二つの指輪
宇津帆島に戻ってきた一行。
しかし紅美はひどく衰弱しており、入院加療が必要な状態だった。
今後の行動をどうするか。
頭を抱える一行の前に、公安委員会非常連絡局長・寒戸文明が現れた。
文明は一行の行動について、公安委員会が全面的にバックアップすると伝える。
しかし、非常連絡局が紅美を追っていたことを知っている露子・左門・敦也は今ひとつ文明を信じきれない。
しばしの相談後、露子はアゼルとリゼルを探して紅美の護衛を依頼、左門とエステルはゲートの警護についている巡回班と銃士隊に合流、敦也は月光洞でガタガタになった装甲車の修理と改修ということになった。
午前2時半ごろ。
ゲートを包囲していた生徒たちの中に、発煙筒のようなものが投げ込まれた。
発煙筒から吹き出したガスは、周囲の生徒たちを無力化していく。最終的に動けるのは、左門ただひとりとなった。
そのとき、ゲートが光を発する。
「……宇津帆島か、久しぶりだな」
そういいつつ現れたのは、南豪君武その人だった。
左門は雄叫びを上げつつ南豪に斬りかかる。
が、そこに現れたロイに阻まれた。
林の中から狼の記章をつけた武装SS残党が続々と現れる。
完全に多勢に無勢。それでも闘志を失わない左門を尻目に、南豪は林の中へと姿を消した。
ロイと斬り結ぶ左門。
しかし周囲に転がる生徒たちをかばいつつの戦いは分が悪い。
劣勢に追い込まれたその時、再びゲートが光った。
光の中から現れたのは、月光洞で左門たちを救った神父、ヨハンだった。
これで形勢逆転である。
一方、ガスに倒れたエステルは自由の利かない指を必死に動かし、仲間たちにメッセージを送っていた。
「な ん ご う き た た す け て」
知らせを受けた露子はメディアと学防軍に急を知らせ、敦也は整備していた装甲車に飛び乗ってゲートを目指そうとする。
しかしその装甲車の前に、一人の少年が立ちふさがった。
少年は敦也を見ると小さな杖のようなものを取り出し、くるりと回して先端を敦也に向ける。
と、敦也は強い睡魔に襲われ、意識を失ってしまった。
気がつくと、小さな部屋だった。
大きな本棚、大きなデスク、そして頑丈な椅子。
敦也はその椅子に縛りつけられていた。
なぜか左手だけが上を向くように、天井からのロープに吊り下げられている。
「まずは初めまして、と言っておこうか。椿敦也くん」
少年は武装SS残党「オルデン」の上級執行官、エドガー・チューリングと名乗る。
エドガーたちは敦也の能力に注目しており、「茶番劇の主要人物」としてその行動を見届けるためのプレゼントと称し、「……力の指輪ってヤツだね。月光洞で骸骨とかがはめてた」
「そのとおり。これは君に力を与える。その力を君がどう使うか、それを見てみたいんだ」
抵抗する敦也にエドガーは告げる。
紅美の本名は「都々目紅美」であり、もともとSSであったと。
それでもなお抵抗を続ける敦也にエドガーは無理やり指輪をはめ、その首に注射針を突き立てる。
敦也は再び意識を失った。
次に敦也が目覚めたのは、自販機横丁の片隅だった。
そこへ、露子とエステルの応石で敦也を見つけ、ヨハンが迎えにやってくる。
その姿を見た敦也の脳裏に、聖書の一説が浮かんだ。
「神父さん、マタイ伝にありましたね」
もしあなたの片手または片足が、罪を犯させるなら、それを切って捨てなさい。
両手、両足がそろったままで、永遠の火に投げ込まれるよりは、片手、片足になって命に入る方がよい
深くうなずくヨハンを見上げ、敦也は自分の左手を差し出した。
その人差し指には、金の指輪。
「神父さん……これ、斬り落としてください」
あくまでも淡々と告げる敦也の覚悟に一瞬ヨハンは怯むが、重ねて懇願する敦也にヨハンも心を決めた。
「わかった。そうしよう……神のご加護があらんことを。Amen!」
敦也の指目がけ、振り下ろされる銃剣。
しかし次の瞬間、指輪が動いた。カキンと音を立て、指輪にはじかれる銃剣。
指輪にも敦也の指にも、傷ひとつついていなかった。
憮然とするヨハンと敦也。
しかし次の瞬間、包囲されていることに気づいた。敦也は閃光花火を打ち上げて病院にいる仲間たちに急を知らせ、ヨハンは銃剣を抜いて突っ込む。
病院側では敦也からの合図に気づいた露子とエステルが警戒態勢をとる。
と、そこへドアの隙間からフラッシュバンが投げ込まれた。
露子が応石「邪」でフラッシュバンの爆発を妨げる。
炸裂しないフラッシュバンに気づかず、武装した男が3人病室になだれ込んできたが、左門の剣で即座に無力化される。
そこへヨハンと敦也が駆けつけてきた。
暴漢たちはヨハンの拷問尋問で支配の指輪を狙うと党のメンバーだと判明する。
そして、誰が更新しているのかはわからないが、毎日指輪の情報が公開されている裏サイトがある、とも。
そのとき、紅美が口を開いた。
「……どこにあるか、わかった」
力の指輪は残り7個。そのうち5個は月光洞にある。あとの2個のうち1個は敦也の指にあり、最後の1個は南部密林。
そう告げる紅美は今までの彼女らしからぬ黒い笑みをたたえていた。
最終更新:2023年05月03日 05:59