旅の仲間





「GS協定」に参加している各クラブ・委員会に対してエステルが折衝を行ったため、一同は合法的に月光洞へ行けることになった。
すなわち、各団体からバックアップを受けることが可能になる。
地球科学部の部長・土御門保憲が持ち込んだ石像も、そのひとつだった。
その石像は捨て村の廃寺にあるゲートと月光洞内の石像を設置した箇所に通路を作ることができる。
つまり、ゲートの本来の出口であるベースキャンプを経由することなく、石像を設置した任意の場所に直接転移することが可能ということ。
一同に託された石像は全部で5個。
どこで使用するかがカギとなるであろう。

紅美と麗久を加えて月光洞に転移した一行を迎えたのは、第一次探検隊長を務めるオカルト研部長のエイブラムス・阿部だった。

彼は一行に月光洞での注意点を伝える。
紫外線が強すぎる太陽を直視してはいけない、重力や気圧の違いから発生する現象に注意すること等。

一行が最初に目指すのは、【支配の指輪】を作ったとされる細工人と呼ばれる人々の集落。
そこに至るには、2種類の方法がある。
ひとつは月光洞の住人たちが普通に使う方法で、スピーダーと呼ばれる騎鳥で向かうこと。
もうひとつは、航空研が持ち込んだ輸送機を使用すること。
ベースキャンプのあるハリン人の領域から細工人の村までは約3000km。
スピーダーではおよそ1週間、輸送機ならば半日ほどの距離だと言う。
ハイペースを旨とする一行は輸送機を選び、翌日にはベースキャンプを後にした。

離陸から概ね10時間。
輸送機は無事に細工人の集落がある峠近くに設営された発着場に着陸した。
一行は発着場近くに石像を設置して、ゲートにつながるルートを作成してから、徒歩で小一時間ほどの峠へと向かった。

細工人の集落は、峠にある洞窟の中にあった。
洞窟とは言え、中は白夜のような薄明に包まれた外よりもずっと明るく、街と言っていいほどの家々が建ち並んでいる。

唯一月光洞の言語を操れる露子の通訳により、長老の屋敷に迎えられる一行。
長老は【支配の指輪】は4000年前に細工人のある男が大南帝国の皇帝に依頼されて作ったものだと告げる。
最初に九つの【力の指輪】が作られて皇帝臣下の9人の王に下賜され、続いてその【力の指輪】を統べる【支配の指輪】が作られた、と。

【力の指輪】、そして【支配の指輪】の力で、帝国は大きく発展した。
しかしその支配の力を危惧したひとりの学園生徒が【支配の指輪】を盗み出し、地上へと逃亡した。
その【支配の指輪】が、長きときを経て月光洞へ戻ってきた。
それは大いなる禍の兆しである可能性が高い。

禍が起こるのを防ぐには、帝国領の奥深く、指輪が作られた場所である『灼熱のるつぼ』に指輪を投じなければならない……

長老の話を聞いた紅美は、決意を込めて呟く。

「目的地は決まった。私は行くわ。そのために、来たのだから」

と、そこへ屋敷の外からざわめきが伝わってくる。
ざわめきはやがて、悲鳴や「逃げろ!」「隠れろ!」と言った不穏な響きへと変わった。
窓から外を見ると、大南帝国人と思わしき男が大小の猿人としか表現できない生物を連れて立っている。
帝国人らしい男は大声で「指輪を差し出せ!」と日本語で叫んだ。

まずいつものように、敦也の閃光花火が放たれる。
同時に紅美のモーゼルが火を噴き、猿人4体が額を撃ち抜かれて倒れた。
残りは人間ひとりと猿人1体。
そのうち指揮官である人間を左門が一刀のもとに斬り伏せ、返す刀で猿人をも斬り倒した。

なぜ帝国人は日本語で叫んだのか。
言い換えれば、なぜ指輪を持っているのが地上人だと知っていたのか。
細工人たちが帝国に情報を流したのでは、と疑う露子。
しかし、その目の前に血まみれのスマホが飛んできた。
どう見ても学園で配布されているスマホ。
しかし通信機能はなく、入っている翻訳アプリも日本語を母語とするものではなく月光洞の言語を母語とするタイプのもの。
そして、大南帝国の地図と紅美を始めとする一行の顔写真が保存されていた。
そして保存されていた音声データを敦也が解析すると、ロイの声が流れ出した。

「どちらにせよ、【支配の指輪】を持ってきてもらったことは感謝しよう。最終的に我々の手に入ればよい。次に会うのを楽しみにしていよう」

大南帝国への潜入方法を話し合う一行に、細工人の長老が協力を申し出た。
交易人からの話によると、帝国は90年代の学園生徒たちに破られたあと、【力の指輪】を持つ王たちを頂点として九つの国に分裂し、それぞれが覇を唱えるべく争い続ける内乱状態。その中で五つの国が滅び、現在は四つの国が皇帝の地位を争っていると言う。

とりあえず今後の方針を相談するべく、一行は一度地上に戻ることにした。
細工人の村を辞して、洞窟の外に出た途端。

「指輪を差し出せ」

一行は6騎ほどのスピーダーに乗った死霊に取り囲まれた。
そのリーダーと思われる死霊の左手人差し指には、金の指輪がはまっている。
しかし死霊と言えど、既に戦闘経験のある彼らの敵ではない。
骸骨の姿をした死霊はすべてばらばらに倒され、金の指輪がころころと地面を転がって紅美のトランクにぶつかり、止まった。

紅美がトランクを開くと、金の指輪はするっと【支配の指輪】に吸収されていった。
それを見てしまった忍と敦也。
指輪に魅入られてしまった忍はぶつぶつと妄想を呟き始めたところを麗久にひっぱたかれて正気に返る。
しかし敦也は何も言わないままだったので、誰も彼の視線がトランクから離れないことに気づかなかった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年10月19日 00:16