『ジェーン・ドゥとジェーン2 秋の夜長の説教タイム 幸男の場合』
■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。
女難の相あり。←多分自業自得。
今生名:瑠璃堂院月子
■セブンさん:【運命の方翼】の1人。
赤いライオンヘアでトゲトゲアクセサリーのパンクな女。
実は世界有数の大財閥の令嬢。
独占欲が強く、ジェーンさんを独り占めしたがる。
■那須さん:ジェーン大好き。女装男子→女。
中国拳法と東洋医術を修めている。
推しの幸せは...私の幸せ...
【運命の方翼】武力担当
■千穂ちゃん:お嬢様言葉を使う月子様大好き少女。
【運命の方翼】記憶担当、魔法使い(弱)、何気に高い行動力。
■不老転生体:
殺さない限りは死なないが、死ねば数年から数十年の間を開けて人から生まれてくる。
同族により特殊な武器で首をはねられると消滅、転生できなくなる。
同族殺しを行ったものは力を得ていく。
ジェーンはこの戦いに否定的であるため魔法と口先で逃げ回っている。
※※※※※※
「大変ですね」と笑いながら幸男が言う。
「正直、人生でトップ3に入る驚きじゃ」
「その人生は、どっちのです?」
今生なのか、それとも前世を含むのか?ユキはこの会話を楽しみながらそう問うてみた。
「3000年の方じゃな」
「あっははは!すごいびっくりですね!」
千穂の番でセブン、幸男、千穂が特別な関係にあると判明してからは昔話と意見交換に花が咲いた。
その中で3人はいくつかの疑問についても話し合っていた。
ひとつ、千穂が【運命の方翼】として記憶が1番多く1番本人ぽいのに、何故セブンに惹かれたのか?
ひとつ、幸男は記憶がないにも関わらずジェーンを守ると言う意識が非常に強いのは何故か?
等等……。
各自が出した予想をまとめると「セブンには【運命の方翼】として認識させる要素が強く、自由を求める性格が引き継がれて、ユキにはジェーンを守りたいと言う強い意志、千穂には記憶が。と言った具合になっていて、それが為にジェーンはセブンにしか気付けなかったのだろう」という事だった。
この話し合いにおいて、案の定セブンが独り占めを主張し2人を排除する事を希望するも、これを収めて話をまとめたのは意外にもジェーン2であった。
ジェーン自身は他人事であれば親身になって言葉と誠意を尽くすのに、いざ自分のこととなると言葉足らずになる性格をしている。
それは相手の気持ちを優先させる為に自身を後回しにしてしまう事で起こる現象だった。
それをジェーン2は理解した上でジェーンの気持ちを言葉にする。
彼女は元々【ナノマシン】という機械の集合体であり謂わば生きたコンピュータである。
ジェーンを模して生まれたとは言え、心の機微まではコピー出来ておらず、更には第三者の立場である為、比較的中立の立場で発言してると思われている。
実際にはジェーンの思考回路を持ち趣味嗜好も似ている為、完全な中立とは言えないが、この場にいる【運命の方翼達】が心の底ではこの事態を受け入れている事からジェーン2の提案を受け入れた形となった。
ドドーーン!!
寮の上の階で爆発があったらしい。
しかし、ジェーン2がハーレムを宣言したと同時に爆発が起こったものだからまるで、彼女達の心理描写的効果音かと思われたのだった。
「本当……大変ですね」
爆発音が響き、それを耳にしたジェーンは窓から飛び出して消火活動に向かって行った。
そんな窓の外を眺めながら、幸男は今の状況がとても嬉しかった。
それは幸男の中にあったセブンへのうらやましさや、ジェーンとセブンの間に亀裂を入れてしまった事への後ろめたさなどから解放されたことによるものだった。
そう、幸男自身も選ばれた。
選ばれた事自体が正しかったと証明されたのだ。
これで、誰憚る事なく「私はジェーン・ドゥの女だ」と言える。
こんなに嬉しいことはない。
初めて会ったその日のうちに恋に落ちた。
いや……恋心を思い出したのかもしれない。
でなければ、性自認が女の幸男が女を好きになる可能性など極めて0に近いのだから。
第一印象は最悪と言ってよかった。
幸男を取り囲む破落戸共を魔法で吹っ飛ばしながら登場したまでは良かった。
しかし「お主のような小便臭い小娘がいていい場所ではない!はよう寮に帰ってオムツ履いて寝るが良い!」
タイミング的には間一髪、ヒーロー相手にヒロインが恋に落ちるのに十分だったはずだ。
しかし、ジェーンのセリフで酷く自尊心を傷付けられた幸男はその瞬間「こいつ嫌い!」と。
しかし、日付が変わるまでの間の数時間で幸男は恋をするヒロインになってしまったのだった。
返り血と自身の血に塗れた幸男を洗浄し、治療し、彼女の師匠の董老子の所まで運んでくれた彼女。
その胸に抱かれて運ばれた時、ときめいてしまったのだ。
幸男はこれより一層の努力を重ね、拳法と東洋医術を修めていくことになる。
2人の出会い……もとい、再会を思い出しながら「男のままだったら私のハーレムだったのでは?」とふと疑問に思うのだった。
2「その時にはきっと話しがまとまらなかったと思うぞ。あくまで主人は主だからな。一人だけ扱いが違う者が居れば成り立たなくなる話だ」
「なるほど。特にセブンがうるさそうよね」
7「あ?愛人さんは黙ってろよ」
ち「あら?順番で行くなら貴女も愛人枠なんですけどね?」
2「実家の母の事を貶す事になるぞ?」
「私たちに上下は無いのよ。私たちは3人で1人なのだから」
7「……すまねぇ。みんなの言う通りだ」
「謝れて偉い」
ち「素直な奈菜さん、可愛いですね」
2「素直なのは我も好きだぞ」
※※※※
ジェーンが窓から帰宅。
「なんじゃ?変な空気じゃの?」
「実はセンセェを取り合ってました」
「なんじゃ?儂は3人のもので、3人は儂のものって事で話がついたんじゃ無かったか?」セブン、幸男、千穂をそれぞれ見やって首を傾げた。
「でもセンセェ、それでもやっぱり1人だけを愛してもらう時だってあるじゃ無いですか?」もじもじとしながら幸男が代表してそう言うと「そんなものはない!儂は常にお主ら全員を等しく愛しておるし、等しく愛してもらおうと思っておる!」と答える。
「本当ですか?嘘偽り無く?イ……イシュゥ?」
「イシュタル様かの?」
「そうそう!そのイシュタル様に誓えますか?」
「もちろんじゃ!」
2「あーぁ……ろくに確認もせず誓っちゃったよ。我は知らないからな」
7「まぁ、まぁ?ちょっと恥ずかしいけど、いいぜ?俺頑張るからよ」
ち「……その……よろしくお願いします!」
「なんじゃ?なんでお主ら顔を赤らめておるんじゃ?」
「夜、どうするかって事でセンセェを取り合ってたんですけど……まとめて相手をしていただけると言う事で、可愛がってくださいね!」
「夜……は!?そういう事か!待ってくれ!」
「待ちません、だってセンセェが言い出した事ですし、神に誓ってくれましたしね!」
「な!?……な んと……あ「悪魔だなんていいませんよね?神様の名前まで出しておいて」」幸男が先回りしてそういうと、ジェーンは池の鯉のように口をパクパクとさせて二の句が継げなかった。
「……逞しくなったのぉ……初めて会った時はヒヨッコであったのに」
「逞しくなったついでにお話ししておきますと、最初の夜だけは私だけでお願いします」そっと耳打ちして微笑んだ。
「……何を企んどるんじゃ?」
「企むなんて人聞きの悪いですね。私はセンセェのためを思って言ってるのに」ぷいっとそっぽを向いてふくれっ面の幸男。
「あ!いや!すまぬ!確かにそうであった。ユキはいつも儂のために色々考えてくれておったな。色々ありすぎて混乱しておったわ、すまぬ」と慌てて取り繕ろう。
「ふふ、分かってくれればいいんです」
幸男はジェーンの小さな手を取り彼女を引き寄せると耳元で「セブンには一線超えてないっていった手前、初めてはまだってことになってるわけですから、あの二人の前でそれがばれるのは良くないでしょう?」
「……なるほど!」
「ですから、次の初めても私が相手ですからね?」頬を赤らめながら、うふふと笑うユキに、ジェーンは優艶たる風格を垣間見た。
7「おい!お前らちょっと離れろ!」
「いいじゃないのよ!今までアンタが独り占めしてたんだから!」
ち「そうですわ!私が一番イチャイチャする権利があると思いますわ!」
3人が『誰が一番イチャイチャすべきか』という問題……問題?に鼎談が始まるのであった。
2「主よ、我の中にあるユキの記憶と目の前にいるユキが随分変わったように思えるのだが?」
「……のびのびしとるんじゃろう」
2「のびのび?ふむ、なるふぉど……そうかもしれないな」
鼎談が盛り上がる様子を眺めながら二人のジェーンは琥珀色のグラスを手に取った。
2「計画通りか?」
「運がよかっただけじゃ」
2「本当に?」
「こうなればいいのにな……くらいに祈りはしたがの」
ジェーン2が目を細めて笑いながら「過保護じゃなぁ」とため息を1つ。
「何か言ったか?」
2「ラノベ野郎 って言ったんだ我が主よ」
「……お前もハーレムに入れてやろうかぁ」両手を上げて子供を怖がらせるかのように、そういって笑うジェーンを見ながら「泉に落ちたら死んでしまうぞ」と返すジェーン2。
お互いのことが分かるために、会話の大部分が省略される二人の会話。
歳は違えど似た二人は、もう一度グラスを手に取って無言のまま傾けた。
空いたグラスに、琥珀色の希望が注がれる。
二人はもう一度、無言のままそれを傾けた。
※※※※※※
ジェーン・ドゥとジェーン2 秋の夜長の説教タイム 幸男の場合 おわり
最終更新:2022年10月19日 18:24