『ジェーン・ドゥとジェーン2 秋の夜長の説教タイム 千穂ちゃんの場合』
■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。
女難の相あり。←多分自業自得。
今生名:瑠璃堂院月子
■セブンさん:ジェーンが【運命の方翼】と呼ぶ女。輪廻の中でジェーンと親子だったり恋人だったりと切っても切れない中。
セブンにはその記憶は無い。
■那須さん:ジェーン大好き。女装男子→女。
中国拳法と東洋医術を修めている。
推しの幸せは...私の幸せ...
■千穂ちゃん:お嬢様言葉を使う月子様大好き少女。
ジェーン(月子)ですらなぜこの子が?という不思議がいっぱい。
今回はこの子がメインの回!
■不老転生体:
殺さない限りは死なないが、死ねば数年から数十年の間を開けて人から生まれてくる。
同族により特殊な武器で首をはねられると消滅、転生できなくなる。
同族殺しを行ったものは力を得ていく。
ジェーンはこの戦いに否定的であるため魔法と口先で逃げ回っている。
※※※※※※
「…………」
「…………」
セブンの話が終わった後千穂の番と、ジェーンと千穂が向き合って座っている。
しかし、かれこれ10分ほど沈黙が続いている。
千穂はジェーンを前に微笑みを湛え、ただじっとジェーンを眺めている。
「……のう、千穂ちゃんよ……なんぞないのか?儂をそんなに見つめていて楽しいのか?」
「はい、千穂は月子様が好きです。貴女様を眺めているだけで幸せになれますし、月子様が笑顔であれば千穂も笑顔になれます」
千穂はよどみなくそう言い切った。
「……そうか……しかし、千穂ちゃんや、想ってくれるのは嬉しいのじゃが、いったい何時どこでそんなに好きになってくれたんじゃ?儂にはいまいち心当たりが……」
「はい、あれは2018年4月24日雨の晴明神社前でのことですわ。小学校帰りに晴明さんへ寄った千穂はその帰り道、車にはねられました。そこを中学帰りの月子様が助けてくださったのです」
「あー……あったのぉ」
「……本当に覚えておいでですか?」
「あーうん……」
千穂はクスリと笑うと話を続ける。
「千穂はその時強く頭を打ったのです」
2「(そのせいでおかしくなったんじゃないか?)」ジェーン2が茶化す。
7「(おいおい)」セブンがうまくない突っ込みを入れる。
ゆ「(小学生が交通事故にあって頭を強く打ったなら大変なことですよ。そうやって茶化すのは不謹慎というものです。慎みなさいね)」ユキは医療従事者らしくしっかりとしていた。
「……聞こえてましてよ?」
2「(ごめんなさい)」
ジェーンに向き直り話の続きを続ける。
「あの時、千穂の中で色々なものが変わりました。最も大きいのは千穂の中の記憶がすべて甦った事です」
遠い昔――それは本当に遠い遠い日々――を思い出して目を細める。
「幼き日に月子様が話してくれたお伽話や、赤子の千穂をあやすために大人に隠れて魔法を使って見せたこと、それらすべてを思い出したのです」
ゆ「(完全記憶能力ってやつかしら)」
7「(なんだそりゃ?)」
2「(見聞きしたものをすべて覚えているというもので、ある種の天才)」
7「(なんだよそれ!うらやましいな!俺にもそんな能力があればなぁ!)」
ゆ「(そうね……けれど、忘れたいことも忘れられないのはつらいことだと思うわよ)」
2「(すべての失敗、すべての後悔、すべての悪意、すべての痛み……それらを忘れられない)」
7「(まじかよ……)」
ゆ「(救いがあるとすれば、すべての成功、すべての満足、すべての善意、すべての快感も忘れることがないってとこかしら)」
「あの日、死にかけの千穂に注いでいただいた魔法のおかげで、千穂は生きています。命の恩人という言うだけではありませんよ。あの頃の月子様はまだ魔法や能力の制御が甘かったはずですよね?」
不老転生体は転生してからの40年ほどは幼体である。
その間に仕える魔法は成体になってからのそれよりも弱く、制御も甘いものである。
なぜ千穂が知っているのか?ジェーンはそのことに戦慄を覚える。
「なんで知ってるのか?っていう顔をなさっていますが、月子様が千穂に話してくださったんですからね?」
「え!?儂、そんなこと話したのか?」
「はい。千穂の2歳の誕生日の時に千穂をあやしながら」
「……嘘ではなさそうじゃの……なんてことじゃ」
「月子様、こんな千穂は不気味ですか?」
「いや?……ああ、むしろ近しく感じるの」
千穂は微笑みジェーンもつられて笑う。
健康優良女子高生となった千穂と、成長が遅く小学生のようなジェーン。
かつての見た目とは逆転した印象になっている。
「うふふふ、嬉しいです」
「しかし、そうか……もしかするかもしれぬな……どれ、ちょっと診てやろう」
千穂は微笑みを浮かべたまま小首をかしげるも、ジェーンのされるがままだった。
「やはり……すまん」
深々と頭を下げる。
「一応、聞いておきます。なんでしょう?」
「千穂ちゃんに魔法がかかっておる。おそらくあの時の魔法が制御がうまくできてなかったんじゃろう……傷を塞ぐときに使った魔法じゃが……時間がたちすぎていて解除するには同じく時間がかかるじゃろう」
「はい。その魔法は傷を塞ぐだけですか?」
「……お見通しか……魅了の魔法に近いものがかかっておる」
それを聞いても千穂は微笑みを崩さない。
7「(どういうことだ?)」
ゆ「(頭の傷を治すのに魔法をつかったら、ちょっと失敗しちゃったってことね。医療事故だわ)」
2「(魅了の魔法とは、対象の精神に働き【誰々を好きになれ】という催眠術を強力にかける感じ)」
7「(……それは、まずいのでは?)」
ゆ「(小センセェがどんどん、センセェに似てくるわね。これはこれで好きかも)」
「時間はかかるが必ず解いてやるからの」
「いいえ。月子様……千穂はその魔法がなくてもきっと貴女を好きになっていたでしょう。ですから、このままでいいのです」
「いや、そんなはずはない。女の千穂ちゃんが女の儂を好きになる道理がない」
「だそうですよ?みなさん」
7&ゆ「ぶー!ぶー!」
周囲のブーイングによりにわかに騒がしくなる室内で、千穂はそっと耳打ちする。
「月子様、千穂は覚えているんです。ローマ歴489年のローマのシチリア侵攻の際に、ローマ兵から救ってくれたことを。西暦49年ブリタニアでやはりローマ兵から千穂を救ってくれたことを……他にもありますよ」
「!?」
この時ジェーンの脳内にひらめいたのは【不老転生体】のことだった。
不老転生体は成体になった後は老化せず殺さない限り死なない、死んでもまた転生という方法で甦るという、人知を超えた存在である。
しかし、千穂からは【不老転生体】特有の気配のようなものは感じたことがなかった。
何より、成長の仕方が人間のそれであり、ジェーンのように成長が遅いといったこともない。
ならば、朋田千穂は何者なのか?
「まさか……いや、そんなはずはない!」自身の導き出した答えに戦慄しながらも椅子をけって立ち上がる。
場は静まり返り皆一様にジェーンを見ている。
静かに、ゆっくりと視線をセブンへと向ける。
そこにはジェーンが【運命の片翼】と信じている女が映っている。
【運命の片翼】とは、かつてジェーンが黒海のほとりで【不老転生体】にその首を取られそうになった彼女を助けた少女の魂の事である。
彼女の魂が転生するたびに、よりよい人生を送れるようにと陰に日向に、これに寄り添ってきた。
今世ではセブンがその【運命の片翼】であったはずだ。
これを確かめる方法はない。
しかし、ジェーンの心が方位磁石のように相手を見つけ出し、そして磁石のように寄り添ってきた。
今までそうしてきた。
なのに、別のそれが現れたことにジェーンは足元が崩れたような感覚にい陥る。
もし、己がしてきたことに誤りがあるならば、自身の2000年を超える【運命の片翼】探しの旅は何だったのか?
「月子様……いま、月子様は千穂が何者であるのかを思い至り、驚いているのだと思います」
崩れそうになるジェーンを支え椅子に座らせながら話を続ける。
「アクインクムでのことを覚えていますか?」
アクインクムとはハンガリーの首都、ブタペストのローマ時代の名称であった。
「アクインクム……たしか、弟子入りしたいと……しかしその時には結局魔法は使えなかったはず……」
「はい、しかしその修業は確実に千穂の力となって今日まで受け継いでいます」
「……」
「ですが……千穂のような一般人がそれを繰り返したものですから、未熟ゆえかそれとも代価なのかはわかりませんが、元は1つだったものがこのように」
それは自嘲ともいえる表情だった。
「なんと……二人に分かれてしもうたのか!?」
「いいえ。月子様、千穂やセブンさん以上に月子様に寄り添い助けてきた人がいるのをお忘れですか?」
7「(さっきから何の話だ?)」
ゆ「(お?私の話かな?)」ジェーンと千穂へ笑って見せる幸男。
2「(ふむ……なるふぉど、なるふぉど……わからん)」
7「(わかんねぇのかよ!)」
ゆ「(センセェと漫才できる日も近いわね)」
ジェーンの視線はセブンから幸男へと移る。
そこには銀髪に染めて白を基調としたワンピースを着た彼女がいる。
その姿はまさに【立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、戦う姿は曼殊沙華】という言葉がふさわしい。
確かに、思い返せば彼女の献身は常人の域を超えている。
先日のようなことがあっても彼女はジェーンを慕ってその姿勢を崩そうとしない。
このことについて深く感謝していたが、やはり不思議と感じることもあった。
しかし、これで全ての説明が付いた。
幸男も【運命の片翼】だったのだ。
ジェーンの胸に空いた空白に全てのピースが当てはまった瞬間だった。
「そうか、そうじゃったのか」
「彼女たちは覚えていませんが、もともと1つだった私にはわかります」
「そうか……しかし、儂はこれからどうすればいいんじゃろうか」
「これまで通りで大丈夫です」
「ふむ?」
「別れてから時間もたちますし、それぞれ個人の記憶がありますから……」
「しかし、それでは……千穂ちゃんがつらくはないか?」
「……月子様は本当にお優しい……今生では奈菜さんが選ばれて、ユキさんが自力で月子様の隣に立った。私には何もありませんから」二人ほどそばにいる権利がない という言葉を飲み込んだ。
頭ではそう思っているのに心では其れを認めたくなかった。
記憶が戻り、それを確信に至るまでかかった時間が二人に負けた原因だと千穂は考えていた。
それに、セブンには葉車家、ユキには戦闘力という利点があるのだ。
千穂には何もない、ただ月子様の周りを付きまとうしかできないと……そう考えていた。
「3人を妻とするのも悪くはなかろう」
7「(おい!あいつ今なんて言った!?)」
ゆ「(3人を妻に向けるって言ったように聞こえましたね)」
2「(我は食材ではなく、妻……大根であったか)」
ゆ「(それは結局食材だから)」
7「(そこが問題じゃねぇ!あいつ浮気宣言したってことだぞ!)」
ゆ「(うーん……アンタと千穂ちゃんなら構わないかなって思うのよ)」
2「(欠片の大きさによって、現代感覚の強さが変わるんだろう)」
7「(?どういうことだよ!)」
ゆ「(私にわかるわけないでしょう?)」
2「(我には核心にせまる知識が少ない故、絶対というわけではないが……お前ら3人はもともと一人の人間だった。けれど、輪廻を重ねるうちにその魂は分かれた。けれど、我が主に魅かれるというのは残っていた……ということのようだぞ)」
「!?筒抜けですの!?」
2「(うむ、集音の魔法を使っているのでな)」
7「(つまり、どういうことだってんだ!?)」
ゆ「(アンタはアンタ。私は私、千穂ちゃんは千穂ちゃん。けれど、もともと一人の人間の魂が分かれたものが入ってる。それが生まれた環境によって個人個人として成長してアンタはアンタになってるってことよ。だから、自分に対して疑問を感じるようなことはないのだけど、同時に浮気とかじゃなくって……私たちのある一面を好きになってくれている……的な?)」
2「(理解が早いな)」
ゆ「(センセェと過ごした時間が濃密だからね、考え方が引っ張られてるんだと思うわ)」
7「わかんねぇ!そんなの分かんねぇよ!なんでお前らは納得できるんだよ!」
ゆ「なんとなく……腑に落ちたのよ。ああ、なるほどねって」
「そうですわね……千穂もです。この3人の中で誰が愛されたとしてもそれは私たちの一面での話ですから」
7「くそ!俺には……!認めたくねぇ!」
幸男がそっとセブンの肩を抱く「そうね、独り占めしたいものね……わかるわよその気持ち、でも……なんとなくわかってるんじゃない?」
7「……」
2「面倒な生き物にかかわったせいで、このありさまとは……やはり、我が主は悪魔なんじゃないか?」
こうして当番制で話をする取り決めはうやむやになり、話の内容のこともあるため更に混乱が深まるのでした。
※※※※※※
ジェーン・ドゥとジェーン2 秋の夜長の説教タイム 千穂ちゃんの場合 おわり
最終更新:2022年10月19日 18:24