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霊媒現象

概説

霊媒とは、ミディアム(medium)の訳語であるが、ミディアムは元々、霊と交信できる人というわけではなく、その字義通り、霊からの作用を伝える媒体メディア(media)の単数形を意味する語として用いられていた。なお、霊媒的な存在は古くから世界各地に見られ、日本においても東北地方北部で活動してきた盲目ないし弱視の民間巫者であるイタコや、琉球列島の巫女であるユタなどは広く知られている。
霊と交信できる人の意味でミディアムという語が用いられるようになったのは、アンドリュー・ジャクソン・デイヴィスの著作に端を発すると考えられ、1850年代の終わり頃に、ラップ音、自動発話(自動書記の発話版)、霊の存在を見ることができる者、霊の指導に従って治療を行う者など能力にヴァリエーションが見られるようになると、全ての霊と関わる人々がミディアムと呼ばれるようになったという。*1

トランス状態になって霊の声を直接話すトランス・ミディアム、意識を保ったまま、霊の姿を見たり聞いたりするメンタル・ミディアム、そして物体を動かすなど様々な物理現象を引き起こすフィジカル・ミディアムがいるとされ*2、スピリチュアリズムの時代には、トランス・ミディアムフィジカル・ミディアムが活躍したが、今日では、ほとんどがメンタル・ミディアムであると言われる。このように、霊媒の体質はあらゆる活動分野に向いているというわけではないと言え、スピリチュアリズムの創始者としても知られる哲学者のアラン・カルデックも本来の意味での物理現象霊媒、感受性あるいは印象性の霊媒、聴覚霊媒、話す霊媒、見る霊媒、治療霊媒、書記霊媒、専門霊媒といったように分類している*3。また、霊媒は人類の中で特別な存在であるもののある種の欠点を免れることはできないとう。その欠点として、煩わしい霊に憑かれて追い払うことのできない憑かれた霊媒、嘘つきの霊に騙される幻惑された霊媒、悪霊に精神的・物質的に支配された屈服した霊媒、戯れにその能力を用いる軽率な霊媒、自分の能力や交信を自慢する高慢な霊媒、批判されることに耐えられない傷つきやすい霊媒、自分は決して誤ることはなく上級霊だけが訪れると信じている思い上がった霊媒がいるという*4

ハイズヴィル事件(フォックス姉妹事件)

様々な霊媒が登場するきっかけとして、しばしばスピリチュアリズム(心霊主義)の起点と目される1848年のハイズヴィル事件(フォックス姉妹事件)がある。ニューヨーク州ハイズヴィルのフォックス家において、二人の娘、マーガレットとケイト(当時10代半ば)が、不思議なノックするような音に気づき、その音の正体(霊)との交流が試みられた。2人は「イエスなら1回、ノーなら2回叩いてください」と呼びかけをおこない、音がその通りに反応したことで、対話が成立すると確信するに至った。そして、質問が重ねられるうちに、その霊は、生前、この地を訪れた行商人で、妻と二人の息子と三人の娘がいること、そして、500ドルを奪われ殺されたという内容が含まれていることなどが明らかになっていった。
この噂が霊と通信したい人々などに広まると、姉妹は各地を巡って公開の交霊会を行い、多くの聴衆を集めるようになったという。そして、金銭が絡み出したと言われ、年長の姉リアが加わり活動をした。このような現象が広く知られ、社会全体に熱狂が広がっていく中で、影の部分も指摘され、本物とする説とインチキとする説が対立していた。そして、マーガレットは、愛人エリシャ・ケインが1857年に突然死すると、酒浸りの生活から抜けられず、いつも貧乏だったと言われ、経済的に困窮していた時に、反スピリチュアル団体から金銭(報酬)を貰って(反対派に買収されて)、1888年に公開の場で、足の指関節を鳴らしてノック音を再現し、トリックだったと告白した。しかし、後にその告白を撤回し、この現象について事実であったと主張し続けたと伝えられており、告白を撤回した理由についても様々に解釈されている。このハイズヴィル事件と前後して、1850年代に入るとフォックス姉妹以外にも霊と交信できると称する人々が次から次へと名乗りをあげるようになった。そして、スピリチュアリズムがムーヴメントとして拡大していく中で、心霊現象が広く受け入れられるようになり、それを研究しようとする心霊研究の運動も引き起こされた。

レオノーラ・パイパーの事例

19世紀末のアメリカ、ボストンのトランス霊媒で、パイパー夫人の名でも知られるレオノーラ・パイパーは当事者も知らない秘密を告げたり、物から情報を読み取るサイコメトリーや自動書記など特異な能力を発揮したりしたと言われる。トランス霊媒とは、意識状態を変容させることで、自我の働きを一時的に抑え、別の人格や霊的存在が語り出す場を提供する媒介者のことである。レオノーラは、1859年6月27日、ニューハンプシャー州ナシュアに生まれ、パイパーは結婚後の姓です。幼い頃から、能力の兆しがあったらしく、母が書き留めた日記によれば、8歳の時、遠く離れた場所に住んでいたおばが突然死したまさにその時に、シーッという歯擦音の後、「サラおばさんは亡くなったのではなく、いまもなお、あなたとともにいるのですよ」という言葉を聞いたという*5。そして、レオノーラ・パーパーは結婚後に本格的に霊媒としての能力を発揮する。パイパーは、高次の霊からの宗教的、哲学的なメッセージを語るということはなく、口走るのは交霊会の参加者に関わる日常の世俗的な話題だったが、そこで告げられる個々の具体的内容には当事者以外知りようがないブライベートな情報が含まれていた*6。1885年に、パイパーのセッションに参加したウィリアム・ジェームズもまた、妻の亡き父「ギブンス(Gibbens)」の名前を最初は「ニブリン(Niblin)」、その後は「ギブリン(Giblin)」と綴られた他、亡くなったばかりの夫妻の息子ハーマン(Herman)の名前をハーリン(Herrin)と綴られ、驚かされたようである*7。そして、ジェームズは、自宅の地下室を実験施設に改装し、繰り返し実験を行った。

1887年には、懐疑主義で知られた心霊研究者のリチャード・ホジソンがパイパーの尻尾をつかもうと、一念発起して精力的に動いた。最初の出会いの時、パイパーの支配霊フィニュイは、ホジソンのオーストラリアの家族について、母は生きているが父は亡くなっていること、家族の四人は母の側で生活していることなど、詳しいことを次から次へと述べ立て、そのほとんどが不気味なほど当たっていた。また、後にホジスンは匿名の人を送り込みましたが、その人の名前や事実、個人的な逸話なども言って見せたようです。ホジソンは、探偵を雇って、パイパーを尾行させたが、疑わしい振る舞いは全くなかった。

この他、有名な報告としては、物理学者オリバー・ロッジによってイギリスのSPR(Society for Psychical Research:心霊研究協会)の紀要に発表された1889年冬のイギリスでのセッションの報告がある。ロッジのおじであるロバートには20年以上前に他界した双子の兄弟がおり、ロッジはその時、おじの兄弟の遺品を借りることを依頼し、古い懐中時計を借りた。そして、パイパーがトランス状態に入った時、相手の素性を知らないまま、懐中時計に触れ、「これはジェリーおじさんのものだ」「今はロバートおじさんがもっている」と語り出した。そして、「危険な小川で溺れかけた」「ライフル銃やヘビの皮のような長い変な皮をもっていた」「スミスさんの畑(野原)で猫を殺した」などとも語った。これらの話について、おじのロバートは、思い出せないことが多かったようであるが、もう一人おじであるフランクに後に確認すると、スミスさんの畑(野原)が家の近くにあってそこでよく遊んだこと、小川で泳いでいたことなど、その多くが事実と一致していることが確認された。また、パイパーは、トランス状態が切れた時に、時計に気が付くと、明らかにその時、初めて時計があることに気付いた様子であったという。

レオノーラ・パイパーの事例の解釈

わずかであれ、パイパーがインチキをしたという証拠を発見した人は一人もいなかったと言われるが、このような事例の全てが「死者の霊による通信」によるものと考えられたわけではなかった。実際、ホジソンは、亡くなった人物の霊から情報を得ているとして、その人物が生前、よく知っていたはずのことを答えられないこともあったことを挙げている。依頼者の心を読むテレパシーの可能性、パイパーが自らの無意識下もしくは無意識の脳の一部の記憶や手がかりなどから情報を組み立てているという可能性も挙げられた。このようなことは、死者の生前の特徴を読み出す現象が存在するという考えとは矛盾しない一方で、霊魂のようなものが存在し、霊魂のようなものが存在し、それが死後存続するという立場にとっては不利になると言える。しかし、ロッジは、パイパーのイギリス訪問中の交霊会で語られた内容として、そもそも参加者自身、見たことも聞いたこともない情報が含まれている事例が42件あったことを挙げ、ロッジもこの点について疑問を残している*8。また、ホジソンは、テレパシーのような思考伝達だけでは説明できない事例として、依頼者本人も中身を知らない箱の中身やそれを提供した人について語ったという話も挙げ、依頼者の心や潜在意識から情報が伝達されたとも考え難い面があると言える。

また、懐疑派からの批判も少なくない。パイパーの支配霊とされるフィニュイは、ホジソンに語ったところによれば、本名はジャン・フィニュイ・シルヴァイユと言い、フランスの医師の霊とされた。しかし、フランス医学界の記録にフィニュイに当たる人物は見当たらず*9、ジェームズが少しでも流暢なフランス語を話すと応答に詰まってしまったという話もある。ホジソンらは、フィニュイの実在の証拠が見出せなかったことから、フィニュイによってパイパーの第二人格でトランス中に精神的打撃を被りそうになった場合に自分を守るための意識下の手段だとも説明された*10。また、ホジソンが二人の子どもをもうけて長生きすると予言したが、ホジソンは独身のまま急死し、この予言も当たることはなかった。

このように、パイパーが告げる情報に不完全な部分、誤った部分があったのも事実であるが、当事者以外知りようがないブライベートな情報を語り、その多くが事実と一致していたことも事実であり、単なる詐欺だとみなす見解には同意できないと言える。また、トランス状態に入ったパイパーは、鼻の下にアンモニアを染み込ませた布を当てられたり、塩や香水や洗濯石鹼を口の中に入れられたり、痣ができるほど抓られたりもしたが、ピクリともせず、ホジソンも少なくともパイパーのトランス状態が本物だということは認めている。そして、トランス状態で獲得される情報には、事実と一致する者だけでなく、不完全な断片的な特徴が見られることから、霊との交信に成功と失敗が混在すると言えるかもしれない。いずれにしても、パイパーの存在は霊媒現象の研究において非常に重要であると言え、ジェームズは、自分にとって、心霊研究の唯一の希望として、パイパーを白いカラスに例えて次のように述べた。

専門的な論理学の言葉を用いて言えば、全称命題は、個々の事実によって真実ではなくなる可能性がある。もしすべてのカラスが黒いという法則を覆すことを望むのであれば、そうではないカラスがいることを示すために探し求めなければならない。すなわち、それを満たすためには、一羽の白いカラスの存在を証明するだけでいい。わたし自身の白いカラスはパイパー夫人だ。*11

現代の霊媒研究の展開

現代でも、霊媒研究は錯誤を重ねながら展開されており、1960年代にはイアン・スティーヴンソンによる「飛び入り」交信者の研究や、会席者(代理者)を用いた実験などが知られている。「飛び入り」交信者の場合、霊媒及び会席者側は、電話連絡を受けるまで、互いの存在を全く知らなかったといい、死後生存の証拠固めをしていく上で、非常に重要な役割を演じると言えそうである。また、会席者(代理者)を用いた実験では、霊媒には分からないランダムな順で坐った会席者についてレコーダに吹き込んだ記録をランダムな順に並べて手渡し、自分の関係者について語っているものを判別させると、10名中4名が記録を当てたと言い、統計的に偶然を上回る結果となった。ただし、この実験は再現性があまりないとの指摘もある。
そして、霊媒についてさらに厳格な実験が試みられていると言える。現在、最も精力的に研究をしているのが、アリゾナ大学心理学科教授のゲイリー・シュワルツで、被験者、実験者などが互いに情報をもたず、事前情報が完全に遮断された多重盲検実験も行われており、当てずっぽうで行ったリーディングと比べて霊媒の方が遥かに高い割合で被験者について言い当てていることが確認されているという。また、シリコン・フォトマルティプライヤーなる機械を使って、暗室に「霊」を呼んだ場合とそうでない場合との光子の量を比べ、「霊」を呼んだ場合に光子の量が大きく増加することを実証した研究もある。
他界している人物に関する情報を霊媒がどのようにして得たのかということについて、シュワルツは以下のような解釈を検討している*12
さらに、今日では、霊媒が尋常ではない意識の状態に入った時に脳の中で何が起きているかを探る研究も行われており、脳画像の専門家であるアンドリュー・ニューバーグは、単一フォトン放射断層撮影装置(SPECT)で脳の異なる領域を計測する実験を考案し、ベテランの霊媒の脳では前頭葉、側頭葉の活動が劇的に減少していたことが分かったという。*13

詐欺的行為説

霊媒が事前に会席者の探偵などを通して被験者に関する情報を得ていたのではないかとする主張もあるが、多重盲検実験においてスクリーンの後ろに座っている被験者が実験に参加する順番が分からないため、仮に情報を得ていたとしても実験において意味をもたない。また、実験において沈黙の時間に、会席者の年齢や性別、感情の状態といった手掛かりが霊媒に与えられることはない。

コールドリーディング説

霊媒が被験者の表情などを手掛かりに推測しているという主張もあるが、多重盲検実験においては、被験者の顔を見たり、声を聞いたりすることもできない状況もある。

選択的記憶説

被験者は信じたいものを信じたいが故に、的中した情報だけを記憶し外した情報を忘れているのではないかという選択的記憶に基づいた考えがあるが、霊媒の発言は被験者の記憶だけでなく実験室におけるテキストデータとしても残っているので、そのようなことはないとしている。

曖昧な情報説

霊媒が得ている情報が曖昧かつ一般的であり、誰にでも当てはまるのではないかという主張に対しても、霊媒が得ているイニシャル、名前、歴史的事実、個人に関する記述、気質、意見についてのデータが個々の被験者について非常に具体的なものであり、抑制群の情報の正確さはそれよりも遥かに低いとしている。

まぐれ当たり説

霊媒の高い的中率はまぐれ当たりで再現可能ではないのではないかという主張に対し、霊媒自身、裾区ではなく、特定の視覚や音、感情など得てそれを解釈していると主張している。そして、実験において、リーディングの内容が5人ほどの霊媒によって再現されていると言い、霊媒及び被験者間の情報の正確性は単なる推測や偶然では説明できない。

超常的な解釈

通常の解釈の他に、死者との交信ではなく他の超常的な解釈として、被験者の心や宇宙の記憶の痕跡を読んでいるのではないかという主張もある。それらに対し、被験者が後に確認するまで知らなかった情報や、被験者が否定していたが後から正確だと分かったという情報を言い当てたという例がありテレパシーに基づいた解釈では説明し難い面がある。また、宇宙の記憶の痕跡を読み出しているという可能性について論理的な可能性として否定できないにせよ、霊媒自身、情報が生きいきしていて、読み間違いをすると否定されるなど静的ではないと述べていることや、死者自身が被験者とコミュニケーションを取り続けているように見えるということが挙げられている。

以上のような検討を経て、シュワルツは死後交信が最も妥当な解釈として残ると結論付けている。

  • 参考文献
宮城音弥『神秘の世界 超心理学入門』岩波書店 1961年
宮城音弥『超能力の世界』岩波新書 1985年
宮城音弥『霊 死後、あなたはどうなるか』青春出版社 1991年
笠原敏雄編『死後の生存の科学』叢文社 1984年 
吉村正和『心霊の文化史 スピリチュアルな英国近代』河出書房新社 2010年
大門正幸『なぜ人は生まれ、そして死ぬのか』宝島社 2015年
高橋昌一郎『反オカルト論』光文社新書 2016年
三浦清宏『新版 近代スピリチュアリズムの歴史 心霊研究から超心理学へ』国書刊行会 2022年
伊泉龍一『スピリチュアリズムの時代1847-1903』紀伊國屋書店 2025年
ロバート・カステンバウム『死の世界を考える 死後の生存はあるか』宮本忠雄訳 東京書籍 1986年
イヴォンヌ・カステラン『心霊主義 霊界のメカニズム』田中義廣訳 白水社 1993年
ジェフリー・アイバーソン『死後の生』片山陽子 訳 NHK出版 1993年
デボラ・ブラム『幽霊を捕まえようとした科学者たち』鈴木恵訳 文藝春秋 2007年
アンドリュー・ニューバーグ / マーク・ロバート・ウォルドマン『「悟り」はあなたの脳をどのように変えるのか 脳科学で「悟り」を解明する!』エリコ・ロウ訳 ナチュラルスピリット 2019年

最終更新:2026年06月14日 00:33

*1 伊泉 2025 p.116-117

*2 大門 2015 p.86

*3 カステラン 1954(邦訳 1993)p.44-45

*4 カステラン 1954(邦訳 1993)p. 45

*5 伊泉 2025 p.567

*6 伊泉 2025 p.563

*7 伊泉 2025 p.564

*8 伊泉 2025 p.580

*9 伊泉 2025 p.586

*10 ブラム 2006(邦訳 2007)p.247-248

*11 伊泉 2025 p.620-621

*12 Schwartz 2002 p.258-269

*13 ニューバーグ・ウォルドマン 2016(邦訳 2019)p.133-137