『ジェーン・ドゥと神在月(ハロウィン)2』
■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。
女難の相あり。←自業自得。
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■セブンさん:【運命の方翼】の1人。
赤いライオンヘアでトゲトゲアクセサリーのパンクな女。
実は世界有数の大財閥の令嬢。
独占欲が強く、ジェーンさんを独り占めしたがる。
本名:葉車奈菜
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■幸男さん:ジェーン大好き。女装男子→女。
中国拳法と東洋医術を修めている。
推しの幸せは...私の幸せ!
【運命の方翼】武力担当
通称:ユキ
本名:那須幸男
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■千穂ちゃん:お嬢様言葉を使う月子様大好き少女。
【運命の方翼】記憶担当、魔法使い(弱)、何気に高い行動力。
4人の中ではお母さん的存在。
本名:朋田千穂
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■ジェニー
ジェーンさんの因子から組み上げられた、ナノマシンで構成された機械生命体。
生きたコンピューター。
設備なしでインターネットにつながることができる。
ジェーンさんが「魔術師」であるのに対して彼女は「超級ハッカー」…になるかもしれない。
通称:ジェニー・ドゥ
本名:瑠璃堂院穂子
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ハロウィン。
言わずと知れた仮装と馬鹿騒ぎのお祭りである。
少なくとも、ここ蓬莱学園では。
委員会センタービルの1階、裏口横のジェーンの診療所。
医療施設ではあるものの、ここの関係者達も仮装でお祭りの雰囲気を楽しんでいた。
「前回も前々回も座敷童じゃったし、セブンはメジェド様じゃったな」
「で、気に入ったのか?」
そう、ジェーンは今年も座敷童の仮装をしていた。
かたやセブンはと言えばやはり昨年と同じくメジェド様の仮装をする予定であった。
「お主とて気に入っておるんじゃろ?」
「楽なんだよ」そう言って笑う2人を横目に、幸男は仙女の仮装、千穂は血の滲んだ包帯を巻いたバニーガール姿で、ジェニーに羽を背負わせていた。
それは修験者の格好と合わせられていて……。
「さぁ!出来ましたわ!」
「小天狗ジェニーの出来上がりよぉ」
「可愛いではないか!さすが儂の妹じゃ!」
妹という言葉に眉根を寄せるセブンだが、以前の『娘』のように文句を言うことはなくなっていた。
「我は天狗なのか」一見無愛想に見えるが、この場にいる4人には彼女が喜んでくれている事がわかっていた。
この後5人は新町へ繰り出しお祭り騒ぎを楽しんだ後、いつもと同じように九重の邸で鍋パーティーをする予定だった。
以前との違いは、人数が増えたことだ。
ジェーンとセブンの仲はセブンの親公認である。
しかし、娘のパートナーが他にも恋人が増えたとなったら……?
今までのような友好的な関係でいられるだろうか?
ジェーンの表情は自然と暗くなっていた。
「なんだよ、まだ気にしてんのか?」
ジェーンの顔を覗き込んでセブンがそう聞いた。
「ん……顔にでとったか」
「そりゃぁもう、ありありとな!」
大袈裟に、オーバーアクションで、小さな恋人の気分を少しでも明るくしようとおどけてみせた。
「……」
「……ちぇ!柄にもないことするんじゃなかったぜ!」
普段は赤いライオンヘアでトゲトゲのアクセサリー、シルバーチェーンをつけたパンクな格好で『己の道を行く』彼女は、自身の言う通り柄にもないことだった。
けれど、そんな彼女の振る舞いをジェーンは嬉しく思い、幸男や千穂は微笑ましく思うのだった。
診療所を締めてさぁ出発と言ったところだったが、運命の女神はそれを許してはくれない。
※※※※
この場に居合わせたセブン・千穂・ジェニーは、診療所の人間ではない。
そんな彼女たちを含めて一様に、ベッドに横たわる患者を見て怪訝な顔をする。
しかしジェーンは医者である。
幸男は看護師である。
この2人が患者を前に怪訝な顔をするのはプロとしていかがなものか。
この場でいつもと変わらないのはジェーンの因子を素に作られた機械生命体のジェニーだけだった。
ベットに横たわる患者は自己診断で【骨折】との事だ。
通常であればレントゲン撮影を、ジェーンなら透視の魔法で診察するところだが、彼には必要ないと判断された。
「こんな患者は初めてじゃ」
「私もです」
患者の前で医療従事者2人が口々に患者の不安を煽っていく。
勿論ワザとではないのだが、目の前の患者の状態を見て思わず口に出たのっであった。
患者が不安いっぱいの声色でその心境を吐露する。
「先生!俺ってもしかして骨折以外にもヤバい状態ですか!?」
「いや……う〜む……」と腕を組んで煮え切らない様子の医者に、さらに不安を加速させる患者。
患者はその場に居合わせた女達にも視線を移す。
患者からすれば、彼女たちがナースかどうかなんてわかるはずもなく、その場に居合わせたのだからきっと関係者=看護師だろうと判断したのだ。
「ねぇ……俺って……どうなってるんですかぁ!」
届くはずもない手を伸ばして、1番目立つ大柄な看護師=セブンへ仮装のシーツを取ったセブンへそう問いかけた。
届くはずもない手が自分を求めるように伸ばされた事に恐怖を覚えたセブンは小さく悲鳴を上げ後ずさる。
その仕草をどう思ったのか……患者は診察台から起き上がり一歩、また一歩とセブンに迫っていく。
涙を浮かべながら部屋の隅で小さくなるセブンに、決して触れることなく彼女を怖がらせ続ける患者。
「いひひひひ」
「いやぁ!ジェーン!ジェーン!」
「センセェ?そろそろ止めたほうがいいんじゃ?」
「あんなセブンを見れるのはまれじゃからなぁ……もう少し見てみたいのぉ」
「センセェ、時々 意地悪ですよね……そんなセンセェも素敵です」
幸男は頬を赤めながら愛しの女を後ろから抱き寄せた。
普段はトゲトゲパンクに髑髏マークをアクセサリーにしている彼女でも、本物の動く骸骨には悲鳴を上げてしまうのだった。
そう、患者とは本物の【骸骨】だ。
生徒が骸骨のコスプレ衣装を身にまとってきたのではない。
【骸骨】そのものが折れた骨を持ってジェーンの診療所に運ばれてきたのだ。
「あー……そろそろ、勘弁してやってくれんかの?」
しかし【骸骨】は興が乗ったのかセブンを怖がらすのに夢中でジェーンの制止の声が聞こえていない様子。
「センセェ?どうします?殴って止めますか?」
「骨折が増えそうじゃから、それはなしじゃな……とはいえ、どうしたものか」
「主……じゃなかった、お姉ちゃんなら魔法で対処できるだろ?」
「儂がやれば灰にしてしまうじゃろぅ……千穂、【聖火】の魔法を覚えておるか?」
「はい月子様。ですが、私ので大丈夫でしょうか?」
「何事も経験じゃろ」
セブンが悲鳴を上げている傍らでほかのメンツは冷静だった。
「かけまくもかしこき ばびろにあにまします いしゅたるのおおかみ……」
(なんじゃ?神道ちっくじゃな)と、呪文などに拘らないのは、ジェーンの師匠から続く魔法道であった。
「……聖火!」
千穂が呪文改め祝詞を唱え終わると、セブンの頭の上に小さな青白い火の玉が浮かび上がる。
「ぎゃぁ!眩しい!」
出現した火の玉は決して明るいものではなかったが【骸骨】からすれば相当に眩しいようで、目元を隠しながら後ずさっていく。
「めっちゃ、効いてますねぇ」と幸男が笑い「初めて見る……やはり我の目では解析できぬな」とジェニーが難しい顔をして「やりました!うまくいきましたよ月子様!」と千穂が手を叩いて喜んだ。
※※※※
「すいませんでした!なんかすごく楽しくなっちゃって……すいません」
「いえいえ、なんて言うか……良いものが見れました」そう言って笑うのは仙女姿の幸男。
「なんでかわかんないんですけど、怖がられて凄く気分が良くなって……骨折の事も忘れてしまうくらいに……」
椅子に座って申し訳なさそうに身を縮める骸骨。
「まぁ多分……そう言う事もあるんでしょう」(この時期に本物の動く骸骨……センセェの周りだけなのか、それとも学園全体で起こってる異変なのか……)
嫌な予感を覚えながらも、己の恋人と己の魂を分けた存在が喧嘩する様を見て「むしろ楽しくなりそう」と感じる幸男であった。
「なんですぐ助けてくれなかったんだよ!」
「痛った!すぐそうやって暴力!暴力反対!」
「痛った!脛をキックしながら何が『暴力反対』だ!このチビヤブ医者!」
「普段からドクロのアクセ付けておきながら、骸骨相手にビビりおって!次から助けてやらんぞ!」
「ふざっけんな!それとこれとは別だろうが!」
「お主以外誰も怖がって無いじゃろう!このビビリパンクめ!」
「俺がビビリなんじゃねぇ!ビビらないお前らがおかしいんだよ!ユキは医者だしそれにジェーンと一緒に戦ってきて慣れてるだろうし、ジェーンは論外だし千穂はその弟子だし!俺だけが一般人なんだよ!」
「我は?」
「お前もジェーンみたいなもんだろうが!」
「……『ジェーンみたいなもん』って……」
同じ部屋に動く骸骨が居てチラチラとセブンを見てくる状況に、彼女は恐怖から半泣きになりながら声を荒げた。
「ヨシヨシ……怖いんじゃな?」
そう言ってセブンと骸骨の間に入り「これ、お主の視線にはどうやら人の恐怖を駆り立てる力がある様じゃ、耐性の無い者をあんまりみるで無い……言うこと聞かぬとさっきの【聖火】の万倍のやつをお見舞いするぞ?」
「……嘘でしょう?」
「試しても良いが?」
「……わかりましたよ!……ていうか僕患者なんですよ!もっと大事に扱ってくださいよ!」
「理性があるなら周りに迷惑をかけるな。『患者』以前の問題じゃ」
こうしておとなしくなった骸骨の骨折を治療する事になったのだが……。
「これ、くっつくと思うか?」
「……生きてるならくっつくんじゃ無いでしょうか?」
「ええ!?俺生きてますよね!?」
「「……」」
「ちょちょちょ!嘘でしょう!?」
「だってお主……ユキ、鏡持ってきてやれ」
「はぁいセンセェ」
こうして持ってきたのは更衣室に置いてある手鏡。
それを受け取って覗き込んだ骸骨は「うわぁ!」と声をあげて鏡を撮り落としそうになり、慌てて幸男がキャッチして割れずに済んだ。
「ががが骸骨が!……ははーん……ハロウィンだからってドッキリですね!?」
骸骨はどうやら自覚がない様だった。
「お主……自分の手足を見ても何にも思わんのか?」
「手足?……うわぁ!!」
「な?お主が「服着てない!」」
「「「「「そこかよ!」」」」」
こうしてよくわからない患者を受け入れた診療所はハロウィンどころではなくなった。
なぜなら、その後奇妙な患者が続々とやってきたのだから。
※※※※
「最近眠れなくて……仕事で疲れているので、いつもならすぐ寝れそうなんですが……」天秤を持った若い女性がそう言うと
「俺も昔はそうだったな……暖かいアイマスクしたら寝れる様になったよ」と、セブンが返す。
全身打撲の痩せた男が「強くなりたい!けれどいくら修練しても体格差を埋めれないんだ!」と打撲の理由を述べると
「【柔は能く剛を制し、弱は能く強を制す】」
「……つまり……こうしたら!?」
痩せた男が幸男に殴りかかったかと見えた瞬間、男の体はふわりと宙を舞い幸男によってその場に組み敷かれていた。
「そう、こういうこと」
「なんか隣が物騒ですね」
「いつもはこんな混んだりしないんですけどね」
まるで小学校の身体測定のように列をなす患者とそれを捌くジェーン達を見ながら、バニー姿の上から白衣を羽織った千穂が順番待ちの筋骨隆々のイケメンと雑談を交わしていた。
「しかし、こんな所に我々を診れる医者がいて良かったです」
「(どこから来ての台詞でしょう?気になりますが月子様からその辺の話しには触れない様に言われてますし……)ところで、今日はどうされたんです?」
「ああ、私は引率みたいなもんでして……ただ、可能でしたら身体測定をお願いできないですかね?私だけ何もしてないのは寂しくて」と、その言葉通り先生のようなスーツ姿の男ははにかみながらそう言った。
「……それぐらいなら」
ジェーンにアイコンタクトでOKをもらって測っていく。
「身長は204センチ!おっきいですね!」
「はっはっは!いやぁ私なんかは普通ですよ」
「次は体重ですね……153キロ……すごい筋肉ですもんね!」
「鍛えてますから!」
千穂は一見おっとり系美少女である。
そんな千穂に自慢の筋肉を褒められて悪い気がしない男がいるだろうか?
「次は胸囲を測りますね」
そう言って抱きつく様な形で男の後ろへ手を回す。
男からすれば突然の至近距離であるし、腕を広げた千穂は羽織った白衣が大きく開き、バニーガールの際どい胸元など丸見えだった。
さらには千穂から香る甘くしびれる様な女の匂いに、先ほどまでの爽やかな笑顔を苦悶の表情に変えて唸り声を上げ始めた。
「え?え?どうしました!?」
「う……う”う“……」
「大丈夫ですか!?」
男の身体は筋肉が盛り上がり口は裂け牙が伸びてきていた。
「月子様!」
千穂がジェーンを呼び振り返るよりも早く、男と千穂の間に飛んで入るジェーン。
彼女たちの目の前で金属同士が衝突したような音を立てながら幾条もの火花が咲き乱れた。
「アオーーーン!!!」それはまるでオオカミのような遠吠え。
先ほどまで好青年だった彼はさらに筋肉が膨れ上がり着ていたスーツは内側からはじけ飛ぶように破れてしまっている。
「カカカカ!千穂の色気に当てられて変身してしもうたか!未熟者め!」
診療所は混乱の坩堝となっていた。
千穂を求めて暴れ回る狼男と、その狼男から他の患者や身内を守るために張られるジェーンの結界が、花火の如き火花を散らし、逃げ惑う患者達の頭上に降り注いだ。
「ジェーン!さっさとなんとかしやがれ!」
信頼の表れか、セブンが小さな魔法使いを急かす。
「センセェ!結界を解いて下さい!私が取り押さえます!」
幸男が学園屈指の拳士の自負からそう申し出た。
「カカ!千穂の成長を見守ってやれぃ!」
「え!?」まさかこの状況で自身にお鉢が回ってくるとは思っていなかった千穂はビクッっとしてメジャーを取り落とす。
「カカカ!経験じゃ!思う最善をやってみよ!」
「……えぇ……(むかーしの修行から変わってないなぁ)わかりました!」
診療所の人や物には結界が張られていて被害は出ないが、無尽蔵かと思われるほどのスタミナを持つ狼男は、千穂を求めてその結界を破ろうと何度も何度もその爪を突き立てた。
騒音があたりを支配している中、それははっきりと鮮烈に皆の耳を打った。
それは千穂による柏手。
次にあらかじめ裸足になった足を大きく上げ、力強く地面を踏みしめるように下す。
相撲の四股のような所作。
バニーガール姿でそんなことをしたものだから、狼男の興奮度はさらに増し火花は一層激しく咲き乱れている。
周囲の視線に気が付かないほどの集中を持って狼男を正視し、祝詞を口にする。
「掛かけまくも畏かしこき伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘の小戸の――」
祝詞を口にするたび、地面を踏みしめる度、空気が張り詰め清められていく。
「――祓え給い、清め給え、 神 ながら守り給い、 荒御魂を鎮め給い……百首縛縄!」
狼男を取り囲む様に現れた小さな鳥居からしめ縄が飛び出し、自由を奪うために首や手足に巻きついていく。
「おおお!」
目の前で起こる不思議現象に周囲から歓声が上がった。
しかし、セブンは少し思うところがあるようだ。
「不思議現象続きでイマイチ感動が薄いな」
「言いたいことはわかるけど、魔法よ?魔法!いいなぁ!千穂ちゃんも魔法使いかぁ!」
(ユキはその拳で、千穂は魔法でジェーンの隣に立ってる……それなのに俺は……)
セブンは幸男同様に愛する女と共に戦える様になりたいと願っている。
なのに千穂までもその実力を示して(ジェーンからして見れば千穂の魔法などまだまだ未熟ではあるものの)彼女の隣に立ったという事がセブンには堪らなく羨ましかった。
そして……1人だけ置いてけぼりになった様な、そんな寂しさも感じていた。
狼男は捕縛され千穂の魔法によって強制的に人へと戻されていた。
「……お恥ずかしいところを……本当に申し訳ない」
「幸か不幸か、相手が千穂で良かったのぉ」
「……どういう意味ですか?」
「一般生徒相手なら被害はもっと大きかったろうと思ってな。別に千穂ちゃんが被害にあって良かったというわけじゃないぞ?」
「当然です!」
「そう怒るな、怒った顔も可愛いがそれでまた変身されたら困るじゃろ?」
「今度は月子様が狙われてみたら良いんじゃないですかね!」
「いや、ロリには興味ないんで」
キッパリと狼男は口にした。
※※※※
ジェーンが魔法の修行をしていた時代。
北海の辺りにある【妖精の住む島】
【冬が生まれる山】の頂近く。
千里眼の修行をしている最中のこと。
「なんじゃ?お化けも見たことないんか?」
ジェーンの魔法の師匠である、ヤクサイカツチはそう言って弟子を煽っていた。
「ええ!ありませんとも!私には女神の寵愛を頂いていますからね!お化けとか寄って来ないんですよ!」
師匠の煽りに頬を膨らませる。
銀髪金眼の美女、戦と王権・愛と美・豊穣の女神=イシュタルの巫女、司祭長まで務め当時は故郷に4mほどの石像が建てられたほどの人物である。
それが今、お化けを見たことある無しで煽られてぷりぷりとお怒りであった。
そして師匠のヤクサイカツチと言えばいつもの様にふかふかの長椅子に寝そべって弟子の修行を見守りながら、邪魔をするというスタイルだった。
「わしら不老転生体とは違って人間は寿命が短い故、未練を残しやすい。つまりお化けになりやすいということじゃ」
「村長が畑仕事してる……のが見える」
師匠を振り向かずこう続ける。
「だとしたら私の周りには未練を残さず人生を謳歌した人ばかりなのでしょう」
「そんなわけあるものか。人というのは欲深く浅慮で嫉妬深く、そして不自由じゃ。お主にだって心当たりがあろう?」
「……」
確かに思い当たる節はありすぎた。
彼女がここに居るのも故郷での事があってだ。
「でも……お化けは見たことないですよ」
「お前に力がないだけじゃ未熟者め」
「じゃぁ見方を教えて下さいよ!」
「その前に千里眼を覚えんか。因みに村長は畑仕事などしておらん。彼奴は3日前から腰痛で寝込んでおる」
「……」
「畑仕事……プププ」
「……見舞いに行ってきます!」
「腰痛の薬はそこじゃ、持っていけ」
ジェーンは肩を怒らせながら薬を手に取って『妖精回廊』の魔法に失敗し、悪態をつきながら『瞬間移動』で出て行った。
「魔法の才能ないんかのぉ……このままではいつまで経っても……まぁ良い、すでに3万年も生きたんじゃ、数十年位付き合ってやろうか」
数十年……この時はまだそう思っていたヤクサイカツチであった。
※※※※
平野が森に変わる頃。
「だいたい【星の声を聞く】とか【星を読む】ってなんなんですか!しかも毎日同じなのに日によって内容が違うとかあり得ないでしょう!」
「はぁ!?バッカ!お前!バッカ!何を非常識な事を言うとるんじゃ!」
「星が神々の化身なのは知っていますが、ヤックの言うそれらはさっぱり分かりませんよ!」
「かぁー!これだから未熟者は!もうお前は雛鳥でもなんでもない!卵じゃ!卵!魔法使いの必須技能ぞ!星を読めんで魔法が織れるものか!」
「ヤックのいう魔法が使えないだけで、私の魔法は使えますぅ!」
確かにジェーンは昔から超常を起せたし、今は以前よりも強いそれを起せる様になっていた。
しかし、ヤクサイカツチの教える魔法は今のところさっぱりであった。
「まさか星の詠み方を知らんのか?」
そんなはずがないと半ば冗談でそう言った師匠に対してそに弟子は正直に答えた。
「ええ!教わってませんからね!」
「教わっておらんって……読めるじゃろ、普通は」
「……は?」
「え?」
ジェーンが弟子入りしておおよそ数百年、ようやく認識の違いに気がついた2人であった。
結局2人の魔法に対する基準が違いすぎてヤクサイカツチの基準で魔法を伝授してもジェーンには使えないのは当たり前であった。
現代的に言えば、2人の魔法はOSが違うから……と言ったところか。
※※※※
「先先先……だいぶん前の村長じゃないですか!」
(……)
「ええ!みんな元気にしてますよ!孫の孫の……元気な双子でしたよ!」
「ええい!やめんか!鬱陶しい!」
「痛い!叩くことないでしょう!」
「魔法が織れる様になったからって調子に乗って、村の守護霊をポンポンと呼び出すな!」
山の中のいつもの修行場を月明かりが照らす中、とある作業の休憩中に覚えたての魔法を使って村の守護霊を遊びで30柱目を呼び出た弟子と、それを怒る師匠であった。
しぶしぶ彼らを黄泉へと送り返したジェーンは、作業の為に師の対面へ胡座を描いた。
「しかし……この作業めんどくさいですね」
「しょうがあるまい、わしとお主では依って立つ所が……基準が違うんじゃから」
作業に戻った二人であったが、ジェーンがすぐに弱音を吐いた。
「全く根性のない……しかしまぁ月も三度満ちたことじゃし……あと1回登ったら寝るとするか」
「ヤックはもっと人間的感覚を持った方が良いですよ!」
「わしとて昔は人間基準だったんだがの……長生きしとるとズレてしまうんじゃな」
月明かりの中、ヤクサイカツチの両掌から半透明な蔓が空へ向かって、いく条も伸びていく。
葉をつけ枝を伸ばし、白い花を咲かせたそれは複雑に絡み合う。
「……綺麗」
感嘆のため息を吐きながら、見上げるジェーンに
「これをお主用に書き換えねばならんのが惜しまれるの」と残念がった。
そう、これこそがヤクサイカツチの織りなす魔法の設計図、つまり魔法陣と呼ばれるモノであった。
「……ごめんなさい」
「かまわん。3万年も経てば色々変わるんじゃろ……いずれ、記号や図形のみの美しさのかけらもないのが出てくるやもしれんしな!」
そう言って笑う師匠の横顔に寂しさを見た。
「……」
師の生きた時間を想像する事しか出来ずにいる弟子には、なんと声をかければ良いか分からなかった。
彼女達にとって魔法とは手足を動かす様なものであるため、いまさらそこに違いがあるとは思っていなかったのが、発覚が遅くなった原因である。
そして今、互いに知る魔法を相手に合わせて調律する作業をしているのだった。
「のう、不祥の弟子よ」
「なんですか?無能の師よ」
「ようし、実践訓練をお望みという事じゃな?」
「なんでございましょう、偉大なる師よ」
「……そろそろ収穫祭じゃが、今年はお主が実行せよ」
「……は?」
収穫祭。
今年最後の収穫物である、蕪の収穫を待って行われる感謝祭である。
麓の村で開かれるそれは長年ヤクサイカツチを祭主として行われていた。
ヤクサイカツチはこの役をジェーンにやれと言っているのだ。
「いやいやいや!私は神に使える巫女ですよ!?そんな他所のお祭りを主催するなんて出来ませんよ!」
「これも修行の一環じゃて!」笑いながらそう言ってジェーンの抗議に取り合わないのは、決して面倒だからという理由では無かった。
そう面倒だからではなかったのである。
準備に忙殺され、当日は近隣の村との折衝を含めて予想内外のトラブルの対応に神経をすり減らしたジェーン最終日にブチ切れたことは言うまでもなく、せめて祖国の祭り同様に先祖に感謝すべく...させるべく村の祖霊を呼び出したのだった。
当然、村はパニックとなった。
お化けが目の前に現れれば当然ではあったが、その正体が自分たちの祖霊であることに気が付いてからは一転して歓迎ムードであった。
こうして、ただでさえ大変な主催としての仕事に加えて、祭祀としての仕事を追加することになったジェーンは翌年以降も任されることになったのでした。
「代わってくださいよ!」
「無理、だってわし巫女じゃないもん」
※※※※
ジェーンの診療所
ジェーンとその彼女達は疲れ果てていた。
骨折した骸骨を皮切りに上は女神、下は悪魔まで来室して、その対応に追われていたからだ。
「ところどころ、記憶が飛んでおるが……それだけ大変じゃったということかの」
「一角獣つったか?あれが連れてこられた時には、何が何だか……」
「まぁセンセェは名医ですから」
「しかし、ものすごく暴れて大変でしたわね」
「ニ角獣はなついていたじゃないか」
「あれはあれで……目が怖かったぜ」
「トラウマになりそうよぉ」
「狼男さんに通じるものがありましたわ」
(馬だけにトラウマ……いや、やめておこう)とジェーンが密かに飲み込んだギャグだったが……
「馬だけトラウマ」とジェーンそっくりのモノマネでジェニーが言った。
「ジェニーちゃんの方から聞こえましたわ」
「なんだよジェニー!冗談が言えるのかよ!悪くなかったぜ!」
「ふふっふふふっ私もすきよぉ」
意外と好評の様子に
「儂も同じ事言おうとしたんじゃ」
セブンがジェーンの肩を叩いて「便乗はカッコ悪いぜ?」
「えぇ!?」
視線を逸らす幸男と千穂。
ドヤ顔のジェニー。
「……お主ら……」
こうして、彼女達のハロウィンは今年も神話級だったとさ。
※※※※
終わり
最終更新:2023年10月28日 11:46