One Night ~君の居場所~





■天野遥:航空部と海洋冒険部に所属。IF世界の彼は流され系のヒロイン(笑)。

■星河空:遥の幼馴染でSS大尉。IF世界の彼はいろいろと拗らせている。



「一晩だけ、一晩だけお願いします!」
俺は部長に深々と頭を下げた。
「しかしな、少佐‥‥」
部長の表情は苦り切っている。
無理もない。俺が頼んでいるのは相当な横紙破り‥‥下手をすると俺自身が軍法会議ものときている。
「お願いします。あいつは俺の古い友人なんです」
「友人だと!?」
部長は一瞬顔色を変えた。
「あ、いえ、小学校の頃に一度会ったきりですので、思想的には問題ありません」
「そうか。びっくりしたぞ、スパイはお前かと思った」
そう言って部長は、考え込むように視線を天井に向けた。
「‥‥わかった、一晩だけだ。明朝0800(マルハチマルマル)まで。それ以降は認めん」
「ありがとうございます!」



足早に通路を歩きながら俺は思い返していた。なぜこんなことになったかを‥‥

そのとき、管制室は大騒ぎになっていた。
「馬鹿な、まっすぐ突っ込んでくるだと!?」
「機体確認、F-35だ!」
「あの奈良で盗まれたやつか!」
「スクランブル!スクランブルだ!」

警報を聞いた俺はいつものF-14に向かって駆けだした。しかし。
「天野少佐!今回はこっちに乗ってくれ!」
「F-35?なぜだ?」
「敵がF-35なんだ。少佐の目の前で強奪されたヤツ」
「あれか!わかった、ありがとう」
「頼んだぞ!」

F-35‥‥きっとあいつ、空だ。なら、俺が出なければならない。
決着をつけるのは、今だ。俺も腹をくくった。甘いことは言っていられない。墜とすか墜とされるかだ。
シートに座った俺は、ヘルメットをかぶった。ヘルメットディスプレイが一瞬輝き、周囲の風景が映し出される。
「こちらMilky!オールグリーン、発進スタンバイOK!」
「了解Milky!Take Off!」
「Take Off!」
F-35BはF-14よりずっと滑走距離が短い。しかしそれはその分加速が強いということで、それはGの強さとしてパイロットに跳ね返ってくる。
「ぐ‥‥っ」
発進時のGを耐えきり、水平飛行に移ったとき。
「見えた!」

そこから先はよく覚えていない。
ただ、俺とF-35が一体化したかのような感覚だけが残っている。
25mm機関砲で牽制しながら背後を取り合い、そしてミサイルを発射する。
1発目と2発目のミサイルは外れた。強引にかわされたのだ。
しかし俺は、自分が墜とされるなどとはまったく思わなかった。F-35は俺の手足であるかのように反応する。俺自身がそのまま飛んでいるかのような錯覚さえ生まれていた。
急上昇して、空の撃ったミサイルをかわす。こちらも強引だ。
かわされるとは思っていなかったのだろう、空の動きが一瞬鈍る。
そこへ俺は、ミサイルを発射した。
これは当たる。
発射した瞬間に、確信した。
AIM-9X サイドワインダーが、片方の垂直尾翼をもぎ取るように命中した。
制御を失った空の機体が、揺らぎながら落ちていく。
わずかに間をおいて、パラシュートが開いた。緊急脱出装置が作動したようだ。
俺はパラシュートを追い、F-35を垂直着陸させた。



俺が駆けつけたとき、空はパラシュートのハーネスを外して立ち上がったところだった。
「やっぱりお前だったか、空」
「遥か。やはりな」
そう、俺たちは互いに、自分の相手が誰か確信していたのだ。そしてそれは、間違ってはいなかった。
「いささか月並みだが、降伏勧告をさせてもらうぞ。お前の機体は俺が墜とした。反撃の手段はもうないんだ」
「銃も向けない降伏勧告のどこが月並みなんだ」
「向けてほしいのか?」
確かに月並みなんかじゃない、珍しい光景だろう。銃も向けず、軽口を叩いて笑いながらの降伏勧告など。
「俺の銃はベレッタM92だ。お前のボディガードより威力があるぞ」
「驚いたな、そんなところまで調査済みか」
「他ならぬお前のことだからな。俺の前に立ちふさがるのはお前以外に考えられなかった」
「違いない。じゃあ、一応お約束ってことで」
俺は愛銃S&W M49を抜いた。が、空には向けない。
「おい、降伏勧告なのに相手に向けないのか?」
「意味ないだろう?もう決着はついてるんだ。お前だってそう思ってるんだろう?」
「お見通しだな」
空は両手を肩まで上げた。ホールドアップではない。手のひらを上に向けた「やれやれ」のポーズ。
「とりあえず航空部基地までご案内だ」
「ああ、わかってる」



再度F-35に乗り込んで、基地に帰還。
「SS勢力のF-35を撃墜、パイロットの身柄を確保いたしました」
「よくやった、少佐。下がってよし」
「‥‥あの、すみません。SSのパイロットはこの後どうなるんでしょうか?」
「身柄を公安に引き渡す。当然のことじゃないか。何を今さら?」
「‥‥少しだけ、待っていただくことはできないでしょうか?」
こうして、冒頭につながるわけだ。

通路を進み、空が入れられている独房に到着する。
がちゃりと鍵を開けると、顔だけ中に入れた。
「ついて来い」
「お前が尋問役か?」
「そうじゃない‥‥とにかく、ついて来い。ああ、逃がすわけじゃないから」
手錠も外し、基地内の仮眠室へと連れていった。



「ここは?」
「仮眠室だ。当直明けのときなんか、ここで寝てから寮に帰ったりするんだ」
「ふぅん、いい部屋じゃないか」
「俺は士官だから個室タイプを使えるんだ。下士官以下は2段ベッドが2つの相部屋タイプだがな。で‥‥空!」
周囲を見回している空に向かって、俺はかなりの勢いで深々と頭を下げた。
「どうした?」
「頼む、空っ!SSを抜けてくれっ!」
頭を下げているため、俺には空の足しか見えない。しかし空が狼狽したことが、俺にははっきりわかった。
「無理なことを言うな。それはお前に航空部を辞めろと言ってるようなもんだぞ」
「わかってる。だがSSとして公安に引き渡されたら、学園追放は免れないだろう。だから頼む!」
「とりあえず顔を上げろ。これじゃ話もできない」
空が俺の頭を両手ではさんで引き上げる。耳が押さえつけられて痛い。
「おい、やめろよ。耳が痛いじゃないか」
「だったら大人しく頭を上げろ」
姿勢を戻した俺は、軽くため息をついた。
「せっかく同じ学園で再会できたんだ。また会えなくなるなんて俺はごめんだぞ」
「それは‥‥俺もそうだが‥‥」
「だろっ!でもそのためにはお前がSSでいちゃまずいんだ。だから抜けてくれ、頼むから!」
「だが俺は‥‥」
「頼むっ!なんなら‥‥俺を好きにしていいから!」
殴る蹴るぐらいは覚悟の上だ。他人の生き方に干渉するんだ、そのぐらいの代償は払ってみせる。
「ほう?」
空の声音に面白そうな響きが加わった。
「本当に好きにしていいんだな?」
「ああ、殴るなり蹴るなり、好きにしてくれ。抵抗はしない」
「わかった‥‥目を閉じろ」
俺はうなずくと目を閉じて、奥歯を食いしばった。パンチで来るか、キックが飛ぶか、それとも平手か。
しかし次の瞬間。

俺の唇を、何かがふさいだ。

「えっ?」
驚いて声を上げると、口の中にぬるりと入ってくるもの。
俺は思わず、飛び退っていた。
「そ、空?」
「抵抗しないと言ったじゃないか。好きにしていいんだろう?」
「そ、それは‥‥」
確かに抵抗しないとは言った。だがそれは殴られたりすることを想定していたのであって、こんな事態はまったくの予想外だ。ましてや俺たちは男同士なわけで。
俺はひどく混乱していた。
「それともあれは、嘘なのか?」
空の表情が曇る。ひどく傷つけられたような、頼りない子供のような顔。
「空‥‥お前‥‥」
「ずっと、お前に会いたかった。苦しかったときも、悲しかったときも、お前を思い出した」
「‥‥」
気づくと、俺は空に抱きしめられていた。
「あの約束が、俺の拠り所だったんだ」
もう一度唇が重なる。俺にはもう、拒否はできなかった。



唇を重ねたまま、もつれ合うようにベッドに倒れ込んだ。お互いすでに下着1枚になっている。
「お前、意外と華奢なんだな。筋肉ついてるのか?」
空はからかうように言うと、俺の腹筋に指を滑らせた。
「やめろよ、くすぐったい」
「じきにやめないでほしくなるさ」
包み込まれるように抱きしめられる。空は俺より少し背が高い。俺だって180cm弱あるのにだ。

片手で俺の頭を抱え込んだ空は、もう片手を俺の背筋にゆっくりと走らせる。その指が腰のあたりにたどり着いたとき。
「んあっ!」
電流のようなものが走り、俺の体が跳ねた。
「そうか、ここか」
空は小さく笑うと、もう一度同じところを指で撫で上げる。
「あ、ああっ!」
なんだ‥‥なんだこの感覚は。頭が痺れるような、むずむずするような。
鼓動が早くなる。息が荒くなる。体に力が入らない。
「ほら」
空が俺の腹筋を軽く引っかいた。
さっきはくすぐったいだけだったのに、今度は熱く痺れるような感覚。
「まだやめてほしいか?」
耳元でささやかれるだけで熱くなる。俺は顔を伏せ、小さく首を振った。

と、伏せた顔がすくい上げられる。目の前に空の真剣な顔。俺は思わず目を閉じた。
またキスされる。角度を変えながら、何度も。吐息を漏らすと、舌が入ってくる。
俺の舌をつんつんと突き、上顎をなでるように動く舌。
そうしている間にも空の手は動き回り、俺の背中や腕、脇を柔らかくさすっている。
「んっ!」
空の手が胸にかかった。頭の中で何かが弾ける。弾けた何かはそのまま背筋を伝って、股間まで降りてきた。
「遥、今お前がどうなってるか、わかるか?」
「どうなってるって‥‥」
「ほら」
空は俺の手を取ると、股間へ持って行った。張りつめたそれに、俺自身が驚く。
「空、俺‥‥」
「いいんだ。それでいい」
つかんだ俺の手で、そっと下着を擦る。自分の手なのに、感覚がまるで違う。
「なんで‥‥あっ」
「ほら、そのままだと出るぞ」
言いながら空は、俺の下着を脱がせた。自分の下着も脱ぎ、俺たちは完全に何も身に着けてない状態になる。

「俺はどうすればいいんだ?」
俺の質問はいささかタイミングを逸していたらしい。
「感じてろ」
空はくすっと笑うと、俺の股間を撫で上げた。
「あああっ!」
「そう、それでいい」
それから空は、俺を四つん這いにさせた。片手は前に回して俺を擦り上げ、片手は後ろからほぐしにかかる。
「よせよ、そんなとこ‥‥汚いぞ」
「お前が汚いわけないだろう」
「でも、ああっ!」
言い募ろうとしたが、空の唇が背筋をなぞる感覚に喘いでしまう。
「お前は感じてろ。そう言っただろう」
もう俺の頭は真っ白になっていた。空の指が、唇が、舌が、俺を痺れさせる。熱い、鋭い、そして‥‥甘い。
体を電極が貫いているかのように感じる。ちりちりと痺れる感覚は体中で小さな爆発を起こし、俺を振り回す。
俺は何も考えられず、ただ吐息を漏らすだけ。

やがて、下半身がぐっと抱え上げられた。
熱いものがあてがわれる。
「力を抜け」
空の声も、熱に潤んでいた。
ぐ、ぐ、と押し広げられる感覚。わずかずつ貫かれる。激痛とそれを超える熱さが襲い掛かる。
俺は枕カバーを噛み締めて、それに耐えた。
「力むな。余計につらくなるぞ」
「で、でも‥‥」
「力を抜くんだ」
俺を擦り上げる空の手が、勢いを増した。熱い、鋭い、そして‥‥甘い。
「あ、あ、あ、くうっ!」
耐えきれずに迸らせたそのとき。空が完全に俺を貫いた。
「‥‥大丈夫か?」
「だ‥‥大丈夫、だ」
「動くぞ」
「ああ‥‥あっ!」
内臓を直接擦られる。それは不思議な感覚だった。さっきまでの激痛はもうない。鈍く脈打つ重みに変わって、俺を串刺しにしている。
その鈍い重みに混ざり、鋭い快感が脳を噛む。真っ白だった頭は、スパークに埋め尽くされていた。
迸ったばかりの股間がまた立ち上がっていくのがわかる。
俺は噛み締めた枕カバーの端から喘ぎを漏らし、ゆるく首を振ることしかできなかった。
「うっ!」
「うぐっ!」
そして、俺の中で爆発が起きる。
俺と空はほぼ同時に迸らせていた。俺はベッドの上へ。空は俺の中へ。



「遥」
「なんだ?」
「俺に居場所をくれるか?」
「ああ、もちろんだ。俺がいる限り、俺がお前の居場所だ」
「‥‥ありがとう」
空はゆったりと笑った。それまでの冷笑的な、どこかひねくれたような笑いとは違う、子供のころそのままの笑顔。
俺は胸がいっぱいになり、初めて自分から空にキスしていた。

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最終更新:2022年10月18日 23:57