『ジェーン・ドゥと幸せの形 第四章』
■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。
女難の相あり。←自業自得。
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■セブンさん:【運命の方翼】の1人。
赤いライオンヘアでトゲトゲアクセサリーのパンクな女。
実は世界有数の大財閥の令嬢。
独占欲が強く、ジェーンさんを独り占めしたがる。
本名:葉車奈菜
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■幸男さん:ジェーン大好き。女装男子→女。
中国拳法と東洋医術を修めている。
推しの幸せは...私の幸せ...
【運命の方翼】武力担当
通称:ユキ
本名:那須幸男
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■千穂ちゃん:お嬢様言葉を使う月子様大好き少女。
【運命の方翼】記憶担当、魔法使い(弱)、何気に高い行動力。
4人の中ではお母さん的存在。
本名:朋田千穂
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■ジェニー
ジェーンさんの因子から組み上げられた、ナノマシンで構成された機械生命体。
生きたコンピューター。
設備なしでインターネットにつながることができる。
ジェーンさんが「魔術師」であるのに対して彼女は「超級ハッカー」…になるかもしれない。
通称:ジェニー・ドゥ
本名:瑠璃堂院穂子
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■ヤックさん
ジェーンさんの魔法のお師匠さん。
魔法の腕は超一流でも教えるのは超下手。
3万年以上を生きる【嘆きの魔法使い】【古の聖霊】
本名(?):ヤクサイカツチ
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■不老転生体:
殺さない限りは死なないが、死ねば数年から数十年の間を開けて人から生まれてくる。
同族により特殊な武器で首をはねられると消滅、転生できなくなる。
同族殺しを行ったものは力を得ていく。
ジェーンはこの戦いに否定的であるため魔法と口先で逃げ回っている。
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蓬莱学園 東京から南へ1800kmの絶海の孤島、宇津帆島にある日本の私立高校である。
そして、この島は南北22km、東西18km、面積は222平方kmと石垣島とほぼ同じ大きさである。
島の北部は町があり港や空港も備えた人類圏であるけれど、南部には巨大な密林が横たわっており未だ解明されていない謎が多く存在していた。
曰く、恐竜が実在する。
曰く、宇宙人の基地がある。
曰く、異世界につながるゲートがある。
そして、謎といえば南部密林に限らず学園内部にも存在するのであった。
それは「学園七不思議」などといったものではなく、先に挙げた南部密林の謎にも勝るとも劣らないものであったし、7つなどではなくそれは恐らく百や二百はあるだろう。
高校生なのに9歳だったり、潜水艦が生徒だったり……時間旅行者や、世界線を跨ぐ者、はたまた戦闘機を飛ばす者、任意で性転換できるものや、妖怪や、悪魔などなど……その多くは生徒個人に由来するものではあるが、本土ではあり得ないことが、日常の中に溶け込んで不思議だと意識しなくなってしまっている。
何故なら、彼ら彼女らは貴方達の隣にいて、他愛無い話をして笑い、肩を抱いて共に喜び、悲しみを分かち合う友人なのだから。
そして、身近な不思議に数えられるものの中には「魔法使い」も上げられる。
これは決して30歳まで……などではなく、言葉通り正真正銘の「魔法使い」のことなのだ。
学園に数居る魔法使いの中でも異色の存在である彼女……彼女の名前は「ジェーン・ドゥ」
学園に居る魔法使いには多くの種類が存在する。
それらは一般的な厨二病患者達に「白」「黒」などと呼ばれるものや「仙術」「道術」「妖術」「陰陽術」「ドルイド魔法」などなど……。
しかしジェーンの魔法はこれらとは違い、あえて言葉にするなら「神の御業」と言ったところだろうか。
そう、彼女は聖職者なのだ。
今は古き女神に仕える巫女にして【女神の愛娘】と尊崇を集めた存在。
彼女が仕えるのは、メソポタミアの【戦と王権・愛と美・豊穣の女神・イシュタル】だ。
彼女を「異色」たらしめているのはその信仰だけでは無い。
日本人離れしたその外見は、どう見ても小学生なうえに銀髪金眼、右目には黒い布の眼帯。
小学生の割には発育がいい胸部。
そして……【不老転生体】
たいそうな言葉通り、ちょっとやそっとでは死ぬ事はない。
たとえ死んでも転生して再び現れるのだ。
こうして彼女は三千年を生きている。
とは言え、それをアピールする事はなく、本人にしてみれば一部の親しい者を除いて魔法が使える事すら秘密にしているのだった。
ましてや、自身から人間ではないと言うはずもなかった。
※※※※
「最近、知り合いでもなんでもない者から頼まれごとをする事が出てきたんじゃが……何か知らぬか?」
委員会センタービル1階の裏口横にある診療所で大福を濃いお茶でいただきながら、彼女のスタッフである看護師の幸男へ訊ねた。
「きっとセンセェの高名を耳にしたんだと思います!」
「高名?悪名じゃなくてか?」
「はい!」
「いったいどんな高名だというんじゃ カカカ」少し照れたようにそう聞き返すジェーンに幸男は、そんな彼女もかわいいと思うのだった。
「魔法の名医!真の魔法使い!白銀の聖女!」
「まてまて!なんじゃそれらは!」にやにやと頬が緩むのを隠し切れないままそう聞き返す。
「実は、私たちで考えたんです!」
「……は?」
「だってセンセェの噂ってひどいものばかりじゃないですか!だから、私達で考えたんですよ!」
私達とは、ジェーンが【運命の片翼】と呼ぶ彼女の恩人の魂を持つ3人の女と、彼女の因子から作られた機械生命体のジェニーの事である。
「今更じゃろ?……でもまぁ細かい理由を聞かせてもらえるか?」がっかりと肩を落としてジェーンは言った。
「先日、千穂ちゃんがセンセェの事を悪く言うクラスメートに話しかけられたんですって。その時は、素直な子だったからすぐに誤解は解けたらしいんですが、やっぱり人の噂は良いものよりも悪いものの方が広まりやすいですから……なので、良いうわさで上書きしようって。4人で考えたんです!……ダメでしたか?」
「まぁ【好事門を出でず、悪事千里を行く】というからの、そういうものじゃろ。それをいちいち否定して回っておったらきりがないぞ?」
「でもセンセぇ!私たち悔しいんです!センセェはこんなにも素敵なのに!全然理解されてないし!」
「まぁまぁ落ち着け」
「だって!悪徳医者とか淫乱魔女とか淫蕩巫女とか!ペドフィリア痴女とか!本当にひどいんですよ!」
「淫乱とか淫蕩というのは、まぁいいとしても、だれが魔女だとかぬかしおるんじゃ!そ奴を一生全身禿の呪いをかけてやろうか!」
(やっぱりそこなんだ……)幸男とジェーンの付き合いは濃くそして長い。【魔女】と呼ばれることを何よりも嫌うことも知っている。
普段なら、彼女の前でその言葉を口にすることはない。けれど、幸男も怒っているのだ。
愛する女が貶されることに。
だから、怒りの勢いで口にしてしまった。
今はただ、呪われる人が無事であるように祈るだけだった。
※※※※
紀元前14世紀ごろ
妖精の住む島 冬の座 魔女の家
外からは見えることのないこの小さな家は、ひとたび中へ入るとその広さは自由自在。
持ち主である【嘆きの魔法使い】【古の聖霊】と呼ばれる不老転生体、ヤクサイカツチの魔法によって部屋の数は勿論の事、玄関の有無さえも変えることができるのであった。
しかし、持ち主の性格からして必要な部屋しか展開せず、独り暮らしの頃はワンルーム、暖炉あり、トイレ無し、風呂無し、玄関無しといった間取りであった。
彼女自身は【妖精回廊】という魔法で『距離と障害物』を無視し移動することができる。
そんなわけで、彼女が住むこの家は玄関やトイレなどを必要としていなかった。
そう、独り暮らしの時には。
「ああああああ!!開けてぇ!早く開けてぇ!」
絹のような銀髪は緩いウェーブを描き、金色の瞳は猛獣のような力を感じさせる。
「出ちゃうぅううううぅぅぅ!!」
スラリとした肢体は健康そのもので、女性の魅力も十二分に備えている。
「いやぁああ!こんな修行ぉぉ!」
肌は白磁のように滑らかで美しく、戦と王権・豊穣・愛と美の女神の愛娘と称えられるのも皆が等しく納得するであろう。
「ここから出してぇ!!!!」
そんなジェーンは苦悶の表情も露わに限界を迎えようとしていた。
「あほ師匠ぉお!」
壁を叩いてそう叫ぶジェーンの背中を眺めながら、彼女の魔法の師匠であるヤクサイカツチはため息をついた。
「いつになったら【妖精回廊】を使いえるようになるんじゃ?」
その言葉を聞こえてか聞こえなかったか、ジェーンの叫びはもはや悲鳴になりつつあった。
「ほれ、早う回廊を開かねば大惨事じゃぞ?」
ヤクサイカツチはそのスラリとした足を組み替えながら弟子の背中に声をかける。
短く切られた髪は、月明かりにさえその美しさを損なわないほどの見事な金髪で、すべてを見通す瞳は金色で魔法陣と流星が煌めいていた。
うっすら日に焼けた肌を持ち、健康そのもので、ジェーンよりは小ぶりであるものの女性の魅力を十分に備えている。
しかし、そんな彼女の美しい顔に大きな痣ができていた。
ジェーンとの取っ組み合いによりできなものだった。
「ウル・アスタルテ、女神の子よ……師の言いつけを守らず、師の言葉に逆らい、剰え師の顔に痣を作るとは……修行熱心な弟子を持って儂は幸せ者じゃなぁ?」
「うぐぅ……ぐぐぐ……」
「ほれほれ、どうしたどうした?早う回廊を開いて外へ出るんじゃ」
ジェーンの顔はもはや蒼白となり脂汗を流し、半泣き状態であった。
彼女は意を決し、謝罪のために振り向いた。
然しその目に映ったのは【妖精回廊】を使って手だけをジェーンのお腹近くへ出現させた師の姿であった。
「いやぁぁあああああああああああああああああああ
※※※※
ああああああああああああああ!!」
その瞬間、ジェーンは小川の中にいた。
あのままお腹を突かれでもしたら限界突破はあの場で起こっていただろう。
しかし、触れられるかと思った瞬間ジェーンの中で何かが弾けた。
それは【限界突破】への羞恥とこんな状況へ追い込んだ師匠への怒りと、この場所への渇望だった。
それらすべてが混然となり彼女の中の力と結合し爆発的な何かとなって現象を引き起こしたのだった。
「…………」
泣き顔で小川の中に立ち尽くすジェーン
どこかで山鳩が鳴いている。
涙でぬれた頬を拭うこともせず、着ていた服を脱ぎ洗濯を始めたのでした。
※※※※
「今のは随分歪な【妖精回廊】じゃったな……ま、なんにせよ結果は成功。ポンコツ弟子の割にはよく頑張った方じゃな、褒めてやらねばならんの」
ふかふかの長椅子に体を預けて優雅にお茶を飲みながらそう呟いた。
其の姿は艶めかしくもあり、もしその姿を男性が見たならば彼女の虜になった事だろう。
「しかし……出来の悪い弟子を持つと苦労するのぉ」
「出来の悪い師匠を持つと苦労しますよ 本当に」
そこには全裸で髪から水を滴らせているジェーンが立っていた。
「この……馬鹿師匠!」
「痛った!?何を投げるんじゃ!」それは取れたての川魚であった。
「この!この!馬鹿師匠!」
「痛った!痛!やめんか!」
「200年生きてきてこんな辱めを受けたのは初めてです!」
「痛い!痛い!だってお前!いま【回廊】使ったんじゃろうが!修業の成果じゃろおうが!」
「違います!なんかできたけど【妖精回廊】じゃないんです!」
「ああん?げんに壁を越えて入ってきたんじゃろう?」
「よく見て!」
その瞬間ジェーンの姿は搔き消えた。
ジェーンが居た空間をじっと見て「確かに【回廊】じゃないの……てことは何がどうなっとるんじゃ?」
そして再び同じ場所に現れた。
「どう!【妖精回廊】じゃないけど移動方法は手に入れたわ!」
「本当に移動しとるのか?」ヤクサイカツチから見れば、確かに姿は消えたが、移動しているのかどうかまでは確認できていなかった。
つまり、姿を消しただけという可能性もある。
出入口のないこの家に外のトイレから戻っただけでも、特殊な移動方法だというのは分かるのだが、師匠として教えた術以外の方法を会得してしまう弟子を認めたくなかった……のかもしれない。
「いいでしょう!では、麓の村へ行って村長を連れてきましょう!」そういうとジェーンの姿は消えた。宣言通り村長の下へ行ったのだろう、全裸のままで。
「ジェーンってあほじゃなぁ」と彼女が投げつけた川魚を魔法を使って集めながらそう呟いた。
※※※※
「……」
「…………」
「……なんで?」
「は?……なんでとは?」
「なんで止めてくれなかったんですか?」
「止める間もなく行ってしもうたからな」
「……」
「で、村長はどこじゃ?」
「…………もう一回行ってきます」
服を着たジェーンは再び姿を消して、しばらくして村長を伴って現れた。
こうして、ジェーンは知らず知らず瞬間移動を会得したのだった。
※※※※
村長を村へ帰した後の話。
「何のマネじゃ?」
「仕返しです」
ヤクサイカツチの前には歪んだ空間が広がっており今まさにそこへ入ろうとしていたところだった。
そんなヤクサイカツチの足を止めたのはジェーンの魔法だった。
「この魔法は私が解くまで足止めするものですよ!ふっふっふ!」
「師匠にそんな真似をして今後の修業がどうなっても知らんぞ?」
「……修行の内容改善を希望します」
「それはできん相談じゃな」
「ではこのまま、限界突破までチキンレースです」
「かまわんが、この魔法を解いた時ができの悪い弟子の最後になるんじゃないかと思うんじゃがなぁ?」
「……」
「今のうちにごめんなさいした方がいいと思うんじゃがなぁ?」
ヤクサイカツチが使う移動用の魔法【妖精回廊】はA地点とB地点を魔法で繋ぎ、その実距離と障害物を無視する極短い通路を作るものだ、現代日本に住む我々にわかりやすく言えば『どこ〇〇ドア』のような魔法であった。
それ故、体の半分はA地点、もう半分はB地点に存在するといったことが可能な魔法だ。
特徴は『2点へ同時に存在できる』という点が上げられる。これは荷物の移動などを安易にしタイミングを計る上でも安易である。
しかし、それはすべてその回廊へ入ることを前提としていた。
今、ジェーンがとった作戦のように、回廊に入ることを妨害してしまえば移動を阻止できるのである。
「どうした?今ならまだ間に合うぞ?」
ジェーンの魔法はヤクサイカツチから離れた場所で彼女を見据え、その姿を両手でしっかりと握り込むことによって見えない手でその動きを封じるというものだった。
ヤクサイカツチと魔法の手の対比はジェーンの視点のそれに準拠する。
『ジェーンから見て自分の手のひらに収まる』とすれば、魔法をかけられた側からは『自身がその掌に収まりそうな巨大な手が現れる』といった具合である。
距離を置けば置くほど、巨大な手を使うことができるがその分力も弱まるといったものだ。が、今は屋内である。せいぜい数歩から十数歩の距離であったためその威力は個人に使うには過剰であった。
ヤクサイカツチは諦めたのか展開していた【妖精回廊】を閉じてやや大きな声で話し出した。
「しかし……儂はこんな魔法教えた覚えはないぞ?」
「これは昔から私が使っているものですから、ヤックから教えられたものではありませんよ!」自慢げに言ったのだった。
「ちなみにどんな時に使うものじゃ?」小首をかしげながら魔法の使い方を採点し始めるヤクサイカツチ。
「……主に遠方の敵軍の足を鈍らせたりとか……そういう」
「そうか、安心したわい!はっはっはっはっは!」
「どういうことですか?」
「この距離で使うなら、いろいろと対処方法がありそうじゃと思ってな!」
「…… 一応、聞いておきますが、どんなものですか?」師匠の様子に多少の違和感を覚えながらも、自慢の魔法をそんな風に言われて気にならないわけがなかった。
「仮に、儂に仲間がいたとしたらどうじゃ?」
「あはははっ ヤックに仲間ですか?この状況を何とかしてくれる仲間なんていないでしょう?ぼっちなんですから」
「お?なんじゃ?儂、喧嘩売られたんか?」
「だっだだだって!ここに住むようになってもう半年以上たちますけど、誰も訪ねてこないじゃないですか!」
「……他の方法だってあるぞ手足を拘束しようとも、わしは生きておるからこの状態のまま魔法を使うことだってできる」
「やめてくださいよ?今だって握り潰さないように気を付けてるんですから!」
「……」
「……どうですか?そろそろ限界が近いんじゃないですか?」
「そういうお前も手を上げてるのがつらくなってきたんじゃないのか?腕がプルプルしてるのが魔法を伝ってきておるぞ?」
「ぐぬ……なんで涼しい顔してるんですか!限界が近いはずなのに!」たしかに先ほどから腕が疲れてきていた。
故郷では上流階級の身分であったし、神殿では多くのものに傅かれてもいた。そう彼女の肉体はこの時代の平均と比べてもかなり弱い方だった。
「ほれほれ、どうした?そろそろお前の腕の方が限界じゃないのか?」
「なんで!なんで!トイレ行きたくないんですか!?」
「行きたかったさ、最初のうちはな」
「最初のうち……?まさか!?」
「そう、そのまさかよ!」
「ずるい……【妖精回廊】ずるいでしょ!」そういってジェーンはその場に崩れるように座り込む。
腕が疲れてしまい魔法を維持できなくなったのだ。
「さて、弟子よ……」
「あ……えーっと……ごめんなさい?」
「ふふふ」
「……あはははは」
「重力スクワット1万回な」
「あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”!!」
※※※※
月日は流れ数回目の冬を迎えた時の事。
「まったくこのポンコツ弟子!出来損ない!ひな鳥もいいところよな!」
氷柱を打ち出す魔法を教えている最中、まるで水芸のようにピュ~と水が出るだけのジェーンをみてヤクサイカツチが放った言葉である。
「ええい!本当にひな鳥でどうするんじゃ!せめて浮くだけでも浮いて見せろ!このままでは芋虫の方がまだましじゃぞ!奴らは蝶になって空を飛ぶんじゃからな!」
飛行の魔法の修行の時、地面から微動だにしないジェーンをみたヤクサイカツチのセリフであった。
「なにが女神の愛娘じゃ!この程度の空間操作くらいしてみせんか!変な踊りを踊ってるようにしか見えんぞ!」
【妖精回廊】はいまだに使えないままだった。
ウル・アスタルテ 女神の愛娘 ヤクサイカツチに弟子入りしてからというもの彼女の言う方法で身についた魔法はいまだに1つもなかった。
その代わり、不老転生体が生来持つ能力については磨きがかかってきたようだった。
瞬間移動も最初の頃は1回100mくらいであったのに、今では海を飛び越えて大陸へ渡ることもできるようになったし、別の能力で氷柱を撃ちだせるし、同じく別の能力で空も飛べるようになった。
「なーんでじゃ!なぁんでわしが教えたようにはできんのじゃ!」
「私に聞かれてもわかりませんよ!」
「なんでじゃぁあ!」
「わかってたら使えるようになってますよ!」
「あーやって!こうやって!ずばーん!じゃろうが!」
「こうやって!こうやって!ずばーん!だめだぁ!」
こうして、不老転生体が生来持っている能力には磨きがかかったものの、魔法の技術はからっきしという存在が出来上がってしまったのでした。
「将来、お前を指さして『ポンコツ魔女』とか『ゼロ魔女』とかいわれそうじゃな!」
「そのたびに、師匠を殴りに来ますね?」
「そんな暇があったら修行せんか!」
将来の二つ名を想像して二人の魔法使いは想像を膨らまして笑いあっていたのだが、このころ麓の村では『全裸魔女』が伝説となっていた。
ジェーンが師匠の魔法を使えるようになるのはまだまだ先の話のようだった。
※※※※
蓬莱学園 某大教室
巨大な高校である蓬莱学園では途中入学、あるいは退学や本土の高校へ編入するものなども多い。
そのため、生徒が一人増えたところで、話題になるのは一瞬の事だ。
しかし、この編入生は少し事情が違った。
「初めまして。我はジェニー・ドゥ。今日からここに世話になる。よろしく」
ぶっきらぼうに、不愛想に、そう自己紹介をした幼女は、学園の有名人である「白い藪医者」こと『ジェーン・ドゥ』にそっくりなのであった。
そのうえ、名前も『ドゥ』姓なのだ。
噂話が好きな生徒だけでなく、医療系クラブや文化系クラブに所属する者ならその名前は一度は耳にしたことがあるものだった。
曰く、医療報酬の水増しをした。
曰く、霊感療法で詐欺を行った。
曰く、幾人もの女生徒を囲ってハーレムを作り淫蕩にふける魔女である。
曰く、方法は怪しいが名医であり信頼できる。
ジェニー・ドゥはジェーンの因子をもとに作られた機械生命体である。
もとになったジェーンはファンタジー系魔法使いだが、ジェニーは電脳系魔法使いだ。
しかも、機械生命体だからこその超感覚を持っている。
生徒たちが口にしたジェーンとジェニーにまつわる噂話をすべてその耳で聞き、雑音などの除去を行い、識別し記録していた。
彼女は、先日こんな自分を家族だと言ってくれた女たちが、共通の恋人であるジェーンの事で悩んでいるのを聞いていた。
それは、彼女の噂が酷いものばかりだということだった。
「なんだ、主の噂はひどいものばかりだと言っていたが、そうとも限らないではないか」
ジェニーは学校から帰ったらみんなに教えてやろうと思ってる。
「連中の喜ぶ顔が楽しみだ」
ぶっきらぼうで、不愛想な幼女は、微笑みを浮かべるのでした。
※※※※
「そもそもそんなものに一喜一憂……あーまぁ気にしてもしょうがないじゃろ?」とは言うものの、幸男から高名が知れ渡ってるという話を聞いた時にはにやにやが止まらなかったジェーンである。
「でもセンセェ、やっぱり悔しいですよ」
「その気持ちは嬉しいんじゃが、他人の目を気にして生きるのはしんどかろう?まったく気にしないのは問題じゃが、ある程度は意識して気にしないのもありじゃて」
おやつの大福をぺろりと平らげたジェーンは、元患者が差し入れてくれたチーズケーキに手を付けた。
「……センセェ……太りました?」
「……は?」
「最近、甘味の量が増えてますよね?ちょっと体重計乗ってください!」
「いや……他人の目を気にしてはいかんと……」
「それとこれとは別の話です!」
「いや、大丈夫じゃッて!身長も伸びとるし!適正範囲じゃ!」
「私にその言い訳が通用すると思っているんですか?セブンや千穂ならまだしも!さぁ身体測定しましょう!」
「いやじゃぁ!」
「医者が不摂生って!ポンコツとか藪医者って否定できなくなるじゃないですか!」
「魔法で!魔法で何とかするから!」
「だめです!魔法禁止!」
「いやじゃぁ!セブンの悪魔が移ったんか!?」
とはいえどこか楽しそうなジェーンさんでしたとさ。
※※※※※※
ジェーン・ドゥと幸せの形 第四章 終り
最終更新:2022年10月19日 18:25