですね!」

「いやすまん、すまん!随分と雰囲気が変わってしもうたから誰かわからんかったんじゃ。儂が千穂ちゃんの事を忘れるわけがなかろう?」
手を取って見つめる。
もしこの場に、セブンや幸男(ゆき)がいたらどんな事になったか心配になるほど、熱のこもった視線……にみえる。

「な!……また!そうやって!もうその手はくいませんわ!」

「まぁまぁ千穂ちゃんや、こっち来て座れ」

「……わかりましたわ……」
意外と素直だった。

「しかし雰囲気変わったのぉ……髪をダークブルーにして、化粧も覚えたか……もう少しナチュラルメイクにした方が儂好みじゃが……背もだいぶん伸びたの、大人っぽくなった。うん、綺麗になったの」

頬を赤く染めて千穂は精一杯見栄を張る。
「二年も経てば背も伸びますし、成長だってしますわ……それにお化粧だってします……次は、ちょっと、その……ナチュラルメイクを心がけますわ」

「うむうむ、儂は素直な千穂ちゃんが大好きじゃぞ!」
そう言って立ち上がり千穂の頭を抱きしめながら、ヨシヨシなでなで。

ジェーンの胸に抱かれて、真っ赤になった千穂は「じゅじゅじゅぎょうが有りますからこれで!今夜にでも寮の部屋に行きますわ!」

と言い残して教室を出て行った。
「ふむ……1年生じゃったか、幼馴染なのに知らなんだのぉ、埋め合わせをせねばの」

授業が始まる。
科目は『不老不死キャラから見る人生論』

「……何じゃこれ」

ほぼほぼ当事者であるジェーンは、早々に居眠りを決め込んだ。


※※※※
紀元前14世紀ごろ
妖精の住む島 冬の座 魔女の家

使徒と呼ばれる同族の襲来、そして犠牲者の葬い。
それらを済ませてジェーン(ウル)は叫びの魔女の家にいた。

ジェーン(ウル)からすれば『叫びの魔女=嘆きの魔法使い』であったので魔法を教えてもらうのはありがたい事だった。
けれど住み込みを希望したのは叫びの魔女だった。

いつの間にか増設されたジェーン用の部屋に荷物を置いてリビングへ。

「さぁ早速始めるぞぃ」

「待って待って!」

「ん〜なんじゃぃ」

「せめて自己紹介からして?」

「名前がわかったところで何が変わるというんじゃ。そんな事よりも早うお前を一人前にせねばならん」

「それはありがたいのだけれど、貴女名前が多すぎてなんて呼べばいいかわかんないのよ」

「好きに呼べば良かろう!」

ジェーンの眉が僅かに上がる。

「そう?じゃそうさせてもらうわ『引きこもりしわくちゃババァ』
「……あ?よく聞こえなんだのぉとしかのぉ?」
叫びの魔女の眉が吊り上がる。

「『引きこもりしわくちゃ耄碌ババァ』」
「増えとるじゃろが!」

「好きに言えっていうからでしょ!」

「儂お前の師匠じゃぞ!」

「ありがとうございます!お師匠様が最初に教えてくださったのが好きに呼べだったので実践しております!」

「い“〜〜!!」

「『引きこもりしわくちゃ耄碌癇癪持ち「わかった!わかったわい!自己紹介すればええんじゃろうが!」」

ふたりして肩で息をしている。

銀髪金眼のジェーン(ウル)
金髪金眼の叫びの魔女。
二人が一緒に住み始めてからのお話。

「先ずは私からしましょうか」
立ち上がり姿勢を正す。
その姿は長らく司祭長として神に支えてきた威厳が漂っていた。

「私の名前は『ウル・アスタルテ』『戦と王権・愛と美・豊穣の女神イシュタル様の巫女にして愛娘』遥か遠くバビロンの地より参りました。偉大なる魔法使い『嘆きの魔法使い』殿にお目もじ叶い光栄に存じます。この度縁あってこちらに身を寄ることとなり感謝の念に耐えません。どうか末長くよろしくお願い申し上げます」

「……なんじゃ、随分と殊勝な事を言うではないか。最初からそうして居れば良いものを……」

ジェーン(ウル)と交代で叫びの魔女が立つ。
「儂の名は『ヤクサイカツチ』じゃ、では、自己紹介も終わったとこちで「まだですよ!全く終わってませんよ!」」

「なんじゃと?名乗ったではないか!」
「引きこもりすぎてコミュニケーション下手か!?」

「……ぅっさいわ」

「(拗ねた、かわいい)……質問していきますよぃ!答えてくださいね!パスは極力しない事!」

「え?……え?」

「『叫びの魔女』と呼ばれたきっかけと呼ばれてどう思ったか教えてください」

「……かつて麓の村に迫った領主の軍があってな、魔法で殲滅する時に大声出したらそうなった、どう思うかについては恥ずかしいからやめて欲しい」

「なるほど、ちゃんと喋れるじゃないですか!この調子でどんどんいきましょう!」

「う……うん」

「『嘆きの魔法使い』についてさっきと同じで」

「バンシーという妖精を知っておるか?」

「いえ」

「言うなれば死を告げる妖精じゃ、悪いものではないが行いが行いじゃからの好かれはせぬ。まぁそれに比喩されたんじゃろう。あんまり気にしとらん」

「次、『古の聖霊』と言うのは?」

「……どこでそれを……ああ、こないだのあやつか?……ふむ、ウル、何年生きておる?」

「え?200年位かな?」

「ふむ……儂はのう、3万年生きておる」こう言った時、何とも寂しげで生気にかけた表情だったのがジェーン(ウル)の印象に残った。
そんな表情をするものだから、何も言えなかった。

「3万年、『古の』なんて呼ばれるようにもなるわぃ……『聖霊』、魔法で人助けしたことがあるからじゃろな……出来れば、呼ばれたくはないの」

「……では次、私たちって何?何で死なないの?」

「あん?そう言うのをこれからお前に……震えておるのか?」

「ちが……ううん、違わない……正直、自分が怖い……私は巫女として人の死をたくさん見てきた、遺族の悲しみに寄り添ってきた……それなのに、私は死なないなんて!死なない人間が死者を悼むだなんて……申し訳なさすぎる……」
両手を強く握り組んで、その指は白く血の気が失せている。

「ふむ……では先に、儂らが何なのかを教えてやろう」
ジェーン(ウル)はただ黙ってそれを聞いている。
「さてこれで、『不老転生体(わしら)について大体話終わった訳じゃが、何か質問は?」

「私達は何者なんですか?」

「人間からみれば、バケモノ……」
ジェーン(ウル)がビクリと肩を震わす。
ヤクサイカツチは気付かなかったふりをした。
「……『バケモノ』『悪魔』最近は『使徒』と呼ばれることもあるの」

「何で、使徒?」

「地獄からの使徒だそうじゃ、悪魔じゃと言うことじゃな」

「そう……」

「じゃが、悪く言われる奴がいれば、よく言われる者もいるぞ?儂のようにな!」

「……」

「……こやつ……まぁ、いい。よく言われる場合でもいろんな呼ばれ方をする。『聖霊』『女神の愛娘』『神』とな……つまりじゃ、我らが何者かと言うには、個人の行いの末に決まるものじゃ。ウル・アスタルテ、女神の愛娘よ、その名に恥じぬ生を送るが良いぞ」

「うん、ありがとう!」浮かんだ涙をバレないように拭っていたが、バレバレであった。

「休憩するか?」

「そろそろお昼ですし、ご飯にしませんか?」

「ふむ、それなら外の雪室に入れてあるぞ」

「分かりました。取ってきますね」

「うむ」

その場でキョロキョロと辺りを見渡すジェーン(ウル)
ウルの視界に入るのは……
リビング、ヤクサイカツチの部屋のドア、ジェーン(ウル)の部屋のドア……以上だった。
「???あれ?」

「あのぉ……」

「何じゃ?」

「どうやって外に出るんです?」
そう、この家には出入り口というものがなかった。

「妖精回廊で外に繋がっておる、それで外に出れば良い」

「妖精回廊?」

「……知らんのか?」
「ええ……全く」

ヤクサイカツチは大袈裟にため息を付いてこう言った「おやおや、生意気な弟子は一人でトイレにも行けないんだろうなぁ、これに懲りたら師匠に対しても「漏らす時は師匠の部屋でしますね!」」

「「……」」

「うそじゃろ?」
「自分の部屋、汚したくないんで!」

はぁ〜 と今度は本物のため息をついた彼女は壁に向かうと、まるでそこに引き戸でもあるかのように、手をスィーと水平移動させた。
すると、正面の壁が伸びた。
もちろん反対側の壁もその分伸びたのだ。
「え?え?」
「儂の得意な空間魔法という奴じゃ!すごいじゃろう!」
「え……うん……うん?」
「何じゃその反応は!」
「理解が追いつかなくて凄いのに訳がわからないっていう方が優ってる」
「ふむ……まあよい、ほれ!」
壁に向けて、まるでそこにドアがあるかのようにスィーと。
すると壁にドアが現れてガチャリという音と共に開いた。

ドアの向こうは小さな屋根と小さなテラスそして胸の高さまである雪。

ジェーン(ウル)は恐る恐る外を除く。テラスへ出てみるが室内と同じ気温だった。
「で、雪室ってどこにあるんです?」

「正面のでっかい木に布が巻いてあるじゃろ?その下じゃ」

「わかりました……ってさっぶい!外出た瞬間さっぶいぃぃ!」

「そりゃ、そんな格好じゃとそうじゃろうな」
ジェーン(ウル)は長方形の大きな布を体に巻き付けて腰紐で縛るという非常に簡単な格好だったが、片肩が出ているうえに、袖がない。
それもそのはず、これはメソポタミア地方の標準的な普段着なのだが、メソポタミアは温暖な気候で、今いるここは寒冷地で冬だったのだから。

「魔法で体温調節もできんのか」

「今まで必要なかったもぉおん!」

「……今回だけじゃぞ」

「……お?おお?おおおお!あったかい!」

「うむうむ、早う取ってこい」

「はーい」

ジェーン(ウル)は魔法で積もった雪を除雪しながら雪室を目指す。
それをドア枠にもたれて見ているヤクサイカツチ。

「あったあった……この箱ね……ご飯、何が入ってるのかなぁ」
その箱はジェーン(ウル)よりも背が高い2メートル。横幅はジェーン(ウル)二人分。
現代で言えば大型の冷蔵庫くらいの大きさだった。

扉お開けて中を除く、僅かに香る土の匂い。
「野菜でもはいっているのかな?」
冷蔵庫(仮)の中には大小様々な箱が入っていた。
そのうちの一つを手に散ってあげてみる、すると土が見える。
「?この中かな?」柔らかそうな土を指で掘って「お?これかな?」と掘り出す。

ジェーン(ウル)手に乗っているのは巨大な白い芋虫だった。

「あ“あ”あ“あ”あ“!!!!!!」

「どうした!」
ヤクサイカツチが文字通り飛んできた。

「こ!これ!」
手のひらの芋虫相手に硬直し身動きできないジェーン(ウル)横目に
「おお、美味そうにしあがってるではないか!」
「!?」

ヤクサイカツチは鼻歌混じりに付いていた土を魔法で祓い、そしてそのまま口へ放り込んだ。

「!!!!!!!」

それは、悲鳴を通り越してもはや超音波の域であった。

「ぺしなさい!早く!ぺってして!」

もぐもぐ

「いやぁああ!!ぺって!ほら!ぺって!」

ごっくん

「……おえぇ!」オロロロロ

「大丈夫か?」

「近寄らないで!」

「使徒の時より本気じゃないか」

「……まさか、ここのご飯って……」

「うむ、九割あんな感じじゃな!」

「……おうち帰るぅ!むりぃ!」

「ちょ!待て待て!」

「離して!おうち帰る!」

「お家ってメソポタミアのか?追い出されたんじゃろう!?それとも麓か?あんなことがあった後で?!」


「落ち着いたか?」
室内に戻ってジェーン(ウル)は暖炉の前で膝を抱えて座っている。

「慣れるとうまいんじゃぞ?プチっとしてクリームのようなトロリとしたのが出てくるんじゃぞ?」

「でも……虫は嫌」

「まぁ、そう言わず一度食ってみよ、ほれ」

ヤクサイカツチの顔を見る。
本当にこれしかないのか?
他にないのか?
と目で訴えて見たが、彼女はニカッと笑うだけだった。
しかし、ジェーン(ウル)は見つける、彼女の歯に虫の脚が挟まっていることに!

「い”や“や”や“やや〜!!」

そのまま部屋を飛び出すジェーン(ウル)
「お、おい!ウル!ちょっと!」

「行ってしもうた……儂がここを離れれば、入り口は閉じてしまう……そうすると、戻って来ても素通りしてしまって、遭難ということも……」

頭をガシガシと掻いて「雛とはいえアイツも同族!待てば帰ってくるじゃろ!」

それから日が暮れて翌朝になってもジェーン(ウル)は帰ってこなかった。

「あやつ……道わかんようになったんかのぅ……それとも、本当に帰ってこないつもりなんかの……」

部屋の中をウロウロとしていると、玄関でドン!と大きな音がした。

「ようやく帰って来たか!」
勢いよくドアを開けるとそこには巨大な熊が立っていた!

「!?!?」

咄嗟に魔法で頭を吹き飛ばすと、抗議の声が上がる。

「ちょっと!せっかく取ってきたのに!肉減らさないでよ!」

よく見るとジェーン(ウル)が獲ってきた熊のようだった。

「お前……出て行ってしもうたんかと……」

「心配した?ここまで何しに来たと思ってんのよ?そう簡単に出ていかないわよ!」

「そ、そうじゃよなぁ!あれくらいの事で「それはダメ!食事、私が管理します!」」

「えぇ!?あれうまいんじゃぞ?」

「ぜったいだめ!」

こうして食事当番はジェーン(ウル)が担い、彼女の言う『まともなご飯』が食べられるようになった。


※※※※

熊肉のステーキを食べながら
「そう言えば『使徒』って何人いるんです?」

「さぁのぉ、なんせ儂の首を狙って来た連中が、適当に『使徒』と呼ばれとるだけじゃからの、そもそも、同族が何人いるのかすら知らぬ」

「なんでヤクサイカツチ……ヤクサイ……ヤックの首狙うの?」

「お前……儂が師匠ぞ?」

「知ってますよ」

「……絶対泣かしてやるからな」

「3万年も生きてて大人気ない」

「お前だって200年生きてるじゃろが!」

「私は、雛なんで」

「ああ言えばこう言う!」

※※※※

「魔法の使い方?」

「はい、どうにも上手く使えてないようでして」

「そう言えば、あの男に魔法を撃っておったが安定しとらんかったの……突っ込んで行った時は勇ましかったが、何じゃ最後「何でもするから」って」

「……」

「な!?なんじゃその軽蔑するような目は!」

「隙を作るためなら何でもするのが、戦の流儀でしょう?決闘じゃないんですから……それを……」

「そ……そうよな!しっておった知ってお……った……その……すまん」

「(勝ちました)……傷付きましたが、今回だけですよ」

「魔法の使い方じゃったな?」

「はい、しかし魔法の系統が違うようです……」

「まぁ、大丈夫じゃろ。不老転生体として生来持ってる力と学んできた技術は別じゃからの」

「?」

「念じただけで現象化するのは生来のもの、魔法陣や呪文や護符などで現象化するのは技術じゃから別物よ」

「はぇ〜」

「お前が使ってるのは生来のそればかりじゃった。正直儂はそっちは得意ではないんじゃが、使い方は知っとるからの、任せておけ」

「よろしくお願いします」

※※※※

「お風呂入りたい」

「おふろ?」

「お風呂」

「って何じゃ?」

「!?入った事ない!?」

「え!?」

「……臭」

「は!?」

「道理でなんか匂うと思ったんです」

「お……おま……え」涙が浮かんでくる

「それじゃぁ一緒に入りましょう!」

「お風呂、気持ちいいですよ!」

「良いのか?……儂、その……匂うんじゃろ」

「だからこそ、キレイキレイしましょう!準備するんで、待っててくださいね!」

そう言って外に出たジェーン(ウル)は雪の下に眠る石を魔法で集めて湯船を作り、周囲の雪を溶かしてお湯とした。
湯船の石そのものを魔法で熱して、熱石とした。

ついでに森から木材を切り出して、湯船の底板を作る。

湯船の周りも整備して、木材でスノコ状に組み、立派な露天風呂の出来上がりであった。

銀髪金眼
175cm、女性の魅力を十二分に備えた肢体、肌は白磁のように白く滑らかなジェーン(ウル)

金髪金眼
170cm、引き締まった身体に大き過ぎない母性の象徴、肌は浅黒くスポーティーな印象を受けるヤクサイカツチ。

「まずは、3万年分の汚れを落としましょう!」

「確かに風呂は初めてじゃが、沐浴とか水行くらいはした事あるわい!」

「ノーカンです!大人しく洗われなさい!」

最初よりは小さくなった石鹸を大事に使いながら、全身を隈無く洗う。
最初は浅黒かったヤクサイカツチも白くなる位に念入りに洗った。
石鹸はかなり小さくなってしまったがジェーン(ウル)は満足だった。

湯船に浸かる。

大きめに作っておいた湯船には二人が入ってもまだまだ余裕があった。

「あ〜これが、お風呂かぁ……ええもんじゃなぁ」

「今は無いので無理ですが、お湯に柑橘系の実を入れたり、香油で全身をマッサージするとか、もっとよくなりますよ」

「あ“〜ええのぉ……それはやってみたいのぉ」

「今度ぜひやりましょう!」

「うむ、任せてよいかの?」

「手伝ってくださいよ?」

「うむ、協力は惜しまんぞ!」

冬山の頂上に石で作られた手作りお風呂……後の世に、謎の遺跡として学会を騒がせる事になる。
もっとも、地元の伝承には、魔女の風呂として伝わっているのだが。

ジェーン(ウル)の修行はこうやってグタグタながらも始まったのだった。

ジェーン(ウル)が、嵐を操り、海を割り、島を沈める様になるのはこれより百年後の話。


※※※※
現代 
宇津帆島 蓬莱学園 弁天寮

ジェーンは疲れていた。
午前中の授業を終えてから、ずっと診療所(ほけんしつ)勤務だったのだ。
しかも今日に限って満員御礼。
医者が商売繁盛というのはよろしく無いが、多くの人を救えたのだと思えば幾分なりとも疲れは和らいだ。

とは言え残業は勘弁してほしいところだが……。
現在時刻は22:00
ようやく仕事を終えて診療所(ほけんしつ)を出たのが30分前。

神戸から帰って来てからというもの、毎日のようにセブンと一緒に晩御飯を頂くのが日課になっている。
こうして夜遅くになったとしてもちゃんと待っててくれる。
ありがたい事だと思うし、より愛おしく感じる。

そんなセブンの事を思いお土産を買っていく事を忘れない。

とは言えこの時間だと、二人のお気に入りの店は閉まってる。
そこで、センタービル前の屋台通りで何かないかと物色中だった。

「よぉ!ジェーン先生!今帰りかい?良かったら寄ってってくれ!良いのが入ったんだ!」回転寿司の屋台の大将が声をかけると、負けじと他の屋台からも声がかかる。
「よう先生!今日も冷えるねぇ!あったかいラーメンどうだい!」
「きゃー!先生!いっぱい飲んでってヨォ!サービスしちゃうから!」

セブンが待ってなければ一軒ずつ梯子するところだが、用事を済ませたらすぐ帰る心算でいるジェーンだった。

結局土産はスイーツ移動販売の店で、ストロベリータルトとイチジクタルトとナシのタルトとチーズタルトの4つのケーキを買って家路についた。

生体認証で寮へ入りエレベーターで75階へ。

自室の前まで来てふと言い争うような声が耳に入った。

魔法でその声を聞き取ってみると、争っているのはセブンともう一人……どうやら今朝、再会を果たした千穂のようだった。
しばらくそれを聞いていて分かったことは……ジェーンは恥ずかしさのあまりその場で悶絶するようなものだった。

セブンはジェーンの現在の彼女
千穂はジェーンの幼馴染で結婚の約束をした相手(子供の頃の約束)

つまり新旧の女が鉢合わせして修羅場を演じているという。

玄関前で腕を組んで悩んでいると隣の住人が出て来た。

「あ、ジェーン!あんたんとこどうなってんの?もうずっとうるさいんだけど!」
「すまんすまん、儂は今帰って来たとこなんじゃ……どうなっとるかわかるか?」
「……修羅場のようね。とにかく、あんたんとこは毎晩毎晩うるさいんだから、たまには静かにしてよね!」
いうだけ言って引っ込む隣人。
「……え?毎晩って……聴こえて?」
居た堪れなくなってとりあえず部屋に入ることにしたジェーンは、ここでも居た堪れないことに変わりはなかった。

「あ!旦那様!おかえりなさいませ!」
「ジェーン!おかえり!」

千穂が駆け寄って鞄や外套を受け取る。
「(旦那様?)お、ありがとうの」
ジェーンは優しく微笑むと、千穂の頭をなでなで……は届かないので背中をなでなで。
「(ん?こやつつけておらんのか?)」

この新婚夫婦のようなやりとりを見たセブンが、「ジェーン!早くこっちこいよ!」と言って自身の膝をポンポンと。

「(あぁ、これは嫌な予感しかない……)」

グダグダなのは3000年前と変わらないジェーンさんであった。

「旦那様!」
「ジェーン!」


※※※※


ジェーン・ドゥと幸せの形 第三章  了

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最終更新:2022年10月19日 18:22