『ジェーン・ドゥと天使と悪魔とその尻尾』
■ジェーンさん:白いゴスロリの魔法使い。
見た目は小学生。
女難の相あり。←自業自得。
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■セブンさん:【運命の方翼】の1人。
赤いライオンヘアでトゲトゲアクセサリーのパンクな女。
実は世界有数の大財閥の令嬢。
独占欲が強く、ジェーンさんを独り占めしたがる。
本名:葉車奈菜
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■幸男さん:ジェーン大好き。女装男子→女。
中国拳法と東洋医術を修めている。
推しの幸せは...私の幸せ...
【運命の方翼】武力担当
通称:ユキ
本名:那須幸男
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■千穂ちゃん:お嬢様言葉を使う月子様大好き少女。
【運命の方翼】記憶担当、魔法使い(弱)、何気に高い行動力。
4人の中ではお母さん的存在。
本名:朋田千穂
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■ジェニー
ジェーンさんの因子から組み上げられた、ナノマシンで構成された機械生命体。
生きたコンピューター。
設備なしでインターネットにつながることができる。
ジェーンさんが「魔術師」であるのに対して彼女は「超級ハッカー」…になるかもしれない。
通称:ジェニー・ドゥ
本名:瑠璃堂院穂子
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尻尾……動物のお尻のとこにあるしなやかな部分。長さはさまざまである。
人間には基本付いていない……が彼女のお尻にはそれが生えていた。
狭義の意味で人間ではない彼女の種族は、それでも尻尾がある生物ではない。
けれど昨今世界的に蔓延した疫病に対する、ワクチンによる副作用で生えたのだ。
通常のワクチンならこんなことにはなりはしないが、なんとこのワクチン……学園製であった。
つまり……普通ではあり得ないことが起こる。
例えば、己の中の古の血筋である妖精の血脈に目覚める者。
例えば、手からマシンガン膝からロケットを打ち出せるようになる者。
例えば、水をかぶると性別が変わる者。
通常なら大問題だがここは蓬莱学園である。
概ね好意的に捉えられていて、さほど問題にはなる事はなかった。
彼女もその1人であるはずだが、どうにもノリきれていなかった。
彼女の副作用は『尻尾が生えて本物の腕と同じように使える』と言うものだ。
しかし一見便利そうなコレを、彼女は人前で使ったことがない。
『尻尾』が問題なのではない。
生えてる場所が問題なのだ。
彼女の尻尾は黒くしなやかで先端部分には青白い炎が点っている。
因みに、熱くはないこの炎が『手』の役割を果たす。
つまり、自由に動かそうと思うと、スカートがバッサバッサと捲れるし、下着だって既製品だとほぼ半ケツで収まりが悪い。
もちろん中には、尻尾の生え際問題をクリアできる物もあるにはあったが「ひもじゃろ!?こんなん隠せてないに等しいじゃろ!」 と絆創膏サイズの布を見て悲鳴を上げ見送ることにしたのだ。
では、今までどうしていたのか?
尻尾が生えたのは2年以上前であるのに、今になってなぜ恥ずかしがるのか。
かつて彼女はドロワーズという古風なタイプの下着を付けていた。
裾の長いかぼちゃパンツである。
彼女の尻尾はその太ももや腰に巻かれて、下着の中に入っていた。
つまり『収まりが悪い問題』は、下着を現代的なものに変えたことにより発生したのだった。
それでも彼女は約半年の間、我慢を重ねてきたのだ。
なぜなら、その下着を選んでくれたのが他ならぬ恋人たちだからであった。
※※※※
「センセェ?どうしたんですか、様子がおかしいですよ?」
職場である委員会センタービルから男子寮である恵比寿寮への往診の途中でのことである。
「あぁ……なんでもない」
「……あっ……予備なら持ってますよ、どうぞ使ってください」
そう言ってカバンから取り出したものを握らせた。
握らされたものを一目見たジェーンはそれを幸男に返しつつ「必要ない」とだけ答えた。
「でも様子が変ですよ?」
ジェーンを覗き込んで心配する幸男になんと答えたものかと思考を巡らす。
(素直にパンツずれ落ちそうって言う?しかし、今日のは幸男がプレゼントしてくれたものじゃ、悲しませたくはないし、お腹痛いって言う?医者の不養生って言われて心配されるだけじゃし……ああ、どうしたらいいんじゃ!)
ジェーンのスカートの上から腰あたりを気にしてる仕草を見て「あ!なるふぉど!」とジェーンの手を引き物陰に入り「解け易いですもんね、気がつくのが遅くなってごめんなさい」と当たらずも遠からずと言った内容で謝ってきた。
物陰に隠れてスカートを捲り紐を結び直す……とは言え問題はそこではないためその後もしばらく歩くたびに同じことを繰り返す。
「なるふぉど……そう言うことでしたか」
ジェーンを心配する幸男の圧に負けて全てを打ち明けると、呆れたように返ってきた。
※※※※
「と言うわけで、皆んなで考えましょう」
その日の夜。
いつもの夕食後ののんびりタイム。
「そうはいってもな……以前のようにドロワーズでいいんじゃないか?」
「奈菜さんはわかっていませんね 月子様の服装にバリエーションが出来たのは、服の邪魔にならない下着を着けるようになったからですよ」
「どんな服装だろうがジェーンはジェーンだろうが」
「それでも着飾っていて欲しいし、着飾りたいと言うのが女心でしょ?」
「そんなもんかねぇ」
セブンが首を捻りながら「俺はそうでもないけどなぁ」と呟いた。
それを聞いたジェニーが
「セブンは心に○んこ生えてる」と呟いた。
「な!?……なんつった?ああ?!!」
セブンは椅子を蹴って立ち上がりジェニーに凄んで見せる。
「まぁまぁ やめなさい2人とも」とすかさず幸男が間に入り
「穂子さんもそう言うことを言ってはいけません」といつもの光景であった。
「それに尻尾の問題は貴女も同じでしょう?」とジェーンの因子を元に作られたナノマシーンの集合体、機械生命体であるジェニー・ドゥこと瑠璃堂院穂子にも尻尾はあった。
ジェーンとの違いは、後天的か先天的か。
「穂子さんはどうしてるんです?」
「我ははいてないから問題ない」
「「「え?」」」
「そうじゃ!その手があったか!」
「「「ええええ!?」」」
当然ながら3人から反対されて却下されたのだった。
※※※※
「つまり服に穴をあけるのが、尻尾的には1番楽と?」
「まぁそうじゃな のびのびしとる方が楽なのは間違いないの」
ジェニーも横で頷いている。
「でも、問題があると?」
「うむ、生え際がもうお尻なんじゃ……そこに穴が空いとるなど、お尻を出した子一等賞じゃ」
「は?」「ふざけないでくださいませ」「センセェのお尻なら常に一等ですぅ」
「お姉ちゃんや 我にはわかっておるからな」
「……うむ」
「つまり穴は開けたいけど、開けたところからお尻が見えるのが嫌と」
「うむ」
「なんと言うか……尻尾の付け根付近も【お尻】な感覚なんじゃ」
そう言って皆の注目を集めるお尻を手のひらで隠す。
「センセェ、確かめさせて下さいください。今まで意識して観察した事ないので良くわからないので!確かめる必要があります!」と幸男が早口で提案した。
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「うぅ……こんな状況……数百年ぶりじゃ……ええぃ!まだか!?まだ終わらんのか!?」
椅子に手をついてスカートを捲り上げ下着を下ろし、お尻を突き上げた状態で観察されているジェーンは恥ずかしくて仕方がなかった。
ジェニーはといえば「同じなんだから1人が見せれば十分だ」とコレを断固拒否したのだった。
確かに尻尾は尾骨の延長の様に生えている。
つまりお尻の割れ目を数センチ進んだところ。
もう数センチいけば菊の花が咲いているのだから、恥ずかしがるのは無理もない事だった。
「もういっその事 長い手袋みたいなのにすればいいんじゃないか?」
「「「「それだ!」」」」
こうして紆余曲折あったものの、レースで作られ帯に、尻尾の根元10数センチをカバーする筒のついた物を作成。
コレでスカートやパンツに穴を開けてもお尻から根元までを見られる事は無くなった。
「センセェが恥じらってる姿……もっと見たかったなぁ」
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「しかし……改めて見ると、長いですねぇ」
幸男が尻尾の根本から先っぽの炎までを撫でながらそう言うと
「測ってみようぜ!」と、セブンが言い出した。
それに千穂が乗って筆箱から取り出した15cm定規で測り出す。
「……流石にこれでは計りずらいですね……多分ですけど、180cmはないと思いますが……」
「180!?長すぎんだろ!」
「お姉ちゃんの身長から考えると、身長の130%か……哺乳類最大の尻尾を持つフサミミクサビオリスというリスのみたいな比率だな」
「よくそんなの知ってたな」
「センセェはリス?カワイイ!」
「穂子さんの尻尾は…………150位?」
「うん……自分のを測った事ないが、そんなもんだと思う」
※※※※
ジェニーこと穂子が前へ倣えしてみせた。
尻尾をお尻から肩の上を緩やかな曲線を描きながら、両手の間へその先っぽを持ってきてみせた。
頑張ればもう数センチは前へ伸ばせるけれど、硬い関節が突っ張る様な感覚があって辛いとのことだった。
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「そんだけ長いとバランスどうなってんだ?」
ジェーンとジェニーは顔を見合わせて不思議そうな顔をした。
「我は元から尻尾があるから、無い状態が想像できない お姉ちゃんは最近だろう?尻尾生えたの」
「最初は崩しがちじゃったが、今は順応しとるな。体が慣れたのか魔法が聞いとるのかわからんが、特に問題ないの」
頭の後ろで尻尾を揺らしながらそう自身を顧みた。
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「しかしよ、実際何ができるんだ?」
「確かに気になりますわ」
「センセェが尻尾を使ってるところを見た事ないですからねぇ」
「我は普通に一通りできるぞ なにせその様に作られたからな」
「穂子さん【作られた】はNGでしょ?【生まれた】でしょう?」
千穂はジェニーを人間として扱うために、言葉を言い換えさせていた。
例えば【視覚センサー】は【目】、【聴覚センサー】は【耳】等等……。
当のジェニーは【機械生命体】という個性を気に入っているため、さほど気にしてはいないが、トラブルを避けるためと言われれば従うのも吝かではなかった。
閑話休題
「我はこの体で生まれたからな、元より制御出来ている」
右手で左袖のボタンをつけ外ししながら、尻尾で右袖のボタンをつけ外ししてみせた。
「おお!便利ですね!」
「器用ですわね!」
「でも、地味じゃねぇ?」
「……は?」
ジェニーの眉が吊り上がる。
「じゃあセブンにできるのか?」
「出来ねぇよ。でも、別にこまらねぇし、世の中の道具が2本腕用だからなぁ……もう一本あれば2人力だったろうに……今にの状態じゃ活かしきれねぇだろ」
「……それはそうだけど……でも!ギターのコードを左手と尻尾でやれば運指も楽だぞ!」
「だとしたら1本の腕でそれができる方がすごいだろ」
「うぐ……タイピングが人類の1.5倍速!」
「お前の場合、タイピングより直接繋がって入力した方が早いだろう?」
「それはそうなんだけど……そうだ!タイピングしながら食事ができる!」
「食事中は行儀良くしろ ぶっ飛ばすぞ?」
「……うぅ お姉ちゃん!」
言い負かされたジェニーは半泣きを装いながら、自身の元になった存在へ助けを認めた。
「儂はまだ実践した事ないから大したことは言えんがの……先ずは体洗う時に便利じゃな、背中も前と同じ様に洗えるしの」
「あら、それはいいですわね」
「センセェの背中は私が洗ってあげますよぉ」
「なるふぉど……ちょっといいな」
「背中を洗う……ってなんだ?」
視線が集中する中、居た堪れなくなって早口で口を開く「いや、今 検索した 体表に老廃物など出ない我には必要ない事の様だ!」
「今日は皆んなで大浴場へ行くか!洗ってやるよ!」
乱暴な口調ではあるものの、面倒見の良いところも魅力じゃなと、うんうん頷くジェーンであった。
「他にはそうじゃな……隙間に落ちたものを取りやすいの!」
一同「なるふぉど」と頷いて後、千穂がふと思いついた質問を口にすry。
「特別力が強かったりするんですか?」
「カカカカッ!いいとこに気がついたの!」
「あ やっぱり怪力だったりするんですか!?」
「いんや 他の腕と変わらんカカカカ 鍛えれば強くもなろうが、良くも悪くも『ジェーンの腕』じゃ!」
「腕相撲ランキングに変わりはないってことか」
腕相撲ランキングとは、この場にいるジェーン、千穂、幸男、セブン、ジェニーの5人に加えてセブンの妹の九重、兄嫁である忍の7人で競われた腕相撲の順位の事であった。
「あとはそうじゃな……相手の意表をついて攻めることもできるじゃろうな」
「確かに!予想外のところから腕が伸びてきたら確実に一本取られますね!」
「うむ、少なくとも1.5人の相手を強いるわけじゃからな」
「センセェは先ず見た目で相手の油断を誘えますからね、随分トリッキーな感じになりますね」
「危ない事は……」千穂がそう言って心配そうに見ている。
その手をとって「何も進んで危ない事をしようと言うわけじゃ無い ただその場を切り抜けるのに備えておく必要があると言うだけじゃ」
ヨシヨシと頭を撫でてやる。
するとセブンと幸男も無言でヨシヨシをせがんでくる。
ジェニーはそれを苦笑いで眺めていた。
「ああ、もう一つあったぞ」
3人を同時にヨシヨシしながら思いついたジェーンは、4人で過ごした夜のことを……彼女達の嬌声を思い出しながらどう説明したものかと腕を組んで考えたかったが、ヨシヨシを優先したため空いておらず、あと2本尻尾があればいいのにと苦笑したのでした。
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試行錯誤の末、スカートには穴を開けないことにした。
ズボンならある程度肌に近いがスカートは大きく揺れ動き穴の位置も同じく揺れ動くため、かえって落ち着かないとの感想があった。
「まくった袖がずり落ちてくる様な、なんとも落ち着かないんじゃ」
しかし、尻尾用に作った帯――テールベルトと命名――のおかげで紐パンであっても、半ケツであっても以前より収まりが良くなって、ジェーン&ジェニーの姉妹は人心地が付いたのでした。
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それで結局尻尾はどうしたかと言うと……
「今まで通り腰や太ももに巻き付けておるんじゃ」
恵比寿寮への往診の途中、幸男との会話の際だった。
春一番が吹き2人のスカートを捲り上げていった。
それを偶然みた男子生徒によって噂が流行ることになる。
曰く「那須幸男は純白の下着とタイツとガーターベルトでまるで天使の様だった」
曰く「白いヤブ医者は黒い貞操帯を付けていた 女癖が悪くて幸男さん達に付けられたに違いない」
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その噂を耳にした彼女達は
「貞操帯なんぞここ数百年付けとらんわ!」
「つけたとこあるんですか?」
「昔、ヨーロッパにいた時にの」
「んじゃ付けとくか!」
「そうですわね!」
「センセェの貞操帯姿見てみたいです!」
「……え?……嘘じゃろう?……おい、セブン?その手に持ってるのはなんじゃ!?おい!やめろ!ユキ!なんでスカートを捲るんじゃ!千穂ちゃん!その手を離せ離すんじゃぁ!はなせぇ!この悪魔どもぉ!」
「本当にお姉ちゃんたちは仲がいいなぁ」
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ジェーン・ドゥと天使と悪魔とその尻尾 終り
最終更新:2023年03月04日 13:31