ボーカルミキシングの基礎知識

このページではボーカルのミキシングの基本的なテクニックについて書きます。


ノイズの除去

ボーカル収録後に最初にやるべきはノイズの除去です。FL Studioでボーカルからノイズを除去するには以下の方法があります。
詳しくはそれぞれのページに書いているので、ここでは方法は省略します。
特に理由がなければ、Edisonの「Vocal Denoiser Tool」を使う方法がおすすめです。

Vocal Riderで音量バランスを調整する

ボーカルの音量バランスが安定していない場合、Patcherのプリセットである「Vocal Rider」を使うと安定することがあります。
これはWaves社の有料プラグイン「Vocal Rider」に機能を似せたプリセットです。

使い方としては "Sensitivity" を最大にして、"Target" を 70〜80% にするのがおすすめです。

もし Vocal Riderの設定だけでうまく行かない場合は、"Target" を右クリックで「Activate」した後、「Create automation clip」でオートメーションで制御します。

例えばブレスの音 (緑の部分) が耳障りである場合にTargetの値を小さくします。

Vocal Riderとコンプレッサーの違い
コンプレッサーとVocal Riderは、ボーカルの音量を調整するためのツールですが、それぞれ異なるアプローチを取ります。
項目 コンプレッサー Vocal Rider
特徴 音量のダイナミクスを「均一」にします。
設定したしきい値 (スレッショルド) を超える音を抑制し、
音量の振れ幅を狭めます (音を圧縮する)
ボーカルの音量の自動調整が可能で「インテリジェント」に調整します。
音の圧縮はせず、指定したターゲットレンジでフェーダーが自動で動くだけです。
またオートメーションにより、手動でかかり具合を変更することも可能です
音の質感の変化 音の圧縮、Attack/Releaseの変化などにより、
音の質感や色を変化させることがあります
自然な音量変化なので、音の質感は変化しません
レイテンシー (遅延)
の発生
レイテンシーが発生する可能性があります レイテンシーは発生しません
★ブレスの扱い 通常ダイナミクスは変化しません ブレスを強調してしまう可能性があります
★CPUの使用率 使用するコンプレッサーによりますが、
基本的に「低い」傾向があります
複雑な処理であるため、CPU使用率は「高め」です。
そのため、ある程度トラックをまとめる必要があります
Vocal Riderの問題点の1つとしては、ブレスが含まれるボーカルデータではブレスを強調してしまうことです (※これは本家のVocal Riderでは発生しないかもしれません)。
そのため、ブレスのところではオートメーションで音量を抑えるなどの調整が必要です。

もう1つの問題はCPU使用率です。PatcherのVocal Riderの CPU使用率を測定 (VIEW > Plugin performance monitor)したところ、他のエフェクターよりも高いCPU使用率となっており、PCの性能にもよりますが多様は厳禁です。

そのためCPU使用率がネックになる場合、事前にレンダリングしておくのも良いかと思います。

EQを使った音の削り方

ヒートマップの有効化
ヒットマップを有効化すると、音量が大きい帯域が赤で強調されて便利です。

これを有効にするには、中央下にある丸三角ボタンをクリックして「Heatmap > Enabled」にチェックを入れます。

EQでのローエンド除去
ボーカルにローエンドは基本的に不要なので High pass で除去します。
Fruity Parametric EQ 2を使うのであれば、Band1 トークン を右クリックして「Type > High pass」を選択。

続けて「Order > Steep 8」選択。

通常は「200~280Hz」あたりまではなくても良い部分です。(※ボーカルによっては100Hzまでにしたほうが良い場合もあります)
耳で確認して何らかのフィルターがかかっていると思うギリギリの位置まで削ると、他の音が低域を広く使えるようになります。

ただし、削りすぎるとボーカルの芯が失われるため、しっかりと耳で確認して適切なローカットを行います。
EQスイープで不要な帯域をカットする
EQスイープをするには、ローエンドのカットに使用したBandトークンの "peaking" を 0% にします。

Bandトークンを一番上まで移動させて左右に動かします。

このとき耳障りになる帯域があればそれをカットします。
そのままBandトークンを動かすと左右にずれてしまうので、スライダーで上下に移動させます。

カットする深さは、おおよそ「-3dB」くらいで、音が悪い帯域は「-6dB」まで削っても良さそうです。

ディエッサーによる歯擦音の除去

ディエッサーとは耳障りになりやすい s (エス) の発音を消すという意味で、日本語であれば「サシスセソ」が該当します。
ディエッサーは Maximus に "De-essing > De-esser narrow-band" というプリセットがあるので、これを使うことで歯擦音を軽減できます。

かかりが良くない場合、歯擦音は 通常「4k〜10kHz」あたりで発生するので、Fruity Multiband Compressorでその帯域のみ圧縮する方法もあります。

ただ、歯擦音が気にならない場合は使わないほうが良いです。

コンプをかける

コンプで音を圧縮して整えます。
FL Studioには様々なコンプがありますが、Fruity Limiterは視認性が高くて調整がやりやすいです。
Fruity Limiterは名前の通りリミッターですが、"COMP" をクリックするとコンプモードに変更できます。

THRES (スレッショルド) の値を "-20dB" にしてコンプを有効にします。

ボーカルのスレッショルドの値としてはこのあたりが目安です。

次に RATIO (レシオ) を "4.0:1" にします。

これもボーカルでは鉄板の値です。

後はボーカルを再生しながら、「THRES」の値を増やしたり減らしたりして、適度にダイナミクスが安定するようにかかり具合を調整します。

エフェクトの設定

トーンを変える
ボーカルが平坦と思った場合は、EQやサチュレーションでトーンを変えます。
EQでブーストする場合は、6kHzあたりを 4〜5dBほど持ち上げます。

ロック系のボーカルをハードにしたい場合は Fruity Blood Overdrive でディストーションをかけるのも良いです。

リバーブ
リードに対してうっすらとかけるだけであれば、Fruity Reeverb 2の場合はこのくらいで良いと思います。
パラメータ
SIZE 60
DEC 2.0〜3.0sec
WET 20%
ただこの設定はダブリングやディレイを入れる前提です。それらを入れないのであれば、もう少し深めにかけても良いと思います。
ディレイ
ディレイを使うとボーカルの印象を大きく変えることができます。
Fruity Delay 2を使う場合は以下のように設定します。
パラメータ
INPUT > VOL 20〜30%
TIME > TIME 4.00 (4 steps)
TIMEは "4:00" (4 steps) が鉄板です。

TIMEを "8:00" に増やすとクールですが、歌詞が多い場合に音がにごりやすいので注意です。
そこでFruity Delay 3を使うと High passでディレイをカットできます。
例えば以下の設定が考えられます。
カテゴリ パラメータ
DELAY TIME TIME 8:0 (1/2)
FEEDBACK LEVEL 40%
CUTOFF 400Hz
Filter mode HP
OUTPUT WET 20%

ダブリング

ダブリングとは同じ環境(マイクなど)で同じ歌い方(リテイク)をしたオーディオデータを重ねることでボーカルに厚みをもたせる手法です。
自分で歌う場合はリテイクを重ねるだけで良いですし、Synthesize Vであれば「AIリテイク」機能が使えます。

ただ、ボーカル素材を使う場合など、複数のテイクが収録できないときは、単にリードボーカルを複製しても問題ありません。

エフェクトは、リードボーカルと基本的に同じ設定で、以下の点を変更します。
  • EQで削って目立たなくする (Low: 400Hz, High: 5kHz)
  • ディレイを無効にして目立たなくする
  • リバーブのDecayを4〜5secに増やす


参考


動画

この記事の内容を動画にしてみました。
最終更新:2024年08月14日 13:50