六月のやわらかい服を着て > 6

シングル曲の二曲を録り終えた僕らの頭は、アルバムに移っていた。物事をやり終えた後はそれなりのブレイクとブリッジが現れるが、通過点のなかの作業であるため、いつの間にかそんなことも忘れてレコーディングに没頭した。「野いちごがゆれるように」そして次の日には「HANG UP THE PHONE」「WHY」と立て続けに歌入れは進んだ。
デビューの頃は、リード・ヴォーカルを入れ終わった段階で80パーセントぐらい進んだ意識があったが、今は50パーセントぐらいのものでしかない。バッキング・コーラスやカウンター・メロディの比重がとても大きいからである。カウンター・メロディとは主旋律のメロディに横から絡んでくるメロディのことであり、バッキング・コーラスの意識とは少し違うところにある。基本的に僕らだけでバッキングをやるため、費やす時間はリード・ヴォーカルの十倍程になることも、最近では珍しくない。
今日は日曜日である。ロンドンでは、まず日曜日には仕事をしない。しかしエンジニアのノエルやローリーは今日も付き合ってくれた。前回、メイフェアー・スタジオで作業をしたときも、当時アシスタントエンジニアのリー・カールが曜日を無視して付き合ってくれた。その後、ソロ・アルバム『SCENE Ⅱ』のエンジニアとして日本に迎えた。
いろいろな習慣の違いを覚悟していたが、言葉や目の色が違う以外は、気持ちの流れ方や仕事に対する姿勢など、僕らのものとなんら違いはなかった。
「日曜日にアリガトな、ノエル」
言葉の意味に少し戸惑ったらしく、眉をクイッと上に伸ばしながら僕を見た。
「ロンドンでは日曜日に仕事しないだろう?」
慌てて意味に気がついたノエルはとんがり顎を突き出しながら微笑んだ。
「楽しい仕事はいくらでもやるよ。いい曲と、いいスタッフと……、最高に楽しいよ」
こちらこそという気持ちで一杯になった。

そういえば、日曜日の町並みは、前回のロンドンの印象と少しばかり違って感じていた。
日曜日に開店しているショップは、ジューイッシュ(ユダヤ)の多い街であったり、特別なメイン・ストリートであったり、そんな所であったが、今回はどの道を通っても結構な数の店が営業している。
イギリスには商店に限って「日曜日には働いてはいけない」という法律があり、少なくとも三年前には商店のほとんどがそれを守っていた。日曜に働いていいのは土産屋として国に登録している観光客相手の店であり、それを守らない店にはペナルティとして罰金が科せられることになっている。そのため日曜日の街は閑散としていた。しかし、ここ一、二年は休みに行き場のない市民と、折からの不況で日曜日にも営業したいと思った店との精神的、物理的バランスがうまくとれた状況が最近の日曜日を作りつつあるらしい。
そうした結果、行き場のできた市民はそこに集まり休みを楽しむ。店は罰金を払ったとしても、それを上回る利用客が訪れるので問題がないというわけである。
ジューイッシュは土曜日がホリデイであるため、当然のように日曜日はオープンしている。
イギリス人の「日曜日は働かない」という文化が少しずつ変わりつつある。それはイギリスに在住する日本人の影響も少なくないらしい。「必要であれば仕事に曜日は関係ない」と思わせる経済発展大国。その日本のスタイルにいつかは傾くのではないかと思わせる。

翌日、アビーロード・スタジオでシングルのマスタリングが行われた。マスタリングというのは、ミックス・ダウンで揃えた音をさらに細かく、いわば周波数的に調整する作業である。音の凸凹を聴きやすい状態にしてくれる。最近はデジタル・マスタリング技術が発達しており、おおよそつながらないであろうと思われる場所と場所を容易につなげてくれる。
今や音楽に携わる機器の発達はめざましく、頭のなかでSF的に思いつく事柄は殆ど現実の形になって出て来る。
シンセサイザーの進化などは、日進月歩という言葉をつい使ってしまうくらいカッコイイ。いま皆さんが気持ちよく聴いてる音楽のストリングス(ヴァイオリンやチェロなどの団体)やブラス関係の90パーセントはシンセサイザー、つまりサンプル音源と呼ばれ、キーボードで表現されてる音であると思ってくれて間違いない。

アビーロード・スタジオはロンドン市内から少しだけ北に上がった所にある。あまりにもビートルズで有名なスタジオであるために、スタジオを囲む外の白塗りの塀には、訪れた観光客の落書きで常にいっぱいである。ビートルズ・フリークのチャゲとナベさんは、盛んに「音楽やっててよかった」を連発しながらスタジオの探検に忙しかった。
スタジオのブースに入っては「こ、こ、ここは『Let it be』のあのフィルムのスタジオだ」と感慨深い顔になったり、いきなり椅子に腰掛けて「あーこの椅子にあのプロデューサーのジョージ・マーティンが座ったんだな」とくるくる回ってみたり、ヴィデオを撮ってなかったのが残念である。これは是非皆さんにお見せしたかった。
僕はそれほどビートルズ世代ではないので、「あーそうなのか」という程度であったが、確かにビートルズの音楽で青春時代を育った人にとっては何とも夢の場所であることは確かなようである。
レセプションを通り過ぎて、ただの間仕切りのようなドアを開けた右側に階段がある。
その階段を降りると、レストランがあり、しばしビートルズ談義で盛り上がった。三十分くらいして美保ちゃんが僕らを呼びに来た。
「ここにいたんですか。『no no darlin'』の録り込みが終わりましたから山里さんが来てくれって言ってましたよ」
「なんだ、アビーロードに来てまで仕事か」
チャゲがぶつぶつ言いながら、レジの女性に手を振りながら出て行く。
「あいつ、今日はスタジオ見学だと思ってるからね」
僕らも笑いながら、後をつづくようにレストランを出た。そして階段を上がろうとすると、その直線上にとても古い何かが見えた。ナベさんと顔を見合わせる。
「なんだろう、あれ」
「なんか、すっげぇ古くない?」
「行ってみましょうか」
「怒られないかな?」
ナベさんとフジと僕の三人で会話をしてる姿を階段の踊り場から見ていたチャゲが、慌ててそれに加わった。
「あれ、なんかビートルズに関係ないかな」
チャゲが言う。
「俺たちも今、そう思ってんだわ」
「行こうか」
「ちょ、ちょっと待ってください。スタジオのマネージャーが一緒じゃないですからね」
ここはコーディネーターとしての責任のあるフジが冷静になる。
「まっ、そうだけどね……」
こんどあナベさんがリアルキャストの専務、そしてチーフ・マネージャーとしての渡辺になりかける。しかし、心のなかではナベさんの「そうだけどね……」の「……」の先にある言葉で全員が一致していた。
「行っちゃおうか」
チャゲが誘いかける。
「そうだね。悪いことする訳じゃないもんな」
犯罪とはこういう気持ちの流れで行われるものではないだろうか。
「触んなければ大丈夫だよね」
ナベさんが言う。言葉はあくまでも問いかけで終わっている。言いきってない分、犯罪の中心人物にはならない。
「怒られたらどうします?」
フジが聞く。
「とにかく最後まで日本語で通そうぜ。相手は呆れて嫌になるって」
チャゲはもうどうしてもそこに行きたいという気持ちを露骨に出し始めた。
「そうだね。行ってみようか」
「行ってみようよ」
「行っちゃえ、行っちゃえ!」
心のなかにせき止められてた水が一気に溢れ出したような瞬間であった。

そこには思った通り、古いテープ・レコーダーが二台並べられていた。ちょうど腰のあたりまでの高さである。今はもう何も喋ることはないという顔をしながら、狭い廊下の壁に邪魔にならないように立っていた。ちょうど今のパソコンと呼ばれるコンピュータと四畳半の部屋の大きさくらいあった昔のコンピュータの比較に似て、少ないチャンネル数にもかかわらず大きな体と重量を感じさせるものであった。
「これ、1、2、……4チャンだよ!」
ナベさんが声を上げる。
「……ということは……」
「ビートルズだ!」
あとは皆「すごい、すごい」を連発しながら、ベタベタと触りっぱなしであった。
「これ、邪魔なんだろうな」
「きっとそうだよ。でもビートルズが使ったやつだから、処分できないんだよ」
「これ、ビートルズ記念館が出来るまでここで保管してんだ」
さすがチャゲ、よく知ってるもんだと思う。
「記念館?」
ナベさんが驚く。
「誰が言ったんだよ?」
小学校のときにやったイジメのトーンで僕が聞く。
「いや、できるんじゃないかって今思っただけよ。バカ野郎責めるなよ」
それでもみんな好き勝手なことを言い合いながら気分はハイにあっていた。

お昼の一時過ぎにマスタリングを終え、帰りはフジとゴーちゃん、チャゲと中野、そしてナベさんと美保ちゃんと僕という三台の車に分かれスタジオに向かった。チャゲの歌入れの日である。
「ナベさん、ハラ空かない?」
「そういや食べてないね」
「美保ちゃんは?」
「ええ。けっこう……」
途中ケンタッキーに寄り、人数分買い込んでスタジオに向かった。ケンタッキーのフライドチキンとは不思議なもので、無性に食べたくなる時がある。聞けばイギリスのケンタッキーは世界一美味しいらしい。かなりロス・タイムがあったので、皆スタジオのレストランで食事を始めているんじゃないかと少し不安になったが、少々食べてもフライドチキンなら食べられるだろうということになり、スタジオに電話はいれなかった。
スタジオに着くと、ゴーちゃんフジ組が先に着いており、
「おそいっ!」
ソファでドッカと腕組みをしていた。
「ごめん、ごめん。昼飯まだだろうということになってさ、ケンタッキーに寄ってたらけっこう時間くっちゃった」
「なんだそっかあ」
とたんに機嫌のなおったゴーちゃんフジ組、そして、
「あれっ、チャゲたちは?」
「あいつらもまだなんだ」
「ゲッ、ケンタッキーに寄ってたりして」
「困ったな、スタジオがフライドチキンだらけになるな」
とりあえず待とうということになり、彼らが着くのを待った。
十五分ほど待ち、そしていつのまにか三十分が経った。すでにスタジオのリビングがフライドチキンの匂いで充満していた。
「冷めちゃったね」
僕は冷たくなったそれを眺め、冷たくなってからのパサパサの味を想像した。
「もう食べようか」
「でもここまで待ったしさ、もう少し待とうか。すぐ来るよ」
僕らの店でのロス・タイムを入れると、もうすでに一時間ほど経っていた。
「なんか事故かな」
ナベさんがジョークのトーンで少しだけシリアスに言う。
「そういえば、あの車よく止まりますからね。信号なんかでアタフタしてるときにぶつけられてないですかね」
フジが心配そうに言う。確かに車の調子が悪く、レンタカー屋に別の車を頼んでいた矢先だっただけに、想像が走った。
「なんかあったら電話ぐらいするだろう」
ゴーちゃんがその場の空気を変えるように言う。
「まっ、そうだね」
その瞬間ドアが開いて、チャゲたちが入って来た。
「おう、遅かったな」
「スマン、スマン。ハラ空いたもんでさ、途中でハンバーガー食って来た」
「ハン……バー……ガー……」
「そう、ハンバーガー。イヤー食い過ぎた。アー、胸がおかしい。さっ、やろうか」
ムッとした。中野がその情景と立たされた立場にいち早く気づく。
「アッ、すみません。待ってていただいてましたか」
「おう」
低いトーンで答える。
「何を? なんか臭いなこの部屋」
まだ気づいてない奴がいる。そしてテーブルの上に並べられたケンタッキーの袋に気がついた。
「ケンタッキーか。なんだ、まだ食ってないんだ? OK、待つよ、ゆっくり食べてな」
物分かりのいい教師のような顔で皆を眺めている。
「チャゲ」
「あん?」
「今日は徹底的に、ヴォーカル入れやっからな」
我慢できずに言った。あの日のクリスマスを思い出した。

イヴの夜だった。つい騒ぎすぎて時間を忘れてしまい、夜中の一時を過ぎてしまった。すでにチャゲはできあがっている。東京のクリスマスの夜はタクシーがつかまらない。外に出るとタクシーのつかまらない人達でいっぱいだった。僕らのテーブルには日頃から仲のいい女の娘たちもいたし、ここはなんとか頑張らねばと思い、二時間ほど手分けして走り回り、やっと一台のタクシーを拾った。
「すみません、地下のパブに女の娘待たせてありますから、一、二分待っててください」
足早に階段を駆け降り、テーブルで待機していた仲間に告げた。
「やっと、つかまえたよ。とりあえず一台しかないから、家の近い順に乗って何度もピストン輸送してもらおう」
隣のテーブルの若者に「そんじゃ、お先に」と告げ、上にあがった。
しかし外に出るとタクシーがいない。少し遅れたといっても、三分はかかっていない。
「アスカさん、タクシー何処ですか」
女の娘があたりを見回しながら聞く。
「ここで待っててくれるようにたのんだんだけど……」
丁度、店の従業員が客を送りに外に出てたので聞いてみた。
「ここにいたタクシー知らない?」
「たった今、チャゲさんが乗って帰られましたよ」
「ええっ! ひとりで?」
「はい、元気にお帰りになりました」
みんな泣きそうになった。二時間である。二時間捜し回って、やっと見つけた車である。その時言った台詞が、
「わかった、言ってやる。明日徹底的に言ってやる」
そんなことを、もう冷めてしまったフライドチキンの前で思い出してしまった。
本人に悪気はない。もうこれはヴォーカル入れにぶつけるしかない。心のなかでもう一度つぶやいた。(徹底的にヴォーカル入れやってやる)。
それからみんなハラを空かしていただけあって、一気にたいらげた。
そうして笑顔で言った。
「さっ、チャゲちゃん徹底的に歌おうか」

歌入れが始まって、もう四時間が過ぎようとしているが一行も録れていない。
「大丈夫かチャゲ?」
「ああ? うん」
「またすごくフラットしてるから、ちょっと休もう」
先程の「徹底的」はどこかに消えてしまった。シングルの時は時差のせいだと決めつけることによって精神的に解決をしたのだが、今回はもう理由がない。運動選手によくあるスランプというやつである。音程の定まらない自分に腹が立ってくるのか、歌が丁寧じゃなくなる。前回と同じである。丁寧に歌うとリズムが悪くなる。リズムを気にするとピッチがフラットする。
結局、夜十一時近くになって全てのラインを録り終えたが、無事に歌ったというだけで、本人を含み納得できるテイクではない。翌日最初からやることにした。
思えば『SEE YA』のアルバムの時の僕がそうだった。すこぶるいい状態でレコーディングは進んでいたのだが、突然壊れたといっていいくらい歌えなくなった。ピッチに信頼がもてなくなった。なにか違うキイで歌ってるような気がし始めた。曲は「ゼロの向こうのGOOD LUCK」だった。一度不安が生じると既に録音されてるひとつひとつの楽器にまで疑いをかけてしまう。大事なことは、気持ちよく歌うということであった。
気持ちよく歌えなくなってからは、時間との勝負であった。コントロール・ルームにはハーモニー待機のチャゲがいる。自分が時間をかけるということは、チャゲの最も調子のいい時間帯をどんどん逃してしまっていくということである。気は焦る。焦ると歌に集中出来なくなる。丁寧に歌うと歌がつまんなくなる。やっとの思いで録り終えたのは朝方だった。あのときはアルバム発売まで全く余裕がなかったので、とにかく詰め込んでの作業であったが、今回は少しだけ時間があった。そのため調子が戻るのを待とうという懐の深いレコーディングをすることが出来ている。
しかし、それも当然アルバムに割り当てるつもりだった時間がシングルに費やされたために、少しずつ余裕が潰されてきている。その状態を誰よりも一番よく知っているのはチャゲ自身であった。

翌日「if」のリメイクと「クリスマスソング」のリズムを録った。
「if」はとてもさりげないアレンジになっていた。十日ほど前に一度プリプロ・アレンジを終えたジェスが、歌入れをしてるスタジオにテープを持って来た。アレンジの発注はイントロから転調を感じたいということを大前提にしていた。
イントロは確かに転調してあったが、イメージと大幅にずれていて、なんとマイナー・コードからスタートしていた。自信満々のジェスにどう説明しようかと考えた。
「よくできてるよジェス」
「サンキュー」
「ひとつ問題があるんだけど……」
「OK、何だい?」
「頭のマイナーが気になるな」
「ああ、あそこは言われた通り転調のところで、1コーラスの頭で一気に明るくなるんだ」
「でも間奏でまたマイナーに入ってる」
「それが?」
ここは非常に難しい。相手が自信を持って作ってきたその感性を、言葉はどうあれ今から否定しようとしている。
ジェスの顔がくもる。
「音楽的にはとってもスマート感あるし、未発表の楽曲だったらこれでいいと思うんだ」
じっと聞いている。あまりいい空気の流れではない。
「これはすでに発表した曲だからね」
「でもアスカと僕だよ。違うものをやらなきゃ」
もっともである。
話は平行線に入った。これまではトライということもあり、随分ジェスに譲ったが、ここでは引けなかった。聴く人に僕とジェスの作品を疑われるようなことはしたくなかった。
言葉のトーンをおとして語り掛けるような喋り方になった。
「ジェス、この曲はすでに日本で百万枚を突破してるんだ」
「知ってるよ」
「少なくとも、百万人は前のアレンジで慣れてる」
「でもアスカは違うパターンのアレンジを望んだよ」
「もちろん。でもマイナー色が強すぎると違和感がある」
エンジニアのノエルがじっと見ている。おそらくスタジオのなかでジェスと僕の意見に食い違いを見たのは初めてであろう。実際初めてだった。
「アスカ、僕らは新しいアルバムを作ってるんだよ。アルバムの色を統一することを考えなきゃ。前のにかかわってちゃ、リメイクの意味がないよ」
理論はとてもシャープである。
「でもね、アルバムはやっぱり一曲、一曲の集まりだから。一曲でも違和感をもたれるのは嫌なんだ。特に前のアレンジの方がよかったと印象付けるとますます意味がない」
しばし、ジェスは黙っていたが、
「OK、アスカの曲だから、アスカが嫌いなことやっても僕の方こそ嫌だからね。とりあえずイントロと間奏は前の雰囲気に戻すよ」
「サンキュー、ジェス。この漂う感じは残したいから、ガット・ギターをのせようよ。二回目の間奏は、フルートとかピッコロとかどう?」
「OK、やってみるよ」
今目の前で流れている「if」は日本で十川知司と共に作った全体的なコード・ワークの上に、ジェスの感性が乗っかったようなアレンジになり、シンプルだけどとても印象強いものになっている。
「最高に気持ちいいよジェス」
「サンキュー」
そして二曲めは「クリスマスソング」のプリプロであった。これは最初から世界も決まっていたし何のズレもなく温かいものになっていた。
その夜朝までかかって、ベースのマークとドラムのニール、ジェスのピアノでリズム・トラックを録り終えた。

チャゲの調子のいいときを見計らってのレコーディングがつづいた。喉の調子の悪いときは詞を書く。詞が上がれば歌う。精神的な余裕を与えながらのレコーディングである。
いつも何かきっかけひとつで簡単に抜け出す。そんなレコーディングをつづけた。
アルバムの尻尾がもうすぐ見えてくる。そんな気がしたのは八月の終わりだった。
最終更新:2025年08月17日 21:01