560 名前:SS@ハチ公[] 投稿日:2008/03/11(火) 00:00:59.18 ID:6zIckMAO
~忠幼女ハチ~42
~忠幼女ハチ~42
「……ハチどうしたんですか」
「…………風邪だよ。だが……」
「だが……?」
聞き返したが、白衣を着た老医師は何も答えず目を閉じていた……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は倒れたハチをすぐに病院に連れていくことにした。
幸いな事にお屋敷のある住宅街の側には、幼女科のあるそれなりに大きい病院があるのだ。
「…ぁ…う…さま…」
ハチを担ぎ上げると、彼女は何か譫言を言っていた。
「すげぇ熱…!ハチ!しっかりしろ!すぐに病院に着くからな!!」
「……さん…ごめ…な……い…」
「喋らなくていい!無理をするな!」
このやり取りを最後にハチは完全に意識を失った。
病院に着くと軽い診察の後、直ぐにハチは連れていかれてしまった。
そして、俺はこの老医師からハチの容態の説明を受けようとしているのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一度大きく息を吐くと、ゆっくりと老医師は口を開いた。
「君は…幼女という生き物についてどこまで知っているのかね?」
「まってくれ!俺はハチはどうしたんだって聞いてるんだ!!」
回りくどい質問に俺は思わず立ち上がって激昂する。
「落ち着きなさい。これは重要な質問だ。もう一度聞くよ。君は幼女についてどこまで知っている?」
老医師に諭され、仕方なく座り直す。この医師相手に叫んでもしかたないのは分かっている…。
「……幼女は十年ほど前に開発された愛玩及び飼い主の補助を目的の近人類型遺伝子保持生物…でしたっけ」
ちなみに幼男は幼女の後に開発された雄個体だ。
「その通り。一昔前の犬のような立場だね。他には?」
「ん…人語を解し、操れることに加えその愛くるしい容姿から人気が爆発。YONYを始めとした大企業の参入により一気に世間に普及した…。こんなところです、俺が知ってるのは…」
「そうか…まぁ一般に知られてるのはそれくらいだね。じゃあ…幼女の生態については?」
「…ほとんど知りません。人間に非常に近いってことくらいしか…」
生態も何も…俺は幼女は少し外見の違う人間と考えていた。
「それは少し違うね。確かに幼女は大変人間に近い生き物だ。稀なケースだが、人と幼女の間に子供が出来ることも確認されている」
「そうなんですか?」
幼女を性欲処理のはけ口にしてる奴らは多いがそんなことは初耳だ。
「…………風邪だよ。だが……」
「だが……?」
聞き返したが、白衣を着た老医師は何も答えず目を閉じていた……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は倒れたハチをすぐに病院に連れていくことにした。
幸いな事にお屋敷のある住宅街の側には、幼女科のあるそれなりに大きい病院があるのだ。
「…ぁ…う…さま…」
ハチを担ぎ上げると、彼女は何か譫言を言っていた。
「すげぇ熱…!ハチ!しっかりしろ!すぐに病院に着くからな!!」
「……さん…ごめ…な……い…」
「喋らなくていい!無理をするな!」
このやり取りを最後にハチは完全に意識を失った。
病院に着くと軽い診察の後、直ぐにハチは連れていかれてしまった。
そして、俺はこの老医師からハチの容態の説明を受けようとしているのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一度大きく息を吐くと、ゆっくりと老医師は口を開いた。
「君は…幼女という生き物についてどこまで知っているのかね?」
「まってくれ!俺はハチはどうしたんだって聞いてるんだ!!」
回りくどい質問に俺は思わず立ち上がって激昂する。
「落ち着きなさい。これは重要な質問だ。もう一度聞くよ。君は幼女についてどこまで知っている?」
老医師に諭され、仕方なく座り直す。この医師相手に叫んでもしかたないのは分かっている…。
「……幼女は十年ほど前に開発された愛玩及び飼い主の補助を目的の近人類型遺伝子保持生物…でしたっけ」
ちなみに幼男は幼女の後に開発された雄個体だ。
「その通り。一昔前の犬のような立場だね。他には?」
「ん…人語を解し、操れることに加えその愛くるしい容姿から人気が爆発。YONYを始めとした大企業の参入により一気に世間に普及した…。こんなところです、俺が知ってるのは…」
「そうか…まぁ一般に知られてるのはそれくらいだね。じゃあ…幼女の生態については?」
「…ほとんど知りません。人間に非常に近いってことくらいしか…」
生態も何も…俺は幼女は少し外見の違う人間と考えていた。
「それは少し違うね。確かに幼女は大変人間に近い生き物だ。稀なケースだが、人と幼女の間に子供が出来ることも確認されている」
「そうなんですか?」
幼女を性欲処理のはけ口にしてる奴らは多いがそんなことは初耳だ。
561 名前:SS@ハチ公[] 投稿日:2008/03/11(火) 00:01:12.89 ID:6zIckMAO
~忠幼女ハチ~43
~忠幼女ハチ~43
「幼女にいろいろと特殊な手を施した上で、だからね。さて、幼女と人間の最大の違いは何か解るかな?」
「幼女と人間の違い?」
なんだろう。考えた事もなかった…。
「読んで字の如くさ。“幼女”は人間より早く、成長が止まる」
「あ…そうか」
考えてみれば当たり前だ。それが“幼女”のウリなのだから。
「でも、それが一体…?」
「幼女の年齢は外見ではほとんどわからない。少なくとも一般人にはね」
「???」
この老医師は何が言いたいんだ?
俺が混乱していると医師は再び口を開いた。
「……少し、君の幼女…ハチ君だったか。彼女について聞かせて貰うよ」
「…!はい。あ、でもハチは俺の幼女ではないんです。俺は幼女を飼った事はないし…あいつの“ご主人さま”はもう…」
「なるほど…なら解らないのも無理はない、か」
「すみません…」
「いや、いいんだ。まずは質問に答えてくれたまえ」
「はい」
ゴホン、と老医師は咳ばらいをした。
「ハチ君はよく転ばないかい?」
「え…あ、はい…。よく…転びます」
思わぬ質問だった。転ぶのはハチの“性質”じゃないのか?
「ふむ…では次。ハチ君の前髪の白髪は元からかい?」
「いえ…違うと思います。前に聞いたら白髪に気付いて驚いてましたから」
「最後の質問だよ。ハチ君は…何歳だい?」
「七歳以上…なのは確実です」
飛行機事故。ハチのご主人さまを奪い、彼女の足枷となっている事件。ハチは七年も“同じ日”を繰り返しているのだ…。
「そうか…やはりな」
老医師はカルテになにか書き込むとこちらに向き直った。
「ハチ君は…ただの風邪じゃない」
「風邪じゃ…ない?」
うむ、と老医師は頷く。
「倒れたのは風邪だけが原因じゃない。もう一つの原因、それは……」
そして、彼は決定的な一言を告げた。それは――。
「幼女と人間の違い?」
なんだろう。考えた事もなかった…。
「読んで字の如くさ。“幼女”は人間より早く、成長が止まる」
「あ…そうか」
考えてみれば当たり前だ。それが“幼女”のウリなのだから。
「でも、それが一体…?」
「幼女の年齢は外見ではほとんどわからない。少なくとも一般人にはね」
「???」
この老医師は何が言いたいんだ?
俺が混乱していると医師は再び口を開いた。
「……少し、君の幼女…ハチ君だったか。彼女について聞かせて貰うよ」
「…!はい。あ、でもハチは俺の幼女ではないんです。俺は幼女を飼った事はないし…あいつの“ご主人さま”はもう…」
「なるほど…なら解らないのも無理はない、か」
「すみません…」
「いや、いいんだ。まずは質問に答えてくれたまえ」
「はい」
ゴホン、と老医師は咳ばらいをした。
「ハチ君はよく転ばないかい?」
「え…あ、はい…。よく…転びます」
思わぬ質問だった。転ぶのはハチの“性質”じゃないのか?
「ふむ…では次。ハチ君の前髪の白髪は元からかい?」
「いえ…違うと思います。前に聞いたら白髪に気付いて驚いてましたから」
「最後の質問だよ。ハチ君は…何歳だい?」
「七歳以上…なのは確実です」
飛行機事故。ハチのご主人さまを奪い、彼女の足枷となっている事件。ハチは七年も“同じ日”を繰り返しているのだ…。
「そうか…やはりな」
老医師はカルテになにか書き込むとこちらに向き直った。
「ハチ君は…ただの風邪じゃない」
「風邪じゃ…ない?」
うむ、と老医師は頷く。
「倒れたのは風邪だけが原因じゃない。もう一つの原因、それは……」
そして、彼は決定的な一言を告げた。それは――。
「老衰、だよ」
563 名前:SS@ハチ公[] 投稿日:2008/03/11(火) 00:01:56.95 ID:6zIckMAO
~忠幼女ハチ~44
~忠幼女ハチ~44
「老……衰……?」
は…………?
「先程検査したところ、ハチ君の脚は老化によってひどく筋肉が減少していたよ」
待て、待て待て待て……
「それと白髪だがね。白髪は外見でわかる幼女の数少ない老化現象なんだ。そうなる前に死亡する幼女が多いから、余り知られてないがね」
何、それ?
「待ってくれ…ハチが…老衰…?あんなに小さいのに……?」
「……『幼女の年齢は外見では解らない』んだよ」
「う…うぅ…」
「そして、覚悟して聞いてくれ。ハチ君の年齢は七歳以上らしいが…」
「…………ぁぅ…」
聞きたくない…聞きたくない…
「幼女の平均寿命は四年から五年」
「ぅ、うぅう…」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…。
「ハチ君は、いつ亡くなってもおかしくない年齢なんだよ…」
「うわぁあぁぁあぁああぁ……」
何かが、ガラガラと音を立てて崩れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……落ち着いたかね」
コトリ、と老医師はコーヒーの入ったカップを俺の前に置いた。
「……はい」
「さっきはあんな風に言ったがね、ハチ君が今すぐ亡くなってしまうという訳じゃない」
「……はい」
「一週間後か一ヶ月後か…はたまた一年後か…。ともかく覚悟だけはしておいて欲しいんだ」
「……はい」
俺は…ハチに何をしてやればいいのだろう。
「さて、これからの事だがハチ君には大事をとって三日ほど入院してもらうよ」
「見舞いに来てもいいですか…?」
「あぁ、もちろんさ。ハチ君も喜ぶよ」
「……どうでしょう」
「?」
ハチは明日にはまた俺の事を忘れているだろう。
「今、ハチに会えませんか?」
「う~ん…まだ眠っているよ?」
「構いません」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハチは病室で静かに眠っていた。
俺はベッドの横の椅子に座ったり、ハチの手をとった。
「ハチ、聞いてくれ」
「…………」
「俺はハチに大切なモノをたくさん貰った。だから、俺はハチに恩返しをしたい」
「…………」
「まだ何をすればいいのか解らないけど、必ずする」
「…………」
「だから待っててくれ。やるべき事を見つけてくるから」
「…………」
「例え君に忘れられていてもいい。俺が戻るまで、待っててくれよ…」
俺はそっとハチの手を離すと、静かに病室を後にした……。
は…………?
「先程検査したところ、ハチ君の脚は老化によってひどく筋肉が減少していたよ」
待て、待て待て待て……
「それと白髪だがね。白髪は外見でわかる幼女の数少ない老化現象なんだ。そうなる前に死亡する幼女が多いから、余り知られてないがね」
何、それ?
「待ってくれ…ハチが…老衰…?あんなに小さいのに……?」
「……『幼女の年齢は外見では解らない』んだよ」
「う…うぅ…」
「そして、覚悟して聞いてくれ。ハチ君の年齢は七歳以上らしいが…」
「…………ぁぅ…」
聞きたくない…聞きたくない…
「幼女の平均寿命は四年から五年」
「ぅ、うぅう…」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…。
「ハチ君は、いつ亡くなってもおかしくない年齢なんだよ…」
「うわぁあぁぁあぁああぁ……」
何かが、ガラガラと音を立てて崩れた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……落ち着いたかね」
コトリ、と老医師はコーヒーの入ったカップを俺の前に置いた。
「……はい」
「さっきはあんな風に言ったがね、ハチ君が今すぐ亡くなってしまうという訳じゃない」
「……はい」
「一週間後か一ヶ月後か…はたまた一年後か…。ともかく覚悟だけはしておいて欲しいんだ」
「……はい」
俺は…ハチに何をしてやればいいのだろう。
「さて、これからの事だがハチ君には大事をとって三日ほど入院してもらうよ」
「見舞いに来てもいいですか…?」
「あぁ、もちろんさ。ハチ君も喜ぶよ」
「……どうでしょう」
「?」
ハチは明日にはまた俺の事を忘れているだろう。
「今、ハチに会えませんか?」
「う~ん…まだ眠っているよ?」
「構いません」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハチは病室で静かに眠っていた。
俺はベッドの横の椅子に座ったり、ハチの手をとった。
「ハチ、聞いてくれ」
「…………」
「俺はハチに大切なモノをたくさん貰った。だから、俺はハチに恩返しをしたい」
「…………」
「まだ何をすればいいのか解らないけど、必ずする」
「…………」
「だから待っててくれ。やるべき事を見つけてくるから」
「…………」
「例え君に忘れられていてもいい。俺が戻るまで、待っててくれよ…」
俺はそっとハチの手を離すと、静かに病室を後にした……。
614 名前:SS@ハチ公[] 投稿日:2008/03/12(水) 01:05:08.75 ID:JIM8EsAO
~忠幼女ハチ~45
~忠幼女ハチ~45
俺は病院から出たその足で商店街に向かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そうかい…。ハチちゃんがね…」
そう言っておばちゃんは煙草に火を付けた。
「俺は…どうすればいいんでしょう…」
解らない。ハチのために何が出来るのだろう。
「はぁ…。あんたねぇ…本当に情けない面してるよ、今」
「でしょうね。自分でも分かってますよ」
「なら、シャンとしな。うじうじしてても始まらないよ!」
おばちゃんはバシンと俺の背中を叩いた。
「…なんで」
「うん?」
「なんでおばちゃんはそんなに動じないんですか?なんでハチがあんな状態なのに平気な顔してるんですか!?」
不思議だった。
あんなにハチを可愛がっていたおばちゃんが、なぜハチが死ぬかも知れないと知って普段のままでいられるのか。
「……そりゃあねぇ、私だって悲しいさ」
フーッと煙草の煙を吐き出す。
「でもね。“死”っていうのは生きてるモノ全てに訪れるんだよ。だから、そこに辿り着くまでにどれだけの事をやれるか、っていうのが重要なのさ」
そのためにはさ、とおばちゃんは続ける。
「下を向いてちゃ何もできない。背筋をシャンと伸ばして、前を向いて進んでいかなくちゃね」
バシン、と再びおばちゃんは俺の背中を叩いた。
「だから、私らまでいじけてたらどうしようもないだろ?」
叩かれた背中がジンジンと熱かった。
「そう…ですね。ハチのために出来ることを探す。それが俺の今やるべき事です」
あっはっは!と突然おばちゃんが大声で笑った。
「……何ですか?」
「あんたがやるべき事は始めから決まってるよ」
おばちゃんは煙草を灰皿に置いた。
そして、言った。
「『ハチちゃんの止まった時間を動かしてやってくれないかい』」
「…………!」
「『このままじゃ可哀相だと思わないかい?帰って来ることのない“ご主人様”をいつまでも待ち続けるなんてさ』」
そうだ…。俺はハチの時間を動かそうとここまでやって来たんだ。
だけど、それで本当に正しいのか?
『真実を知ればハチは深く、深く傷つくだろう。今のままの方が幸福なのかもしれない…』
ハチの残り少ない時間を真実を報せて苦しめるのか?
なにも報せず偽りの平穏を過ごさせるのか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そうかい…。ハチちゃんがね…」
そう言っておばちゃんは煙草に火を付けた。
「俺は…どうすればいいんでしょう…」
解らない。ハチのために何が出来るのだろう。
「はぁ…。あんたねぇ…本当に情けない面してるよ、今」
「でしょうね。自分でも分かってますよ」
「なら、シャンとしな。うじうじしてても始まらないよ!」
おばちゃんはバシンと俺の背中を叩いた。
「…なんで」
「うん?」
「なんでおばちゃんはそんなに動じないんですか?なんでハチがあんな状態なのに平気な顔してるんですか!?」
不思議だった。
あんなにハチを可愛がっていたおばちゃんが、なぜハチが死ぬかも知れないと知って普段のままでいられるのか。
「……そりゃあねぇ、私だって悲しいさ」
フーッと煙草の煙を吐き出す。
「でもね。“死”っていうのは生きてるモノ全てに訪れるんだよ。だから、そこに辿り着くまでにどれだけの事をやれるか、っていうのが重要なのさ」
そのためにはさ、とおばちゃんは続ける。
「下を向いてちゃ何もできない。背筋をシャンと伸ばして、前を向いて進んでいかなくちゃね」
バシン、と再びおばちゃんは俺の背中を叩いた。
「だから、私らまでいじけてたらどうしようもないだろ?」
叩かれた背中がジンジンと熱かった。
「そう…ですね。ハチのために出来ることを探す。それが俺の今やるべき事です」
あっはっは!と突然おばちゃんが大声で笑った。
「……何ですか?」
「あんたがやるべき事は始めから決まってるよ」
おばちゃんは煙草を灰皿に置いた。
そして、言った。
「『ハチちゃんの止まった時間を動かしてやってくれないかい』」
「…………!」
「『このままじゃ可哀相だと思わないかい?帰って来ることのない“ご主人様”をいつまでも待ち続けるなんてさ』」
そうだ…。俺はハチの時間を動かそうとここまでやって来たんだ。
だけど、それで本当に正しいのか?
『真実を知ればハチは深く、深く傷つくだろう。今のままの方が幸福なのかもしれない…』
ハチの残り少ない時間を真実を報せて苦しめるのか?
なにも報せず偽りの平穏を過ごさせるのか?
615 名前:SS@ハチ公[] 投稿日:2008/03/12(水) 01:05:19.57 ID:JIM8EsAO
~忠幼女ハチ~46
~忠幼女ハチ~46
そんなもの…決まってる。
ハチの時間を動かすんだ。最初にそう決めたんだ!
「……俺はハチと一緒の時間を歩みたい」
これは、俺のエゴだ。どうするんだ、俺。お前の勝手でハチを苦しめるのか?
「もし、それでハチが苦しむというなら…俺はその苦しみを取り払う。そして、今以上の幸せをハチに与えてやるさ!!」
「そうかい。それがあんたの覚悟かい、お兄さん?」
おばちゃんは真っ直ぐにこちらの目を見てくる。
「そうです」
もう、迷わない。ハチの記憶を取り戻すために全力を注ぐ。
「なるほどね。最初の頃よりは随分男らしくなったじゃないか。……受け取りな」
おばちゃんが何かを放り投げてくる。
受け止めてみるとそれは2つの鍵だった。
「これは……?」
「一つはお屋敷のマスターキーだ。ハチちゃんに何かあったときは頼む、って社長さんに言われて渡されたんだよ、昔ね」
「こっちは?」
「社長さんの書斎の金庫の鍵だとさ。自分が居なくなった時、ハチちゃんを任せられる人間を見つけて渡してほしいと言われたよ」
「ハチの“ご主人さま”は自分が死ぬことを知ってたっていうんですか?」
「どうだろうねぇ…。頭のいい人だったから、全ての可能性を考慮していたんだと思うよ」
ともかく、とおばちゃんは続ける。
「お屋敷に行ってみな。きっと何か助けになるはずさ」
「ありがとうございます!」
俺はお礼を言うとすぐにお屋敷に向かって走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
“お兄さん”のみるみる小さくなっていく背中を見送りながら溜息をついた。
「これで良かったのかねぇ、社長さん?」
私は、今はもういない、息子代わりでもあり友人でもあった男の事を考えていた……。
ハチの時間を動かすんだ。最初にそう決めたんだ!
「……俺はハチと一緒の時間を歩みたい」
これは、俺のエゴだ。どうするんだ、俺。お前の勝手でハチを苦しめるのか?
「もし、それでハチが苦しむというなら…俺はその苦しみを取り払う。そして、今以上の幸せをハチに与えてやるさ!!」
「そうかい。それがあんたの覚悟かい、お兄さん?」
おばちゃんは真っ直ぐにこちらの目を見てくる。
「そうです」
もう、迷わない。ハチの記憶を取り戻すために全力を注ぐ。
「なるほどね。最初の頃よりは随分男らしくなったじゃないか。……受け取りな」
おばちゃんが何かを放り投げてくる。
受け止めてみるとそれは2つの鍵だった。
「これは……?」
「一つはお屋敷のマスターキーだ。ハチちゃんに何かあったときは頼む、って社長さんに言われて渡されたんだよ、昔ね」
「こっちは?」
「社長さんの書斎の金庫の鍵だとさ。自分が居なくなった時、ハチちゃんを任せられる人間を見つけて渡してほしいと言われたよ」
「ハチの“ご主人さま”は自分が死ぬことを知ってたっていうんですか?」
「どうだろうねぇ…。頭のいい人だったから、全ての可能性を考慮していたんだと思うよ」
ともかく、とおばちゃんは続ける。
「お屋敷に行ってみな。きっと何か助けになるはずさ」
「ありがとうございます!」
俺はお礼を言うとすぐにお屋敷に向かって走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
“お兄さん”のみるみる小さくなっていく背中を見送りながら溜息をついた。
「これで良かったのかねぇ、社長さん?」
私は、今はもういない、息子代わりでもあり友人でもあった男の事を考えていた……。
616 名前:SS@ハチ公[] 投稿日:2008/03/12(水) 01:08:14.07 ID:JIM8EsAO
~忠幼女ハチ~47
《ハチの見る夢》
ここはどこだろう。わたしはだれだろう。まだ、なまえはなかった。
「YONY製オーダーメイド幼女シリアルNO.008です。よろしくお願い致します」
「NO.008じゃあ呼びにくいなぁ。そうだねぇ…ハチってどう?安易かな?」
「ハチ…それは私の呼称でしょうか?」
「そ♪ハチ、よろしくね!」
ハチ。わたしはハチ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やぁ、おばちゃん!」
「おや社長さん、ご機嫌だね。買い物かい?」
「まぁね~♪たまには自分で買い物しようかなぁ、ってね」
「いい心掛けだね。お手伝いさんに任せっきりだと馬鹿になるよ?」
「へいへ~い」
「おや?社長さんの後ろに隠れてるのは…」
「かわいいでしょ~♪幼女のハチっていうんだよ。ほらハチ、ご挨拶は?」
「こんにちは。ハチと申します」
「しっかりした子だねぇ…。よろしく、ハチちゃん」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハチ、美味しい?」
「……まずいです」
「あれぇ?どっか間違ったかな~?」
「あの……」
「ん~?なに?」
「やはり私がお作りしましょうか…?」
「いいのいいの!今日はハチの歓迎会なんだから!」
「しかし…」
「明日からはハチに頼むから!今日は僕に作らせて!ね?」
「はぁ…畏まりました」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ご主人さま、朝です。起きて下さい」
「……ふぁ……?」
「おはようございます」
「うん…むにゃむにゃ」
「起きてください」
「…ぅぅん?……あーっ!ハチ!おはよー♪」
「おはようございます」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おいしー♪ハチ、料理上手だねぇ!」
「ありがとうございます」
「…んー…昨日から思ってたけどちょっと喋り方堅苦しくない?」
「そうでしょうか?」
「そうだよ~。こっちまで緊張しちゃうじゃない!」
「……ご主人さまが緊張…?」
「ハチが信じてくれないー!うわーん!」
「な、泣かないでください…!」
「…じゃあさ、堅苦しい喋り方はなしね?」
「……畏まりました」
「……うぅ…」
「わ、わかりました」
たいようみたいにごしゅじんさまはあったかい。こおりついたわたしをすこしづつとかしてく――。
~忠幼女ハチ~47
《ハチの見る夢》
ここはどこだろう。わたしはだれだろう。まだ、なまえはなかった。
「YONY製オーダーメイド幼女シリアルNO.008です。よろしくお願い致します」
「NO.008じゃあ呼びにくいなぁ。そうだねぇ…ハチってどう?安易かな?」
「ハチ…それは私の呼称でしょうか?」
「そ♪ハチ、よろしくね!」
ハチ。わたしはハチ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やぁ、おばちゃん!」
「おや社長さん、ご機嫌だね。買い物かい?」
「まぁね~♪たまには自分で買い物しようかなぁ、ってね」
「いい心掛けだね。お手伝いさんに任せっきりだと馬鹿になるよ?」
「へいへ~い」
「おや?社長さんの後ろに隠れてるのは…」
「かわいいでしょ~♪幼女のハチっていうんだよ。ほらハチ、ご挨拶は?」
「こんにちは。ハチと申します」
「しっかりした子だねぇ…。よろしく、ハチちゃん」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハチ、美味しい?」
「……まずいです」
「あれぇ?どっか間違ったかな~?」
「あの……」
「ん~?なに?」
「やはり私がお作りしましょうか…?」
「いいのいいの!今日はハチの歓迎会なんだから!」
「しかし…」
「明日からはハチに頼むから!今日は僕に作らせて!ね?」
「はぁ…畏まりました」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ご主人さま、朝です。起きて下さい」
「……ふぁ……?」
「おはようございます」
「うん…むにゃむにゃ」
「起きてください」
「…ぅぅん?……あーっ!ハチ!おはよー♪」
「おはようございます」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おいしー♪ハチ、料理上手だねぇ!」
「ありがとうございます」
「…んー…昨日から思ってたけどちょっと喋り方堅苦しくない?」
「そうでしょうか?」
「そうだよ~。こっちまで緊張しちゃうじゃない!」
「……ご主人さまが緊張…?」
「ハチが信じてくれないー!うわーん!」
「な、泣かないでください…!」
「…じゃあさ、堅苦しい喋り方はなしね?」
「……畏まりました」
「……うぅ…」
「わ、わかりました」
たいようみたいにごしゅじんさまはあったかい。こおりついたわたしをすこしづつとかしてく――。
753 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/13(木) 01:27:12.17 ID:4TaETEAO
~忠幼女ハチ~48
~忠幼女ハチ~48
俺はお屋敷の玄関ホールにいた。
何度も来た場所だが、今回はハチがいない。
このやたらと大きなお屋敷に一人きりだと思うと、それは非常に心細いことだった。
「ハチは七年もここで…一人で“ご主人さま”を待ち続けてたのか…」
それは、俺には考えられないほどの孤独と不安に苛まれる行為だろう。
記憶を失っているとはいえ、それは余りに永い。
そして、このままではハチは死ぬまでここで待ち続けるだろう。帰らぬ“ご主人さま”を。
俺は、この呪縛からハチを解き放たなければならないのだ。
「待ってろよ、ハチ…。俺が必ず…!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハチの時間を動かすための手掛かりを求め、俺はお屋敷の中を歩き回った。
しかし肝心の“ご主人さま”の書斎とやらが見つからない。
「くそ…書斎はどこだよ」
いつもハチを訪ねてここに来るときは、サロンに通される。他に行った所といえば厨房くらいだった。
「仕方がない…。片っ端から扉を開けていくか」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
扉を開けるとぶわっと埃が舞い上がった。
「う、すげぇ…」
ゴホゴホと咳込みながら扉を閉める。
ほとんどの部屋はずっと使われていないのか厚く埃が積もっていた。
おそらく普段使う所以外は掃除の手が回らないのだろう。
「これだけ大きな建物に一人きりだもんな。当然か…ん?」
お屋敷のもっとも奥まった所にある部屋。
この部屋だけは扉を開けても埃が舞い上がらなかった。
扉の隙間からゆっくりと覗き込む。
「…………あった」
そこには、たくさんの本棚と一つの机の置かれた書斎があった。
754 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/13(木) 01:27:33.41 ID:4TaETEAO
~忠幼女ハチ~49
何度も来た場所だが、今回はハチがいない。
このやたらと大きなお屋敷に一人きりだと思うと、それは非常に心細いことだった。
「ハチは七年もここで…一人で“ご主人さま”を待ち続けてたのか…」
それは、俺には考えられないほどの孤独と不安に苛まれる行為だろう。
記憶を失っているとはいえ、それは余りに永い。
そして、このままではハチは死ぬまでここで待ち続けるだろう。帰らぬ“ご主人さま”を。
俺は、この呪縛からハチを解き放たなければならないのだ。
「待ってろよ、ハチ…。俺が必ず…!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハチの時間を動かすための手掛かりを求め、俺はお屋敷の中を歩き回った。
しかし肝心の“ご主人さま”の書斎とやらが見つからない。
「くそ…書斎はどこだよ」
いつもハチを訪ねてここに来るときは、サロンに通される。他に行った所といえば厨房くらいだった。
「仕方がない…。片っ端から扉を開けていくか」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
扉を開けるとぶわっと埃が舞い上がった。
「う、すげぇ…」
ゴホゴホと咳込みながら扉を閉める。
ほとんどの部屋はずっと使われていないのか厚く埃が積もっていた。
おそらく普段使う所以外は掃除の手が回らないのだろう。
「これだけ大きな建物に一人きりだもんな。当然か…ん?」
お屋敷のもっとも奥まった所にある部屋。
この部屋だけは扉を開けても埃が舞い上がらなかった。
扉の隙間からゆっくりと覗き込む。
「…………あった」
そこには、たくさんの本棚と一つの机の置かれた書斎があった。
754 名前: SS@ハチ公 投稿日: 2008/03/13(木) 01:27:33.41 ID:4TaETEAO
~忠幼女ハチ~49
《ハチの見る夢》
「う~ん、この部署の業績からすると…ブツブツ…」
「ご主人さま、お疲れ様です」
「あ、ハチ!紅茶煎れてくれたの?ありがと!」
「どういたしまして。このところ会社から帰った後はずっと書斎に篭りきりですね。忙しいんですか?」
「うん。ごめんね、ハチ…。忙しくてなかなか君の相手をしてあげられないよ」
「気にしないで下さい。お仕事が一段落したら、思う存分お買い物に付き合って貰います♪」
「あ!ハチ笑ってる~!やっぱり笑ってる方が可愛いよ!」
「ふぇっ///!?かかかからかわないでくださいっ!」
「からかってないよ?ハチの笑顔ホントに可愛いもん」
「///~っ!も、もう夜も遅いのでお仕事もほどほどにしてくださいねっ!わた、私は部屋に戻りますからっ!」
「うん、これだけ片付けたら寝るよ。……あ、仕事終わったら一緒にお買い物行こうね♪」
「は、はいっ!おやすみなさい!」
「うん、おやすみ。………ここの予算配分は…ブツブツ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「行ってきま~す!」
「「行ってらっしゃいませ、ご主人さま!」」
「さ、社長。後部座席へ」
ブロロロロ…
「ご主人さま、お忙しいんですね」
「そうよ~。なにせあのYONYの社長だからねぇ。ハチちゃんは来たばかりだから知らなかったかしら?」
「はい、知らなかったです。ご主人さまってすごい人だったんですね」
「正直そんなすごい人に見えないわよねぇ、うふふ♪……あ、そろそろ時間ね。お仕事に戻るわよ、ハチちゃん」
「はい!給事長さん!」
――まいにちがしあわせで。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ご主人さまぁ~!ご飯ですよぉ~!」
「んぁ…あと五分…むにゃ…」
「二度寝はいけません~!えいっ」
「ぐぇっ!?お、おはよう…ハチ」
あったかい。まいにちが、あったかい。
「ハチは料理が美味いなぁ!」
「えへへ…♪」
かわらないひびは、ずっとずっとつづくとおもってた。
78 :SS@ハチ公 :2008/03/16(日) 23:05:27.06 ID:8xfMvsAO
~忠幼女ハチ~52
「う~ん、この部署の業績からすると…ブツブツ…」
「ご主人さま、お疲れ様です」
「あ、ハチ!紅茶煎れてくれたの?ありがと!」
「どういたしまして。このところ会社から帰った後はずっと書斎に篭りきりですね。忙しいんですか?」
「うん。ごめんね、ハチ…。忙しくてなかなか君の相手をしてあげられないよ」
「気にしないで下さい。お仕事が一段落したら、思う存分お買い物に付き合って貰います♪」
「あ!ハチ笑ってる~!やっぱり笑ってる方が可愛いよ!」
「ふぇっ///!?かかかからかわないでくださいっ!」
「からかってないよ?ハチの笑顔ホントに可愛いもん」
「///~っ!も、もう夜も遅いのでお仕事もほどほどにしてくださいねっ!わた、私は部屋に戻りますからっ!」
「うん、これだけ片付けたら寝るよ。……あ、仕事終わったら一緒にお買い物行こうね♪」
「は、はいっ!おやすみなさい!」
「うん、おやすみ。………ここの予算配分は…ブツブツ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「行ってきま~す!」
「「行ってらっしゃいませ、ご主人さま!」」
「さ、社長。後部座席へ」
ブロロロロ…
「ご主人さま、お忙しいんですね」
「そうよ~。なにせあのYONYの社長だからねぇ。ハチちゃんは来たばかりだから知らなかったかしら?」
「はい、知らなかったです。ご主人さまってすごい人だったんですね」
「正直そんなすごい人に見えないわよねぇ、うふふ♪……あ、そろそろ時間ね。お仕事に戻るわよ、ハチちゃん」
「はい!給事長さん!」
――まいにちがしあわせで。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ご主人さまぁ~!ご飯ですよぉ~!」
「んぁ…あと五分…むにゃ…」
「二度寝はいけません~!えいっ」
「ぐぇっ!?お、おはよう…ハチ」
あったかい。まいにちが、あったかい。
「ハチは料理が美味いなぁ!」
「えへへ…♪」
かわらないひびは、ずっとずっとつづくとおもってた。
78 :SS@ハチ公 :2008/03/16(日) 23:05:27.06 ID:8xfMvsAO
~忠幼女ハチ~52
『……おばちゃんが信用したなら、僕はハチを貴方に託そうと思う……』
『君にハチの“ご主人さま”になって欲しいんだ』
手紙を読み終えると手が震えていた。
「俺が…ハチの…“ご主人さま”に…?」
…………冗談じゃねぇ。
「ハチはまだあんたを待ってるんだぜ?それを差し置いて“ご主人さま”には成れねぇよ…」
それにハチの“ご主人さま”はハチのことを人間の様に扱ってたんじゃないのか?
話が違うじゃねぇか……
「で、こっちの小箱には何が入ってるんだ…?」
手紙と共に入ってた小箱を開ける。
「ん……?」
そこにあったのはもう一枚の手紙と指輪……?
『最後にもう一つ。もしも、君が僕の様に変わり者で、ハチのことを本当に大切に思ってくれているのなら――』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……どうやら俺もあんたも相当の変わり者みたいだな。“ご主人さま”よぅ?」
俺は小箱をポケットに突っ込んだ。
「最初の手紙の頼みは御免だが、こっちならやってやらぁ」
俺の心は決まった。もう、ハチに全てを話してもいいだろう。
「病院の面会時間は…もう終わってるか」
明日の朝一番でハチに会いにいこう。
そう思い、書斎から出ようとしたとき携帯電話が鳴った。
発信元は……
「病院…!?」
ハチを連れていった時に“緊急”時の連絡の為に登録したのだが…ハチに何かあったのか!?
「も、もしもし?!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ハチの見る夢》
くらい。まっくら。なにもみえないよ。
「……チ……。……ハ……チ……」
だれ?わたしのなまえをよぶのはだれ?
「ご主人さま?」
「……ハチ……」
ごしゅじんさまだ。むかえにきてくれたんだ。
「ご主人さまぁっ!」
「……だ……。」
まってたよ。ずっとまってた。さびしかったんだよ?
「うわぁあぁあん!ご主人さまぁぁぁっ!!」
「ハチ……来ちゃだめだ!!」
79 :SS@ハチ公 :2008/03/16(日) 23:05:39.70 ID:8xfMvsAO
~忠幼女ハチ~53
『君にハチの“ご主人さま”になって欲しいんだ』
手紙を読み終えると手が震えていた。
「俺が…ハチの…“ご主人さま”に…?」
…………冗談じゃねぇ。
「ハチはまだあんたを待ってるんだぜ?それを差し置いて“ご主人さま”には成れねぇよ…」
それにハチの“ご主人さま”はハチのことを人間の様に扱ってたんじゃないのか?
話が違うじゃねぇか……
「で、こっちの小箱には何が入ってるんだ…?」
手紙と共に入ってた小箱を開ける。
「ん……?」
そこにあったのはもう一枚の手紙と指輪……?
『最後にもう一つ。もしも、君が僕の様に変わり者で、ハチのことを本当に大切に思ってくれているのなら――』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……どうやら俺もあんたも相当の変わり者みたいだな。“ご主人さま”よぅ?」
俺は小箱をポケットに突っ込んだ。
「最初の手紙の頼みは御免だが、こっちならやってやらぁ」
俺の心は決まった。もう、ハチに全てを話してもいいだろう。
「病院の面会時間は…もう終わってるか」
明日の朝一番でハチに会いにいこう。
そう思い、書斎から出ようとしたとき携帯電話が鳴った。
発信元は……
「病院…!?」
ハチを連れていった時に“緊急”時の連絡の為に登録したのだが…ハチに何かあったのか!?
「も、もしもし?!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ハチの見る夢》
くらい。まっくら。なにもみえないよ。
「……チ……。……ハ……チ……」
だれ?わたしのなまえをよぶのはだれ?
「ご主人さま?」
「……ハチ……」
ごしゅじんさまだ。むかえにきてくれたんだ。
「ご主人さまぁっ!」
「……だ……。」
まってたよ。ずっとまってた。さびしかったんだよ?
「うわぁあぁあん!ご主人さまぁぁぁっ!!」
「ハチ……来ちゃだめだ!!」
79 :SS@ハチ公 :2008/03/16(日) 23:05:39.70 ID:8xfMvsAO
~忠幼女ハチ~53
ハチの容態が悪化した。
一度は落ち着いたと思われた高熱が、再び振り返してきたらしい。
「すぐに病院に向かいます!」
そう言って俺は携帯を切った。すぐに手紙を持って書斎を飛び出す。
俺がハチの所へ行ったからといって何が変わるという訳ではない。
それでも、側に付いていてやりたいと思った。大切なヒトだから。
お屋敷を飛び出すとき前庭の花壇が目に入った。
ワスレナグサ。
ハチが好きな花。“ご主人さま”が好きだったという花。
ハチの為に摘んでいってやろうか……。
一瞬、そう思った。
だが、そんな暇はない、と即座に判断する。
俺は…青く小さな花の咲く花壇の横を駆け抜けて行った……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ハチの見る夢》
「どうしてですか…?ご主人さまは私を迎えに来てくれたんじゃないんですか!?」
「ごめんね…ハチ。君はまだ“こちら側”に来てはいけないんだよ」
「“こちら側”って何ですか!?私はご主人さまと一緒に居たいだけなんです…!」
「駄目だよ。“こちら側”に来たらもう戻れなくなるから。まだ“そちら側”には君の大切なヒトが居るんだろう?」
「ご主人さまより大切な人なんて……」
「いるよ。よく思い出してみて?」
「そんなわけ…」
『…チ…』
「ほら“彼”が呼んでる。行ってあげなよ」
「でも…でも…!」
『…ハチ……が……か…ら…』
「行くんだ、ハチ。こちら側に来ちゃいけない!」
「嫌です!ここに残ります!!」
『ハチ…頑張れ……俺が…付いてるから…!』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハチ!頑張れ…!俺が…付いてるから!!」
ハチは高熱にうなされていた。相当に状態は悪いらしい。
老医師の話だと、治療に全力は尽くしているという。
しかし、この高熱に老化したハチの身体が耐えられるかは彼女自身の気力と体力に掛かっているそうだ。
俺にはただ彼女の手を握って励ます事しかできない。
「死ぬなよ……ハチ!俺はまだお前に伝えたいことがあるんだ!目を覚ませ、ハチ!!」
80 :SS@ハチ公 :2008/03/16(日) 23:05:52.79 ID:8xfMvsAO
~忠幼女ハチ~54
一度は落ち着いたと思われた高熱が、再び振り返してきたらしい。
「すぐに病院に向かいます!」
そう言って俺は携帯を切った。すぐに手紙を持って書斎を飛び出す。
俺がハチの所へ行ったからといって何が変わるという訳ではない。
それでも、側に付いていてやりたいと思った。大切なヒトだから。
お屋敷を飛び出すとき前庭の花壇が目に入った。
ワスレナグサ。
ハチが好きな花。“ご主人さま”が好きだったという花。
ハチの為に摘んでいってやろうか……。
一瞬、そう思った。
だが、そんな暇はない、と即座に判断する。
俺は…青く小さな花の咲く花壇の横を駆け抜けて行った……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ハチの見る夢》
「どうしてですか…?ご主人さまは私を迎えに来てくれたんじゃないんですか!?」
「ごめんね…ハチ。君はまだ“こちら側”に来てはいけないんだよ」
「“こちら側”って何ですか!?私はご主人さまと一緒に居たいだけなんです…!」
「駄目だよ。“こちら側”に来たらもう戻れなくなるから。まだ“そちら側”には君の大切なヒトが居るんだろう?」
「ご主人さまより大切な人なんて……」
「いるよ。よく思い出してみて?」
「そんなわけ…」
『…チ…』
「ほら“彼”が呼んでる。行ってあげなよ」
「でも…でも…!」
『…ハチ……が……か…ら…』
「行くんだ、ハチ。こちら側に来ちゃいけない!」
「嫌です!ここに残ります!!」
『ハチ…頑張れ……俺が…付いてるから…!』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハチ!頑張れ…!俺が…付いてるから!!」
ハチは高熱にうなされていた。相当に状態は悪いらしい。
老医師の話だと、治療に全力は尽くしているという。
しかし、この高熱に老化したハチの身体が耐えられるかは彼女自身の気力と体力に掛かっているそうだ。
俺にはただ彼女の手を握って励ます事しかできない。
「死ぬなよ……ハチ!俺はまだお前に伝えたいことがあるんだ!目を覚ませ、ハチ!!」
80 :SS@ハチ公 :2008/03/16(日) 23:05:52.79 ID:8xfMvsAO
~忠幼女ハチ~54
《夢の終わりと優しい忘却》
「嫌です!私はご主人さまから離れません!」
「ハチ、あんまり僕を困らせないでおくれ?」
「嫌です!嫌、ですぅ……嫌ぁ…!ずっとずっと…一人で…待ってたのにぃ…」
「ハチ、君は一人じゃないよ。…目を閉じてご覧?」
「……ぅうぅ…」
「いい子だね、ハチ。そのままでいるんだよ…」
「ご主人…さま…?」
「少し眠っていてね」
「…あ…ご主……ま…」
「ごめん。でもこれ以上は本当に危険なんだ…。後は頼んだよ、男くん」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とおざかっていく。ごしゅじんさまがとおざかっていく。
のばしたみぎてがとどかなくて。わたしはないた。
また、わすれちゃう。ごしゅじんさまをわすれちゃう。
でも。あったかいおおきなてがひだりてをつつんでくれた――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………」
ハチの手を握り続けてどれくらいたっただろうか。
だいぶ夜も更けてきた。熱も下がってきたみたいだ。
「これなら…大丈夫そうだな」
ハチは、さっきまでうなされていたようだが今は落ち着いている。
「…氷嚢がぬるくなってるな。取り替えてやるか」
氷嚢を新しいものに替えようとハチの手をそっと離す。
「嫌です!私はご主人さまから離れません!」
「ハチ、あんまり僕を困らせないでおくれ?」
「嫌です!嫌、ですぅ……嫌ぁ…!ずっとずっと…一人で…待ってたのにぃ…」
「ハチ、君は一人じゃないよ。…目を閉じてご覧?」
「……ぅうぅ…」
「いい子だね、ハチ。そのままでいるんだよ…」
「ご主人…さま…?」
「少し眠っていてね」
「…あ…ご主……ま…」
「ごめん。でもこれ以上は本当に危険なんだ…。後は頼んだよ、男くん」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とおざかっていく。ごしゅじんさまがとおざかっていく。
のばしたみぎてがとどかなくて。わたしはないた。
また、わすれちゃう。ごしゅじんさまをわすれちゃう。
でも。あったかいおおきなてがひだりてをつつんでくれた――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………」
ハチの手を握り続けてどれくらいたっただろうか。
だいぶ夜も更けてきた。熱も下がってきたみたいだ。
「これなら…大丈夫そうだな」
ハチは、さっきまでうなされていたようだが今は落ち着いている。
「…氷嚢がぬるくなってるな。取り替えてやるか」
氷嚢を新しいものに替えようとハチの手をそっと離す。
――キュ。
「え……?」
「手、離さないでください…」
涙で頬を濡らしたハチが俺の手を握り返していた。
81 :SS@ハチ公 :2008/03/16(日) 23:06:12.00 ID:8xfMvsAO
~忠幼女ハチ~55
「手、離さないでください…」
涙で頬を濡らしたハチが俺の手を握り返していた。
81 :SS@ハチ公 :2008/03/16(日) 23:06:12.00 ID:8xfMvsAO
~忠幼女ハチ~55
「…目、覚めたんだな…」
「はい。男さん」
ハチはまだ調子が悪いのか、弱々しく微笑む。
「え、あれ…?」
今、ハチは何て言った?
「男さんが…付いていてくれたんですよね?」
「俺のこと、分かるのか?」
「?もちろん、分かりますよ」
キョトンとハチが首を傾げる。
「本当に?ミートソーススパゲティーのことも?リボンのことも?全部?」
「はい、全部です」
「………~~~~っっ!」
思わずガバッ!とハチを抱きしめてしまった。
「ひゃぁっ!」
「良かった…本当に良かった…!ぅうぅ…」
「あ、あの…あの…///」
「ぅう…よがっだぁ…ぼんどぶによがっだぁ…」
「な、泣きすぎですよ…もぅ」
「…ぅうぅ…ぅえぇ…」
ハチは俺の頭を優しく撫でてくれるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「落ち着きましたか?」
「あぁ、ごめんな。取り乱して」
くすくすとハチが笑う。かわいい。
こんなやり取りも、昨日会ったばかりなのにすごく久しぶりな気がする。
ひとしきり笑い合った後、ハチが口を開いた。
「男さん、実は…一つだけ覚えてないことがあるんです」
「なんだ?」
「……ご主人さまのことです」
「…………」
「ご主人さまが出張に行って…どうなったのか、私は知りません」
「…………」
「教えて、くれますか」
「……………………わかった」
144 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:17:28.26 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~56
「はい。男さん」
ハチはまだ調子が悪いのか、弱々しく微笑む。
「え、あれ…?」
今、ハチは何て言った?
「男さんが…付いていてくれたんですよね?」
「俺のこと、分かるのか?」
「?もちろん、分かりますよ」
キョトンとハチが首を傾げる。
「本当に?ミートソーススパゲティーのことも?リボンのことも?全部?」
「はい、全部です」
「………~~~~っっ!」
思わずガバッ!とハチを抱きしめてしまった。
「ひゃぁっ!」
「良かった…本当に良かった…!ぅうぅ…」
「あ、あの…あの…///」
「ぅう…よがっだぁ…ぼんどぶによがっだぁ…」
「な、泣きすぎですよ…もぅ」
「…ぅうぅ…ぅえぇ…」
ハチは俺の頭を優しく撫でてくれるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「落ち着きましたか?」
「あぁ、ごめんな。取り乱して」
くすくすとハチが笑う。かわいい。
こんなやり取りも、昨日会ったばかりなのにすごく久しぶりな気がする。
ひとしきり笑い合った後、ハチが口を開いた。
「男さん、実は…一つだけ覚えてないことがあるんです」
「なんだ?」
「……ご主人さまのことです」
「…………」
「ご主人さまが出張に行って…どうなったのか、私は知りません」
「…………」
「教えて、くれますか」
「……………………わかった」
144 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:17:28.26 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~56
「ハチ、心して聞いてくれ…」
「はい…」
ハチの顔は薄ぐらい病室の中でもわかるほどに真っ青だった。
「辛くなったらいつでも止めるからな?」
「はい…」
ハチが頷いたのを確認し、一呼吸置いてから俺は話し始めた。
「ハチの“ご主人さま”は…もう、いない」
「……っ…」
ビクッとハチの肩が震える。
「出張へ行く時の飛行機が…墜ちたんだ…」
「…………」
「乗客・乗員は全員…」
「……亡くなったんですね…」
俺は頷く。ハチは泣かなかった。悲壮な顔付きでここではないどこか遠くを見つめていた。
「七年前の…話だ」
シン…と辺りが静まりかえる。真夜中の病院は物音ひとつしなかった。
「…………男さん」
ハチが小さな声で言った。
「私は…ご主人さまが大好きでした…」
俺は黙って頷く。口を挟むのは野暮だろう。
「大好きだったのに…いなくなってしまったことを信じたくなくて…七年も気付かない振りをして…」
ハチの目から一筋水滴が零れる。
「こんなに長い間……ご主人さまを…一人ぼっちにして…私は…幼女…失格です…」
二筋…三筋…次々溢れ出す涙がハチの頬を濡らしてゆく。
「ハチは幼女失格なんかじゃない」
俺はハチを抱きしめた。彼女の肩はあまりに小さく脆かった。
「でも…でも…私は…」
「ハチは幼女失格なんかじゃない。もしハチが許してくれるなら俺と一緒に居てほしいくらいだぜ?」
俺は敢えて、少しおどけてみせる。
ハチは少しびっくりしたような顔をした後、済まなそうに微笑んだ。
「…ごめんなさい。私がご主人さまと呼べるのは…」
「わかってる。今の“ご主人さま”だけ、だろ?」
「……はい!」
(な?ハチがあんたを差し置いて俺を“ご主人さま”なんて呼ぶはずないだろ?“ご主人さま”よぅ)
「……でも嬉しかったです。男さんが、一緒に居てほしいって言ってくれて」
ハチはすごく綺麗に。涙で濡れた顔を綻ばせた。
145 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:18:38.34 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~57
「はい…」
ハチの顔は薄ぐらい病室の中でもわかるほどに真っ青だった。
「辛くなったらいつでも止めるからな?」
「はい…」
ハチが頷いたのを確認し、一呼吸置いてから俺は話し始めた。
「ハチの“ご主人さま”は…もう、いない」
「……っ…」
ビクッとハチの肩が震える。
「出張へ行く時の飛行機が…墜ちたんだ…」
「…………」
「乗客・乗員は全員…」
「……亡くなったんですね…」
俺は頷く。ハチは泣かなかった。悲壮な顔付きでここではないどこか遠くを見つめていた。
「七年前の…話だ」
シン…と辺りが静まりかえる。真夜中の病院は物音ひとつしなかった。
「…………男さん」
ハチが小さな声で言った。
「私は…ご主人さまが大好きでした…」
俺は黙って頷く。口を挟むのは野暮だろう。
「大好きだったのに…いなくなってしまったことを信じたくなくて…七年も気付かない振りをして…」
ハチの目から一筋水滴が零れる。
「こんなに長い間……ご主人さまを…一人ぼっちにして…私は…幼女…失格です…」
二筋…三筋…次々溢れ出す涙がハチの頬を濡らしてゆく。
「ハチは幼女失格なんかじゃない」
俺はハチを抱きしめた。彼女の肩はあまりに小さく脆かった。
「でも…でも…私は…」
「ハチは幼女失格なんかじゃない。もしハチが許してくれるなら俺と一緒に居てほしいくらいだぜ?」
俺は敢えて、少しおどけてみせる。
ハチは少しびっくりしたような顔をした後、済まなそうに微笑んだ。
「…ごめんなさい。私がご主人さまと呼べるのは…」
「わかってる。今の“ご主人さま”だけ、だろ?」
「……はい!」
(な?ハチがあんたを差し置いて俺を“ご主人さま”なんて呼ぶはずないだろ?“ご主人さま”よぅ)
「……でも嬉しかったです。男さんが、一緒に居てほしいって言ってくれて」
ハチはすごく綺麗に。涙で濡れた顔を綻ばせた。
145 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:18:38.34 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~57
「そうそう。ハチは勘違いしてるぜ」
「えっ…」
「一緒に居てほしいってのは、別に俺がハチの“ご主人さま”になるって訳じゃない」
「え……?」
俺はポケットから例の指輪を取り出す。
「こういう意味さ」
そして、ハチの薬指にそっとはめた。
「え…え…?これって…えっ?」
ハチは今度は真っ赤になって指輪と俺を交互に見る。
うぁ、恥ずかしい。猛烈に恥ずかしさが込み上げて来た。
「あー…つまり…その…なんだ…俺と…けっ…結婚…なんてどう?」
しまらないねぇ、といういつかのおばちゃんの声がリフレインしそうなプロポーズだな、俺よ。
「あわわわわはわわわわわわももももも」
かつてないほどテンパってるな、ハチ。俺もだ。
さっきのしんみりムードもすっかり吹き飛んじまったようだ。
「い、嫌だったか?」
「いいい嫌じゃないですっ!!」
「でででもわたわたわし私、幼女ですよ!?結婚なんて…!!」
「いや…できるんだな。それが」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
“ご主人さま”が書いた小さな手紙。そこにはこう書かれていた。
『最後にもう一つ。もしも、君が僕の様に変わり者で、ハチのことを本当に大切に思ってくれているのならこの指輪をハチに渡して欲しい』
『これはエンゲージリングだよ。幼女と結婚なんて馬鹿げてると思うかもしれない。でも、ハチは幼女じゃないんだ。少なくとも戸籍上ではね』
『僕には身寄りがない。家族と呼べるのはハチくらいだったんだ。だから、僕に何かあったら家や財産は全て国に没収されてしまう。幼女に人権はないからね』
『でも、そしたらハチはどうなる?飼い主のない野良幼女として生きるか、財産と共に国に没収されいつかは保健所で処分されるかもしれない』
『だから僕はハチに戸籍を作ったんだ。もちろん正規のルートじゃないけどね。これでも大企業の社長だから、大変だったけど何とかなったよ』
『後見人は肉屋のおばちゃんになってもらうことに決まってる。だから僕が死んでもハチはこのお屋敷で暮らして行けるんだ』
『だから…もしも君がハチを愛していて、僕のように彼女をヒトとして見ているのなら』
『ハチの伴侶になって欲しいんだ』
146 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:19:25.05 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~58
「えっ…」
「一緒に居てほしいってのは、別に俺がハチの“ご主人さま”になるって訳じゃない」
「え……?」
俺はポケットから例の指輪を取り出す。
「こういう意味さ」
そして、ハチの薬指にそっとはめた。
「え…え…?これって…えっ?」
ハチは今度は真っ赤になって指輪と俺を交互に見る。
うぁ、恥ずかしい。猛烈に恥ずかしさが込み上げて来た。
「あー…つまり…その…なんだ…俺と…けっ…結婚…なんてどう?」
しまらないねぇ、といういつかのおばちゃんの声がリフレインしそうなプロポーズだな、俺よ。
「あわわわわはわわわわわわももももも」
かつてないほどテンパってるな、ハチ。俺もだ。
さっきのしんみりムードもすっかり吹き飛んじまったようだ。
「い、嫌だったか?」
「いいい嫌じゃないですっ!!」
「でででもわたわたわし私、幼女ですよ!?結婚なんて…!!」
「いや…できるんだな。それが」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
“ご主人さま”が書いた小さな手紙。そこにはこう書かれていた。
『最後にもう一つ。もしも、君が僕の様に変わり者で、ハチのことを本当に大切に思ってくれているのならこの指輪をハチに渡して欲しい』
『これはエンゲージリングだよ。幼女と結婚なんて馬鹿げてると思うかもしれない。でも、ハチは幼女じゃないんだ。少なくとも戸籍上ではね』
『僕には身寄りがない。家族と呼べるのはハチくらいだったんだ。だから、僕に何かあったら家や財産は全て国に没収されてしまう。幼女に人権はないからね』
『でも、そしたらハチはどうなる?飼い主のない野良幼女として生きるか、財産と共に国に没収されいつかは保健所で処分されるかもしれない』
『だから僕はハチに戸籍を作ったんだ。もちろん正規のルートじゃないけどね。これでも大企業の社長だから、大変だったけど何とかなったよ』
『後見人は肉屋のおばちゃんになってもらうことに決まってる。だから僕が死んでもハチはこのお屋敷で暮らして行けるんだ』
『だから…もしも君がハチを愛していて、僕のように彼女をヒトとして見ているのなら』
『ハチの伴侶になって欲しいんだ』
146 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:19:25.05 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~58
「まったくもってハチの“ご主人さま”の行動力は凄まじいと思う」
「そうですね……」
俺の話を聞き終わったハチは静かな表情で指輪を眺めていた。
この指輪は俺からの、え…エンゲージリングでありながら“ご主人さま”の形見でもあるのだ。
「あ…」
「どうした?ハチ」
「普通、エンゲージリングなら対になる指輪がありますよね?」
「ん…あぁ、そうだな。でも一つしか入ってなかったぞ?」
「多分…私…持ってます」
そう言ってハチが取り出したのは小さな 古い封筒。
「これ…ご主人さまが出張の前日にくれたんです。大切なヒトができたら読むようにって」
ずっと、肌身離さず持っていたんです。ハチはそういうと封筒の口を開けた。
果たして中から出て来たのは……
「やっぱり…」
指輪と手紙だった。
そして手紙にはたった一言。
『ハチ、おめでとう』
そう書かれていた――。
147 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:20:09.93 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~59
「そうですね……」
俺の話を聞き終わったハチは静かな表情で指輪を眺めていた。
この指輪は俺からの、え…エンゲージリングでありながら“ご主人さま”の形見でもあるのだ。
「あ…」
「どうした?ハチ」
「普通、エンゲージリングなら対になる指輪がありますよね?」
「ん…あぁ、そうだな。でも一つしか入ってなかったぞ?」
「多分…私…持ってます」
そう言ってハチが取り出したのは小さな 古い封筒。
「これ…ご主人さまが出張の前日にくれたんです。大切なヒトができたら読むようにって」
ずっと、肌身離さず持っていたんです。ハチはそういうと封筒の口を開けた。
果たして中から出て来たのは……
「やっぱり…」
指輪と手紙だった。
そして手紙にはたった一言。
『ハチ、おめでとう』
そう書かれていた――。
147 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:20:09.93 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~59
《うぇでぃんぐ》
○月Ω日
とある霊園のとある墓前にて
「ハチ、着いたぞ」
「はい」
「車椅子から降りられるか?」
「大丈夫ですよ…よっと…きゃあ!」
「おわ、無理すんなって!」
「ご、ごめんなさい」
「足悪いんだから気をつけないと…よっと」
「ひぁっ!?」
「これなら大丈夫だろ?…どうした」
「お、おひお姫様だっこ…///」プシュー
「……///ほ、ほら早く済ませるぞ」
「は、はい!」
「えーと…社長さん」
「ご主人様」
「あの…俺達、結婚します」
「ウェディングドレス…見えますか?」
「えと、俺…男はハチを幸せにすることを誓います」
「私…ハチは男さんを幸せにすることを誓います」
「……///ち、誓いのキス…だな…」
「……はい///」
○月Ω日
とある霊園のとある墓前にて
「ハチ、着いたぞ」
「はい」
「車椅子から降りられるか?」
「大丈夫ですよ…よっと…きゃあ!」
「おわ、無理すんなって!」
「ご、ごめんなさい」
「足悪いんだから気をつけないと…よっと」
「ひぁっ!?」
「これなら大丈夫だろ?…どうした」
「お、おひお姫様だっこ…///」プシュー
「……///ほ、ほら早く済ませるぞ」
「は、はい!」
「えーと…社長さん」
「ご主人様」
「あの…俺達、結婚します」
「ウェディングドレス…見えますか?」
「えと、俺…男はハチを幸せにすることを誓います」
「私…ハチは男さんを幸せにすることを誓います」
「……///ち、誓いのキス…だな…」
「……はい///」
ちゅっ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「俺……絶対ハチを大切にするからな…」
「はい♪ふつつか者ですがよろしくお願いしますね」
148 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:21:17.74 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~EPILOGUE1
《帰郷》
○月○日・肉屋にて
「いらっしゃいませっ♪」
「よっ!リヴ、久しぶりだなぁ!しばらく見ない間に可愛くなっちゃって~」
「ニャー」
「あーっ!男さんにクロさん!お久しぶりですっ。おばちゃん、みんな~!男さん来たよ~!」
ドタドタドタ…
「あん?お、本当だ。よっ、男!……って、クロさん!?お久しぶりっす!!」
「おやおや、男さんじゃないですか。ずいぶんとご無沙汰でしたね」
「男、久しぶりでぷ!お土産くれでぷ~♪」
「よぉ、タン、テール、ハム。お前らは久しぶりなのに全然変わってねぇなぁ…」
「これでもずいぶん良くなった方だよ。始めの頃は言う事も聞かないで暴れ回ってたんだからね」プカー
「あ、おばちゃん!お久しぶりです!」
「久しぶりだね。正月以来だっけ?」
「そうですね。今年は仕事が忙しかったんで…」
「あんまり無理するんじゃないよ。で、今日はどうしたんだい?」
「今日はハチと初めて会った日ですから」
「あぁ、そうか。もうそんな時期かい。歳をとると忘れっぽくなっていけないね」
「なので、お屋敷に寄ってからハチの所に行こうと思ってます」
「そうかい。どうやら今年もたくさん咲いてるみたいだよ」
「そりゃ良かった。ハチも喜びますよ」
「私たちがいっぱいお世話しましたからねっ!」
「そうだぞ。感謝しやがれ」
「ふふ、去年よりたくさん咲いていますよ」
「お土産よこすでぷ~」
「ありがとな、みんな。そしてお土産はない!」
「ガーンでぷ」
「ニャー」
「ん?クロ、もう行くのか?」
「それじゃ、気をつけて行くんだよ。帰りにもうちに寄っていきな」
「はい、そうさせて貰います!それじゃ!」
「ばいば~いっ!」
「またな!」
「さようなら」
「お土産~…でぷ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お屋敷にて
ワイワイガヤガヤ
「おー…また増えたなぁ」
「ニャー」
「男さんだー」「男だー」「男だわ」「……男」「うほっ、いい男!」「男様ですわ!」
「よぅ。いつもの貰いに来たんだけど…」
「はい、どうぞ!リヴから連絡は貰ってたので用意して置きました♪」
「サンキュー。よし、クロ行くか」
「ニャー」
「「「バイバーイ!」」」
「じゃあなー!皆仲良くするんだぞー」
「「「はーい!」」」
「俺……絶対ハチを大切にするからな…」
「はい♪ふつつか者ですがよろしくお願いしますね」
148 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:21:17.74 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~EPILOGUE1
《帰郷》
○月○日・肉屋にて
「いらっしゃいませっ♪」
「よっ!リヴ、久しぶりだなぁ!しばらく見ない間に可愛くなっちゃって~」
「ニャー」
「あーっ!男さんにクロさん!お久しぶりですっ。おばちゃん、みんな~!男さん来たよ~!」
ドタドタドタ…
「あん?お、本当だ。よっ、男!……って、クロさん!?お久しぶりっす!!」
「おやおや、男さんじゃないですか。ずいぶんとご無沙汰でしたね」
「男、久しぶりでぷ!お土産くれでぷ~♪」
「よぉ、タン、テール、ハム。お前らは久しぶりなのに全然変わってねぇなぁ…」
「これでもずいぶん良くなった方だよ。始めの頃は言う事も聞かないで暴れ回ってたんだからね」プカー
「あ、おばちゃん!お久しぶりです!」
「久しぶりだね。正月以来だっけ?」
「そうですね。今年は仕事が忙しかったんで…」
「あんまり無理するんじゃないよ。で、今日はどうしたんだい?」
「今日はハチと初めて会った日ですから」
「あぁ、そうか。もうそんな時期かい。歳をとると忘れっぽくなっていけないね」
「なので、お屋敷に寄ってからハチの所に行こうと思ってます」
「そうかい。どうやら今年もたくさん咲いてるみたいだよ」
「そりゃ良かった。ハチも喜びますよ」
「私たちがいっぱいお世話しましたからねっ!」
「そうだぞ。感謝しやがれ」
「ふふ、去年よりたくさん咲いていますよ」
「お土産よこすでぷ~」
「ありがとな、みんな。そしてお土産はない!」
「ガーンでぷ」
「ニャー」
「ん?クロ、もう行くのか?」
「それじゃ、気をつけて行くんだよ。帰りにもうちに寄っていきな」
「はい、そうさせて貰います!それじゃ!」
「ばいば~いっ!」
「またな!」
「さようなら」
「お土産~…でぷ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お屋敷にて
ワイワイガヤガヤ
「おー…また増えたなぁ」
「ニャー」
「男さんだー」「男だー」「男だわ」「……男」「うほっ、いい男!」「男様ですわ!」
「よぅ。いつもの貰いに来たんだけど…」
「はい、どうぞ!リヴから連絡は貰ってたので用意して置きました♪」
「サンキュー。よし、クロ行くか」
「ニャー」
「「「バイバーイ!」」」
「じゃあなー!皆仲良くするんだぞー」
「「「はーい!」」」
149 :SS@ハチ公 :2008/03/18(火) 09:21:45.97 ID:n1MqPgAO
~忠幼女ハチ~EPILOGUE2
~忠幼女ハチ~EPILOGUE2
「……と、いうわけだ」
俺は近況を語り終えると腰を下ろした。目の前には二つの墓石がある。
一つは“ご主人さま”のもの。もう一つがハチのものだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハチは結婚してから数カ月後に天に召された。死因は、老衰だった。
ハチは最期にこう言って微笑んだ。
「ごめんなさい。ちょっとご主人さまのお世話をしてきますね♪」
ハチはホントにご主人さま思いだよ、まったく。
――全部、五年前のことだ。
俺は近況を語り終えると腰を下ろした。目の前には二つの墓石がある。
一つは“ご主人さま”のもの。もう一つがハチのものだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ハチは結婚してから数カ月後に天に召された。死因は、老衰だった。
ハチは最期にこう言って微笑んだ。
「ごめんなさい。ちょっとご主人さまのお世話をしてきますね♪」
ハチはホントにご主人さま思いだよ、まったく。
――全部、五年前のことだ。
ハチが死んでから五年間。色々なことがあった。
まず、俺がYONYに就職したこと。
そして、そこである研究に関わることになった。
幼男女の寿命を飛躍的に延ばす新薬である。
一昨年、その新薬が完成した。
これにより幼男女の寿命は約二十年にまで延びたのだ。
それから、お屋敷を野良幼女の保護施設として提供したこと。
まぁ、これはハチの生前に彼女と話し合って決めた事なのだが。
ほかにも、幼女に一部人権が認められたり、クロに子供ができたりと色々あったわけさ。
そういった諸々の出来事を俺は毎年、この日――ハチと出会った日に墓前報告する事にしているのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さてと、掃除も終わったな」
「ニャー」
「ん?…あぁ、まだ飾ってなかったな」
俺はバッグから小さな青い花束を取り出し、ハチの墓に飾る。
「これ、お屋敷のワスレナグサだぜ。ハチ、好きだったよな。今年ももってきたぞ」
俺は手を合わせ目を閉じる。
クロも隣でおとなしく座っている。
(ハチ……俺は絶対にお前のこと忘れないから…)
「よし…行くか」
俺が立ち上がるとクロも身を起こした。
「ハチ、また近い内に来るからな。“ご主人さま”もハチをよろしく頼みます」
ハチの墓石を一度撫でると、俺は歩き出した。
「腹減ったなぁ…なんか食ってくか?」
「ニャー」
「そうか。じゃあ…ミートソーススパゲティーにするか」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
遠ざかっていく男の背を追い抜く様に強い風が吹き抜けた。
『……さん…』
何か聞こえた気がして、男は振り返ったが何もなかった。
男は手を振って何事か叫ぶと、今度こそ去っていった。
――それは、春先の暖かくなり始めた頃のことだった。
まず、俺がYONYに就職したこと。
そして、そこである研究に関わることになった。
幼男女の寿命を飛躍的に延ばす新薬である。
一昨年、その新薬が完成した。
これにより幼男女の寿命は約二十年にまで延びたのだ。
それから、お屋敷を野良幼女の保護施設として提供したこと。
まぁ、これはハチの生前に彼女と話し合って決めた事なのだが。
ほかにも、幼女に一部人権が認められたり、クロに子供ができたりと色々あったわけさ。
そういった諸々の出来事を俺は毎年、この日――ハチと出会った日に墓前報告する事にしているのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さてと、掃除も終わったな」
「ニャー」
「ん?…あぁ、まだ飾ってなかったな」
俺はバッグから小さな青い花束を取り出し、ハチの墓に飾る。
「これ、お屋敷のワスレナグサだぜ。ハチ、好きだったよな。今年ももってきたぞ」
俺は手を合わせ目を閉じる。
クロも隣でおとなしく座っている。
(ハチ……俺は絶対にお前のこと忘れないから…)
「よし…行くか」
俺が立ち上がるとクロも身を起こした。
「ハチ、また近い内に来るからな。“ご主人さま”もハチをよろしく頼みます」
ハチの墓石を一度撫でると、俺は歩き出した。
「腹減ったなぁ…なんか食ってくか?」
「ニャー」
「そうか。じゃあ…ミートソーススパゲティーにするか」
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遠ざかっていく男の背を追い抜く様に強い風が吹き抜けた。
『……さん…』
何か聞こえた気がして、男は振り返ったが何もなかった。
男は手を振って何事か叫ぶと、今度こそ去っていった。
――それは、春先の暖かくなり始めた頃のことだった。
~忠幼女ハチ~―完―