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衛兵の交代【プップップッのプー】

音楽業界には言葉を逆さにして使う伝統的な風潮がある。例えば「コーヒー」なら「ヒーコー」「ホテル」なら「テルホ」という具合。また、「毛」などの一文字の場合は母音を伸ばして「えーけ」と言う。これらを業界用語と言っているが、現在は古い業界の人たちが好んで使っているだけであって、若いミュージシャンはあまり使わない。もちろんCHAGEもASKAも滅多に使わない。
ただ、ひとつだけCHAGEが好んで使う言葉がある。それが「衛兵の交代」。
あれは『GUYS』のレコーディングでロンドンに長く滞在していたときだった。過酷なレコーディングで心身ともに極限にきていたCHAGEは、気分転換にロンドン市内を車でウロついていた。そんなとき通ったのがバッキンガム宮殿。バッキンガム宮殿と言えば衛兵の交代が有名である。CHAGEの脳が「衛兵の交代」をすかさずキャッチした。
衛兵、えいへい、えーへ。えーへと言えば業界用語で屁の意味。
「すげーっ、バッキンガム宮殿では屁を交代しているのか。プップップッのプーッ、はい、次はきみの番だよなんてやっちゃって、毎日えーへを交代し合っているんだなあ」
これを聞いたスタッフが、しばし言葉を失ったことは言うまでもない。
以来、「えーへの交代」はCHAGEの日常語となり、今回のステージでも披露していたことはみなさんよくご存じのはずである。

永ちゃん【ロックの神様・矢沢永吉さん】

CHAGEやASKAの高校時代は、アコースティックギターを弾く奴は井上陽水、吉田拓郎など、エレキギターを弾く奴はディープ・パープル、サンタナなど、それぞれのジャンルでコピーするミュージシャンの相場が決まっていた。
しかし、ロックは洋楽しかないと思っていたエレキ派の前に、彗星の如く登場したのが和製ロックグループのキャロル。キャロルと言えば『ファンキーモンキーベイビー』よろしくー、キャロルと言えば矢沢永吉こと永ちゃんよろしくー、である。
キャロルのサウンドにしびれたエレキ派は音楽だけにとどまらず、ルックスまでキャロルをコピーして、町はキャロルもどきのいかれた野郎どもに占拠された。
ASKAはそんな奴らが大嫌いだった。「永ちゃんがよー」なんて、永ちゃんの話をする奴がバカに見えて仕方なく、アコースティックギターでせつなく歌をうたっていく自分の姿勢を決して崩そうとはしなかった。でも、長く歌を続けていくほどに、今度は永ちゃんではなく、矢沢永吉という人の作った作品に興味を抱きはじめたASKA。やがて彼の歌を聴きながら、エレキで弾こうが、フォークで弾こうが、伝わるせつなさは同じであることを知った。
今では、40代になってなお若者を魅了している矢沢永吉さんのステージを、ぜひ見てみたいと思っている。たまたまC&Aのブラスセクション全員が永ちゃんのメンバーだし、彼のステージを見るチャンスもそう遠いことではないと思っている。

エッチ【いや~ん、エッチ】

──CHAGEさんとASKAさん、どっちがエッチですか? という質問がきてます。
C ああ、そう。
──どっちがエッチですか?
C 聞いてどうすんだよ。
──さっ、さあ…。
C だから聞いてどうすんだよ。例えばASKAのほうがエッチですよと言ったら、ASKAのほうに興味が湧くのかよ。ASKAがもっと好きになるのかよ。えっ、どうなんだよ。
以上、ひとことQでボツになった質問のときのやりとりでした。
ちなみにCHAGEは、スケベとエッチならばエッチと言われたほうがポップでいいと思っている。ASKAはどっちの言葉も好きではないが、以前東南アジアの町を歩いていたときに、現地の女性から片言の日本語で「お兄さん、スケベしない?」と言われ、ものすごいショックを受けたことがある。スケベという日本語を広めたのは、まぎれもなく日本人である。こんな恥ずかしい言葉を蔓延させた日本人に怒りを感じるとともに、ASKAはスケベという言葉が大嫌いになった。だから、ASKAもCHAGE同様にスケベよりはエッチと言われたほうがいいと思っている。

えもんかけ【嫌いな言葉】

洋服を吊るすそれはハンガー。ハンガーアップザホン。失礼しました。
ハンガーはえもんかけとも言う。昔の人はそう言っていた。でも、今の人でもときどき使う人がいる。「ちょっと、そのえもんかけ取ってくれる?」。この言葉を聞くと、一気にマイナーな気分になるのがASKA。
高校の剣道部員時代。先輩の胴着をハンガーにかけて干すのが後輩の務めであったが、部員同士ではなぜかえもんかけという言い方が当たり前になっていて、えもんかけという言葉が部室では飛び交っていた。ASKAは子どもの頃からえもんかけはハンガーとして育っていたから、えもんかけという言葉に馴染めず、いつもイヤな思いをしていた。
「どこがどう嫌いって言われても困るんだけど、なんかその響きがすごくイヤだった」
ASKAにとってのえもんかけは剣道部時代に生まれた抹殺したい言葉のひとつなのである。

エマニエル夫人【青春の思い出】

アダルトビデオの普及で、今でこそたやすく女性の神秘に触れることができる時代になったが、CHAGEやASKAの学生時代はなかなか女性を探究できるチャンスがなかった。女性の神秘は「成人映画」や「ブルーフィルム」を見なければならず、今いち度胸のないASKAは、度胸のある友人の観賞談を聞くしかなかった。
そんなとき、いきなりヨーロッパからやってきた映画が『エマニエル夫人』である。主演のシルビア・クリステルが妖艶な美しさを放ち、日本全国大ヒットとなった。全国の少年が知りたかった女性の神秘はもちろん、いろんなことを教えてくれる内容であるにも係わらず、この映画は成人指定がなく、未成年でも堂々と入場できる映画であった。クラスの中の観賞率もどんどん増え、ああだったこうだったと見た感想を聞いては「すごいな」と頬を染めていたASKA。そのたびに、おれも見に行こうと思うのであるが、やっぱり度胸がなくて結局見ることができなかった。
大人になってからテレビで上映された『エマニエル夫人』を見ることになるのだが、大人でもドキッとするほど刺激は十分のこの映画。高校生の頃に見ていたら卒倒していたに違いないと思った。
一方、ASKAより度胸のあったCHAGEは、なにを思ったか彼女との初デートにこの映画を選択。「映像がきれいね」などと平静を装っていた彼女に、不埒な気持ちを抱いたいけないCHAGEであった。ちなみに彼女とは卒業と同時に別れた。
余談だが、『エマニエル夫人』の舞台はシンガポールのラッフルズホテルである。今回のC&A百科取材中にそのことを知ったCHAGEとASKAは、去年、自分たちが宿泊したラッフルズホテルを思い浮かべ、しばし絶句をしていたのであった。

宴会【CHAGEの愛する言葉】

CHAGEは宴会が好きである。愛する芋焼酎かなんかをカーッと飲んで、「無礼講ー!」とかなんとか叫んで心からバカ笑いができる。去年のリアルキャストの社員旅行では、女子社員が浴衣を着ずに現れたことを今でも怒っていて、今度は絶対に宴会で浴衣を着ろよ!と女子社員を脅して宴会へのこだわりを見せているが、それくらいCHAGEは宴会が好きなんである。

煙突【MILKY WAY BLUES】

CHAGEは煙突が立ち並ぶ工業地帯で育った。香港の夜景、ニューヨークの夜景、熱海の夜景…。世界各地に夜景の名所は数々あれど、子どもの頃に見た北九州工業地帯の夜景にかないものはないと思っている。
鉄冷えで工場がどんどん閉鎖され、大人になって戻ってきたときは、すでに当時の面影はなく悲しい思いをしたものだが、あの夜景はCHAGEの中にしっかりと生きている。そう、MULTI MAXのアルバム『STILL』に収録されている『MILKY WAY BLUES』の中に、CHAGEが見て育った工場地帯の夜景が、色濃く刻まれているのであった。
「今でも煙突を見ると胸がキュンとします。エントツ・アチャコ。あっ、それはエンタツ・アチャコかー。すいませんでした」

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百科 1994年
最終更新:2025年06月23日 22:14