Harmlessの基本的な使い方
このページではHarmlessの基本的な使い方を解説します。
Harmlessとは
Harmlessという単語を直訳すると「無害」ですが、このプラグインはその意味ではなく「Harmonics(倍音)」と「less (少ない)」を組み合わせた造語となります。
コンセプト |
意味 |
説明 |
Harmonics |
倍音 |
「倍音」を扱うシンセ |
Less |
少ない |
できるだけ少ないパラメータで |
このプラグインのコンセプトとしては、「最小限のパラメータ」で「倍音」を扱うというものです。
それを体現するようにHermlessはすべてのパラメータが1画面に収まっており、タブで画面を切り替えたりしません。これによりHarmlessは画面に表示されているパラメータをコピーするだけで音を再現できるため、プリセットを分析して音作りを学びやすい、というメリットがあります。
それとHarmlessの機能拡張版がHarmorとなり、お互いに似た機能もいくつかあるので、Harmorを使う前のステップアップとしてHarmlessの使い方を覚える価値は十分にあると思います。
Harmlessを使うメリット |
メリット詳細 |
すべてのパラメータが1画面にある |
・パラメータを目コピで再現しやすい ・プリセットから音作りを学びやすい ・音作りしやすい |
HarmlessとHarmorは似た部分がある |
・Harmlessの機能拡張番がHarmorとなる ・Harmlessで覚えた機能はHarmorにも応用できる |
倍音を扱える |
・倍音を加えると音がクリアになりやすく、お手軽によく通る音にしやすいです |
良い音が出る |
・今の時代でも通用する音が出ます |
倍音について
Harmlessのコンセプトに「倍音」があるので、倍音について簡単に説明します。
「倍音」は基本的にすべての音に含まれます。そして「倍音」には「整数次倍音」「非整数次倍音」の2つがあります。
倍音の種類 |
説明 |
整数次倍音 |
基音を整数倍した倍音。明るくクリアでギラギラした音になります。 歌声に整数次倍音があるとカリスマ性があると言われる |
非整数次倍音 |
基音を非整数倍した倍音。濁った音になりますが、安心感を得られる効果があります |
「整数次倍音」がもとの音が加わることで「明るく」「クリア」な音になります。例えば歌声に整数次倍音が含まれると「カリスマ性がある声」と言われ、荘厳な響きが生まれます。
言葉の説明ではわかりにくいと思いますので、実施にHarmlessを使って「整数次倍音」の効果を確認してみます。
まずはPresetのところから" Default" を選んでプリセットを初期化します。
初期化すると音色がSawになります。
そうしたら Harmonizerセクションの amt を 100% にします。
すると音が明るくなります(低い音だとわかりにくいので、音程の高い音で確認します)。
さらにwidth を 100% にすると加算する倍音の幅が広がり、より明るい音になります。
なお加算する倍音の設定は "Oct up" なのでオクターブ上が加算されています。
音の周波数は2倍するとオクターブ上となるので、この設定では2, 4, 8, 16, 32, ...といった倍音が加算されることとなります。
この設定を "Harm up" とすると、音域が狭まったような音になりました。
これは加算する音が2, 3, 4, 5, 6, ...といった倍音になっているためです。
なお整数次倍音に対応する音階の表は以下のようになります。
倍音 |
音 |
説明 |
音程 |
度数 |
オクターブ |
1倍音 |
C3 |
そのままの音 |
1度 |
0 |
2倍音 |
C4 |
2倍音は1オクターブ上 |
1度 |
+1 |
3倍音 |
G4 |
3倍音は1オクターブ上の5度 |
5度 |
+1 |
4倍音 |
C5 |
4倍音は2倍音x2 |
1度 |
+2 |
5倍音 |
E5 |
"E5" は 5.0625倍音なので近似値 |
3度 |
+2 |
6倍音 |
G5 |
3倍音x2 |
5度 |
+2 |
7倍音 |
A#5 |
A#5は近似値 |
増6度 |
+2 |
8倍音 |
C6 |
2倍音x (2^2) |
1度 |
+3 |
9倍音 |
D6 |
3^2倍音 |
2度 |
+3 |
10倍音 |
E6 |
5倍音x2 |
3度 |
+3 |
11倍音 |
F#6 |
F#6は近似値 |
増4度 |
+3 |
12倍音 |
G6 |
3倍音x (2^2) |
5度 |
+3 |
27倍音 |
A7 |
3^3倍音 |
6度 |
+4 |
81倍音 |
E9 |
3^4倍音 |
3度 |
+6 |
倍音豆知識ですが、2の累乗である 2, 4, 8, 16, 32, ... と 3の累乗である 3, 9, 27, 81, ... 以外の倍音は平均律だと近似した音程になるため、周波数的には平均律の和音は不協和音になりやすいです。
難しい話となってしまいましたが、整数の倍音は加わることで「明るく」「クリア」な音になる、ということだけ理解していれば問題ないと思います。
Harmlessで音作りするときの全体の流れ
Harmlessはパラメータが少ない…というのがセールスポイントなのですが、それでもパラメータは約「100」種類もあるので多くの人は圧倒されてしまうと思います。ちなみにHarmorのパラメータ数は700超えです。
そこで音の流れを3つのブロックに分けてみました。
Harmlessは基本的に上から下に音が流れています。
一番上の断で波形や音量のエンベロープ、ピッチが決まります。その下の断でフィルターで音が減算されます。
最後に一番下の断でエフェクターが加わり味変されます。
- 波形を決める「Timbre」
- 音量のエンベロープとなる「ADSR」(正確にはSustainがなくて代わりに pluck というパラメータがあります)
- そして音量とピッチ
- ユニゾンの設定
となります。
次のフィルターブロックは、以下のとおりです。
プリセットによっては「フィルターエンベロープ」が有効になっていてカットオフを動かしても変化がない、ということもよくあるので、「フィルターエンベロープ」の "amt" の値には注意が必要です。
最後のエフェクトブロックです。
特に変わった項目はないですが、ディレイ以外はエフェクトの種類と強さを指定する以外のパラメータがない、というのがパラメータを最小限にしている部分のこだわりとも言えます。
あとコンプには Distortion が含まれる、というのも知っておいたほうが良い機能となります。
最後にHarmlessの目玉機能である「倍音」を制御するゾーンは以下のとおりです。
ただハーモナイザー以外は扱いが少し難しいので、倍音に関する項目は Harmlessに慣れてきてから触った方が良いかなと思います。
Supersawの作り方
パラメータをざっくり説明したところで、Supersawを作ってみます。
まずは preset を右クリックして、Default でパラメータを初期化します。
Timbreの右隣にある "phase" を左いっぱいまで回して「100% spectral random」にします。マニュアルによると左に回すとメタリックな音になりやすいとのことです。
Supersawで重要なUnison設定です。
Unisonのorderを"7"まで増やします。
これにより音が7本重なって厚みが出ます。
次にpitchを70%、phaseを100%にします。
pitchを上げることで重ねた音のピッチにズレが生まれます。
phaseは位相のズレの発生度合いで、位相をずらすことで音の広がりが生まれます。
音に少しアタック感のようなものがあるのでこれを消します。
Filterセクションの左側はエンベロープでここのamtを0%にすることで、フィルターエンベロープが無効になります。
カットオフのfreqの80%にして、Supersawの音としては完成です。
後はエフェクターで味付けをします。
ChorusをClassicにして、mixを30%くらいにして、音の広がりを強調します。
DelayはPing-pongディレイにして、volを40%、fb(Feedback)を70%にします。これによりリズム感が強調されます。
ReverbをClassicにしてvolを40%にします。これにより残響音に滑らかさが加わります。
最後にCompをWarmingにしてmixを40%にして、音を前に出します。
さらに音にしたい場合は、Distortionにしても良いかと思います。
せっかくなので、Sawベースも作ってみます。
Defaultで初期化して、phaseを0%、pitchを -2400cents、Filterセクションののamtを0%、freqを30%くらいにすれば完成です。
Psytranceの場合は細かいフレーズとなり歯切れを良くしたいので、decを460msあたりにしておくと良いです。
音を歪ませたい場合はCompからDistortionをかけたり、Unisonを3くらいにしてみても良いと思います。
Supersawで動かすと面白いパラメータ
HarmlessのSupersawで動かすと面白いパラメータを紹介します。
まずは Timbre です。基本的に下に行くほど明るい音になります。
特に Double saw や Triple saw を選ぶとかなり明るい音になります。
次にpluck。これを動かすと名前の通り Pluck の短い音になります。
こういったお手軽にPluckを作れる pluckパラメータがあるのが Harmless の魅力の1つです。
カットオフの freq。Low passからフィルターを開いていく展開に使えます。
そして Harmoniserセクション。
Harmlessならでは倍音を制御するエフェクトです。
ここの amt を増やしていくと倍音が加算され、キラキラした音になります。
widthを増やすとさらに明るい音になりますね。
おすすめSupersawのプリセット
後はFactoryプリセットを色々試しながら良い音を探していくことになると思います。
個人的におすすめのSupersawプリセットは以下のものになります。
場所 |
プリセット名 |
X Nucleon > Lead |
90 Supersaw |
Superpluck |
X Olbaid > Lead |
Lead Clean Supersaw |
Lead Supersaw 1 |
Lead Supersaw 2 |
さらにバリエーションを増やすため、他のプリセットをSupersawっぽくする改造のポイントを説明したいと思います。
FactoryプリセットをSupersawに改造する方法
Presetを右クリックして
ブラウザにHarmlessのプリセットを表示します。
そうしたら、Harmlessのプリセットの階層を下にたどっていき、"X Olbaid > Lead > Lead Arcade" を選びます。
Presetを左クリックして選んでも良いです。
するとプリセットが読み込まれますが、どことなくピッチの外れた音になります。これはポルタメントが有効になっているからで、Pitchセクションにある "Time" を短くしたり、porta, legate のチェックを外してポルタメント/レガートを無効にします。
次に Unison から order を "7" 以上に増やして音を増やし、pitchを50〜70%、phaseを100%にすると、Supersaw特有の音の広がりが得られます。
さらに Timbreのところにある phaseを "100% spectral random" にするとさらに音の広がりが得られます。
またFilterセクションから amt を 0% にします。これをしないとカットオフである "freq" の値を変化してもLow passの効果が得られないためです。
後は好みでエフェクターを調整します。Delayのfb(Feedback)を大きめにするのが個人的には好みです。
それ以外のSupersaw改造術
以下のページの後半で、それ以外のプリセットをSupersawに改造する方法を紹介しています。
作成したプロジェクト
もっとHarmlessを使いこなしたい
このページで紹介できなかった機能 (倍音の操作やPhaser、LFOなど) は以下のページで学ぶことができます。
公式のマニュアルにあるチュートリアルを翻訳して、実際に試してみた結果をまとめています。
動画
このページの内容を動画にしたものです。
最終更新:2024年06月12日 07:49